子供らしいっちゃぁ子供らしい格好だよな
そんなこんなで日々は過ぎて行き、俺が目覚めてから約ひと月が経った。
あっという間のようでもあり、ようやくひと月という気もする。
ウィルのマナー教室と言う名のお貴族様教育も無事? 終わり、ビートとはほぼ毎日一緒に過ごしたお陰で、今じゃMBX並みに馬を乗りこなせるようになったよ。あの用水路も飛び越えちゃうぜ。
すっげー進歩だ。俺が馬に乗るって、誰が想像した?
と言うわけで、俺らに残された時間は二週間だ。
その後俺らは学校へ復学する。
「ギュンター、今日は何着ていくつもりだい」
「それが、全然分からねぇ」
今日は皆で、王子の領地にある町へ出かける。
何を着ればいいんだ?
もう暑くなったので、軽装で出かけるんだが何を着ればいいのかさっぱりだよ。
「ボクが選んでいい?」
「うん、任せるよ。こっちの服は分からないや」
で、着せられた服はスレ―キーシャツにサスペンダー付きのニッカーボッカーズだ。
姿見で見る分、まぁ典型的な子供の格好だな。
家紋入りのハイソックスに、ショート丈のライディングブーツ。
こんなもんか。
お供はティムとジムだ。彼らが、俺らガキのお守り役をしてくれるそうで、ありがたい事だ。
お昼はジムの家でよばれることになっているらしい。
にしても、この髪の毛うっとうしいんだよ。切っちまうか?
俺はペン立てに刺さっていた鋏を思い出し、取りに行く。
王子は引き出しを開けて、何やら物色してるよ。
部屋から鋏を取ってきて、束ねた髪に鋏をあてた。束ねたちょっと先をザクザクと切りそろえる。
「何やってんだよ!」
背後で悲鳴みたいな王子の叫び声がし、手から鋏を奪い取られた。
王子ってば何、焦っちゃってんの?
「切っちゃったのかよ。もう、言えば誰かを呼ぶのに」
鋏と切り取った髪の束を持って、盛大なため息をつかれる。
「うっとうしかったからさ。自分で切ったらまずかった?」
「その髪の毛、艶々して美しいのに。それに、こっちじゃ珍しい色なんだよ。そんな乱暴に切っちゃって」
痛んだらどうすんだよ、とか何か言ってるよ。
「女じゃあるまいし、せめて殿下くらいに短くしたいんだ」
「分かった、分かったから。カットの上手いメイドを呼ぶから、ちょっと待って」
そんなに自分で切ったらまずかったですかね、王子様。
それから物の三十分もかからず、呼ばれたメイドが俺の髪を整えてくれた。
姿見に映る姿を見る。まだまだ顔には慣れねぇが。
サイドを短くカットし襟足も切りそろえてもらった。前髪をサイドに流した変形マッシュヘアみたいだ。
天然パーマって、こういう時イイな。顔が良いと、何でも似合うな。
前は直毛だったから、髪型がだいたい決まってたから、こいつぁいいや。
うん、これなら男の子って分かるぞ。
「ほら、キャスケット被って」
と俺の頭に王子が、グレンチェック柄のニッカーボッカーに合わせたキャップを被せた。
横に王子が立つ。並ぶとやっぱり俺より背が高いな。色違いのニッカーボッカーに同じくグレンチェックのハンチング、めっちゃ似合ってんじゃん。
「おお! 殿下カッコいいじゃんそれ」
「ギュンターとは色違いだよ」
まぁ、子供らしいっちゃぁ子供らしい格好だよな。
ウィルに出掛ける旨を伝え、王子と自転車で厩舎まで漕いで行く。時間が迫っていたからか、ストールでは王子の馬も俺のビートも既に鞍も付けて準備されていた。
ティムがビートの手綱を渡してくれる。
「おはようごぜぇます、殿下に坊ちゃん」
「おはようございます。準備をありがとうティムにジム」
今日も元気そうだな、ビート。君もとってもハンサムだぞ。
頬ずりしたら負けずに擦り寄られた。ううっ、可愛すぎるだろ。
「おはよう、ティム、ジムもありがとう」
王子がジムから手綱を受け取り、馬の首を抱きしめる。
やっぱり、白毛は朝日に映えるなぁ。まさに王子の馬だね。風格があるというか、存在感スゲーわ。
「殿下の馬、名前何て言うの」
「彼女はルナ・シンフォニア。生まれた日は、月が奇麗な夜だったんだ」
へぇー。ルナ・シンフォニアかぁ。牝馬だったんだ。
ビートは雄だけど、性格は穏やかなんだよな。
「じゃぁ、出発しやすか」
ティムが颯爽と青毛の馬に跨った。年の割にカッコいいんだよなぁこのおっさん。
「じゃぁ、あっしが先導しやすよ」
ジムがそう言って先頭に立った。彼の馬は栗毛だ。
俺と王子は横に並んで馬を進めた。
殿をティムが務めるらしい。
すぐに別の馬のひづめの音が響き、今日に限っては近衛が姿を現した。
先を行くジムの前に平民の服装をした男の乗った馬が二頭、走って行く。
振り返ると、ティムの背後にも馬が見えた。
「殿下、俺の兄貴、ルーカスはどれだ?」
「たぶん背後だと思うよ。ジムの家に行った時にでも、声をかけてみたら」
「何て言えばいいんだ」
「挨拶くらいでいいんじゃね?」
うーん。悩ましいなぁ、ホント。城内で会った時もなんかぎこちなかったしなぁ。
ギュンターにとっては兄貴でも、ぶっちゃけ俺には他人だからな。
何せもうすぐ三十なのに外見十歳児だぞ、俺。お兄ちゃんって甘えるとか、出来るのか。
町に着くと、そのまま宿屋の厩へと入って行く。
「いらっしゃいませ、殿下。お待ちしてました」
ここで待っていたらしい小奇麗な服装をした紳士が、胸に手を当て帽子を脱いでお辞儀をする。
「やぁ。世話になるよ、ブルックスさん」
俺らも馬から降り、このブルックスさんへ挨拶をする。
「こちらの坊ちゃんが、殿下の許嫁の」
お、俺か?
「こんにちは。おじゃまします」
「殿下に負けない、こりゃまたハンサムな坊ちゃんで」
あはは。そうかい? 俺はまだこの顔に慣れてないんだけどね。
「馬はこちらで、責任もってお預かりさせてもらいまさぁ。ティムもジムも、久しぶりだ、ゆっくりしていってくれ」
そこから宿屋の食堂へと案内される。そこには、既にいい香りの紅茶が準備されていた。
「少し休憩してから、出かけようか」
王子に誘われてもだ、要領が分からん。どうすりゃいいんだ?
「どこに?」
「町に来たんだから、店を回るとかギークを見て回るとか。何でも良いじゃん。好きなもん見て回ろうぜ」
あ~あ、そういう事ね。
「ボクには馴染みの町だけど、ギュンターは初めてだからね。案内するよ」




