第23話(前編)――「鉄と塩、白い切り口」
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登場人物
新大陸皇帝アルバロ・デ・モリーナ〈29〉
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アルバロの側室
クダクワシェ・ムリロ〈36〉。トルワ国王の元正妻。
王妃らしい誇りと礼節を持ち、へつらわずに筋を通す。根は明るく、冗談と皮肉で場を軽くできる。暮らしの段取りを整えるのが好きで、侍女を褒めて菓子を分けるような面倒見もある。
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ニャシャ〈24〉「ソヨの首長」
肌は深く黒く、瞳の黒が濃い。姿勢と歩みが崩れず、言葉が速く正確だ。状況を読むのが早く、地形と人の心を同時に扱う。腕力も俊敏さも備えている。
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ルテンデ〈35〉「コンゴ国王」
マンウェ川方面の金の谷の首長の元妻。
ムタパ国本拠の縁戚から嫁いだ政治の婚姻で、婚礼の贈り物に牛と鉄器を受け取っている。元夫の代わりに人質や贈答の段取りを決めることが多く、周辺の首長たちとも顔が利いた。抵抗の連携が始まったときも、矢を集める村と食糧を隠す村の名を知っていたため、捕縛後は黙り込み、唇を噛んだ。
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アルバロの側女
ムニャンガ〈34〉。金の量と相場を決める仲介の家の妻だ。秤と目方が身に染みつき、取引では相手の手元を黙って見てきた。結託を止めたが聞かれず、捕縛の瞬間は夫の袖を握ったまま指が白くなるまで震えていた。
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アルバロの側女
ニャメンダ〈27〉。上流の渡し場を押さえる首長の妻だ。漁と舟の一族の出で、舟の順番と渡しの間合いを作る実務を担っていた。襲撃の日、泥に足を取られて転ぶ女たちを見て叫び、捕縛後は子の名を呼び続けた。
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〔侍女1〕タリロ〈28〉。ルヤ川沿いの金の谷を束ねる首長の妻だ。陶器を焼く一族の出で、採り分けと勘定を任されていた。襲撃の日、倉の裏で子を抱えたまま捕えられ、喉に土埃の渇きが残った。
〔侍女2〕ルド〈19〉。サビ川支流の小さな金の谷の首長の妻だ。飾りのように扱われた反面、帳の内側で聞く話が多く、補給や見張り交代の数を指で覚える癖がついた。捕えられた直後、泣き声が途切れた静けさが怖く、声が出ず震えた。
〔侍女3〕チポ〈30〉。北の峠を押さえる首長の妻だ。蜂蜜と薬草に通じ、屋敷では見張りの食と水を回していた。襲撃の瞬間、戸口で子を押し戻し、土間に爪を立てて踏ん張ったが、縄がかかった。
〔侍女4〕ファライ〈41〉。南の峠を押さえる首長の妻だ。成人した息子が2人いる。布と塩の出入りを管理し、家を回してきた。夫が倒れた後、声が枯れるまで泣いた。
〔侍女5〕マサシ〈22〉。下流の渡し場を押さえる首長の妻だ。商人の言葉に囲まれて育ち、スワヒリ語の挨拶とポルトガル語の数詞を少し知る。矢筒の受け渡しを一度だけ手伝ったことが弱みになり、砲声の後は唇を結んで目を伏せた。
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(1524年8月中旬、夜明け前。ルバ地方)
1524年の雨季の名残が引かない内陸で、アルバロは湖と湿地の境目にある集落へ入った。朝は冷え、草は水を含んで足にまとわりつく。踏むたびに水が小さく跳ね、肌に細かな泥が散った。鳥の声が高く続き、遠くでは太鼓が腹の底に響いた。
