十七話
期待と不安が入り混じる、文化祭当日。
演劇部の出し物は文化祭の大トリを飾るため、まずは憂鬱なメイド喫茶で過ごさなければならない。客引きに出てもいいのかもしれないけれど、そういったものは私より結衣のグループの方が向いている。メイド姿の明るい女の子たちに誘われて入ってみたら、担当が私だった時のお客さんの失望の顔を想像すると、何ともいたたまれない気持ちになる。
「ご主人様二名、お帰りになりました~!」
客引きのクラスメイトの声で、我に返る。記念すべき初めてのお客さんだ。中のメイドのクラスメイトと並んで、定番のセリフを嫌々ながらも口にする。
「お帰りなさいませ、ご主人様っ」
ほかの女子たちはなにやらノリノリだが、私はぎこちなさが目立つ。それが逆に目を引いてしまったのか、何故だか私が指名されてしまった。
「ご、ご指名ありがとうございます、ご注文はいかがなさいますか?」
私は引きつった笑顔を貼りつけて男性客ふたりにメニューを差し出す。と言っても、メイド喫茶と言えば定番のオムライス。一応チェキなどもメニューには入っているけれど、フードメニューといえばそれとホットケーキくらいだ。
「オムライスふたつで」
生暖かい目で私を見守る男性客たちは、予想通りオムライスを注文してきた。
「かしこまりました、少々お待ちくださいね」
私は逃げるように裏へ回り、オムライスふたつの注文が入ったことを調理担当のクラスメイトに告げる。
お客さんを待たせないようケチャップライスは既に大量に作られている。それに卵を包むだけなので、割とすぐに出来上がってしまう。
たまたま居合わせた結衣が、にやにやしながら私に激励の言葉を投げる。
「紬ちゃんの決め台詞、楽しみにしてるよ~」
フードメニューはオムライスとホットケーキだけなので、客席にケチャップといちごソースはそれぞれ一つずつ用意してある。出来上がったオムライスを両手に持ち、指名された席のところへ持って行く。
気付けば他にもお客さんは入っていて、それぞれクラスメイトたちが担当している。今の客引きには冬華がいるので、この客入りには納得できる。
「お待たせしました、オムライスですっ。ケチャップ失礼しますっ」
一応、メイド喫茶のオムライスのデコレーションについては調べておいた。ケチャップで絵を描く練習もした。とりあえず、猫やクマなどのゆるい動物とハートを描くのが無難だと分かったので、ケチャップで慎重にデコレーションを施す。
二人分のデコレーションが終わると、男性客ふたりは感嘆の声を上げた。そして、何かを期待するようにこちらを見る。
「で、では、最後におまじないをかけますね......。美味しくなーれ、萌え萌えきゅんっ」
練習通りに手でハートを作った決めポーズをしたが、練習と違い、人を相手にこれをするのは本当に恥ずかしい。お客さんふたりはと言うと、拍手をしてくれた。やさしいお客さんでよかった。
注文を待っているほかのお客さんも何故か沸いている。注目を浴びるのが心底苦手な私は、今すぐにでも逃げ出してしまいたい。
「冷めないうちにお召し上がりください」
担当のお客さんに声をかけて、食べるように促す。準備の時に試食してみたけれど、料理上手な男子がいるおかげで味も悪くないはずだ。
「んー、うまっ! おまじないが効いてんなぁ」
「な、メイドちゃん名前なんて言うの?」
担当客は食べながら私に話しかけてくる。
「申し遅れました、紬です」
私はメイド服の裾をつかんでお辞儀をする。
「紬ちゃんか、可愛い名前だね。メニューにチェキもあったよな、注文しちゃおうかな」
「アリだよなー」
そのやりとりを聞いた私は見るからに狼狽えていたに違いない。私の様子を見た担当客ふたりは、それぞれチェキを追加注文したのだから。
お客さんが食べ終わった食器を下げて、チェキの撮影に移る。担当客ひとりずつとチェキを撮り、空白部分にまたデコレーションを施すと担当客は満足そうに退店した。
ひとまず初仕事を終えたことにほっと胸を撫で下ろす間もなく、お客さんはどんどん入ってくる。
休憩や客引き役との交代などでホールから解放されては一息ついて、またホールに駆り出されて慣れないメイドをやって、と、文化祭前半は慌ただしく時間が過ぎていった。




