なんじゃそれ
気味悪くて肩にかかる自分の髪を見てたら、王子がこっちにやって来た。
こいつが、一ノ瀬だったのかぁ。
顔はもうぼんやりだが、当時はぽっちゃりしてたんだよな。
必死でデータ集めて、バスケ部の為に解析してくれてたっけ。
「確認していい?」
側に来たら、ベッドの上に座っている俺と目線がトントンだ。まだ十二歳だよな。
頷いたらベッドに上がって来て、隣に足を投げ出して座っちゃったよ。
「なるほど」
髪の毛というより、頭を髪をかき分けるように触られる。
サルのグルーミングかよ。
「伸びた理由が分かったよ」
なんだ? 分かったのか。
「ギュンターの髪の毛、今まで上手い事カモフラージュされてたけどこれ、魔道石と同じだ」
は?
「新たに伸びたところで分かったよ。君の魔力を蓄積してるんだ」
「はぁ? 髪の毛にエネルギーを蓄えてるってことか」
うん、と頷き心配そうな顔をする。
「それとも違うな。身体から外に出さない為に髪の毛に逃がしてると言った方が正確かも」
「それって、マズイのか」
王子はちょっと考えて、もう一度俺の髪の毛に触れた。
「逃がしてないと、君に魔力があることがバレちゃう可能性がある」
「俺が魔力持ってたらヤバいの?」
「Ωは魔力は無いからね。その代わり容姿と知能に恵まれてる。男子の場合は」
「ああ、分かってるから、それは言わなくていいっ」
慌てて遮ると、王子が噴き出して笑い出した。
笑い過ぎたのか、涙をぬぐってるよ。
「でもね、髪を切ったってことは、その蓄えてた魔力を捨てたってことなんだよ」
「やっぱりまずかったか」
今度はしっかり頷いた。
「昨日、何かあったら、どうなったか分からなかったよ。今の君の体にある力だけで、対処できるものならいいけど、前のような猛毒なら危なかったかもしれない。知らなかったとはいえ、もう髪を切っちゃダメだよ」
やべ~っ、忘れるところだったよ。
真剣な王子の顔を見ると、第一位王位継承者という立場の危うさを改めて思い出したのだった。
一人っ子の王子とその婚約者である俺は、立場が非常にヤバいんだった。
王子に取って変わろうと狙っている貴族は、わんさか居るんだ。
「それでね、昨日の続きなんだけどさ」
「あ? お前が一ノ瀬って話か」
そう問うと首を振られた。それからちょっと口ごもる。
「……精通のはなし」
おおっ! そんな話してたな。俺の体はまだっぽいが。
「オスカーは、もう夢精したのか?」
とたん、王子の顔が真っ赤になる。
何で? なんでそんなに顔が赤くなるんだよ。
「……したっ」
そうか、その年には俺もしてたよ普通に。恥ずかしがることはない。
「したから問題なんだよ。その、ボクはAlphaだからね」
ふん。αとかΩとかβとか、関係あるのか。
「この世界にはアルファ系と呼ばれるアルファが二種類いるんだ。つまりアルファベットで表すAlphaと一文字で表すα」
「へー、何か違うのか」
「学校へ行けば分かるよ。見た目が違うから。Alphaは容姿はもとより、知能も高く基本怒りに遅い。上に立つ資質に恵まれてる人が多い」
「なるほどね、オスカーは正にそれだ。ってことは貴族層に多い人種ってことか」
「ギュンターのお兄ちゃんは二人とも上位Alphaだよ。カイリーもだ」
「へ~。じゃぁウィルもAlphaか」
「そう。そしてボクらアルファには、発情期のようなものがあるんだ。ラットと呼ばれてて、番が居る人はその、番の相手と、その」
あ~、発情してりゃな。そりゃ寝室から出てこねーって話か。
「盛ってんなら、仕方ないね」
