エピローグ
誤字報告いただきました!ありがとうございます!
「ああ、そしてね。今日貴方を呼び出したのは」
リリアローズの横に座っている男性をチラリと見る。
「彼を紹介しておこうと思って。新しい婚約者のポダロッサ王子よ。」
俺との婚約解消のあと、リリアローズの元には求婚が山のように届いたそうだ。その中から選ばれたのは…
「私のサポートに徹してくれると言うから。」
という、隣国の王子だった。
「私にとっても渡りに船でね。」
彼は正妃が産んだ第二王子だ。第一王子は側妃の子らしいが、こちらは随分と優秀らしく王位は彼が継ぐのが正解だとポダロッサ王子も、周囲も、何なら正妃さえも思っている。
だが、側妃は常に疑心暗鬼らしく、彼は年がら年中命を狙われる事に疲弊していたそうだ。
「だから他国の公爵家に婿入りというのは願ってもない待遇でね。飛びついてしまったよ。」
「そうでしたか。それはおめでとうございます。」
「ねえ、カプリッシユ。貴方はこれからどうするの?」
俺は、俺は…
「今のところは平民になって、侯爵領で兄のサポートをする予定だよ。なに、予定通りと言えば予定通りなんだ。…婚約解消したらノウミィと一緒に領で管理の仕事を貰おうと思っていたからね。」
一人で向かう事になるとは思わなかったけど。
「……あのね、カプリッシユ。わたくし貴方のこと嫌いではなかったわ。貴方となら楽しい人生が送れるとも思ってた。」
リリアローズが優しい眼差しで語る。
「貴方がそんなにわたくしの事をコンプレックスに思っていたなんて気が付かなかった。だって貴方。」
「充分に優秀よ。だから。」
ほんの少しでいいから幸せになる努力をしてね。
※※※※※※
10年ほど前。俺は物凄い大失態を犯した。
その結果、実家の侯爵家にはいられなくなり平民になり、兄の情けに縋って仕事を貰い。
……亡くしてしまった恋人の事を弔いながら生きてきた。それなのに。
「なんの因果かなぁ。」
先日久々にいとこであるリリアローズから呼び出しを受けた。
「今更だけど、貴方に罰を与えようと思うの。」
そう、俺は結局何も償ってはいなかった。だから罰を受ける事自体は吝かではない。
「でもさ、男爵位を賜るって罰かな…?」
あの後"黒ではないが薄汚れた濃い灰色"ドゥーイー男爵家からはぽつりぽつりと人が離れていき…立ち行かなくなり結局取り潰しとなった。
でもあれだけの事件に関わっていながら5年ほど持ち堪えたのだ、あの親子がそれなりに優秀だったことは間違い無いだろう。本当に道さえ間違えなければ。
そして取り潰しになった男爵領だが。
ダークなイメージがある上旨味の少ない領。引き受けるものがおらず、ここ数年は国預かりとなっていた。
「曰く付きの男爵領に、因縁の元侯爵子息が男爵としてやってくる!貴方!白い目で見られまくりよ!」
リリアローズは公爵を継いでから趣味が悪くなったんじゃ無いだろうか。
「うん、うん、リリアの言うとおり!ちょっと面白そうじゃないか!」
もしかしたら伴侶のせいか?
ともかくそんな理由で国へ働きかけて、ウソみたいだが本当に男爵位を拝命してしまった。
「あなたのお兄様、仰ってたわよ。領地の管理程度では割に合わない、もっと扱き使ってやりたいって。」
ひどい!俺結構頑張ってるんだけど!
「管理程度で使い潰すには勿体無いから、もっと権限を持って働けるところがあればな、だって。」
え…
「やだ!泣かないでよ!おじさんが号泣したって見苦しいだけよっ!」
「いい泣きっぷりだな!こんなに泣く男は初めて見た!」
格好悪い?別にいいんだよ!愛した女に騙されて、平民になって、みんなに顔向けできないからせめて迷惑かけないようにって。一人で頑張ってるつもりだったのに周囲は見捨ててなくて!それに気づいてなかったんだぞ、これより格好悪いことなんてあるか!
