4話 助けてくれる人(蒼真)
――七月下旬のある日。大学・教育棟の一室にて。
無事に試験を乗り越えたオレ(泉水 蒼真)は、今週末のサークル活動の準備をしていた。
オレが入っているサークルは、近隣の施設で子どもたちと遊ぶボランティアや、子ども向けワークショップの企画をしている。
今回の活動は、児童館で子どもたちと遊ぶボランティアだ。
派手なことをするわけじゃない。子どもたちの話し相手になったり、一緒に折り紙や塗り絵をしたり。
教師を目指すオレにとって、きっと意味のある経験になると思って入ったサークルだ。
――そこへ、メンバーのひとりが血相を変えて入ってきた。
「蒼真くん……! 今週末の活動、二人体調崩してキャンセルだって!」
「まじ?!」
「誰か手伝ってくれる人いない?」
「うーん……探してみるよ」
やば、どうしよ……。
そう思うと同時に、思い浮かぶのが漣の顔だった。
でも漣は、人と話すことがあんまり得意じゃない。
児童館なんて、絶対に得意な場所じゃない。
そこはオレがフォローすればなんとかなるか……?
折り紙とか、お絵かきとか、得意そうだしやってくれないかなぁ。
てか、急に誘ったら迷惑だよなぁ……。
いや、でも、漣ならきっと断らない。
そう思ってしまう自分が、ずるいって分かってるのに。
それでも――困ったとき、真っ先に浮かぶのはいつも漣だった。
授業の合間、漣に電話を掛けた。
「あ! 漣? 今いい?」
「うん」
「あのさ、今週土曜って空いてる?」
「……空いてる、けど」
「サークル活動の手伝いを頼みたいんだけど……」
「え」
「児童館で子どもたちと遊ぶボランティア活動なんだけどさ、人手不足で困ってて……」
「俺が役に立てると思えない」
「大丈夫だよ! 漣、いろいろ作るの得意だし、折り紙とかお絵かきとか一緒にやってくれたらなーって」
「…………」
「だめ?」
「……わかったよ」
「まじ?! ありがとう!! ほんっっっと助かる!!」
やっぱり。漣は助けてくれる。
オレがお願いすること、大抵は「しょうがないな」って言いながらも引き受けてくれる。
漣は周りから見たら、無口でとっつきにくそうなやつに見えるかもしれない。
でも、ほんとはめちゃくちゃ優しくて、頼りになる。
……さて、あと一人。誰を誘おう。
同じ学部でよく話す友達、奏汰は――。
「かわいい女の子とワイワイできるなら行ってもいい」とか、言われるのが目に見えてるな……。
そうだ。最近ゼミが一緒で仲良くなった子を誘ってみよう!
明るくて、話しやすい子だ。
同じ教育学部だし、来てくれたら心強いんだけど……。
***
――その日のゼミ終わり。
オレは、矢土 彩花ちゃんに声を掛けた。
「あのさ……! 彩花ちゃん、今週土曜って空いてる……?」
「あ、空いてるけど……どうしたの?」
「実はさ、サークル活動で急に欠員出ちゃって。児童館で子どもたちと遊ぶボランティア活動なんだけどさ、ちょっとだけ手伝ってほしくて……!」
「うん、いいよ」
「わぁー! 助かる! ありがとう」
よかった……! ダメもとで声かけてみて良かった。
これでひとまず、人手不足問題は解決だ。
***
――サークル活動当日、朝。児童館の前。
児童館の建物は、カラフルなイラストの看板が出ていて、外観からしてにぎやかだった。
中から子どもたちの声が聞こえてくる。
漣に彩花ちゃんを紹介する。
「こちら、オレと同じ学部の彩花ちゃん。漣と同じで、手伝いで来てくれたんだ」
「初めまして! 矢土 彩花です」
「……篠宮です」
おぉ。安定の人見知り発動してる。
今度は、漣を彩花ちゃんに紹介する。
「漣も同じ大学で同じ学年。芸術学部なんだよ!」
「芸術学部なんだ! 篠宮くん、よろしくね」
「よ、よろしく……」
漣は、なんとか聞こえるくらいの声量で言った。
でも、ちゃんと返したから偉い。
そうこうしているうちにメンバーが揃い、みんなで児童館の中に入る。
館内は明るい色で飾り付けられていて、子供たちの笑い声と走り回る足音でいっぱいだった。
隣を見ると、漣がほんの少しだけ後ずさっているのが分かる。
人が多い場所、騒がしい場所も苦手だもんなぁ……。
でも、今日だけはなんとか頑張ってくれ……!
