揺さぶりと非破壊検査
「そういえば、リゼよ。」とリゼの父であるパンチが語りかける。「本国のテレサから文が届いたのだ。」リゼは封蝋を砕きながら、テレサからの手紙を開く。「なるほど…その手がありましたか!」
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一方、当のリュカはオーウェンが行う日々の拷問により疲弊していた。
「そろそろ、盗んだクラレットジャグをどこにやったのか、吐いてもらおうか。」
「僕は…盗んでない…」途端にリュカに水が浴びせられる。
「そんな寝言が通用すると思うか?さ、大人しく吐いてもらおうか。」
「ほんとに知らないんだ…」
「それなら、仕方ない。お前とともに来ていた、女どもにも手を出さざるを得ないな。」
「!」リュカは絶望に顔を歪ませる。
「さ、吐くんだ。」
「わかった…僕は…」
とリュカが口にした途端、尋問室の扉がバーンと開かれた。
「ちょっと待った!」「リュカ様、大丈夫ですか?」入ってきたのは、マリーとリゼだった。
「お前たち、何用だ。」とオーウェンが睨んでくる。
「これは、オーウェン殿ごきげんうるわしく。」とリゼがカーテシーで挨拶をする。
「おお、これはリゼ皇女殿下ではありませんか。このような下世話なところまで、押し掛けてくるとは、何事でしょうか?」
「早速ですがオーウェン殿、残念なお知らせが2つあります。どちらから聴きたいですか?」とリゼとマリーは一つずつ書状を掲げた。
「…では、左の方から。」とマリーが持つ方の書状を手に取る。暫しの熟読のあと、オーウェンは絶句した。「…神聖帝国からの宣戦の使者だと!?」
「え!?」とオーウェンの部下たちの間にも動揺が走る。「俺たちも戦線ってことか?」
神聖帝国は、カトゥル帝国と西で接する大国である。つまり、西国であるスラガ市国は神聖帝国と接する最前線にあたる。かつては干戈を交えたカトゥルと神聖帝国であるが、ここ300年の間は、両者の間になんら争いはなかった。それが突如として攻めて来たとの報告は、まさに寝耳に水の事態である。
机を拳で叩いたのち、オーウェンは険しい表情のまま尋ねる。「…そして、もう一つの悪い知らせとは?」
「こちらですわ。」とリゼが書状を掲げる。これには、カトゥル帝国皇室の勅印が捺してあるため、カトゥル帝国本国の皇帝テレサが発したものだと分かる。
「…忠良なるわが下僕であるリュカを釈放しないのであれば、西国・スラガ市国のカトゥル帝国からの連盟脱退とみなさざるを得ない…だと!?」
「つまりは、お尋ね者のリュカを釈放しなければ、カトゥルからの断絶を迫るということですか?!」さらなる動揺が、オーウェンの部下に走る。
「…これは、自分の一存では決めかねる。議会にお諮りしたい。」
「そんな暇は…!」というリゼを制してマリーが答える。「わかりました。ですが早急にお願いします。」「言われなくても、わかっている。」
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開かれたスラガ市国の議会は、荒れに荒れた。
「神聖帝国とは、永久の平和を約束していたはずだぞ!話が違う!」
「なんでまた、こんなときに、カトゥルから断絶を突きつけれるのか!タイミングが悪すぎる!」
「かくなる上は、神聖帝国と結んで、カトゥルと戦うか?」
「無理だ!神聖帝国は絶対王政と聴く。スラガ市国の自治を認めるはずがない!」
「こんなことになったのも、すべてダンドロのせいだ!」
「えっえっ…あのう…」と市長(西国の行政の長)であるダンドロはタジタジである。
「静まりなさい!」とリゼが発すると議場は水を打ったように静まりを見せた。
「まず、西国は冤罪で“我が“リュカを裁こうとしている。恥を知りなさい!」
“我が”にアクセントを強調したことは明らかだった。
