いよいよクロイツへ向け出発だ
さて、いよいよクロイツと呼ばれる学校へ戻る日を迎えてしまった。
シャワーを浴び、改めて自分の顔を鏡で見つめる。
ようやく慣れてきたとはいえ、目の色とか髪の色とか、どう見ても奇抜過ぎるだろ。
部屋に戻り、用意されていた旅用の衣装に着替える。
貴族生活と言えば、着替えやその他全てを召使にさせるイメージだったんだが、意外なことに王子も俺も基本出来ることは自分でやっている。
衣装選びも、頼めば用意してくれるんだろうが。
「コートは裏抜きのインバネスコートにしたよ。先輩と色違い」
そう言って出したのは、肩に短めのマントが付いたホームズのあのコートだ。
「これって、ホームズじゃん。しかもなんかバーバリーみたい」
「ああ、そう言われたら確かに、このチェックはバーバリーだ。ここには無いけどさ」
と王子が楽しそうに笑った。
学校って、そんなに良い所なんだろうか。
「学校は楽しいよ。何より町が面白いんだ」
王子が俺の顔を覗き込む。心配してくれてるのか?
「クロイツって学校名だけど、都市の名前でもあるんだ」
そう言って、学園の説明をしてくれた。
都市名そのものが学園の代名詞となっている超巨大学術都市なんだと。
その名も永世中立都市クロイツ(Permanent Neutral City of Kreuz)。
「クロイツといえばカレッジ」「カレッジと呼べるのはクロイツだけ」、と大陸全土で誰もが知る最高峰のカレッジだという。
そこのセカンダリーを卒業すれば、最高学歴に匹敵するらしい。
「そして都市自体、ボクら帝国王室や摂政宰相の政治的圧力・武力すら手出しできない、強固な治外法権と絶対の永世中立権を有してるんだ」
スゲーな、その学園都市。
「都市国家だな、そうなると」
オスカーが何故か満足げに微笑み、話を続ける。
「そうだね。ヴェリタニア国内にあるんだけどね」
「バチカンかよ」
そこでオスカーがまた爆笑した。
最近、よく笑うようになった気がするのは気のせいかな。
「ボクらは一般学生に紛れて都市入りするから、これから馬車で出発するよ。旅程は三日の予定だ」
オスカーはお気に入りのハンチングを被り、俺にはキャスケットを被せた。
「うん。よく似合ってる」
両手で俺の帽子を整えながら、真正面からこっちを見るオスカーと目が合ってしまう。
昔の一ノ瀬の顔は、もう思い出せないが可愛げのある真面目な子だったよな。
「オスカーも、その帽子カッコいいぜ」
とたんはにかんだ笑みを浮かべる。そうだ、話をする時、いつもそんな感じで恥ずかしそうにしてたな。
「三日の馬車の旅だな」
「トビーも一緒だから、楽しいよきっと」
ああ、ティムの息子だ。上級生だったな。
「ギュンターのお姉さんたちはディーと同じく、セル・ヴィークルのパレードで、都市に入ると観衆の目を逸らせてくれるはずだ」
そうだ。
「その、セル・ヴィークルって何だ? 乗り物らしいけど」
「先輩が来るとき乗ってきたじゃない。ローゼンベルク家の奴」
へ? あ! あのノーズの長いやつか。
「あれ、車だよな」
「うん。あの長いノーズ内に魔道石が積まれてる。マナ・セルエンジンで動いてるんだ。まだまだ普及してないけどね」
車もあったよ、この世界。
「クロイツに着いたら、もっとたくさんの種類の車を見られるよ」
「金持ちだらけの町なのか」
違う違うとまた笑う。
学術都市だけに、最先端のマナ・セル研究、高度魔導工学、軍事魔術理論の中枢を担っているからか、学生や技術者が半分趣味で製造してるそうだ。
「大学を卒業せず、野に下った野良技師や魔法使いも抱えてるからね。都市自体がマナ・セル工学の工房なんだよ」
そこだけ聞くと、なんだか。
「オタクの集団のように聞こえるな」
そこでまた王子が笑う。
