十三話
約束の日曜日。十時までは充分に時間があるので、私はいつも通りの時間に鳴ったアラームを止め、起き上がる。もう既に、動悸が止まらない。
朝食はそこそこに、洗面所で顔を洗って自室に戻り、自分の顔にほんの少しのメイクを施す。気合を入れすぎないように、ナチュラルに。校則でメイクは禁止なので、滅多にすることはない。けれど、こういう時のためにメイク動画でたまに勉強はしている。
昨日選んでおいたとっておきのワンピースに着替えて、ヘアアイロンを温めている間に、ブラシとコームで念入りに髪を梳かす。中学の頃からたまに冬華と遊ぶことはあったけれど、まだ身なりに無頓着だった私の、整えに整えた姿を彼女に見せるのは、これが初めてかもしれない。
野暮ったいボブカットの髪を内巻きにして、少しはねた前髪を整え、ヘアアイロンの電源を切る。今日は課題のノートを返してもらうので、リュックで行こう。
手首に少しボディミストを振り、完璧に支度が終わったところで、時計は九時半をさしている。そろそろ向かおう。
お気に入りのスニーカーで足取り軽く、カフェにたどり着いたのは約束の十分前。近くのベンチに座って、彼女を待つ。
五分後、冬華は現れた。私を見つけるや否や、目を丸くして駆け寄ってくる。
「おはよ、紬。なんか今日、いつも以上に可愛いね」
いつも以上、という言葉に深読みをしてしまう前に、耳が熱くなるのを感じながら私は答える。
「冬華、おはよう。あ、ありがとう......」
ぷしゅうという音とともに、顔が蒸発でもしてしまいそうだ。私の照れが伝わったのか、彼女はくすっと笑って「じゃあ入ろっか」と入店を促した。
ピークにはまだ早いのか、待ち時間なく席に通される。冬華はアイスコーヒーを、私はミックスジュースを。それと一緒に、半分こする桃のパフェを注文して、改めて冬華の姿をまじまじと見てみる。
彼女は部活の影響か、私より早くメイクを始めていたので、彼女のメイク姿を見るのは初めてではない。彼女の顔の良さを引き立てるそのメイクは、とても似合っている。それでも、私は冬華みたいにさらりと褒めることはできない。初めて見た時は、それはもうはしゃいで可愛いと連呼してしまったけれど。
「あ、課題返しちゃうね。本当に助かったよ、ありがとう。おかげで他の課題も結構進んだ」
そう言って彼女は私のノートをテーブルに置いて差し出す。私はそれを受け取り、リュックにしまう。
「それは良かった。課題、本当に多いよね。間に合いそう?」
「まぁ、役への理解も進んできたし、集中すればなんとかね」
パフェより早く来たアイスコーヒーを受け取った彼女は、喉が渇いていたのかすぐにストローをさして口をつける。一緒にミックスジュースも来たので、私もストローをさして、口をつける前になんとなく回してみる。
「そういえば、紬に仲良い男の子がいるなんて知らなかった。蒸し返すようで悪いけど」
ジュースに口をつけていなくてよかった。もしつけていたら、吹き出してしまっているところだった。
「柴崎先生が職務放棄しててさ」
「なにそれ~?」
冬華は笑いながら話を聞きたそうにしていたので、佐々木くんとのことのいきさつを彼女に話した。
「なるほどね~、紬の絵の良さが分かるなんて、佐々木くん? 見る目あるね」
何故か冬華が自慢げにしているところで、お目当てのパフェがやってきた。事前に聞いていたとおり、本当に大きい。ふたりでなんとか食べきれるかどうかくらいだ。朝食をそこそこにしておいてよかった。
「噂通りめちゃでかいね、でも美味しそう。食べよ~」
彼女も私もSNS映えなどには無頓着なので、写真を撮ることはせずスプーンをつついて口に運ぶ。美味しい。季節限定なだけあって、桃が特に。
「めちゃ美味しいけど、これ絶対ひとりじゃ無理だよね。紬と来れてよかった」
食べながら彼女はまた私の心を乱すようなことを言う。いつも以上に、という言葉もそうだ。それじゃまるで、普段も可愛いと思っていると言っているようなものじゃないか。嬉しさと恥ずかしさを誤魔化すように、私は食べる手を少し早めた。彼女の分まで取ってしまわないように、慎重に。
軽く雑談しながらなんとか完食できた私たちは、少しずつ減っていった飲み物もなくなり、この後どうするかという雰囲気になった。まだ昼前ではあるけれど、パフェでもうお腹はいっぱいなので昼食は本当に必要ない。
「たまにはプリクラでも撮りに行かない?」
彼女らしくない珍しい提案に、私は乗ることにした。
レジでそれぞれお金を出しあい、カフェをあとにする。プリクラ程度ならゲームセンターでもいいのだけれど、どうせならとショッピングモールに足を伸ばすことにした。
「冬華って、プリクラとか撮るの好きだっけ?」
カフェで感じた疑問を彼女に投げかける。
「んー、別にだけど、今日の可愛い紬をなんとなく残しておきたいなって」
もはや心臓が跳ねる、どころではない。鼓動が加速しすぎて、心臓がもたなくなり、やがて破裂してしまいそうだ。こういう時の私は決まって黙り込んでしまうので、彼女はもしかしたら私をからかって楽しんでいるのかもしれない。本当に、冬華は、ずるい。




