エネルギー源『マナ・セル』って何?
王子のお陰で、夕食は何とかごまかせたが。
テーブルには美味そうな料理ばっかりだったのに、それどころじゃなかったからなぁ。
食った気がしねぇ。
にしても、長い廊下だよな。
「朝は部屋に運んでもらおうか?」
「え?」
当然気付いてた王子が、手を繋いだ俺をまぁた嬉しそうに見てるよ。
「気にせず食べられるから、と思うけどそうもいかないんだよね」
「?」
「そうだ、この廊下の灯り、来るとき突然点いたからびっくりしてたよね。どう?」
あ。
廊下の至る所にある間接照明な。
ロウソクかと思ってたら、いきなり点いてびっくりしたんだ。仕組みは、電気みたいなものか。
「そんなに気になる?」
キョロキョロしてたからか、王子がまた何か企んでる顔でこっちを覗き込む。
「ロウソクかと思ったら違ったからさ」
ああ、と合点がいったのかうなずき、つないでいた手を握りなおした。
「付いて来て」
と手を引き、部屋とは違う方向へと向かっていく。
階段を下りて、連れて行かれた先は地下施設だった。
「ここは、この城の魔導機関の心臓部だ。この城にはこれが各棟の地下に設置されてるんだよ」
と、ドアを開け中に入る。
部屋中央にラック状の設備が整列して並んでいて、まるでサーバ室だな。
「ここで、マナ・セルエネルギーをコントロールして、ボクらのいる東棟」 に供給してるんだ」
ん? マナ・セルって何だ。動力源らしいが。
「あっちにも行ってみる? 各ウイングとバックアップ用にも数か所あるんだ」
と、また手を引いて部屋の壁沿いに進む。部屋の奥、壁際にひどく圧を感じる装置があった。
分電盤というか変圧器に近い作りだ。重低音まで響いてて、熱にも似た圧力波が押し返して来るようだ。
「なんだか凄い圧だな」
「全東ウイングのエネルギーの供給元だからな。普通の人は近づけもしないよ」
普通の人?
「言ったろ、君とボクは異端だって」
俺たちって、マジで特異点なのか。
王子は触れるだけで、その構造と仕組みがわかると言った。そして俺も、自分の治癒能力を考えたら、空恐ろしいわ。
「この中に、カーボナードがびっしり納められていてね」
「カーボナードって、ブラックダイヤの?」
「そう。鉱石の中で一番伝導率が高くてチャージ力も硬度も抜群なんだ。最高級のダイアモンドやルビー、サファイヤの何倍も優れた蓄魔導石なんだ」
って言われてもな、何の事かさっぱりだわ。
と王子の顔を窺ったら、意味ありげに口元を緩めたよ。
「今度、しっかり説明してあげるよ」
うっわ~、嫌な予感しかしねぇ、その笑顔。
「君がここに来る前の、ウジョウツトムの世界にも、マナ・セルはあった?」
んーーーっ、エネルギー源といえば石油だが。この世界の用途ならさしずめ電力か?
「似たようなエネルギー源はあったよ。電気って言う高エネルギーを使って、セル・コンやパッド、灯り等に使ってた」
ふ~ん、と興味深げに頷く。
それから何か思いついたのか、一歩壁に踏み出した。
「マナ・セル、特に高出力だと、凄い圧を感じるし触ると、ほら静電気ってわかる?」
王子が壁に向かって腕を伸ばすと、俺の全身にも何かまとわりついてきたぞ。
みるみる王子の髪の毛が逆立ってくる。
うっすら帯電したのか、体の輪郭に沿って青白い光が見える。
電力と同じようだが、あの静電気の感じとは違うんだよな。放電時の特有のにおいもしないし。
「なんとなく、分かった」
「そう。じゃ、戻ろうか」
来た道を戻って、地下階段を上っていく。ドアを開いたら、あのおっさんがちょっと怖い顔で立っていた。
「殿下」
と眉根を寄せ、王子を見る。
睨まれた王子は王子で、目をそらし口をとがらせる。
ため息をつき、おっさんは胸に手を当て、改めて俺らに首を垂れた。
「ギュンター様、ご満足いただけましたか」
何の事だかわからんが。
「は、はい」
「では、殿下。そろそろお時間かと察しまして」
「ああ、そうだった」
何だ。と王子を見たらばつの悪そうな顔で頭をかいてやがる。
「今夜から、食後の時間とその、日中は君の教育時間に充てることにしたんだ」
はあ? 教育って学校じゃなくて?
「僭越ながら、わたくしランカスター公爵家次期当主のウイリアム・フィッツジェラルド・Alpha・ランカスターがギュンター様の教育係を仰せつかりました」
「はあ?」
「君、記憶と一緒に宮廷マナーも忘れたみたいだからさ」
と王子がまた手を繋いで歩き出す。
「この際だから、休養中にやっとこうと思って」
と言いながら、早歩きになり最後は廊下を走りだした。
「殿下っ」
あははっ、こりゃ楽しいっ。おっさんが慌てて追っかけてきたよ。
「お部屋に参りましたら、さっそく始めさせて頂きますーーっ」
王子は意外にも足が速くて、俺より先に部屋に到着してた。
この体は、鍛え直さないとなぁ。小学校時代、俺五十メートル7秒台だったはずなのに。
「殿下、はぁ、足早いっ、はぁ、ですね」
「まぁね。はぁはぁっ」
お互い膝に手をついて肩で息をする。そこへようやくおっさんが駆けてきた。
苦しそうで、声が出ないようだ。何か言いたげにこっちを見ながらドアを開けてくれた。
「ありがとう……」
「ウイリアムです、はぁ。ギュンター様。はぁはぁ。ウイルとお呼びくださいませっ」
「うん。ありがとう、ウイル」