「だね。実際アカデミーに進学するのは医者や弁護士以外だと、技術系や科学、美術、文学、などオタク気質な学問が多いかもね」
「じゃぁ、うちの姉ちゃんも科学オタクってことか」
「クララは、常に頭の中は最新技法の構築で一杯なんじゃないかな」
二番目の姉は魔道工学とか言う、最先端科学の研究をしてるらしい。何かやっぱり、ぶっ飛んでるよ。
「出発の準備が整いました。殿下、ギュンター様」
ウィルが出発の時を告げに来た。
「じゃ、行きますか」
王子が左手を差し出す。
その手をしっかり握りしめる。
「エスコート、しっかり頼むよ」
「任せて!」
とウインクを返してきやがったよ。
長い廊下を並んで歩き、外に出たら来た時と同じように階段の両サイドに騎士とメイドが並んで、今回はお見送りだ。
王子が片手をあげ、挨拶をする。
「じゃ、行ってくる」
全員が息を合わせた様に首を垂れる。
「行ってらっしゃいませ。オスカー殿下、ギュンター様」
ウィルが代表で挨拶をする。
「お気をつけて」
俺たちはウィルに笑顔で答え、待機していた馬車に向かった。
「六頭立てって、一発でバレるじゃん」
「領地内は領民に挨拶しないといけないからさ。王子もいろいろと大変なのよ。途中でもちろん乗り換えるよ」
領民には隠す必要無いからか。
それにしても六頭立てはすげぇな。
あれ、御者が居ない。じゃなくて、直接騎乗してるんだ。
近衛隊の正装だ。白地の制服に金と赤の装飾が施され、かなり荘厳で見栄えが良い。
先頭に騎乗してるのは、ルークじゃん。
カッケーなぁ。
王子に促されて、ルークに手を振る。
敬礼してくれたよ。俺の顔と確かに似てんだよな、でもルークは何倍も凛々しいんだ。
「彼は近衛だからね、寮にも付いて来るよ」
馬車の後ろに立っていた従者が降りてきて、ドアを開けてくれた。
お先にと、王子が俺を先に乗車させる。
中はワゴン車並みに広い。進行方向へ向かって座ると、隣に王子が来た。
「結構広いでしょ」
「トビーは?」
「厩舎で落ち合うことになってる」
そうだ、馬も連れて行くって言ってたよな。
「ビートやルナも運ぶんだよね」
「馬はデリケートだから、馬車じゃなくて車で牽引していく」
なんと、馬は特別扱いだ。
「おおっ。愛馬にゃ金を厭わんか」
「まぁね~」
そりゃそうか。人よりストレス感じるしね、大事に扱わないと。
「そう言えば、仔馬の誕生、間に合わなかったな」
「生まれたら、ジムが動画を送ってくれるよ」
あはは。
何でもありだったわ。
厩舎に着くと、既に馬が馬運車に載せられまさに出発するところだった。
「あ、ティムも車乗れるのか」
「ウェインも助手席にいるよ」
ティムが窓越しに手を振ってくれた。反対側からウェインの手らしいものが見える。
その後をもう一台の車が続いて出て行った。
「ティムが居ない間は、ジムがここの責任者だからね。あ、トビーだ」
厩舎の方からトビーが上着を羽織りながら走ってきた。
「すみません。お待たせしちゃって」
ドアを開けてもらい、トビーが乗って来る。
「馬の世話をありがとう」
「とんでもない。殿下。二頭とも大人しく車に乗ってくれましたよ」
トビーは笑顔でそう言ってたけど、オスカーによると馬運車に馬を乗せるのは大変な作業らしかった。
早朝から厩務員総出で当たったらしい。
「お昼は叔父さんが焼いたパンのサンドイッチを、ご用意しましたよ」
「やった! それは楽しみだ」
さぁて、いよいよクロイツへ向け出発だ。
第1章 ユニコーンΩのミリしら転生編 完
最後まで読んで頂きありがとうございます。
次回はオスカー編を挟んで、いよいよミリしら学園編突入です。
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