二十話
文化祭明けの、月曜日。通常授業──いや、中間試験前の授業が始まる。そういえば、そろそろ美術コンクールの結果が出る頃だろうか。テスト前で部活は休みになるけれど、結果くらいは聞きに行かないと。
そんなことを考えながら学校に向かっていると、いつものように曲がり角から冬華が姿を現す。
「おはよ、紬」
文化祭後の夜の件はなかったかのように、彼女は普段と変わらず挨拶を投げかけてくる。私はと言うと、まともに冬華の顔も見られないというのに。
「お、おはよう、冬華」
私の様子を気にもとめず、というわけではなさそうだけれど、冬華はにこにこしながら私が帰ったあとのクラスの様子を話してくれた。
そして校門にたどり着くと、冬華への黄色い挨拶は普段より一層激しいものとなっている。それはそうだ、文化祭であんな演技を見せられたら誰だってそうなる。けれど普段と違うのが、何故か私にまで挨拶をしてくれる子がちらほらいることだ。慣れない私は挙動不審になりながら何とか挨拶を返す。
早足で下駄箱まで逃げ込むと、今度は結衣が私に飛びついてきた。
「おふたりさん、おは〜!紬ちゃん、なんでこの前帰っちゃったの〜?あの後クラスで打ち上げがあって、主役がいなくてどうすんの!ってなってたんだよ〜?」
結衣は私の肩を掴んで揺さぶる。私はただ逃げ帰ってしまっただけなのだけど、主役扱いされるのなら帰ってよかったと心から思った。
「ご、ごめん、なんか疲れちゃって」
「まあそうだよね〜、圧倒的指名率で一位だったもんね〜?ほんと、紬ちゃんのメイド可愛かったなぁ〜。ね、冬華ちゃん」
結衣は私の肩から手を離し、冬華に話を振る。
「うん、時間あれば紬と一緒にチェキ撮りたかった」
「えっ」
さらっと私が思っていたことと同じことを告げる冬華に視線を奪われる。何かを察した結衣は、にやにやしながら私に問いかける。
「さては紬ちゃんも同じこと思ってたな〜?もう一回メイド服着る〜?」
「き、着ないよっ!」
強く拒否したところで予鈴が鳴り、私たちは急いで教室に向かう。
テスト前のピリついた授業を終えて、冬華にまた明日と挨拶を投げかけると、私はコンクールの結果を聞きに部室へ向かう。二学期は環境美化委員になり、裏庭の花壇に水やりもしなければならないので、結果を聞いてから行くことにした。
部室の扉を開けると、佐々木くんが飛んでくる。が、今までとかなり印象が違う。
「紬先輩っ!入選、しました!」
「あっ、えっと、おめでとう。あの、どうしたの、その……」
紬先輩、というのも、初めて呼ばれた。そして、かなりイメチェンしていて、一瞬誰だか分からなかった。
「あっ、呼び方……!今まで心の中で勝手にそう呼んでて、すみません」
「いや、それはいいんだけど、髪とか」
今までの彼は、なんというか、目が隠れるくらいの長めの髪だった。今日の佐々木くんは、さっぱりしていて、爽やかな印象になっている。
「あ、これは別に……なんとなく……」
指摘された彼は照れくさそうに頬を掻いた。どう返そうか迷っていると、柴崎先生がこちらに気づいてやって来る。
「佐々木くんの絵、今まで佳作止まりだったのに、入選まで行ったのは佐々木くんの努力と朝倉さんの指導の賜物ね!朝倉さんは特別審査員賞受賞よ。ふたりとも、おめでとう」
特別審査員賞ということは、全体的な評価はまずまずだけれど、審査員のうちの誰かに刺さったということだろうか。私は別に入賞を狙っていたわけではないけれど、佐々木くんも私も入賞できたのは幸運だ。いや、佐々木くんは本人の努力があってこそなので幸運で済ませてはいけないな。
「テストが終わってタイミング合ったら、是非お礼させてくださいっ」
「そんな、お礼なんてされるほどのことしてないよ」
「してもらいましたっ!お願いします!」
佐々木くんは勢いよく頭を下げ、柴崎先生はにこにこしながらそれを眺めている。彼の熱量に負けて、承諾することにした。
またテスト後に連絡することを約束して、私は花壇の水やりのため裏庭に向かった。




