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5回目の記念日  作者: 箱庭ぱん


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十五話

 夏休みも残すところあと一週間、ようやく課題が終わった。これで純粋に、新学期での冬華との時間を楽しみに過ごすことができる。と言っても、文化祭準備とコンクール準備がもろ被りしているとのことなので、放課後はいつも通り部活に行って一人で帰るだけになるのだろう。

 新学期のことに思いを馳せていると、スマホの通知が鳴った。きっと、佐々木くんからの呼び出しだ。

「一応俺のなかでは完成したんで、見に来てもらえますか?」

「今から行くね」

 制服片手で指で綴り、スマホを置いて制服に身を包む。学校に行くことを母に伝え、玄関を開けていつもより早足で向かう。彼の作品さえ完成すれば、本当に夏休みのタスクは完了するからだ。

 そういえば、佐々木くんからメッセージが来た時に見慣れないアイコンが下にあった気がする。あの位置はきっと冬華のものだ。いつもスタンプに使っているキャラクターをアイコンに設定していたのだけど、変えたのだろうか、とスマホを取り出し見返してみると。

「わあっ!?」

 思わず声が出てしまった。通行人がいなかったのが幸いだ。いつの間にか、冬華のアイコンがこの前私と撮ったプリクラのなかの一枚に変わっていた。

 クラスのグループトークにいる女子を見ている限り、別に珍しいことなんかじゃない。分かっている。けれど、冬華はずっとアイコンを変えていなかったものだから、なんだか期待してしまう。

 私は思わず駆け出して、予定より早く学校に着いた。


「え、そんな急いで来てもらわなくてもよかったのに」

 息が上がりきっている私を見た佐々木くんは、戸惑いながら開口一番にそう言った。

「さ、佐々木くんの絵が楽しみで、つい」

 適当な言い訳をすると、何故か彼は恥ずかしそうにしていた。そして、おずおずと絵を差し出してくる。

 色を塗る段階で加筆修正を繰り返し、下描きよりももっと良い作品に仕上がっている。

「これ、タイトルは?」

「非日常、です」

 校舎の窓から見える日常の風景を、非日常的に描いたこの作品に、ぴったりなタイトルだと思う。

「うん、いいんじゃないかな。これで提出しても」

「本当ですか!? やっと、終わった......」

 佐々木くんは、小さくガッツポーズを決めた。そしてほかの生徒を見ていた柴崎先生は彼の声を聞き、こちらへ向かってくる。

「あら、完成したの?」

「はい! ようやく!」

「よかったわねぇ~、下描きでリテイク続きだった時は締め切りに間に合うかはらはらしちゃったけど。この絵を見たら、あの時間にはものすごく価値があったように思うわ」

 彼の作品を見た柴崎先生は、微笑みながら彼の頭にぽんと手を置いた。

「それじゃあこれは私の方で預かるわね。タイトルは決まってるかしら?」

「非日常、です!」

 タイトルを聞いた先生は、改めて作品を眺めて強く頷いた。

「うん、いいじゃない!これはきっと入賞するわよ~」

 佐々木くんはその言葉を聞くや否や、ぱあっと表情を明るくさせた。先生の次の言葉で、一瞬にして曇ることになるのだけど。

「そういえば佐々木くん、制作にかなり時間をかけていたようだけど、課題の方は大丈夫なの?」

「......結構、やばいです」

 思い出したくなかったと言わんばかりに彼は目を逸らす。

「あらあら。じゃあ、素直で可愛い後輩の課題の面倒も見てあげなさいな、朝倉先生?」

 先生はまたもや私に向けてウインクを投げる。どのくらい課題が残っているか分からないけど、残り一週間だというのにあまりにも無茶振りが過ぎやしないか。

「さ、さすがにそこまで先輩に頼りきるのは......」

「いいよ、できる範囲でなら教える。佐々木くん、課題持ってきてる?」

 私の答えが予想外だったのか、彼は目を丸める。

「えっと、今は持ってないです」

「じゃあ、一旦帰って持ってきてくれる? 私、図書室で待ってるから」

「わかりましたっ」

 彼が部室から飛び出す様子はいつものことだけれど、今回は特に一秒たりとも待たせたくないという意思が伝わってきた気がする。

「やけに素直に聞き入れてくれたじゃない! 佐々木くんが、あなたが閉じこもっていた殻を破ってくれたのかしら?」

 先生は少しにやついて問いかけてくるが、そういうことじゃない。

「私は課題終わってるので、暇だから引き受けただけですよ」

「まあ、朝倉さんったら優秀なのね。ここにいてもなんだし、図書室で本でも読んで待っていたら?」

 先生の言葉に頷いて、お疲れ様でしたと挨拶を残して図書室に向かう。

 ずらりと並んだ本棚から面白そうな本を探し出し、読み始めると、佐々木くんは思ったより早く図書室に来た。

 夏休み中に図書室を利用する生徒はいないので、声を潜めることもなく話す。

「基本私は本読んでるから、わからないところがあったら聞いてね。苦手教科でさえなければ教えられると思う」

「わかりましたっ」

 彼はシャーペンをカチカチと鳴らして芯を出し、必死に課題に取り組みはじめる。


 本の世界に入り浸ってはたまに止められて、質問に答えて、を繰り返すこと、一週間。佐々木くんはなんとか課題を済ませ、同時に夏休みは終わりを迎えた。


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