ホーシャムタウンへようこそ
王子の治める領地の中で一番大きな町、それがこのホーシャムタウンだそうだ。
ここから町が一望できるんだと、王子に誘われ、二階のテラスへと行ってみる。
宿屋の前には馬車がすれ違えるほどの大きな街道が走り、入り口正面からTの字に街のメインストリートが伸びていた。
「人口は三千人くらいかな。町には全体の一割くらいが住んでる。田舎町にしては品物も揃ってていい町だよ」
「へぇ~」
下を歩く町の人が王子に気が付き、手を振っている。
「殿下が来ても、みんな騒がないんだね」
「いい人たちだよ。たまに来る親戚の子供みたいに扱ってくれる」
話をしながら、王子は手を振り返している。
「親戚の子かぁ」
「でさぁ、いい加減その殿下っていうの、止めてくれない」
手すりに肘をつき、俺をじっと見つめてきた。
不味かったか?
「へ?」
「ボクの事、名前で呼んでくれた方が嬉しいんだけど」
そう言って恥ずかしそうに笑う。
なんだ。
はぁ~っ。良かった、怒ってるのかと思った。
しかし、照れてんじゃねーよ。おまえが顔赤くすると、こっちも照れるじゃん。
「わ、分かったよ。えっと、オスカー」
「何だい、ギュンター」
あははは……、そんなに見つめられても。
「ま、町を案内してくれるか」
「よし! じゃ、行くか」
はい、と手を差し出される。
毎度のことだけど、手を繋ぎますか。
ブルックスさんが営む宿屋『ライオン亭』の正面ゲート間に立つ。
街道が横に走っていて、正面にホーシャムタウンのメインストリートが伸びていた。
その道を挟んで、商店街よろしく店舗が並んでいる。
「さて、どこから見て回る?」
「どこからでも、任せるよ」
街道を横切り、メインストリートへと歩を進める。
人口三千人の田舎町にしては、店並も品ぞろえも凄いな。
メインストリートに面した店舗は買い物客で賑わい、店先に商品が並べられた様は差し詰め家屋付きのフリーマーケットとでも呼べそうだ。
八百屋に魚屋がある。あれ、肉屋が魚も扱ってるのか。同じ狩猟ものって枠か? 面白いな。
「まだ案内してないけどさ、馬で走ってきた街道をずっと行くと港町に出るんだ」
何だって。
「海があるのか?」
じゃ、当然貿易も行ってるんだよな。
「船も持ってるとか」
「じゃないかな。船に関する事はあまり知らない。ハル叔父が把握してるから任せてる。ボクの領地内の一部何だけどさ、貿易が絡むと管理がややこしいから国の直轄になってる。あそこはここよりずっと都会だよ」
「へ~。そこから諸外国へ行けるのか」
「漁船も客船も商船も停泊できるデカい港だからね。メインは貿易港だけど」
スゲーな、王族。貿易都市を直轄で治めてるんだ。
「海外への渡航ならギュンターのお姉さん、カリーナの嫁いだ先にある港の方が便数が多いぞ。ノーフォーク港は我が国の玄関口だから」
わぁ、ローゼンベルク家も布陣に隙がないなぁ。貴族社会って、こえ~わ。
姉ちゃんが凄いのか、ローゼンベルク家が強いのか分からんが。
「そこは直轄じゃないのか」
「いろいろあってね。ノーフォーク家の港だよ。直轄で言えば、王家は国際港は他に数か所、あとは鉱山や……」
「分かった、分かったって」
そりゃそうだろ、国の長である王家が儲かるようにできてんだから。
「あ、パンの良い匂いがする」
「入ってみる? ティムの実家だよ」
ああ! パン屋って言ってたな。
店先に行くと急に焼きたての香ばしいパンの香が強くなる。
ドアを開けると、期待通り焼きたてのパンが所狭しと並べられていた。
カウンターで女性客が、ちょうど会計をしていた。
大きめの紙袋いっぱいに、若い男の店員がパンを詰めているよ。
バゲットに、カンパーニュっぽい奴に丸い白いパンが三つと。
「いらっしゃいませ! おや、殿下じゃないですか」
店の奥から、いかにもな、ビール腹のパン屋の親父って格好のおっさんが出てきたよ。あ、コック帽は被ってないや。
「こんにちは。小父さん、見てっていい」
「どうぞどうぞ、狭い店ですが。お好きなの持ってっておくんなさい」
「こんにちは」
「はい、いらっしゃいませ。ギュンター坊ちゃん。お元気になられてよかったです」
え? 知ってんだ俺の事。
「あ、ありがとう」
パンを買った客が王子に笑いかけ、軽く頭を下げ店を後にする。
「ごきげんよう、殿下」
「ごきげんよう」
すかさず、接客していた若い店員が声をかけてきた。
「オスカー王子!」
「やぁ、トビー。今年も帰ってきてたんだ」
「ギュンターも、元気になって良かったね」
と、俺の頭をポンポンする。誰だ?