やっぱり公爵になって趣味が悪くなったとしか思えないリリアローズとその伴侶は散々人を笑った後にこう言った。
「貴族に返り咲きなんてご褒美じゃないかと思ってない?よく考えてよ。男爵領は曰く付き、隣は厄介ごとを起こした男爵家、領地もそんなに豊かとは言えないの。」
「恐らく君の元に嫁ごうなんて奇特な女性はいないだろうから、家政を任せられる人もいないんだぞ。すべて自分でこなすんだ。なんせ罰だからな。多少どころじゃない苦労をしてもらうから。」
そういって送り出された後、俺はドゥーイー領改めホフヌング領で男爵として再スタートした。
最初にしたのは……
「私が顔を出す権利などないのですが、どうか一度でいいので…っ」
ノウミィの墓参りだった。フォレスタ領は近くて遠い。隣領を拝命した挨拶は当然だが、それより何より。
「ノウミィ、やっと来ることができたよ。…俺なんかが来てもあんまり嬉しくないかもしれないけど。」
フォレスタ男爵は最初戸惑っていた。だって、自分の娘のせいで公爵の夫となる道を断たれた張本人だ。それが恨み節でもなく、恫喝でもなく。
「墓参りを許してくださいっ」
だったのだから。
その後、屋敷に招かれて話をすることができた。
そこでお互いに頭の下げ合い合戦になり、ノウミィの思い出話になり…。
「これは墓まで持って行こうと思っていた話です。でも貴方には聞く権利があると思うので。」
そう言って男爵夫人が話してくれたのは、ノウミィが処刑される3日前の事だった。
本人が罪を認めている上に、暴れたりする様子もなかったので最期に面会ーー多分、リリアローズの計らいだと思うーーが認められたそうだ。
その時には例の幼馴染の男の話は一切出ず、代わりに何度も嬉しそうに
"爵位がなくても平民でも、君と一緒ならそれでいいって言ってくれたの。"
と話していたそうだ。
"きっとこんな酷い裏切りをした私のこと、許してはくれないだろうけどもし最期に会えるなら。"
「ありがとうと、私も一緒に生きていきたかった、って伝えたいと。」
不覚にもまた号泣してしまったわけだが、今回は男爵も夫人も、何なら覗きに来ていた兄上とそのご夫人に子供達まで。みんな泣いていたから笑われずに済んでよかった。
男爵領の運営は、リリアローズの期待通り白い目で見られまくりの状態から始まったが、同じく大問題を起こしたフォレスタ領と共に真摯に運営していくうちに信用を得ることもできたようだ。
そして…。
「私も愛した人が忘れられないのです。」
そう、はっきりと伝えてくれた未亡人が嫁いでくれることとなり、いきなり二人の子の父親となった。
「彼女ね、旦那さんが亡くなった途端、家を出てふらふらしていた義兄家族がやって来て追い出されたんですって。亡くなった旦那さんを忘れたくないって言うから再婚もなかなか、ね。でもほら、貴方なら。」
すっかり世話焼きおばさんとなってしまったリリアローズからそんな話を貰い、お互いに大事な人を思い続ける事ができるなら、と打算も込みの結婚であったけど。
案外気の合う相手だったことで、連れ子の後にもうひとり女の子ができた。
彼女の前の嫁ぎ先は案の定と言うかなんというか、まるでイナゴの如く義兄家族が資産を食い潰してあっという間に傾いたそうだ。
連れ子達は血の繋がりがあると言うことで次の寄生先にされそうになったけど、我が領に入ろうとしたところで借入先に見つかり回収されていったそうだ。ん?なんだか手回しがいいような気もするが…まあ良い。
屋敷に調度品にドレスに宝飾品。全部差し出せば、あとは家族一丸となって働けば生きているうちに返せる金額らしいからがんばれ!と陰ながら祈っている。
結局爵位は息子が継ぐ事になり、我が家の跡取りは娘2人のどちらか。お互いに遠慮と牽制をしているようだが。
「婿に入っていいよ、という男と縁がある方が跡取り。嫁に来てって言われたら嫁いで行けばいい。」
と、のんびり構えている。2人とも嫁ぐ事になったら?まあその時はその時。なるようになるよ。
※※※※※※※
「ねえ、貴方。もう準備できたかしら。」
妻に問われて慌てて帽子を手に取る。
今日は2人で領の端っこにある丘に行く日だ。
フォレスタ男爵と相談して、領の境目にあるこの見晴らしの良い丘にノウミィの墓碑を建てた。そして、その横には彼女の前夫の墓碑。
2人とも思い出の品が埋められているだけだけれど、ここでなら穏やかに過ごせるのではないかと思って建てたのだ。
そしてそれぞれの月命日にこうしてやって来る。
いずれは私たちもこの丘で一緒に子供達をみまもっていければいいね、と言いながら。




