二十一話
水栓にホースを繋いで、裏庭に向かう。すると、話し声が聞こえてきたので、思わず足を止めて校舎の陰に隠れる。
「冬華先輩のこと、ずっと気になってました。俺と付き合ってください!」
恐る恐る覗き見ると、裏庭には確かに冬華と、見慣れない男子生徒がいた。先輩と呼んでいるのを聞くに、一年生だろう。
また、逃げ出したくなる。冬華が男女問わず人気であることは知っているし、今まで誰かと付き合っただなんて話は聞いたことがないので、答えは分かっているけれど。告白場面を目の当たりにするのは、初めてだ。
「ごめんね。私、恋愛興味ないから」
バッサリと切り捨てるように断る彼女を前に、男子生徒は肩を落として私のいる場所とは逆方向に去っていく。
彼女は、いつもあんな風に断っているのだろう。恋愛に興味がなさそうなのも、一緒にいればなんとなく伝わってくる。だから私も、前に進めない。
私が嫌う普通は、男女で恋愛するものだ。恋愛に興味がない上に、友達である私から恋愛感情を向けられていると知ったら、冬華はどう思うのだろうか。私は、今の関係を、壊したくない。
シャワーヘッドを繋いだホースを片手にしゃがみこみ、冬華の様子を見ると、なんとこちらに向かってくる。どうしよう。今来たところを装うには少し苦しい気がする。とりあえず立ち上がったところで、冬華が私に気付いてしまう。
「あ、もしかして見てた?」
告白されて断るのは慣れっこですと言わんばかりに、冬華はあまりにもいつも通りだ。
「ごめん、その、花壇の水やりしに来たらたまたま......」
「そっか、じゃあ私待ってようかな。終わったら一緒に帰ろう」
複雑な気持ちを抑え込んで、私は頷く。
花たちに水をやり、ホースを片付けて冬華と一緒に学校をあとにする。
冬華はなんでもない話をしてくるが、一切頭に入ってこない。
恋愛に興味がないのに、あそこまで恋をしている演技ができるものなのだろうか。今日冬華に告白していたのはほとんど関わりのない男子生徒だ。そういった建前で断ることはいくらでもできる。けれどあの演劇部の男子生徒役の先輩は違う。同じ部活で、冬華と関わりがある。あの先輩のことを、冬華はどう思っているのだろうか。部内での冬華のことを、私は全く知らない。
冬華の話に生返事をし続けて、ついに分かれ道にたどり着いた。また明日、とお互い手を振って背を向けようとすると、冬華が耳を疑うようなことをさらりと言う。
「私には紬がいればいいから、安心してね」
それじゃ、とくるりと背を向けて彼女は家路につく。私は呆然としてしばらくそのままその背中を見送り、顔が熱くなっていくのを感じながら家まで走った。