「ど、どうもありがとう」
「今日のお勧めは?」
王子に聞かれ、トビーがしばし考える。
「ドライフルーツとクリームチーズを混ぜ込んだ、セーグルはいかがです?」
と棚の上にある大きめのパンを取って見せてくれた。こりゃ、旨そうだ。
「じゃ、それを三つ。お昼をジム・ミラーの家でよばれるから持って行くことにするよ」
「それはいい、これはずっしりと食べがいのあるパンだから喜ばれますよ」
だろうなぁ、ドライフルーツがたんまりと練り込まれてる上にクリームチーズまで入ってるんだ。
トビーがササっと包み、袋に入れて持たせてくれた。
「ありがとう、トビー。じゃ、また連絡するね」
「はい、オスカー王子。帰りはお供させてもらいますね」
「道中が賑やかになって良いよ」
トビーが、ドアを開け店の外まで見送ってくれた。
「トビアス・Alpha・ベイカー。セカンダリのYr8。ティムの一人息子だよ、彼」
え? 振り返るとまだ手を振ってくれている。慌てて手を振り返す。
「彼、Alphaなんだ」
「ああ。母親はβだったけど子供がAlphaじゃね、助からなかった」
もう一度振り返ると、ちょうどお店に戻るところだった。
「次はどこに行こう。何か欲しいものとか無い? リボンタイでも探してみる?」
「……」
彼もそうなんだ。
「ギュンターが気に病むことじゃないよ。平民にAlphaが出るのは喜ばしい事なんだから」
はぁ? 何だよその思想は。
「体格も容姿も、別格だからねボクらAlphaは」
王子を見る限り、他と違うのは何となく分かる気がするが。一般人でもAlphaは特別なのか。
「同じくΩも特別なんだよ」
子供産む道具みたいに、俺には思えるけどな。何が生まれても安パイなのはAlphaの女性だけだろ。だったらそいつらに子供を産ませればいいのに。
「そんなにむくれないで、ギュンター」
王子が俺の肩を抱き寄せいつになく真剣な顔で俺を見る。
「いつか、誰もが安心して子供を産める世界にするから」
うん? お前医者にでもなる気かよ。
「こっちの通りにも行ってみる? 家具や馬具の工房などがあるんだよ」
また笑顔に戻り、俺の手を引いて歩きだす。
「あ、ビートの腹巻。もう擦れてきてたから新しいのに変えたいって思ってたんだ」
「なんだ、じゃぁ一式新しいので揃えるか。学校が始まれば馬も連れて行くから、お揃いで買っちゃう?」
え? 馬も一緒に学校へ行くのか。
っていうか、馬具一式買い換えるって、やっぱ王子は王子だな。ブルジョア過ぎるぞ、まったく。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
よろし型らブクマやリアクションなどいただけるととても励みになります。
イラストの二人みたいに、まだ仲良くはなってないね。




