番外編 目撃者(悠月)
――卒業式。
ボクにとっては、特別な儀式ではない。
誰かと離れる悲しみも、名残惜しさも、特にない。
むしろ、これからは授業や課題に縛られず、好きな時に好きなだけ絵を描いていられる。
そのはずなのに。
なんか、満たされないのはなんでかな。
「……はぁ。つまんない」
美術棟の三階。窓辺に肘をついて外を見る。
卒業式を終えた学生たちが、あちこちで写真を撮ったり、花束を抱えたりしている。
どこもかしこも、感傷でいっぱいだ。
そういう空気は、少し苦手だった。
ふと、人だかりから少し離れた校舎裏のあたりに、見慣れた二人の姿が目に入る。
篠宮と、その保護者くんだった。
式のざわめきから取り残されたみたいに、そこだけ妙に静かに見えた。
「ん?」
篠宮が、保護者くんを抱きしめてる……?
何やってんの……?
見つめ合って、笑い合って――まるで恋人みたい。
あの二人、恋人だったの?
「……へぇ」
完全に二人の世界。
ここに視聴者いるんだけどー?
勝手に見てるだけだけど。
そういえば、卒業制作展の時の篠宮の絵は悪くなかった。
もちろん、ボクの作品には勝てないけど。
それでも、あれは篠宮にしか描けない絵だったと思う。
篠宮が卒展で声をかけられて、仕事が決まったという話も聞いた。
しかも、九条教授の紹介らしい。
本当に、あの教授は篠宮に甘い。……まあ、見る目はあるけど。
窓の外に視線を戻す。
二人はまだ抱き合って見つめ合っている。
それどころか、今度は両手を繋ぎ始めた。
ほんと篠宮は最後までよく分からない奴だった。
篠宮とは、半ば強引に連絡先を交換したし。
近い将来、ボクが個展を開く時には招待してあげてもいい。
「……それまでは、邪魔しないであげる」
そう呟いた時だった。
「黒瀬……悠月くん?」
背後から知らない声がした。
振り返ると、春の光の中に、ひとりの人が立っていた。
静かな夜を思わせる凛とした人。
穏やかな雰囲気なのに、その目は胸の内まで見抜いてしまいそうなくらい澄んでいた。
「……誰ですか」
そう聞いたボクに、その人は静かに微笑んだ――。