「ボクも、そろそろそれが来そうなんだ」
へ~っ。じゃあ王子専用の女性でも用意されるのか。中世じゃ年上の未亡人とかが最初のお相手をしてたって聞いたことあるしな。
「良いんじゃない? 別に俺に気を使わなくてもお相手が居るならその人に相手し」
「違うよ!」
うおっ、びっくりした。
「ご、ごめん。怒鳴って。違うんだ、相手はいないよ。ただ、その時たぶん君のことを」
「俺を襲うってか?」
そう言うと、王子は神妙な顔で頷いた。
「子供だぞ」
「たぶん、女性じゃないから襲っても被害はないと思うが、もし急にボクがギュンターに対して」
何だそんな事か。
「大丈夫だよ。一ノ瀬なら知ってるだろ、俺が武術やってたの」
とたん、王子の顔が明るくなる。
「そうだ、先輩って合気道やってたんだ」
こんな小さな体だけどな、王子くらいなら簡単に抑え込めるよ。
「大丈夫だって。オスカーをいなして助けを呼ぶよ」
「うん。ルークが即飛んでくるから。その時は、ボクの理性はぶっ飛んで本性が出るらしいけど」
へえ~、そりゃ楽しみだな。まぁ、Alphaじゃなくて良かったというべきか、俺は。
「抑制剤と呼ばれる薬草も術式もあるが、ボクより強い魔力を持ってないと効かないんだ」
は? そりゃ無理ゲーだぞ。
「オスカーの魔力って」
「うん、測定不能って言われてる」
つまり、抑制剤が効かないってことか。
「まだ大丈夫だと思うけど」
「俺はちゃんと逃げるから、安心しろ。それより、オスカーが辛いんじゃないのか。その、その状態になったら」
「分かんない。だってボク、童貞のまま死んじゃったからね」
あちゃ~っ。まだ十九って言ってたもんなぁ。そうかぁ。
「それよりギュンター、君だよ。君もそろそろ精通が始まるだろ。精通が来たら、その次はアレだ」
また恥ずかしそうに口ごもる。まぁ云い難いならいいよ。そろそろ朝食の時間だしな。
「うん。それはまた後で。そろそろ朝食の時間だし。着替えようぜ」
何が気になるのか、王子は着替えるときもこっちを見ては顔を赤らめ、顔を見ると視線をそらした。
う~ん。Ωって精通の後まだ何かあるのかよ。めんどうくさいなぁ。
朝食を食べ部屋に戻る。昨日でウィルの授業も終わり、俺たちは、まぁ暇だ。
厩に行ってもいいが、やっぱり俺の体のことが気になる。
「なぁ、俺に精通が来たらどうなるんだ?」
「ちょっと待って。今解説サイトを出すから」
そう言って、Ωの体質に関する医学サイトを俺の端末へ送ってきた。
「はぁあっ? 生理が始まるだと!」
「また怒るだろうなぁと思ったよ」
ひょこっと、王子がディスプレイの横から顔を出す。
「な、なんでって。あー、だよな、子宮があるんだった。くそっ」
身内に男のΩが居ないから、聞くに聞けないが。
サイトを読んで行くと、女性のそれとは異なり血便のような感じで排泄されるようだ。
つまり、期間中俺はずっと腹が痛い。
「げっそりだな。一週間近くも腹下すのかよ」
それに対し、王子が控えめに吹き出した。
「でもね。その後が、問題なんだよ」
まだ何かあるのかよ、ったく。
「オスカーみたいに盛るってか?」
冗談で言ったつもりだったが、王子が頷いたよ。
「あぁ? マジで」
「マジで」
盛るって、どうなるんだ?
「うそ。俺が盛ったら男女関係なく襲うとか?」
あはは、と王子が力なく笑う。
「ならいいけど、逆だよ。フェロモン全開でボクらアルファを誘惑するんだ」
はぁああ~っ?
なんじゃそれ。
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