36話 みんな違う方向(彩花)
今、私――矢土 彩花は、推しカプと女神の感情がすれ違う修羅場を見ている。
みんな矢印が違う方向に向いている。
昼休みの学食は、いつも通り賑わっていて騒がしい。
食券の列のざわめきと、席を探す足音、トレーのぶつかる音が途切れない。
窓際の席で、一人で居る漣くん。
離れた席からそれを見ている蒼真くん。向かいには彼女の眞白さん。
蒼真くん、眞白さんのことも、もっと見てあげて……。
この前、奏汰が蒼真くんに「アイツと仲直りしたー?」って言ってるのを聞いた。漣くんと何かあったんだろうなと察したけれど。
もしかして、結構深刻なケンカ?
え……? 蒼真くん、眞白さんを置いて漣くんのところへ行ったんだけど。眞白さんの切ない表情に胸が痛む……。
推しカプ(蒼真くんと漣くん)が幸せになることを望んでいたはずなのに、眞白さんにも幸せになってほしい。複雑な気持ち。
蒼真くん、楽しそうに話しかけてるなぁ。……やっぱり、漣くんのことめちゃくちゃ好きじゃん。
漣くんは……前みたいに笑わない。サークルの手伝いや旅行の写真で見た、あの嬉しそうな笑顔はどこ行ったの? 切ない。本当になんで?
しばらくして蒼真くんが眞白さんのところへ戻る。
眞白さんに少しだけ笑顔が戻って、ほっとする。
そのとき――小悪魔が来た!
また来た。最近これ、何度目?
彼は、漣くんに無邪気に話しかける。
小柄で可愛らしい、貴族の少年みたいな服装。ちょっと意地悪そうな目つき。見た目で勝手に小悪魔キャラだと思ってる。
たしか……黒瀬 悠月くん、だったかな。漣くんと同じ芸術学部の人。なんかSNSでも人気らしい。
最近、学食で見かけるようになった。漣くんがいるとき限定で。
小悪魔 黒瀬くんが、漣くんの腕を掴んだ。
「行こ! 篠宮!」
彼はそう言って、楽しそうに漣くんの腕を引っ張って連れて行く。
あー……連れてかれちゃった。
蒼真くん、漣くんがいなくなるまでめちゃくちゃ見てる。
目の前の眞白さんを超えて、視線はずっと漣くん。
ねぇ、見すぎ! 眞白さん気づいてるよ?!




