38話 ひとりになった玄関(眞白)
蒼真くんの背中を見送って、ドアを閉めた。
閉まる音が、思ったより大きく響く。
ひとりになった玄関で、ふと思う。
――あの時のあの子も、こういう気持ちだったのかな。
あれは三年前、中学校での教育実習。
実習最終日の前日、放課後。
何度か悩み相談に乗っていた女子生徒が言った。
「夜風先生、ほんとに明日でいなくなるの? もっといてよー」
私はその子に「ごめんね。そういう決まりだから」としか言えなかった。
実習最終日、その子は「先生、バイバイ」と手を振って、笑っていた。
でも、その笑い方がどこか無理しているのを私は見ないふりをした。
後日、実習先の担任の先生が淡々と告げた。
「あの子ね、夜風先生がいなくなってから、ちょっと元気なくて」
胸の奥が、ひゅっと冷えた。
あの時、あの子の表情を見ないふりして、去ってしまったことを後悔した。
先生は続けた。
「責めてるわけじゃないよ。こういうことはたまにあるから。……念のため共有ね」
私は思った。教師になるには、まだ未熟すぎる。
誰かの人生を背負うのは、怖い。
***
私、ずるかったよね。
蒼真くんに指導しているつもりで、ただ自分がそばにいたかっただけかもしれない。
まっすぐに質問をしてくる蒼真くんに惹かれていた。
でも立場上、自分から踏み込むわけにはいかなくて。実習で揺れている彼を支えているフリをして、私の言葉で少しずつ誘導していたのかもしれない。
蒼真くんは、私のことを好きだってはっきりしていなかったはずなのに。
大人ぶって「行っておいで」なんて言って送り出したけど、本当は寂しかった。選ばれたかった。必要とされたかった。
私、こんなに蒼真くんのこと好きだったんだ……。
いなくなってから気づくなんて。遅すぎるのに。
気づけば涙が溢れていた。
帰ってきてくれるって、期待してもいい?




