盗賊団と窃盗事件
「その姉ちゃん、ってどんな人なのですか?」とリゼ皇女が尋ねる。
「姉ちゃんは、俺たちのリーダーをする。おれのあこがれの人さ。俺たちは、”仕事”で盗ってんだよ。富める者たちから。」とのウマルの言葉を聞き、何かを感じたリュカは、ヘレナに目配せをする。
「そのお姉ちゃんに合わせていただけません?」
「それをして、俺になんか得があるのか?」
「わがロレンソ家は、准男爵の家柄です。会わせていただければ、それ相応の代価の金貨をお支払い出来ます。」
少し考えた様子のウマルだったが、反応は早かった。「じゃあ、先に金をよこしな。」「では、黄金貨3枚で。」ちなみに、この世界で、黄金貨は、1ゼリア。
「少し、待ちな。」そう言うと、ウマルは町の路地へと消えていった。
「本当に大丈夫かな…」リュカがそう言うと、ヘレナは「まあ、払ったものは仕方ないですし、運は天に任せましょう!」
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その翌日の夜、リュカ一行が泊まるパンセラ亭に、来客があった。
「親父、リュカってやつは来てないかい?」
「ああ、リュカ殿なら、丁度食堂でご飯を食べているよ。」
「ありがとな!」
リュカと、リゼ、ヘレナ、パンチ、チンキムがご飯を囲んでいる。今晩のディナーは、西域のブリゾールという、お好み焼きである。
へ「このブリゾール、シャキシャキのパプリカが入っていますね。」
チ「いいですね。わが北国のチーズを入れても美味そうです。」
パ「自分で焼くという体験もいいものですね。ほらリゼ、お父さんの焼いたのも食べなさい。」
リ「あーん。はふっはふっ。おいしいです!(口にものをくわえながら)」
リュ「パンチ陸相も、チンキム外相も、どうぞ食べてください。」
パ「リゼ殿、パンチ陸相は堅苦しいな。もうちょっと、砕けたまえ」
パ「じゃあ、お義父さん!」
へ「(お義父さん?)」
とヘレナが箸を折った時だった。
「よう、リュカ!」とリュカを呼ぶ声がする。リュカを呼んだのは、昨日会ったウマルだった。
「ウマル!」「今日は、お頭を連れて来たぜ。お頭は、俺たちの食い扶持を何とかして稼いで来てくれる、立派なお方なんだぜ。アイーシャ様、こちらが帝国宰相のリュカ・チェザーレです。」
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アイーシャと呼ばれたその女性は、緑色の透けたスカーフをほどいて、リュカに接近した。耳には海の無い西域では手に入らぬ貝のイヤリングをしており、額や唇には北国産の赤い顔料を着けている。
「この度は、ウマルに黄金貨2枚を与えて下さり、ありがとうございます。」
(あ、ウマルが1枚ちょろまかしたんだな。と目配せをリュカがヘレナとリゼに送ると、2人は思わず吹き出している。)
「で、早速ですが、用件を言ってほしいんだが。」
「実は、ある人が帝都で毒を盛られて死にそうなんだ。そこで、西国の国宝であるクラレットジャグが要る。」
「なるほど…それをあたしに盗めってことか?」
「いや、そうじゃない。実は、それを西国の議会で貸与を拒否されてしまった。なにか、方策があるなら教えてほしい。」
「リュカ、なにか策があるのね?」とリゼ。
「そうか、西国議会でまた根回しを行うのか。」
「ミストラル派、ボドゾル派、フランベ党、この3つの会派と、若干の議員で、議会は構成される。ここまではいいか?」とアイーシャ。
「ああ。」
「ミストラル派は、近年成長してきた派閥だ。彼らの多くは、他国からの流れ者を抱えるのが多い。ミストラル派の特徴は、他国者にも寛容なところから、多様なルーツを持つ人物が多いことだ。いわば、“風”とともに生き、“風”とともに去るやつらさ。」
「ボドゾル派は地元で着実に成長した店主や天水農業従事者が多い、どちらかというと、スラガの伝統を重んじようとし、かつ中小の商人や農民の支持を得ている。」
「前二者に対し、大地主や大商人の支持を得て、急速に支持をのばしているのが、フランベ党さ。彼らは、戒律で禁止されている酒の解禁や、憲法で禁止されている移民排斥を訴えて、過激な主張を繰り返す。まさに「炎」のフランベ党さ。」
「主に入国税問題でミストラルとボドゾルは対立し、中小の農民・商人支援策でボドゾルとフランベは対立し、移民容認・排斥の問題でフランベとミストラルは対立している。ってわけだ。」
「そこで、今坊っちゃんには金がありそうだから、まず「土派」ことボドゾル派を買収する。なあに、やつらに金を握らせれば問題ない。それで、ボドゾル派は思う存分、支持母体の農民・商人を支援できるからな」
「そこは、私とリゼ殿下で何とかします。」とヘレナ。「わかりました。いざという時には、皇室財産の貯えを使いましょう。」とリゼ。
「問題はミストラルを取り込むか、フランベを取り込むかだが、私はフランベをオススメする。」
「どうしてだい?」
「私の稼業に移民が入り込んでは困るんでね。」とアイーシャ。「今でも、身寄りの無い孤児には、青い眼や白い肌、金色の髪をした子供が多い。これ以上、私では抱えきれない。移民排斥が実現すれば、彼らの親は帰らざるを得ず、捨て子を西国に捨てて逃げるということがなくなる。」
ウマルの話によれば、西国には多種多様な人種が混在しており、ウマルも幼い頃に捨てられた身の上だという。
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議員たちへの懐柔策の話をした後に、アイーシャとウマルは帰っていった。彼らの議員懐柔のためのアイデアは素晴らしいものであり、金銀財宝、酒食、特権に至るまで、リュカたちは、当初の作戦を見直すことにした。もちろん、アイーシャやウマルには謝礼として、別途金貨を10枚あげた。
そして、次の日の朝、リュカは珍しく寝坊をした。そして、顔を洗っている最中に、パンセラ亭に兵士がズカズカと入ってきた。彼らは、西国の象徴である白い虎の紋章を肩に着けている。「宰相・リュカ・チェザーレ殿、クラレット・ジャグ窃盗の疑いであなたを逮捕する。」




