ボクもその覚悟に応えないとね
先輩がギュンターの日記を読んだら、驚くより強い憤りを感じるだろうなぁ。
気分悪くするだろうか。
ちょうど先輩に呼ばれ、ついでにカレッジサイトのΩの研究記事のリンクを先輩のセル・コンへ送る。
画面に、サイトを呼び出して渡すと、やっぱり先輩はサクサクっと、セル・コンを使いこなし読み始めた。
Ωには死を意味する出産、それを分かった上で産ませる貴族社会とか、この世界の理不尽さはね。
「Alphaを妊娠した母親は、魔力が無いから子供に命取られて衰弱死、するって事かよ……」
どうしようもないんだよ、今は。
「ボクの母上は幸いAlphaだったから、お産で亡くなることは無かったけど、事故で亡くなったからね」
おっと。その話をした途端先輩が驚いたのか急に立ち上がり、デスクに座ってるボクを避けようとして椅子を倒してしまった。同じ境遇だと、伝えたかったんだけど、湿っぽくなっちゃったな。
「ほら、大丈夫かい。ケガしてないよね」
椅子を起こし、先輩を座らせる。
先輩、母親の死に同情してくれたのか。特に母親らしいことも、愛情もかけてもらってないから、ボクは平気なんだよ。それより、だ。
「覚えてないとか言ってたけど、セル・パッドは使いこなすし」
先輩の動きが止まっちゃったよ。
「この、セル・コンもボクは何も言ってないのに、マウス使って画面をスクロールして」
慌ててマウスから手を放すが、もう遅いよね。
「君を責める気は全くないし、怒っても居ないけどさ」
あはは、見る見るうちに先輩の顔が。
先輩はどんな姿になっても、先輩なんだな。
「何より、君は本当に貴重な存在なんだって事は、分かって欲しいんだけどなぁ」
先輩なら、例えユニコーンじゃなくても特別だけどね。
あらら、すっかりむくれちゃって。
見た目はまだ十歳のガキだからなぁ、むくれた顔も可愛いんだよねぇ。
「そんなにむくれないで」
思わず笑みが浮かぶよ。
「だから、ボクを信じて話してくれないかな」
「分かった。先に言っとくが、荒唐無稽すぎてまず信じられないと思うよ」
そう断って、先輩は自分の身に起こったことを話してくれた。
何かにぶつかって、死んだ?
ボクの場合は女性を庇って、車に撥ねられたんだけどさ。
その女性は妊娠してて、同時に二人の命を救ったわけだ。
その功績でカリエルが転生先を用意したはずなのになぁ。
まぁ、それはいいか。
カリエルによると、先輩はビルから落ちて来た人の下敷きになったって話だ。
そのお陰で、落ちる前に頭殴られてたのが分かって事件が解決したとか。
その後はボクと同じだ。目が覚めたらこの世界に来てた。
違うのは、ボクは誕生して先輩はギュンターになったって事か。
なるほどなぁ。
その瞬間、先輩はギュンターの気持ちが分かったんだ。
毒と知って焼き菓子を口にした彼の決心が。
「動けるようになってからは、この通り。あっという間に回復したよ」
そのようだね。
「うん。王室からは治癒魔法の賢者を派遣してたからね。倒れた直後は、本当に危なかったんだ」
「だけど、ギュンターは」
先輩もギュンターも、辛かっただろうに。
そう思ったら、先輩を力いっぱい抱きしめてしまった。
「心配無いよ。ギュンターは君と同じで、別の体で生きてるはずだから」
「え? 彼の魂は生きてるってことか」
うん。だから先輩はもう何も心配しなくて良いんだよ。
「それより、ここに来る前の名前って憶えてる?」
「ああ、日本って国に住んでたんだ。俺の名前は宇條だ。宇條努」
宇條先輩、また名前を呼ぶ事が出来るなんて。
「うじょうつとむ」
口に出して、何度も何度も頭の中で繰り返す。
「今はギュンター・アルフォンソ・フォン・OMEGA・ローゼンベルク。しっかり覚えておいて」
そして、ボクの婚約者。
「分かったよ。俺の名前は、ギュンター・アルフォンソ・フォン・OMEGA・ローゼンベルク。オーケーだ」
「ボクはオスカー・フォン・ヴァルハイト。正式名はオスカー・アレクサンダー・フリードリヒ・Alpha・フォン・ヴァルハイト。ヴァルハイト王家の嫡男だ」
王家の特権で、体現前からAlphaを名乗ってるけどね。
どうぞ宜しく、ボクの愛しい婚約者さま。
「オスカー殿下。ギュンター・アルフォンソ・フォン・OMEGA・ローゼンベルクです、宜しく」
そう言って差し出したボクの手を先輩が握ってくれた。
それから、開き直った先輩は思いついた疑問をどんどんボクに聞いてきた。
「この記事なんだけど、Ωって性別ないのか?」
「性差はあるよ。現に君は男性で、君の母親は女性だったでしょ」
って言われても、なぁ。Ωの生態なんてわかんないよね。
まぁ、怒る前提で出すけどさ。ボクのせいじゃないからね、先輩。
先輩からマウスを受け取り、Ωの生態。肝心な生殖機能図を呼び出した。
「うそ」
「嘘じゃないよ。たまたま君の父上が女性Ωを選んだだけで、男性のΩと子を成した夫婦だって居るよ」
そこで先輩は予想通り、噛みつきそうな顔でボクを見る。
ふふっ、だって先輩がバリタチなの、ずっと見てたから知ってるもん。
「ボクとギュンターの子って、絶対可愛いよね」
うわぁ、真っ赤になっちゃって。頭が大人でも反応は子供なんだね。
「くくっ、ギュンターって困るとそんな顔するんだ」
「アホな事言わないで下さいっ」
キッとボクを一睨みして、先輩は解剖図に視線を戻す。
あ~あ~、可愛い顔なのに、眉間にしわ寄せちゃって。
まぁ、そりゃね、前立腺の裏に子宮とか、そりゃ異次元の話だよね。
あぁ、おかしいっ。先輩の困った顔と言ったら。
「いきなり……ぶぶっ。こんな解剖図見せられても、納得できないよね」
笑いが抑えられないよ。
先輩はまだ機嫌が直らないみたいだ。ふくれっ面も、それはそれで可愛いなぁ。
ギュンターは自分が嫌すぎて、表情が乏しかったからなぁ。いつもさみし気に笑ってた。
次は心から笑える人生だといいね。
「で、何かボクに聞く事があるんじゃないの?」
そう言うと、今思い出したかのように自分のセル・パッドをボクに向ける。
「俺が読むより、殿下が読んだ方がギュンターは喜ぶよ」
それもそうだよね。覚悟してこれをボクに渡したんだから。ボクもその覚悟に応えないと、ね。




