第四百四十五話(カイル歴516年:23歳)新たな年を祝う宴、繋がる未来(後編)
最後に7巻発売のお知らせと、この投稿に関する裏話を紹介しております。其方もどうぞご覧ください。
俺がアリシア殿下の言葉に対し、心の中で盛大に頭を抱えていたころ、宴の趣向を大きく転換させる出来事が起こった。
それは、頃合よしと思ったジークハルトが無邪気な笑みを浮かべて俺の前に進み出たところから始まった。
「では公王陛下、お話もまとまったようですし、先ほどご質問にあった『もうひとつの目的』を進めさせていただきますね。わが主、グリフォニア帝国皇帝グラート陛下より公王陛下に宛てたお祝いの言葉を預かって来ております」
そう言うと恭しく胸元から懐紙を取り出し、一礼したのち読み上げ始めた。
その様子に何かを感じたのか、これまで騒然としていた宴の会場も静まり返っていた。
『我が盟友たるウエストライツ魔境公国の吉事に対し、心より慶賀の言葉を贈らせていただく。
二人の王女殿下の誕生を心より祝福し、健やかに成長されることをお祈りする。
彼女たちが成長された暁には、未来の帝国と公国を繋ぐ新たな架け橋となることを願いつつ……』
「「「「「おおおおおおっ!」」」」」
この言葉に会場は大歓声に包まれていた。
いや……、いつ知ったんだ?
アンが生んでから二日後にクレアが共に女児を出産し、それからまだ三週間も経っていないんだぞ!
公式発表はこの宴にしようと思っていたので、まだ一部の関係者しか知らない話だと思っていたが……。
俺自身が中締めでアンとクレアが抱いて参加していた二人の乳児、憐花と桜乃を紹介するつもりだったけどさ……。段取りが狂ってしまったよ。
しかも生まれて早々、帝国の皇帝から直接誕生を寿がれるという箔まで付いて……。
「我が主、グリフォニア帝国の皇帝陛下より王女殿下の誕生を祝い、それぞれに帝国金貨一万枚と奥方さまへの贈り物を持参して参りました。どうぞご笑納ください」
そう言ってジークハルトは目録を差し出して来たけどさ……。
まさかこれって結納金の前渡しじゃないよね? 俺はまだ娘をやるとは言ってないぞ。
新たな命の誕生を祝う早々、娘を送り出す父親の気持ちにさせられたのは言うまでもない。
「おめでとうございます! クリューゲル陛下に代わり心よりお祝い申し上げます。
さ、早速我らも国に急使を送り祝いの言葉と品を取り寄せますので、今しばらく、今しばらくお待ちを!
帝国に先を越されたとは……、これは我が国の一大事ですっ」
いや……、大慌てのフレイム侯爵が最後にボソッと言った言葉、しっかり聞こえたんだけどさ。
そういえば以前、クラリス殿下が盛大にフラグ立てていたよな。
ある程度頻繁にクサナギを訪れていたクラージュ王とアリシア殿下はその辺の事情をよく知っていたからね。
誕生の一週間後にはゴルパ将軍が祝いの使者となり訪問してくれていたけどさ……。
なんか皆、ちょっと過敏になり過ぎていないか?
それからというもの、宴は俺たちが皆に感謝する場から、二人の誕生を祝う場へと形を変えてしまった。
もちろん孫たちを見てデレる父や出産間もない二人を気遣う母、赤ん坊を抱きたがるクリシアなどを始め、久々に家族全員が揃う場があったのは言うまでもない。
そして……、宴の最後には驚くべき報告もあった。
「公王陛下、このような宴の席で私のような者が……」
「貴重なお時間のなか、我らの私事で申し訳ありません……」
「ん? マークにショーン、二人とも改まってどうした?」
「「申し訳ありませんっ!」」
いきなり平身低頭されてしまったが、どういうことだ?
謝られることに何も身に覚えもないが?
「もう、大事な時にだらしないんだから。学園で『ハーレム男爵』を糾弾していた時の勢いはどこに行ったのかしら?」
「そうですよ! 戦場では私たちを庇って、あれほど凛々(りり)しいお姿だったのに……」
その二人の後ろにはメアリーとカーリーンが……。
え? まさか……、そういうこと?
