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2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~  作者: take4
第十二章 列強同盟編(歩み出した戦後世界)

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第四百四十六話(カイル歴516年:23歳)未来なき者たち

タクヒールらがクサナギで新しい年を迎えて未来を祝っていたころ、イストリア正統教国のイスラでは未来なき自身の身を呪う者がいた。

彼の名はグロリアス・フォー・グリフォニア、一時は帝国で至尊の地位にまで手が届こうとしていた男だ。



「結局……、奴の言っていたことは単なる絵空事、これまでと同じではないか!

これでは俺は、グラートに全てを奪われた道化に過ぎんではないか! それもこれも、全てあの小僧共によって……」



そう言って独り酒杯をあおり続けながら、第一皇子グロリアスはここに至るまでの経緯を思い出していた。



囚われの身となり、絶体絶命の窮地にあった所を救われ、帝都グリフィンを無事に脱出できたときは歓喜して再起を誓っていた。

その頃はまだ帝国内で彼に臣従を誓う者たちも多かった。だが……。

彼を取り巻く環境は二転三転し、それには『小僧』と呼んだ男たちの影響が少なからず及んでいた。



ことの始まりは膨大な戦果を挙げて帝都に入った、第三皇子の発した布告だった。


これによって第一皇子の親派であった貴族たちは、反乱に組した者として次々に槍玉に上げられ、まさに一網打尽となって処断されようとしていた。


ここで先ず、グロリアスを奉じる者たちは追い詰められて窮地に陥ったが、その潮目は一気に変わった。


皇帝の不可解な突然死、その混乱に紛れて大罪人とされたグロリアスの逃亡という、二つの大事件が帝都で勃発したからだ。


この報を聞き、このままでは処断をま逃れないと知った第一皇子派の貴族たちは一気に勢いを得た。

しかも自分たちを糾弾する第三皇子には、皇帝弑逆(しいぎゃく)の容疑さえまことしやかに囁かれ始めていた。



「今こそ弑逆者である第三皇子を討ち、帝国に正しき流れを!」



第一皇子派の声と勢いは日増しに大きくなり、反抗の機運は高まりつつあった。

かくまわれていたとある貴族の領地にて、グロリアスは大いに喜ぶと共に復讐の牙を研ぎ、反攻の機運が整うことを待っていた。


もはや帝国を二分する内乱に発展しそうになったその時、再び事態は変化した。

彼にとって思いもよらぬ形で……。



対応に窮した第三皇子が前線から小僧ジークハルトを召喚したからだ。

そのジークハルト自身は、帝都に呼び出される前から彼の持つ影響力を最大限に行使し始めていた。


帝都へと移動する途上においても、時には武力で反抗する者たちを脅し、時には商人たちを扇動して荷止めを行うなどで流通を阻害し、時には流言飛語を放ち彼に味方する者たちの領地を孤立させた。


もちろんその傍らで、彼は甘い餌を撒くことも忘れなかった。


結局のところ、戦闘には参加していないが核となった数家の貴族に対し『特例措置』として恩赦が下されると、雪崩を打って翻意する者たちが現れ、彼を支持する者たちの連合は脆くも瓦解した。


そのため反乱に陰ながら協力した罪により、取り潰しが確定していた貴族たちもまた、公職を罷免されるだけで本領は安堵された。


それよりも軽い罪、第一皇子の派閥に属し『連座』の罪に問われていた者たちの中には、お咎めなしとして現職に留まる者すら居た。


それはそれで、彼らは第三皇子が皇帝となった暁に、魔境公国への『特別な配慮』に異を唱えることになるのだが……、それはまた別の話。


ジークハルトの対処により、第一皇子派の貴族たちは領地と家門を安堵される代わりに、第三皇子の皇位継承を認めざるを得なくなった。

それによって帝国内で勃発する予定であった反乱の第二幕は、未然に防がれてしまった。



事態の急変に失意した第一皇子は、彼を救い出した男が示す第二案に従うしかなかった。

かつてハーリーを通じて盟約を結んだ者たち、リュグナーやアゼルが、侵攻に失敗して兵を失った三国の隙を衝き、支配を進めつつあるとの話を頼りに……。


その際に第一皇子は、主家が反乱に参加したため係累として刑を免れられない貴族の眷属たちを引き連れ、帝国内で大規模な動きを見せていた商隊の流れに上手く紛れ込むと、密かに帝国領を北東へと移動した。


