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隣の景色  作者: のゆ
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番外編 ご褒美(彩花)

 卒業式の翌日の夜。

 私は自分の部屋のベッドの上でスマホをいじりながら、昨日のことを思い返していた。


 蒼真くん、卒業式のあと、結局どうなったんだろう。

 好きな人に告白できたのかな。


 そわそわして、何度も通知欄を確認してしまう。

 気になるけど、こちらから聞くのはよくない。

 大事なことだし、蒼真くんにもタイミングがある。


 分かっている。

 分かっているけど。


「気になる……!」


 その時だった。


 ピロン、とスマホが鳴る。


 画面に表示された名前を見て、息が止まった。


 蒼真くん。


「……!」


 私は慌ててメッセージアプリを開いた。

 通知ひとつ開くだけなのに、心臓がうるさい。


 画面には、短いメッセージが三つ並んでいた。


『卒業式のあと、好きな子に告白したよ』

『付き合うことになった!』

『あの時、背中押してくれてありがとう』


「………………」


 一瞬、時が止まる。


 次の瞬間。


「っっっしゃああああああ!!!」


 ベッドの上で思いきりガッツポーズをしていた。


「私の推しカプが!! ハッピーエンド!!」


 そのままベッドにダイブして、枕を抱きしめる。


 その時、勢いよく部屋のドアが開いた。

 弟の(たくみ)だ。

 見なくても分かる。


 巧が開口一番に叫ぶ。

「うるせぇ!!!」


 顔だけ上げて、私は満面の笑みを向けた。

「たっくん、お姉ちゃん今日は最高の気分なんだ!」

「俺は最低の気分だけどな!!?」


 そう言い捨てて、巧はドアを勢いよく閉めた。


 巧には申し訳ないが、今日は黙っていられない。


「ありがとう……ありがとう。卒業式の日に告白……ずっとお互いを想い合ってた二人が結ばれた。うああああ、最高すぎて無理……」


 スマホを胸に抱えて、深呼吸する。


「……よし」


 もう一度画面を見て、静かに決意した。


「この事実は……私の心の中で大事にしまっておくね」


 そうだ。送ってもらえるかはわからないけど……。

「なかよしなツーショット写真、いつか待ってるね!……っと」


 送信して、画面を見つめたまま小さく笑った。


「……おめでとう、蒼真くん。漣くん。そして、最高の幸せをありがとう……」

 

 ***


 ――それから約一ヶ月後。

 私は眞白(ましろ)さんと、駅前のカフェにいた。

 テーブルには飲みかけの紅茶とコーヒーが並んでいる。


 このあと一緒に映画を見る予定で、それまでの時間つぶしだった。


 その時、スマホが震えた。

 

 蒼真くんからのメッセージだった。

 どうしたんだろう。

 

 開いてみると……。


『仲良しな写真送ってって言ってたよね? 送るよ!』

『この写真、いいでしょ!』


 添付されていたのは、旅館で撮ったらしい、同じ柄の浴衣を着たツーショット写真。

 蒼真くんは満面の笑みでピースしていて、漣くんは少し照れたように隣にいる。でも、二人の頬はしっかりくっついていた。

 距離感が、完全に恋人のそれだった。


 私はそっとスマホを伏せた。


 これはつまり、「漣と付き合ってるよ」って報告だと受け取っていいんだよね?

 

 何これーーー?!

 ほんとに幸せそう!

 こっちまで幸せな気持ちになる!

 最高のご褒美なんだけど……。


 ダメ。

 これは外で見ていいものじゃない。


 私、鼻血出てないよね……?

 さりげなく鼻を押さえた。


 向かいに座る眞白さんが、不思議そうに首を傾げている。

「彩花ちゃん、ニヤニヤしてどうしたの?」

「あ、あの……推しカプが幸せそうで……」

「そう……またBL作品の話?」

「はい……」


 言えるわけがない。

 でも、嘘でもない。


 私は咳払いをして、話題を変えることにした。


「そ、そういえば。卒業制作展の黒瀬くんの作品、見に行きました?」

「ええ。とても良かったわ」

 よかった。まだ眞白さんの中で、黒瀬くんはちゃんと気になる存在のままなんだ。

 

「今も黒瀬くんのSNS、チェックしてるんですか?」

「まぁ……SNSはたまにね」

「んん?」

 この反応は、なに?

 今、“SNSは”って言った?

 眞白さん、もしかして――。


 眞白さんは、カップに口をつけて意味深に笑った。

「ふふ。映画の時間、そろそろじゃない?」

「今の笑い方、絶対何かありましたよね? もしかして……進展があったんですか?!」

「さあ、どうかしら」

 眞白さんはコーヒーを飲み干し、何も答えないままバッグを手に取って席を立った。


「待ってください! それ詳しく!」


 慌てて追いかけながら、私は思う。


 やっぱり、誰かの幸せな続きを見られるのは何よりのご褒美だ。

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