45話 ごちそうさまです!!(彩花)
――ある日、学食でのこと。
昼休みの学食は今日もにぎやかで、あちこちから食器の音と話し声が飛び交っている。
私はいつも通り、端の席で友達の真帆と琴音とごはんを食べていた。
定食を前に、もぐもぐと平和に箸を進める。
ふと視線を上げた瞬間、少し離れた席に座る見慣れた二人を見つける。
蒼真くんと奏汰だ。
知らない顔の学生や、同じ学部の子たちが次々に蒼真くんに話しかけた。
「誕生日おめでとう!」
あ、そうだ。今日、蒼真くん誕生日だっけ。
周りの人たちに祝われて、にこにこしてる。相変わらず人気者だなぁ。
そういえば――あの後どうなったんだろう。
蒼真くん、例の好きな子にもう気持ち伝えたのかな。
最近は学食で小悪魔、黒瀬 悠月を見ないし、前と同じように漣くんと蒼真くんが二人でいる時間が戻ってきた気がする。
そんなことを考えながら、のんびり箸を進めていた。
そこへ――漣くんが来た!
しかも、なんか小さい紙袋持ってる。
それは蒼真くんへのプレゼントですか?! そうですよね?!
蒼真くんが漣くんに気づいて、ぱっと顔を明るくする。
嬉しそうに手を振ってる。分かりやすいなぁー。
あ、プレゼント渡す流れかな。漣くん、がんばれー!
私は箸を持ったまま固まり、その様子に釘付けになる。
周囲のざわめきで会話までは聞こえない。
でも心の中では、もう勝手にアテレコが始まっていた。
『蒼真、誕生日おめでとう。これ、プレゼント』
『えっ、オレに?! ありがとう! ……開けていい?』
蒼真くんが袋を開ける。
中身を見た瞬間、分かりやすく嬉しそうな顔になる。
ほんとに嬉しそうだなぁ。あぁ……尊い。
次の瞬間。
蒼真くんが立ち上がって――漣くんを抱きしめた。
えーーー?!?!!
近くの席の人たちも、何人か「え?」って顔でそっちを見た。
うん、そうなる。私だってそうなってる。
私は反射で立ち上がった。
「ごちそうさまです!!」
思わず、わりと大きめの声で言ってしまった。
隣に座っている琴音の冷ややかな目を感じる。
「……え、何?」
向かいの真帆は、困ったように笑ってる。
「……彩花? まだ全然食べてないけど」
この状況、冷静でいられるわけがない。
私はニヤける口を必死に押さえた。
待って。
蒼真くん、別れたばっかなのにもう吹っ切れたの?
好きな子には積極的なタイプ?!
それとも、もう漣くんに気持ちを伝えて両想いになったの?
ひぇぇ……知らない間に、もう公式カプになった?!
蒼真くんの隣に座っている奏汰は、スプーン持ったまま固まってる。
まぁ、そうなるよね。でも、あんな至近距離で見られるなんて羨ましすぎる……!
気づけば、漣くんはもう居なくなっていた。
琴音が私の袖を引っ張る。
「ほら、座りなって」
その一言で意識が現実に戻り、私はゆっくりと座り直した。
真帆が心配そうにこちらを見ていた。
「彩花、ほんとどうしたの?」
私は今の衝撃を、なんとか言葉にしようとした。
「あのね……今、完成した……」
琴音は「なにが?」と覗き込む。
「世界が」
琴音が呆れた顔をする。
「意味わかんないんだけど。早く食べないとごはん冷めるよー?」
私は胸元を押さえた。心臓がもたない。
「無理……今、胸がいっぱい……」
「えっ、怖。じゃあ、いただきまーす」
うんうん。食べていいよ。もう胸もおなかもいっぱい。
あのふたりのことが気になって仕方ない。
蒼真くん、しっかり目に焼き付けたよ。
あの光景、しばらくは反芻して生きていける。
今日の私は、最高の栄養を摂取しました。