実はこの商人たちの動きこそ、遠征軍の兵站を整えるに当たりレイモンドが発した特需だったが、皮肉なことに第一皇子はその流れに乗って帝国グリフィンより北東の辺境まで辿り付くことができた。


そんな苦労の末、やっと彼を信奉するジャーク伯爵領まで辿り着いたが……、ここでも事態は急変していた。



「な、何だと! 小僧タクヒールの軍が三国へ攻め入っただと?」



「はい、私自身も抗議のため奴らの陣幕を訪れましたが、増長しているのか聞く耳を持ちませんでした。

しかも奴らは四万を超える軍勢で、我らも如何ともし難く……。その後に奴らはリュート王国に攻め入ったことまでは確認しております。

口惜しい話ですが、おそらくイストリアの狂信者たちは袋の鼠となる公算が高く……」



実際にタクヒールが率いていたのは三万未満の軍勢でしかなかったが、大軍の恐怖に怯えたジャーク伯爵の言葉は大きく盛られていた。



「ちっ、図に乗った奴らは卑怯にも空き家となった三国を掠め取る気でいるのか……」



そう答えると第一皇子には忌々しい記憶が蘇った。


たった一万でも小僧タクヒールの軍は恐ろしいほどに手強かった。彼一人の参戦によって十二万もの連合軍が翻弄され、最後は見るも無惨に瓦解させられたと言っても過言ではない。


にわかには信じられない話だが、そんな精鋭が四万も集えば、『にわか』作りのイストリア正統教国軍など相手にならないだろう。



「ふぉっふぉっふぉっ、であれば殿下は残るもう一つの空き家を得ればよいことではないですか?

イストリア正統教国は無理を重ねた出兵で本国は空き家も同然でしょうな。

兵を率いて『助力に来た』といって掠め取ればよいことです」



不気味な男はこともなげに進言してきたが、グロリアスはこの男が信用できなかった。


確かに救い出してもらった恩はある。

ただ年齢や外見こそ大いに違うが、口調や態度はかつて様々な策を進言してきた不気味な老人によく似ていたからだ。


それにも増して、彼は『もうひとつ』の理由により『彼ら』を一切信じていなかった。

心に秘めた思いを隠しつつ、今はやむを得ず同道しているのが現状だった。



「掠め取るにしても帝国から集った兵が一千、眷属として付き従ってはいるが戦えぬ者が三百……。

これでは掠め取るにも兵が足らんと思うが?」



「我らも殿下と共に動きましょうぞ! このままでは我らも増長したグラートに所領を取り潰されます。

伏して恥辱の道を選ぶより、我らは配下の兵三千名と共に殿下と栄光ある道を進みたく!」



ジャーク伯爵やグロリアス親派の者たちの進言によりグロリアスの方針は決した。

帝都グリフィンから帝国領内へ、帝国領内から帝国北東辺境へ、そして今、トライアへと移動を開始した。



元よりジャーク伯爵領は四か国との国境を接する、帝国内でも要衝と言われた地だった。

そのため辺境伯クラスとまではいかないものの、常時五千名の兵力を駐屯させていたが……、この時点で伯爵に従っていたのは大きく減って三千名だった。


それ以外の兵は、ここに至るまでの段階で侵略者を素通りさせた伯爵を見限るか、帝国を出て新たな地へと転進することを拒んだ者たちであった。


そのため第一皇子は自軍と併せて総勢四千五百名(うち五百名は非戦闘員)を率い、周辺の地理に詳しいジャーク伯爵に先導されてカイン王国との国境を目指して進んだ。



「伯爵、余計なこととは思うが何故東に進むのだ? ここからだと目指すトライアは真北だと思うが?」



「はい、トライアに直接通じる街道には敵の補給拠点があり三千の敵軍が駐留しております。なので我らは一旦、無人の地となったカイン王国側の国境を越え、敵の哨戒網を避けて東に進んだ後に南下します。

そのままヴィレ王国領を抜け、リュート王国の王都を迂回してトライアに入ります」



実のところこの時、タクヒール率いる遠征軍はカイン王国の王都を奪還中であり、リュート王国のクラージュ王は国内の兵力を糾合し中央部より侵攻した敵軍の後背を攻撃している最中であった。


そのため彼らは妨げを受けたり露見することなく無人の野を征くが如く進み、カストロたちが逃げ出した直後、大混乱の最中にあるトライアに入ることができた。



「ちっ、トライアも今や安全ではないのか?

