十八話
フードメニューは二種類しか用意していなかったとはいえ、それでも想定していたより早く完売御礼となった。あとはドリンクメニューやチェキ撮影会のみとなっている。オムライスが完売してくれたのはありがたい。あの忌々しいセリフを言わなくて済むのだから。
フードメニューが完売するまでの客入りは想像を絶するものだった。正直、かなり忙しかった。
冬華も接客に出ていたのをちらっと見たけれど、さすがとしか言いようがない。本物を見たことはないのだけれど、彼女の接客は完全にメイドさんのそれだった。校内で一番人気の出し物のクラスが表彰されることになっているのだけれど、クラス内でも指名率のランキングは作ると小耳に挟んだ。演劇部の準備で冬華は途中離脱したとはいえ、間違いなく彼女が一位をとるだろう。
今の時間は体育館で軽音部がライブをしているため、客足は途絶えている。もうそろそろ大トリの演劇部の出し物も始まるので、一刻も早くメイド服を脱ぎたい。
「結衣ちゃん、お客さんも落ち着いてきたしもう着替えちゃっていいかな……?」
「ん、いいよぉ〜!愛しの冬華ちゃんの演劇、見に行かなきゃだもんね?あたしもそろそろ準備しなきゃ!」
「あ、あぁ……えっと、うん、ありがとう、着替えてくるっ。結衣ちゃんも、頑張って」
結衣の爆弾発言には私も慣れてきたものだ。とは言え、逃げるしか出来ないのだけど。
更衣室で着替えを済ませ、体育館に向かうと、ちょうど軽音部のライブが終わり、転換中だ。私は少しでも前で見られるように人混みをかき分けて進む。
転換の間に、私も冬華の接客を受けたかっただとか、一緒にチェキを撮りたかっただとか、忙しかった出し物の間では叶うはずもなかったことを後悔する。出来なかったことは仕方がないので、帰ったらこれから始まる演劇での冬華の表情とともに、メイド姿の冬華も秘密のスケッチブックに残しておくと決めた。
そして、文化祭の大目玉、演劇部の出し物の幕が開く。
コンクールに出場するものと同じ、裏方が考えたオリジナル脚本らしい。その程度しか事前知識はないため、冬華の演技への期待に胸を膨らませて観賞する。
──要約すると、廃部直前で、卒業間際の部内でのラブストーリーだ。進学のために遠くへ引っ越してしまう男子生徒の先輩。地元に残って進学する、ヒロインの冬華。このふたりを主軸とした物語となっている。
私には、演技のことはよく分からない。けれど、冬華の表情や仕草、そのすべてが、本気で恋している女の子を体現している。私には見せたことのない、本気で男子生徒役の先輩に恋しているかのような冬華。心の底では、見たくないと叫んでいるのに、釘付けになってしまう。
──逃げ出したい。冬華を見たいのに、胸が痛む。それでも、まったく足は動かない。視線も冬華に固定されてしまって、まばたきすら忘れてしまう。
結局お互い想いを伝えられないまま、演劇は幕を下ろした。周りの人がぞろぞろと体育館をあとにしていくなか、私は立ち尽くしていた。
恋している冬華は、あんな風になるのだろうか。
分かっている、今のは演劇で、彼女の仕草はすべて演技だ。だけど、ただの役作りというには、あまりにも。
だめだ、これ以上考えてしまうと。
この後校内で一番人気の出し物の発表が行われるのだけど、私は教室に置いていた荷物を持って、家まで逃げるように帰ってしまった。




