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隣の景色  作者: のゆ
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5話 近すぎる二人(彩花)

 私、矢土 彩花(やづち あやか)は、浮かれていた。

 最近ゼミが一緒で仲良くなった、泉水 蒼真(いずみ そうま)くんに声をかけられたからだ。

 

 誰にでも優しくてかっこよくて人気者。

 そんな蒼真くんに呼び止められて、テンションが上がらないほうがおかしい。


「あのさ……彩花ちゃん、今週土曜日って空いてる……?」


 聞かれた瞬間、心臓が変な音を立てた。


 え?

 え???

 もしかして、デ、デートのお誘い……?

 一瞬で脳内に走る最高な妄想。


「あ、空いてるけど……どうしたの?」

 

 ごくり、と息をのむ。


「実はさ、サークル活動で急に欠員出ちゃって。児童館で子どもたちと遊ぶボランティア活動なんだけどさ、ちょっとだけ手伝ってほしくて……!」


 ……あ、あー。そーゆーこと?

 胸の奥が、すっと冷えた。


 まぁ、そうだよね。

 今までそんなフラグなかったし。期待する方がどうかしてる。

 でも、もう「空いてる」って言っちゃったし、断る理由もない。


「うん、いいよ」


 ***


 ――ボランティア活動当日。

 児童館の前に着くと、中に入る前からすでににぎやかだった。

 カラフルな飾りつけ。中から聞こえてくる子どもたちの声。

 なるほど、これはなかなかエネルギーのいる現場だ。

 

 蒼真くんから、同じく手伝いで来た篠宮 漣(しのみや れん)くんを紹介され、挨拶をする。

 「篠宮くん、よろしくね」

 「よろしく……」


 めちゃめちゃ警戒されてる……!

 無表情で近寄りがたい!

 

 視線は冷たいわけじゃない。でも、壁がある。

 「ここから先は入らないで」って、無言で言われてる感じ。

 静かで、鋭い目つき。不思議と惹きつけられる雰囲気がある。

 蒼真くんと並ぶと、余計に対照的だった。


 そうこうしているうちに活動が始まり、みんなで児童館の中へ入った。


 ***


 作業の合間、篠宮くんとふたりきりになったタイミングで、私は勇気を出して話しかけてみた。


「あの……私、蒼真くんとゼミが一緒で、いつも助けてもらってて……」

「……そうなんだ」


 わー、会話続かなーい……。


「……優しいよね、蒼真くん」

「……うん」


 その返事だけは少し柔らかかった。ほんの一瞬だけ、表情までやわらいだ。しかも、ちょっと誇らしそう。

 

 え? 何なに? どういうこと……?

 

 ***

 

 二人を見ていて気づいたことがある。

 篠宮くん、蒼真くんと話してる時だけ表情が柔らかい。

 

 え……? 蒼真くんが篠宮くんの耳元で何か言って――篠宮くんが……笑った……!

 

 ……あの人、あんな無邪気な顔するんだ?

 か、かわい〜〜。

 蒼真くん限定の表情、いただきましたぁぁ!!

 

 おっと、本性が出るところだった……。

 

 ――そう、私は腐女子。

 

 仲良しな男子たちを見ると、妄想が止まらなくなる。

 高校までは人目を気にせず友達とキャッキャと盛り上がっていたが、地元から遠く離れたこの大学では、腐女子であることを完全に隠して擬態している。

 

 ここでニヤけてふたりに怪しまれるわけにはいかない。

 冷静に。私は今、ただの感じのいい女子大学生。


 ……のはずなんだけど。


 無自覚スパダリ泉水 蒼真の追撃は止まらなかった。

 蒼真くんは、次から次へと篠宮くんを気にかける。

「漣、それ重いだろ。オレ持つ」

「水飲んだ?」

「無理すんなよ?」


 え? 漣くんへの気遣いハンパないな?

 子ども相手より、篠宮くんへの気遣いの方が手厚くない?


 篠宮くんが少し困った顔をしていると、蒼真くんがすぐ助けに入る。

 言葉がなくても通じてる感じ。


 ――そこへ突然、私たちのいる部屋に男の子が走り込んできた。

 

 蒼真くんが「走るとあぶないぞ」って男の子を止めて、その流れで――ふらついた篠宮くんを抱きとめたぁぁ……!

 

「おっと、危ない。漣、大丈夫?」

 え、なに今のナチュラル庇いムーブ。

 待って、これもう……?

 

 私と一緒に塗り絵をしていた女の子が話しかけてきた。

「ねーねー、あのおにいちゃんたち、なかいいね!」

「だ、だよねー! なかよしだよね!」


 女の子の一言に、私は内心ガッツポーズを決めた。

 ほらー! 第三者視点でもそう見えるってことだよね!?


 ***


 ――夕方。児童館での活動が無事に終わった。


 正直、最初は「ちょっと手伝うだけ」くらいの気持ちだった。

 でも、思ったよりずっと濃い一日だった。

 しかも、収穫が大きすぎる。

 

 蒼真くんが「三人でごはん行かない?」と誘ってくれたけど、ここで私が同行するのは野暮というものだ。

「私はこのあと予定入っちゃったから……ふたりで行ってきなよー!」

 

 本音を言うと、目の前でじっくり観察したい気持ちもあった。

 でも、ここは引く。見守る者にも美学がある。


 帰り道、私はひとりで考えていた。

 

 ……うん、分かった。


 この二人、付き合ってる……可能性が高い。

 少なくとも、普通(タダ)の友達ではない。


 でも。

 本人たち、仲の良さがダダ漏れなことは無自覚っぽい。

 

 そもそも、付き合っていることを隠していない?

 それとも、お互いに想い合っていることに気づいていない?

 どちらにしても、腐女子の私にとってはおいしすぎる……!


 ――つまり。

 尊さ特大コンテンツ発見なのでは――!?


 よし。これは慎重に、かつ全力で見守る案件。

 引き続き、調査を続行します。

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