恢復
こうして、リュカの無実は証明された。
リュカは、何日にもわたって拘束されていた牢を出ることができた。
その後、リュカは西国議会へと招かれた。
今回の一件への詫びも兼ねて、西国議会において演説する機会を与えられたのである。
演説が決まったのは、なんと前夜のことだった。
そのためリュカは、マリー、ヘレナ、リゼのほか、パンチやチンキムの力も借り、徹夜で演説の草稿を書き上げた。
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そして翌日。
リュカは議場の壇上に立った。
「今日、皆さんがこうして僕の話に耳を傾けてくださることに、感謝いたします」
リュカは、静かに演説を始めた。
「スラガ市議会のフリッツさん、グレースさん、リキュールさん。先日は、私の話を聞いてくださり、ありがとうございました」
リュカは議場を見渡す。
「しかし、クラレットジャグの貸与は、否決されてしまいました」
議場には、静かな緊張が走っていた。
「まず、ミストラル派の皆様は、前例のない貸与に反対とのことでした。しかし、人命は、ときに優先されるべきものです」
「もちろん、それがいつでもできるわけではありません。しかし、民の声を天の声とし、それを政治に活かそうとするのであれば、人の生死に関わることをないがしろにすることはできないと、僕は思います」
続いて、リュカはフランベ党へと視線を向けた。
「フランベ党の皆様は、利益のない貸与に反対とのことでした」
「今回、毒で倒れたのは、私の大切な人です」
リュカは、一度言葉を切った。
「もし、貸与に賛成していただけるのであれば、私が将来、出世した暁には、皆様に認めていただけるよう、そして皆様の利益になるように動きたいと思います」
「このリュカ・チェザーレ。カトゥル帝国に拾われ、その恩を忘れたことはありません」
「忘恩ではなく、国家に尽くしている姿をお見せすることで、必ずリュカは皆様にご恩を返す時が来る。そう、思っていただけるようにしてみせます」
そして、最後に第二会派であるポドゾル派へと目を向けた。
「そして、ポドゾル派の皆様」
「グレースさんの御子息が、病に臥せっていると聞きました」
「もちろん、その回復を待ってからでも構いません」
リュカは深く頭を下げた。
「どうか、クラレットジャグの貸与に賛成していただけないでしょうか」
リュカが深々と頭を下げる。
すると、議場がざわめき始めた。
そのときだった。
「発言をよろしいでしょうか」
グレースが挙手をした。
「どうぞ」
「私の息子は、病気ではありません」
「えっ……?」
リュカは驚いた顔をする。
「では、なぜ……嘘をおつきになられたのですか?」
「嘘といいますか……」
グレースは一瞬、言葉に詰まった。
そして、静かに続ける。
「ですから、私のことは大丈夫です」
「ポドゾル派は、貸与に賛成します」
その言葉に、議場が再びざわめいた。
すると、今度はフランベ党のリキュールが口を開いた。
「面白い目をしているね、リュカ君」
リキュールは、じっとリュカを見つめる。
「前と比べて、ずいぶんといい瞳をしているじゃないか」
そして、にやりと笑った。
「いいよ。君に投資するとしよう」
「フランベ党も賛成に回る。いいかい、みんな」
その言葉に、フランベ党の面々が頷いた。
最後に、フリッツが口を開く。
「見返りもあることだしな」
「いいぜ。俺たちも賛成する」
こうして、ミストラル派も賛成に回った。
クラレットジャグの貸与は、無事に決定された。
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リュカは急いで必要な手続きを終えると、本国の首都――帝都リンベルへと戻った。
そこで、リルの父であるハリー・ピシー辺境伯が、リュカの帰りを待ちわびていた。
「リュカ殿!」
「お待たせしました」
リュカは、クラレットジャグを差し出した。
「いや、それは君がリルに使ってあげてくれ」
ハリーにそう言われ、リュカはクラレットジャグに水を汲んだ。
そして、それをリルに飲ませる。
すると――。
「ううん……」
顔面蒼白だったリルの顔に、少しずつ血の気が戻っていく。
「あら、リュカ。どうしたの?」
リルは、まるで何事もなかったかのようにリュカへ話しかけると、ベッドの中でゆっくりと身を起こした。
「良かった!」
リュカは思わず、リルをぎゅっと抱きしめた。
「リュ、リュカ君?」
突然の抱擁に、リルは驚く。
だが、その瞬間。
自分が毒に倒れていたことを思い出した。
「そっか……」
リルは、優しく微笑んだ。
「お帰りなさい」
その言葉に、リュカがどれほど救われたことか。
後にリュカは、そのときのことを日記にこう記している。
――「お帰りなさい」という言葉に、これほど報われたと思ったことはなかった。




