↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷宰相 西国のクラレットジャグ編  作者: 近衛翡翠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/8

根回し

ダンドロとの会合があったのは、3日前。そのときは、クラレットジャグの貸与について、審議は順調に進むものと思い込んでいた――。


「とにかく、一刻も早い貸与をお願いしたいのです」


とリュカは言う。


西国のスラガ市国の市議会は、定員が300人前後であると、憲法に相当する市議会規則に定められており、今年の市議会は定員315人であった。

(前後というのは、50人までのブレならば認められるらしい。)


「お任せください。このダンドロ、カトゥルの重鎮として、スラガ市国をまとめてみせましょうぞ」


そう意気込むダンドロさんに連れられて、まず向かったのは、議長を務めるブリッツさんのところだった。


ブリッツさんは、「霹靂市議」の渾名の通り、鶴の一声で議会の大多数派をまとめ上げる最大会派・ミストラル派の長らしい。


いわば、ラスボスではないかと思うのだが……。


「……このような事情で、クラレットジャグをなにとぞ拝借願いたいのです」


と、一生懸命に説明する。


タバコをふかしながら、ブリッツはこう答えた。


「なあ、坊っちゃん。家宝とは何だと思う?」


僕には、ブリッツさんの質問の意図がよくわからない。


「その家にとって、大事なものということでしょうか?」


「その通りだ」


ブリッツさんは、不意に立ち上がる。


「そして、家宝を貸すということは、その家の尊厳を貸すということでもある。残念ながら、貸与は認められねえ。なぜなら、クラレットジャグは西国の尊厳・誇りそのものだからだ」


「しかし、人が死にかけているんです!」


必死の面持ちでヘレナが叫ぶ。


「諦めな。どのような条件を出したところで、俺たちは賛成に回らねえ」


しぶしぶブリッツさんのもとを去った僕たちは、今度はグレースさんのもとへ向かった。


グレースさんは、第二会派・ポドゾル派の長で、帝都では紳士的という噂が立つ人である。


「もちろん、賛成させてもらうわ。特にブリッツが反対に回るなら、なおさらね」


「本当ですか!?」


「ええ、見返りは後々でいいわよ」


ほっと胸をなでおろした僕たちは、最後に、第三会派のフランベ党の長であるリキュールさんのもとへ向かった。


議会には、このほかにも無所属の議員がたくさんいるのだが、彼らは大概この3つの派閥のどこかに連動して動く。


そのため、この3つの派閥を押さえれば大丈夫だと、一緒についてきてくれるダンドロさんは述べてくれる。


こうして、フランベ党の長であるリキュールさんのもとに着いた。


さっそく、グレースさんからの手紙を手渡す。


リキュールさんは手紙を読むと、ふっと笑い、


「これは、道中で開封したのか?」


と尋ねてくる。


なんとも怪訝な問いである。


「いえ、中身は見ておりません」


「そうかい、そうかい」


とリキュールさんは、会派室の椅子に腰かける。


「本題に入ろう。僕らも賛成に回らせてもらうよ」


「本当ですか!?」


「リュカくんだっけ? 君に一つ質問がある」


「なんでしょう?」


「君は何のために宰相になったの?」


何のために……。


考えたこともなかった。


そもそも……。


「成り行きで、ならざるを得なかったのです」


本音を言えば、そうだ。


「! 面白いね」


その答えに、リキュールさんは反応を示す。


「『なんのために』と聞いたのに、『どのように』就任したのかを答えるとはね。それは、誰の意思なのかな? たいていの人間は、欲を求めるため、名誉を得るため、賢さを示すために生きているという」


「アリストテレスですか?」


とマリーが尋ねる。


「おや、そこのお嬢さんは博学と見える。その通りだよ。僕はどちらかというと、名誉を得るために動いているのかな。君はどうなんだい、リュカ君」


「僕は、僕なりの動き方を知りません」


奴隷のリュカにとって、主人の命令は絶対である。


今の主人はカトゥル帝国の長・テレサ女帝であるので、彼女の意に添うように動くことが、リュカの命題であるかのように思えた。


「ふーーん」


つまらなそうにリキュールさんが僕を見る。


「残念だよ、リュカ君」


こうして、3日間を根回し工作に回した……はずだった。


しかし、第一会派のミストラル派の議員は、「前例のない」貸与に反対し、第三会派のフランベ党の議員は「見返りのない」貸与に反対し、第二会派のポドゾル派の議員は沈黙を貫くばかりである。


結果、議会では圧倒的大差で貸与は否決されてしまった。


――票は、あまりにも綺麗に揃いすぎていた。


議会閉会後、ヘレナは憤る。


「あの人たちは、どうして動かなかったの!?」


「ちょっと、大声出さないでよ」


マリーは怪訝な顔をさらにしかめて、ヘレナをたしなめる。


「だって、リュカ君があんなに頼んだのに、どの会派も反対に回るなんてことあるの!?」


「何があったんだろう?」


「よろしければ、私が探ってみましょうか?」


とリゼが提案してくれる。


「そうしようか。リュカ君?」


とマリーも尋ねてくる。


「お願いします。リゼ殿下」


「まっかせなさーい!」


皇族のリゼが来訪したとあっては、西国は賓客として礼遇をせずにはいられない。


そのため、リゼ皇女歓迎パーティーが、西国の都・カイムチで開催された。


リュカはあくまで奴隷の身分なので、出席できない。


そこで、この機会に街へ出てみた。


街は夜にもかかわらず、ランプがあちこちの家々で灯され、活気にあふれていた。


バザールも夜遅くまでやっているらしい。


ふと、リュカは宝石の露天商に目をとどめる。


そこには、銀、ピンクのサファイア、茶色い琥珀、黄色いトパーズなどが並んでいた。


「これらを買っていいですか?」


「いいとも。お代は200ゼリアね」


ゼリアとは、カトゥル帝国の通貨単位だ。


ちなみに、ゼリアの補助通貨単位はツールで、1ゼリアは100ツールである。


「もちろんです」


お代を財布から出そうとすると――財布がない。


「あれ!? 財布がない!」


「坊っちゃん、冷やかしかい? 帰った帰った」


と露天商に言われてしまった。


ふと、あたりを見ると、僕の財布を持って路地を走る子供がいる。


「マリー、ヘレナ!」


「うん、リュカ君!」


とヘレナが馬を飛ばして追いかける。


「ま、待ってよぉ……」


基礎体力がないマリーは、走るのもやっとでヘトヘトらしい。


チンキムさんが、力尽きたマリーを背負っている。


「逃がすか! パァンチ!」


パンチ陸相が、子供に一撃を喰らわせて、転ばせた。


「大人げないかもしれんが、悪いな」


そう言って、子供をそこの木に縛り付ける。


「さあ、君は誰? なんのために、財布を盗んだの?」


「僕は、ウマル! いつも姉ちゃんに、ヒトの財布を届ける仕事をしてんだ!」


「姉ちゃん?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。