やったろうじゃねぇか
翌朝は体中の痛みで目が覚めた。
隣を見たら、少し離れたベッドで寝ていた王子も目を覚ましたみたいだ。
「おはよう、ギュンター。体のあちこち、痛くない?」
うへぇ~っ。痛いよ、バカみたいに痛い。
情けない顔をしてたのか、王子がベッドから飛び降り枕元にやって来た。
「どれどれ」
と俺のおでこに手をやり、髪をかき上げる。
「尻がダントツで痛いだろ。それから脚、特に腿は効いてるね、昨日の乗馬が」
「どうすれば良いんだ? 背中も痛ぇし」
「向こう向いて、痛い所をボクがさするから」
寝返り打つのも、痛ぇんだよな。
「ここ痛い?」
と王子が触る。
「痛い」
「じゃぁ、ここ動かして痛みが無い、いつもの状態を想像してみて」
ん? 何だかめんどうだなぁ。力入れたら、めっちゃ痛いんだよ。
痛く無い所ってあったっけ、俺の体。
あれ? 痛みがない場所を探して指とかに意識を持っていったら、なんか楽になった気がする。
「次は、肩と腕だね」
順番に王子が体を触ってくれて、どうすれば良いかを指示してくれる。
俺も徐々に痛みを取るコツを覚えてきた。
自分の体ながら、触ってもらわないと分からないもんだなぁ痛みの場所って。
「どう? 楽になった」
「ありがとう。殿下が触ってくれたおかげで、痛みの箇所に集中できたよ」
完全じゃないが、動ける程度には回復したぞ。何かすげぇ、王子の能力。
やった。ベッドに起き上がれたぞ。体に響くほどの激痛は無くなったな。
王子が俺に手を貸して、ベッドから降ろしてくれた。
何せこのベッド、高さが一メートルくらいあるんだよな。
「よしよし、これなら午後の乗馬は行けるね」
「げっ」
馬は可愛いが、もうレースはしねぇぞ。
「大丈夫。もう駆けっこはしないよ。今日からは本格的な馬術だから、むしろもっとキツイけどね」
ははは、可愛い顔で言ってくれるなこのクソ王子。
「やったろうじゃねぇか」
午前の授業が終わり、乗馬服へ着替えて厩舎へ向かう。
何と、自転車があったよこの世界。大人サイズだが、立ち漕ぎすりゃ訳ないな。
昨日と同じ、ティムが先生で今日は馬具の装着を教えてもらっている。
ティムが自分の馬にやる通り、俺もやってみる。
う~ん。一回で覚えられるかなぁ。
足場を使って、鞍を持ち上げ馬の背に載せる。ベルトを締めていると準備が整った王子が、馬を連れてやって来たよ。
「上手にできてるじゃないか」
「そうか?」
「ええ、殿下のおっしゃる通り。坊ちゃんは理解が早いから、あっという間でっさぁ」
そんなこと言われたら、照れるなぁ。
「じゃぁ、乗り方はボクを見て真似てやってみて」
王子は馬の左に立つと、手綱を握ったまま鞍に手をかけ、鐙に左足を乗せ、勢いを付けて右足で地面を蹴り、その勢いで体を持ち上げると右脚を回して綺麗に馬に跨った。
簡単に乗るなぁ。
「さぁ、坊ちゃんの番ですぜ」
鐙の位置が高いから、こりゃ勢い付けて飛び乗らないと無理か。
王子との差、わずか二、三センチの身長差がこういう時に出るんだよなぁ。
よし、行くか。
馬の左に立って、手綱を掴んで勢いを付け左足を鐙にかけ飛び上がった。
うまく乗れたぞ。ほっとしてティムを見たら、
「その調子でっさ、坊ちゃん」
笑顔で頷いている。
「じゃぁ、パドックまで連れて行きやすんで、坊ちゃんはそのまま乗ってて下せ」
そう言うと昨日のように俺の後ろに飛び乗り、俺の馬に自分の馬を従えて外に出る。
横に王子が付いて来ていた。
厩舎前のパドックのゲートが開いていて、そのまま入って行く。中に入るとティムは俺に声をかけ、下馬して自分の馬に乗り換えた。
「じゃ、練習頑張ってね。ティムはいい先生だから。練習はきついけど、楽しんで」
王子はそう言うと、颯爽とパドックの先へ走っていく。その先では丸太を積んだ障害物が何箇所か作られて、コースが作られてるみたいだ。
「坊ちゃんも、すぐに殿下と一緒にジャンピングのコースを回れるようになれますよ」
「あ」
羨ましそうに見てると思われたのかな。まぁ、その通りだけど。
「じゃぁ、始めますか」
ティムは手綱の握り方、使い方を横に並んでやって見せてくれた。
両手で手綱を引くと止まる。
右に引くと、右に行く。左なら左を引く。
腹を軽く蹴ると歩き出す。
素直に従う馬が、なんだか面白い。褒めてやる時は首を撫でてやると良いらしい。
なるほど。
操作を確認しがてら馬を歩かせ、右、左、歩く、止まる。
その都度、何度も首を軽くタップし撫でて褒めてやった。
「その調子で、馬と仲良くなってやっておくんなさい」
「うん。この馬、ライトニング・ビート。賢くて良い馬だね」
ティムはそうですよ、良い子ですと言って傍に寄ってビートの頬を撫でてくれた。
そうだ。ティムの馬は真っ黒だ。
ティムの馬が傍に寄ると、ビートが嬉しそうに顔を近づけた。
「もしかして、ティムの馬がこの子のお母さん?」
「そうですよ。よく分かりましたね」
だって、お互い鼻先寄せ合ってるじゃん。ビートが甘えてるんだ。
「あはは、この親子は特に仲良しだから」
ティムが愛おしそうに、母馬の首を撫でてやる。
「じゃぁ。あっしに倣ってこのパドックを一周しましょう。横を付いて来ておくなせぇ」
「分かった」
「じゃぁ、両足のふくらはぎで腹を締めて」
おおっと。歩き出した。うわっ、ケツが。
「腿で鞍を挟んで馬の動きに合わせて尻を上下させて」
ううっ、これがきついんだよ。
「その調子、腿が自然に挟むようになるまで、体で覚えてくんなさいよ。坊ちゃんは姿勢が良いから、イケるはずでっさぁ」
言ってくれるなぁ。明日の朝が思い浮かぶよ。




