ボクの方が年上で先輩なんですよ~だ
「今年の茶葉は最高だと叔父上が仰ってたけど、その通りだ。香りも味も最高だ、そう思わない、ね、ギュンター」
この分だと、ファーストフラッシュは申し分ないな。
先輩も美味しそうに飲んでるし。
さぁて、続きと行きますか。
「またここで暮らすことになったんだから、そんなに緊張しないで。ね」
「ここで、暮らすんですか俺」
おっと、おうむ返しで聞き返してきたよ。
「ねぇ、本当は君誰なの。見た目はギュンターそのままなのに」
あらら、今完全に紅茶を吹きそうになったよね。
そんなに必死に隠さなくてもいいのに。
「でも、この世界に今、ユニコーンは一人しかいないはずなんだ」
「ユニコーン? って、額に角の生えたあの馬?」
「そうだよ。ユニコーンは滅多に見つからない、希少種の中でも特に貴重な馬だよ。Ωμ種の前髪メッシュをユニコーンの角に喩えられてそう呼ばれてるの。君が誕生以来、誰でも知ってるよ」
今度は目を白黒させてるよ。あの先輩を困らせてると思うと、何だか楽しいなぁ。
「君の髪の毛、前髪の一部がプラチナブロンドなのも忘れたっていうのかい」
今度は驚いたような顔で、自分の髪の毛をつまんで見てる。
先輩ったら今の自分の姿も分かってないのか、もしかして。
しょうがないなぁ、じゃぁ全身を見せてあげるよ。
「いいから、こっちに来て」
先輩の手を握り、姿見のある隣の部屋へ連れて行く。
「ほら、これがユニコーン、君だよ」
自分の姿を見た先輩は予想以上に驚いた顔で、自分とボクの顔とを見比べている。
まぁ、いきなりこんな容姿になったら驚くよね。だからって昔の自分の姿は、何故かぼんやりで思い出せないんだよな。
ボクは生まれた時からだから、新しい外見に自然と慣れちゃったけど。
先輩は突然入れ替わったようなものだからな。
すぐに自分の姿だとは、納得できないよな。
だからか、何とも嫌そうな顔で髪を摘まんで見ている。困ったような顔で、口をへの字にして。
それじゃ、次のアトラクションへと行きますか。これは気に入ると思うんだ。
「そんなに、嫌な顔しないでギュンター。ボクたちの部屋に案内するから。そこでゆっくり話そう」
また先輩の手を握り、寝室を抜けた次の部屋へと連れて行く。
ここでは、ボク以外先輩が頼れる相手は居ないんだから。
「寝室の隣。ここがボクらの勉強部屋、いわば秘密基地だよ」
「ああ、いい部屋だね」
そう言いながら部屋を見渡し、一点でその視線が動かなくなる。
案の定、ラックに納められたサーバに先輩は釘付けになった。
「これも忘れたの?」
ボクは先輩の為に用意した最新式のセル・コンを装備した、三十インチ液晶ワイドディスプレイの前に立った。
「思い出した? これでゲームしたら最高だよね」
高校時代、部活の後、一度だけボクの部屋で一緒にゲームしたよね。
ああぁ、先輩ったらそんな大口開けて。
じゃぁ、これ見たら腰抜かすのかな。
あの日ギュンターから託された、セル・パッドを取り出し先輩に渡してみた。
「はい、これは君の携帯ノート型端末」
あっは、驚いてる驚いてる。
「スイッチ入れたら、上の丸い所を見て」
その後は驚きながらも、慣れた手つきで先輩はセル・パッドを使い始めた。
アイコンの中から一つ選び、開こうとする。
あ、ギュンターの日記だ。
「……ギュンターの日記が出て来た」
「見覚え、ない?」
先輩は首を横に振る。あるわけないのは知った上でだが。
「読んだら思い出すかもしれない、ちょっと読んでみるよ」
「うん。じゃ、ボクはこっちで調べものしてるね」
ギュンターの日記にどこまで書かれてるのかは、ボクは知らないが、もしかしたら先輩も何か思い出すかもしれないしね。
ボクは自分のデスクに座りセル・コンを立ち上げ、きっと先輩が一番知りたがっているΩについてのサイトを探すことにした。できれば解剖学的な説明があると、伝えやすいんだよなぁ。
前を見たら、先輩がセル・パッドを片手にゲーミングチェアの座り心地を確かめてるようだ。気に入ってくれたかな。
「新調したんだよ、その椅子もディスプレイも。気に入ってくれたかい」
とディスプレイから顔を出しウインクしたら、先輩と目が合った。
と思ったらすかさずとびっきりの笑顔を向けられた。
え、ウインクしただけなのに。
ギュンターの顔は見慣れてるはずなのに、先輩だと思うと心臓が爆発しそうになる。
やっば。
こんなことでドキドキしてたら、これから一緒になんか暮らせないぞ。しっかりしろ、オスカー。
気を取り直し、クロイツカレッジのサイトにログインして、と。
Ωの体質と出産についての解説があるはずなんだ。
どこだっけか。
「殿下、俺の生まれた年は一八八二年ですよね」
「うん。ボクが一八八〇年だから」
突然どうした。
あ、ボクの方が年上って知らなかったのか。
「どうかした?」
へへっ。
ここじゃ、ボクの方が年上で先輩なんですよ~だ。
ディスプレイから覗くと、先輩ったら不満そうな顔してこっちを睨んでるよ。
「い、いえ。別に確認しただけです」
ははっ。かしこまっちゃって。
年下の先輩って、イイ!
どうせボクが一ノ瀬だってばれたら、いつもの先輩に戻るんだろうし。それまでの間、ボクが先輩としてふるまってもイイよね。