***
最初に始まったのは、子どもたちとの折り紙あそびだった。
机の上に色とりどりの折り紙が広がる。
漣もその中に座って、折り紙で星を作ってくれている。
女の子が漣に質問してる。
「おにいちゃん、これどうするの?」
「……こう。ゆっくりでいい」
そう言って、丁寧に折り方を教えていた。
漣、こういうの得意だよな。
無理に笑わなくても、ちゃんと子どもたちに伝わってる。
オレも折り紙あそびに混ざったのはいいけど、作り方を見ても全然分からなくて、子どもたちに混ざって漣に聞く。
「漣、これってこっちに折ればいいの?」
「……ちがう、逆」
「え? こっちがこうだから……えーっと」
「ちょっと貸して」
「あー! なるほど? 漣、天才!」
思わず漣の髪をわしゃわしゃ撫でると、それを見ていたひとりの男の子が声をかけてきた。
「おにいちゃんたち、おともだちなの?」
「そうだよ! すっごいなかよしのともだちー! なー?」
そう言いながら漣を覗き込む。
「うん……」
漣、そこ否定しないんだ。ちょっと嬉しい。
気づけば、漣の周りには子どもたちが集まっていた。
意外と子どもに好かれていて、こっちまでほっとした。
***
今度は、子どもたちとお絵かきの時間。
机いっぱいにクレヨンと画用紙が並んで、さっきの折り紙あそび以上ににぎやかだった。
オレは子どもたちの様子を見つつ、漣や彩花ちゃんのほうにも目を配る。
他のサークルメンバーは何度か来て慣れているから、何かあっても自分たちでどうにかするだろう……!
漣は、お絵かきでも子どもたちに人気だった。
「おにいちゃん、絵じょうずだね」
「……ありがと」
子供たちが次々に、漣にリクエストしている。
「おさかなの絵かいて」
「キャベツの絵かいて」
いつのまにか漣が子どもたちに囲まれてる……!
なんだかんだ、ちゃんとやれてるな。さすが漣! 頼りになる。
彩花ちゃんも、子どもたちと話すのが上手かった。
ちゃんと目線を合わせて、相手の言葉を拾って、自然に輪に入っていく。
さすが教育学部生。すごい……本当に助かる!
***
――夕方。児童館での活動が無事に終わった。
子どもたちや施設の方に挨拶をして帰ろうとした時、ひとりの男の子が漣の前にやってきた。
「これ、あげる」
手のひらに乗っていたのは、さっきみんなで作った折り紙の星。
クレヨンで「ありがとう」と不器用な字が書かれていた。
漣は、驚いたみたいに固まっている。
固まってる漣に、思わず声をかける。
「よかったな、漣!」
「うん……ありがとう」
小さく返した声が、優しかった。
***
児童館を出たあとも、漣はしばらくその星を見つめていた。
その横顔を覗き込みながらそっと聞く。
「気に入った?」
「……うん。部屋に飾る」
その答えが、ちょっと嬉しそうで。見てるこっちまで嬉しくなった。
児童館を出たあと、外で待ってくれていた彩花ちゃんに声をかける。
「今日はほんとにありがとう! おかげで助かったよー!」
「ううん。誘ってくれてありがとう! いい経験になったよー」
急なお願いだったのに、彩花ちゃん、めちゃくちゃいい子……!
今日は、手伝ってくれたふたりに感謝しかなかった。
せっかくだしと思って、ふたりに提案してみる。
「良かったら、このあと三人で軽くごはん行かない?」
「あ……! 私はこのあと予定入っちゃったから……ふたりで行ってきなよー!」
彩花ちゃんはそう言って帰っていった。
だからオレたちは、そのままふたりでごはんを食べて帰ることになった。
並んで歩きながら、漣に聞いてみる。
「漣、疲れた?」
「……ちょっと。でも、嫌じゃなかった」
そう言った漣の声は、いつもよりやわらかくて優しかった。
その声を聞いて、胸の奥がほっとゆるんだ。
「よかった。ありがとう……!」