「次に、神聖帝国の来襲という国家の危急にあたり、西国はどのように対応するのか、述べてみよ!戦を成すか?和を講うか?どちらにせよ、リュカを抑留する西国にカトゥルが関与するものか!」
ダンドロやオーウェン、さらには西国の議員に絶望が走った。
「カ、カトゥルの安全保障がないとは…話が違いますぞ!」
「わがリュカに対する仕打ちをおもえば、これぐらい当然のことです!」とリゼ。
そこにヘレナが割って入った。
「どうでしょう?とりあえず、リュカ様を保釈とし、神聖帝国の脅威が去ってのち、審理を再開してはいかがでしょうか。もちろん、我々は逃げも隠れもしません。」
「…このダンドロ、ヘレナ嬢の提案に賛成である。他に賛成の者は、挙手願いたい。」
「まあ、いいぜ。」とフリッツさんが真っ先に手を挙げた。「あいつなら逃げねえと思うしな。」
「…神聖帝国の脅威が去るのが先決です。」とグレースさんも賛成してくれた。
「あの子が、この難題をどう切り抜けるのかを見てみたい。いいよ、賛成する」とリキュールさんも手を挙げた。
「わかりました。満場一致で、リュカ殿を保釈。神聖帝国の脅威が去り次第、審理を開始します。」
こうしてリュカは、保釈され牢獄を出た。疲労困憊した体から出た、「みんな、ありがとう。」という言葉は、仲間の胸を打ったという。
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さて、神聖帝国の脅威を退けて、リュカの無実を証明することを迫られる一行である。
「しかし、どうしましょう?無実の証明に関しては、真贋鑑定技術ができ次第何とかするとして、早急に神聖帝国への対応を何とかせねばなりません。」とヘレナ。
「ああ、それについてはもう大丈夫。」とマリー。
「?マリー、どういうことですか?」とリゼ。
「もうすぐ彼らは撤退するわ。」
その頃、神聖帝国の陣営では、マリーからの使者が来ていた。
「…撤退する。」将軍と思しき人物が下知を出す。
「将軍、正気ですか!?」
「これを見よ。」と見せたのは、マリーからの手紙である。
「これは‥‥」「うむ。此度のことでカトゥルに恩を売るのだ。」
「報告です!神聖帝国の軍勢が引いていくとのこと」との知らせが入ったのは、マリーが手紙を出してから、一日後のことだった。余りの速さに、何が起きたのか僕たちにはわからなかった。
「さて、神聖帝国からの脅威は去りましたが…」とダンドロ。「リュカ君の無実が証明されないと、スラガ市国としては釈放しかねるのですが…」
ヘレナが口火を切る。「ご安心ください。リュカ様の無実を証明してさしあげます。」
「しかし、どのように?」「ふっふっふ…じゃじゃーーん」とヘレナが垂れ幕を取ると、一つの装置が姿を現した。
「これが、新作・非破壊検査装置!ワカルンデス1号!」
「ワカルンデス1号…」「…とはなんですか?」場が一瞬白けたようになる。
「もう、こんなダサいネーミングセンス!マリーのせいだからね!」
「えー!」
「まあいいわ。とにかく、この中に物質を通すと、その組成を教えてくれるの。西域のクラレットジャグはその材質が詳しく文献に載っていたから、それが本物なら大丈夫でしょ?」
「クラレットジャグの材質を見分けても意味がないと思うが…」
「違うのよ。それだけじゃなく、クラレットジャグの航跡。簡単に言えば行方ね。をたどることもできるのよ。」
「ははぁ…」
「まあやってみましょう。チタン30%、金25%、…」とヘレナがクラレットジャグの組成を、文献を元に機械に入力していく。「よし!できた!あとは、ポチッとな」
その航跡が割り出される。捕まったのは、議会ではフランベ派に属する議員・オリオの息子であるクロウン だった。なぜ、こんなことをしたのかとの問いに対しては、頑として答えなかったクロウンは、獄中に入れられることとなった。
「リュカ様を…」「罪に陥れた罰…」「断じて、許すまじ…」とリゼとマリーとヘレナの憤怒の相を見て、パンチとチンキムはこう言い合った。「女を怒らせるほど、怖いものはない。」




