十一話
コンクール用作品の制作と提出を済ませている私は、部活には自由参加だ。それでも足を運ぶのは、写実主義の後輩の作品を見るという任務を命じられているからに過ぎない。私も彼から学ぶことは多いので、だんだん嫌ではなくなってきたけれど。
部室の扉を開けると、待ってましたと言わんばかりに佐々木くんがこちらへ飛んでくる。
「下描き、見てください!」
この前のメッセージのやりとりからかなり模索して自信が持てたのか、私の返事も待たずに画用紙を差し出してくる。どれどれ、と見てみると。
「――すごく、いいと思う」
まるで私の作風を喰らい尽くし、自分の糧にしたような作風になった彼の風景画は、写実的ではあるのだけど、かなり主役がはっきりしたものになり、私は少しばかりの悔しさを感じた。
「本当ですか!?」
「うん、あとは色塗り次第で、全然入賞も狙えると思うよ」
画用紙を返すと、彼は喜びを噛みしめるように、大事そうに画用紙を抱える。
リテイク続きで疲弊もしていただろうに、よく頑張ったと思う。まだ下描き段階で、今までのペースなら締め切り的にはギリギリではあるのだけど、下描きという大きな山場を越えた彼ならきっと大丈夫だろう。
「じゃあ、早速色塗りしてきますっ。また見てほしくなったら連絡するので、都合つけばお願いします!」
「わかった、この調子でいい作品にしていこうね」
「はいっ!」
彼は嬉しそうに画材の準備を始めて、画材と画板を両手に部室を出て行った。彼が下描きを完成させてくれたおかげで、私は呼ばれた時以外はもう夏休み中に部活に来る必要はなさそうだ。
「佐々木くん、ずっとスランプ気味だったのに急に彼らしいような、らしくないような絵を仕上げてきてびっくりしちゃったわ。知らないうちにあなたのアドバイスが効いたのかしら?」
いつの間にか隣にいた柴崎先生は私に問いかける。
「私は別に何も......佐々木くんが自分で模索した結果だと思いますよ」
「まぁ、朝倉さんったら謙虚なんだから。でも、あなたに任せて正解だったわね! あなたも、彼から学ぶことはたくさんあったでしょう?」
ふふん、と鼻を鳴らしながら何故か先生が誇らしそうにしている。先生の判断は、本当に間違っていないのだけど、なんだか自分で言われると癪に障るような、そうでもないような。
「ですね、私も佐々木くんの絵を、食べないと」
「朝倉さんが彼のテイストを取り込んだら、作品にもっと深みが出るかもね。ま、頑張りなさいな」
そう言って先生は私の肩にぽん、と手を置いて、ほかの部員の様子を見に行った。
ありがたいことに、今日はもう部活でやることはなさそうだ。帰ってまだ途中の課題に手をつけよう。
私はお疲れ様でしたと誰にともなく声をかけ、部室をあとにした。