小僧タクヒールの軍も抜け目のないことだ。奴こそが混乱に乗じた真の侵略者ではないか!」



情報を得たグロリアスは再び怒り心頭となったが、座して包囲網に閉じ込められることはない。

先行して進んだカストロの後を追い、『闇の使徒』が先触れとして進む中でイスラを目指した。


そして彼らがイスラに到着して見たものは……。


一時はイストリア皇王国の三分の二と、リュート・ヴィレ・カイン王国を含めた広大な領土を支配下に置いたイストリア正統教国の凋落した姿であった。


カストロが率いていたのは僅か二千の正規兵と、急遽招集された二千の民兵のみという惨状だったからだ。



「併せてたった八千で何ができると言うのだ! これではイストリア正統教国も沈むだけの泥船ではないか!」



期待外れの状況にグロリアスは思わず叫んだが、何を隠そう自身が一番の泥船であることを知っていた。


止むを得ず窮地に陥っていたカストロと協力関係を結ぶと、当面は南から侵食するリュート王国軍に備えつつ、徐々に北側を侵食するよう攻勢を掛けていた。


そして数か月、南四郡はリュート王国に接収されたが、彼らは固く防衛線を敷くとそれ以上の侵攻はなかったため、グロリアスは碌な指揮官すらいなかった軍を再編成し、少ない兵力をやりくりして北三郡の一部、イスラの南東にある一郡を奪取したが、そこで完全に動きが止まってしまった。


イストリア皇王国軍は北三郡のうちウロス王国と隣接する最も北の一郡に全軍を終結させ、五千の軍で頑強に抵抗していたし、西側の一郡には一部を新領土として割譲されていたカイル王国のハミッシュ辺境公が五千の兵を展開して侵略者に備え様子を窺っていたからだ。



「焦らずともよろしい、今やイストリア皇王国は地に堕ちた鳥、碌な耕作地もない最北の一郡だけでは支えきれぬほどの兵を抱えており、次の収穫期を待たずしていずれ食料が尽きて自滅するであろう。そこを抑えたのち、西側の一郡も王国領を侵さぬ程度に浸食されればよろしかろう。今はただ、座して敵が飢えるのを待てば良いからの」



不気味な男は、まるで未来を見ているかのようにそう告げた。

ただグロリアス自身もそれが正しい判断だとは感じていた。

そのため彼も、時を待つしかなかった。



だが……。ただ座して時を待つということに彼は耐えられなくなりつつあった。

何かと忙しく動いている時は良かったが、停滞すると改めて凋落した自身のことを思い知るからだ。

この頃になると望郷の念に駆られた兵たちの声も上がり始めていた。



「かつては三万の親衛軍を率い十二万もの軍勢の総指揮を採っていた俺が、たった五千の敵兵を相手に動けなくなるとはな。せめてハーリーさえ生きていてくれれば……、あの小僧共さえいなければ……」



悔悟、自責、憎悪、様々な感情に心を囚われ、日々自身の心が腐っていくのを感じずにはいられなかった。

それでも彼は心に誓った『ある思い』を胸に秘め、表向きはこれまで通り、戦いに倦んだ自堕落な生活を送り始めた。



そんなグロリアスの様子を見た男と女は、薄暗い地下の一室で低い声で笑いあっていた。



「そろそろかの、自尊心が高過ぎるが故に堕ちなかった男も、怒りと恥辱と屈辱、自身の無力に絶望して心は闇に染まり満たされ始めておるな」



「はい……、近いうちに不肖の息子は……」



「良き依り代となって、我らを導く『闇の皇子』が生まれる土壌となろう」



「我ら五百年の悲願もこれで……」



「そうじゃ、いささか遠回りはしたがの。古き因果は終わり、我ら闇の氏族と挙国一致となる新しい体制が整うというものうよ」



そして……、事態は一気に新たな形に進展する。

それが誰にとって不幸なのか、誰が望んだ未来をもたらすものなのかは、この時点では知る者もいない。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

次回は03/2『望まぬ真実』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
おお、なんか最終章っぽいな 闇くんたちを駆逐しよう
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