↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷宰相 西国のクラレットジャグ編  作者: 近衛翡翠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/8

恢復

こうして、リュカの無実は証明された。


リュカは、何日にもわたって拘束されていた牢を出ることができた。


その後、リュカは西国議会へと招かれた。


今回の一件への詫びも兼ねて、西国議会において演説する機会を与えられたのである。


演説が決まったのは、なんと前夜のことだった。


そのためリュカは、マリー、ヘレナ、リゼのほか、パンチやチンキムの力も借り、徹夜で演説の草稿を書き上げた。


***************************


そして翌日。


リュカは議場の壇上に立った。


「今日、皆さんがこうして僕の話に耳を傾けてくださることに、感謝いたします」


リュカは、静かに演説を始めた。


「スラガ市議会のフリッツさん、グレースさん、リキュールさん。先日は、私の話を聞いてくださり、ありがとうございました」


リュカは議場を見渡す。


「しかし、クラレットジャグの貸与は、否決されてしまいました」


議場には、静かな緊張が走っていた。


「まず、ミストラル派の皆様は、前例のない貸与に反対とのことでした。しかし、人命は、ときに優先されるべきものです」


「もちろん、それがいつでもできるわけではありません。しかし、民の声を天の声とし、それを政治に活かそうとするのであれば、人の生死に関わることをないがしろにすることはできないと、僕は思います」


続いて、リュカはフランベ党へと視線を向けた。


「フランベ党の皆様は、利益のない貸与に反対とのことでした」


「今回、毒で倒れたのは、私の大切な人です」


リュカは、一度言葉を切った。


「もし、貸与に賛成していただけるのであれば、私が将来、出世した暁には、皆様に認めていただけるよう、そして皆様の利益になるように動きたいと思います」


「このリュカ・チェザーレ。カトゥル帝国に拾われ、その恩を忘れたことはありません」


「忘恩ではなく、国家に尽くしている姿をお見せすることで、必ずリュカは皆様にご恩を返す時が来る。そう、思っていただけるようにしてみせます」


そして、最後に第二会派であるポドゾル派へと目を向けた。


「そして、ポドゾル派の皆様」


「グレースさんの御子息が、病に臥せっていると聞きました」


「もちろん、その回復を待ってからでも構いません」


リュカは深く頭を下げた。


「どうか、クラレットジャグの貸与に賛成していただけないでしょうか」


リュカが深々と頭を下げる。


すると、議場がざわめき始めた。


そのときだった。


「発言をよろしいでしょうか」


グレースが挙手をした。


「どうぞ」


「私の息子は、病気ではありません」


「えっ……?」


リュカは驚いた顔をする。


「では、なぜ……嘘をおつきになられたのですか?」


「嘘といいますか……」


グレースは一瞬、言葉に詰まった。


そして、静かに続ける。


「ですから、私のことは大丈夫です」


「ポドゾル派は、貸与に賛成します」


その言葉に、議場が再びざわめいた。


すると、今度はフランベ党のリキュールが口を開いた。


「面白い目をしているね、リュカ君」


リキュールは、じっとリュカを見つめる。


「前と比べて、ずいぶんといい瞳をしているじゃないか」


そして、にやりと笑った。


「いいよ。君に投資するとしよう」


「フランベ党も賛成に回る。いいかい、みんな」


その言葉に、フランベ党の面々が頷いた。


最後に、フリッツが口を開く。


「見返りもあることだしな」


「いいぜ。俺たちも賛成する」


こうして、ミストラル派も賛成に回った。


クラレットジャグの貸与は、無事に決定された。


***************************


リュカは急いで必要な手続きを終えると、本国の首都――帝都リンベルへと戻った。


そこで、リルの父であるハリー・ピシー辺境伯が、リュカの帰りを待ちわびていた。


「リュカ殿!」


「お待たせしました」


リュカは、クラレットジャグを差し出した。


「いや、それは君がリルに使ってあげてくれ」


ハリーにそう言われ、リュカはクラレットジャグに水を汲んだ。


そして、それをリルに飲ませる。


すると――。


「ううん……」


顔面蒼白だったリルの顔に、少しずつ血の気が戻っていく。


「あら、リュカ。どうしたの?」


リルは、まるで何事もなかったかのようにリュカへ話しかけると、ベッドの中でゆっくりと身を起こした。


「良かった!」


リュカは思わず、リルをぎゅっと抱きしめた。


「リュ、リュカ君?」


突然の抱擁に、リルは驚く。


だが、その瞬間。


自分が毒に倒れていたことを思い出した。


「そっか……」


リルは、優しく微笑んだ。


「お帰りなさい」


その言葉に、リュカがどれほど救われたことか。


後にリュカは、そのときのことを日記にこう記している。


――「お帰りなさい」という言葉に、これほど報われたと思ったことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。