十六話
色んな意味で濃かった夏休みは終わり、新学期が始まった。二学期と言えば、とりあえずは文化祭準備だ。冬華の演技を見られる機会はこの時くらいなので、期待に胸を膨らませる。そして、彼女はいつも通り曲がり角から姿を現した。
「おはよー、紬。カフェ以来だね」
顔色がよさそうなところを見るに、課題は無事に終わらせたようだ。本当に良かった。
「うん、おはよう、冬華。課題、終わったんだね」
「そうなの!もうめっちゃ頑張ったんだから~」
褒めて~と言わんばかりに、またもや彼女は私の腕に手を回す。なんだかこの間から、やたらと距離が近い気がして、どぎまぎしてしまう。何回されたって、これには慣れる気がしない。
いつものように教室に入って荷物を置き、始業式のために体育館へ向かう。始業式はすぐに終わり、教室に戻るところで、結衣が「おふたりさんのイチャイチャツーショット、超かわいかったよ~」と声をかけてきたので、その相手は冬華に任せた。朝から冬華の行動によってもう心臓が持たないので、なんでもないように返すのは私にはとても困難だった。
教室に戻り、ホームルームで文化祭の出し物決めが行われる。クラスメイトからいくつか候補が挙がり、その中から多数決で選んで、何故だか圧倒的投票率でメイド喫茶に決まってしまった。
それだけならまだいい。裏方で料理をする役割を果たせばいいと思っていたから。けれど、私までメイドをやらされることについては、正直、逃げ出したい。結衣のグループや冬華なら似合うかもしれないけれど、私なんかがメイドをやるなんて、どの層に需要があるのか教えてほしい。
それでも、決めれられたことを覆せるほどの発言力を持っていない私は、渋々でも従うしかなかった。
衣装の採寸や、メイド喫茶の飾りつけのイメージのすり合わせ、メニューなどを細かく練っていき、放課後に看板の制作など目まぐるしく日々は過ぎていく。
冬華については、演劇部の出し物もあるため、クラスの出し物の準備の方にはあまり参加できず申し訳なさそうにしていた。けれど、クラスのみんなも冬華の演技に期待しているので、快く部活に送り出していた。
メイドの決め台詞の練習だと言って結衣の属するグループに絡まれた時は、もう、穴に潜ってそのまま埋めてほしかった。
「え~紬ちゃん初々しくて可愛すぎるんだけど! これ、逆にうちらよりオタク層にめちゃウケそう!」
などと言われたが、正直褒められている気がしない。
家族には特に見られたくないので、くれぐれも文化祭には来ないでくれと念を押しておかなければ。
どんどん文化祭の日が近づいてくる。冬華の演技への楽しみと、クラスの出し物への憂鬱で複雑な感情を抱きながら、私たちはメイド喫茶を形作っていった。