集落の広場には、乾いた土をならした円があり、その外側に首長たちが座っていた。火が焚かれ、煙が低く流れる。焼いた魚と獣脂の気配が混ざり、酸の立つ発酵の香りが鼻をつく。湿った木の椅子は冷たく、腰にじわりと冷えが上がった。
広場の中央に、贈り物が並べられた。ルバ側の者たちは鉄の塊を何本も持ち込み、黒い肌に汗を光らせながら敷物へ置いた。叩けば澄んだ金属音が返り、手で触ると表面がざらりとしていた。銅は赤みのある棒や輪で、光に当たると鈍く照り返す。塩は固めた塊で、白い粉が縁からこぼれ、舌に乗せると刺すような辛さが走った。
カララ・イルンガ〈30〉は、その贈り物の脇に立った。ムビディの子だと名乗る男で、背が高く、肩が落ち着いている。視線は相手の顔を見るが、相手の後ろの動きまで拾っている。慎重さと自信が、同じ重さで並んでいた。
アルバロは、まず兵を下がらせた。槍の先が揺れれば、首長たちの視線がそれに吸われる。交渉の場で欲しいのは恐れではなく、計算だと分かっていた。
アルバロは荷を開かせた。コンゴ王国の海岸と港から集めた品だ。ラファヤシから織った布が広げられ、指で触ると繊維がかすかに引っかかる。光を透かすと細かな編み目が見え、風が通る音が変わった。モロコシは袋から椀へ移され、粒が乾いた音を立てて流れた。ヤシ酒は瓢箪の口を開けると甘い発酵の香りが広がり、喉の奥が熱くなるのが想像できた。果物は籠に山となり、熟れた皮から蜜が滲み、蟻が寄ってくる。ウシは縄を引かれて前へ出され、鼻息が白くはならないまま荒く、蹄が土を叩いた。象牙は布に包まれて置かれ、包みを解くと白い曲線が現れた。表面は冷たく硬く、指が滑った。
最後に、アルバロは新大陸から持ち込んだキャッサバを出した。芋のような根で、切り口は白く、土の水気が残っていた。火に当てれば腹を満たす。しかも、この土地の湿りでも育つ。首長たちの目が、その白い断面に集まった。
カララは一歩前へ出て、アルバロに言った。「あなたは海の口を押さえた男だと聞いている。ここまで来たのは、交易のためか。戦のためか。どちらだ」
アルバロは返した。「両方だ。交易が通れば血は減る。だが今は、血を避けられない場所がある。俺はそれを終わらせに来た」
カララは、鉄と銅と塩へ視線を落とし、またアルバロを見た。値踏みは品だけではない。相手が約束を守る男かどうかを見ている。
カララは言った。「鉄と銅と塩は、こちらから渡す。だが、あなたの火と鉄を、こちらの戦に混ぜるなら条件がいる。勝った後も、こちらの王が立つことだ。あなたが王の椅子に座らないことだ」
アルバロは首を振った。「俺は椅子を欲しがらない。欲しいのは道だ。荷が通る道と、川を遡る権利だ。港へ戻る荷の安全だ。約束が守られるなら、それでいい」
カララは、横に控えていた年若い男へ目を向けた。チビンダ・イルンガ〈24〉だった。弟は兄より顔の線が柔らかいが、目の芯がぶれない。興味が恐れに負けていない目だった。
チビンダは兄に言った。「兄上、火と鉄は怖い。しかし、恐れているだけでは、ンコンゴロの手が伸び続ける。取引の形を先に決めれば、支配されるのではなく、使う側に回れる」
カララは一度うなずき、アルバロに言った。「ならば、約束を形にする。贈り物の順番も、受け取る手の順番も、ここで決める。乱せば、あなたはこの地で孤立する」
アルバロは答えた。「乱さない。乱す者が出たら、俺が止める」
火のそばで、ヤシ酒が回された。瓢箪の縁は湿り、唇に甘い酸が残る。首長たちは黙って飲み、黙って見た。合意は声の大きさで決まらない。座り方と、杯の渡し方で決まる。そういう場だった。
その日の夕方、ルバ側は鉄と銅と塩を、アルバロ側は布と穀物と酒と果物とウシと象牙とキャッサバを、互いの前へ置いた。土の上の品が整うにつれ、空気が落ち着いていった。交渉は終わりではないが、始まり方としては十分だった。