「陛下が『仲間』と呼ばれた大切な方を……、ど、どうか私にくださいっ!」
「わ、私は彼女を命に代えても守っていきます!」
いや、俺は彼女たちの父親でもないぞ? 俺に謝られるのは筋違いだろう。
「よくできました。私はショーンと結婚させていただくご報告をタクヒールさまに」
「私も同じく、マークさんと晴れて結ばれることとなり、タクヒールさまにご報告させていただきます」
ははは、このシーンだけ見ても二人が彼女らの尻に敷かれる未来は確実だな。
まぁ……、初期の魔法士招集のころから彼女らとは長い付き合いだ。
なので俺と対峙した時の温度差は明らかに違うのも仕方のないことだとは思うけどさ。
「先ずはおめでとうと言わせてもらうよ。今は立場もあって彼らも余計な緊張をしていると思うけど、学園では気概を持ったひとかどの漢だからね。彼女らは俺にとってかけがえのない大事な仲間だ。
必ず二人を幸せにしてやってほしい」
「もちろんです!」
「誓ってお約束いたします!」
「ならば俺からは何も言うことはないよ。クレアやヨルティアへの報告も忘れずにね」
そう、どこで何があったか知らないが、彼女たちはあの四人組を気に入り何かと世話を焼いていたようだった。
魔導砲の発射管制で直接マークと関わりのあるヨルティアは分かるけど、クレアは不思議だったけどね。
「はい、お二方には事前にご相談させていただきました!」
「これから改めて報告に伺う所存です!」
「ふふふ、クレアさまもヨルティアさまも私たちにとっては上司だけでなく、お姉さまと同じです。
なので私たちの方は既に報告してますよ」
「だよねー。身分が違うからとか言ってグダグダ相談していたことも、私たちは最初から全部聞いていたもの」
「「なっ!」」
カーリーンに続いて話したメアリーの言葉に、ショーンは盛大に、マークも少し固まっていた。
確かにショーンは学園時代からメアリー一筋だったもんな。だから余計に『ハーレム男爵』に対して思いを拗らせていたこともあったし。
マークはビックブリッジの攻防戦で第一皇子側が放った、火魔法の業火から身を挺してカーリーンを守ったと、ヨルティアからは聞いていたからね。
「じゃあ、奥さんたちから情けないと言われた男たちは、面目躍如のため男らしく二人に報告とお礼を言ってきなさい」
「「は……、はいっ!」」
俺は笑いを押しこらえて二人の後ろ姿を見守っていた。
そして……、今度はもう一人の公式の来賓であるドゥルール伯爵が挨拶に現れた。
「どうやら彼らに先を越されてしまったようですね。改めて新しき門出の年をお祝いすると共に、正式に陛下にお願いの儀があり参上いたしました」
そう言って伯爵は深く頭を下げ、その傍らにはローザが立っていた。
うん……、結局うまくまとまったということかな?
三国との戦いで伯爵は、命も顧みず激戦に割り込みローザたちを救ったと聞いていたし……。
「私のような者が、まして帝国の人間が陛下の大切な仲間であり、かつ魔境公国の『至宝』を頂戴したいと願い出るのは、度し難い話であるとは重々承知しております。
ローザ殿の使命は妨げないこと、これは固くお約束いたします。その上で彼女を賜れないかと……」
「それで……、ローザは良いのかい?」
確かに彼女は今や単なる俺の仲間だけではない。
カイル王国の名誉司教という立場もあり、今回は教会領の獲得に尽力したという功績で枢機卿に推薦されているとも聞いている。
そうなると軽々しく帝国に嫁ぐとは言えない立場でもある。
「はい、心を決めたのは命を救われただけではありません。ドゥルールさまはそれ以前から真摯に私の言葉を聞き、戦場で多くの命を救うため奔走されておりました。それに……」
そう言ったあとローザは少し下を向いて顔を赤らめた。
他にも何かあったのか?
「ドゥルール伯爵は北部戦線で活躍された功績により、一時は皇帝陛下より帝国南部の新領土に大領を賜ったにも関わらず、それを辞退されて私がタクヒールさまにお仕えできるよう、望んで隣の領地を希望されました。そこまでこんな私を思っていただくなんて……」
そんな裏話があったのか! 知らなかったな……。
確かにドゥルール伯爵は長年に渡り第三皇子の親派であり、帝国内での論功行賞にて授かった領地は似たような境遇のジークハルトやアストレイ侯爵(元伯爵)に比べるとかなり小さい。
俺はてっきり魔境復活に関する絡みだと考えていたが、実のところは違ったのか……。
て言うかさ、ドゥルール伯爵は『男前』過ぎないか?
そこまでされたら誰でも心が動かずにはいられないよね?
「うん、俺としては心から祝福させてもらうよ。ローザが引き続き仕えてくれることはとても嬉しいけど、無理のないようにね。ところで教会のほうは納得したのかな?」
今や枢機卿になろうとしているローザが、いきなり帝国に嫁ぐとなれば教会としては大問題だろう。
必要であれば俺も協力して根回しするつもりだけどさ。
今回の件で教会領を与えたことで、それなりに発言権もあるし。
「はい、新たに中央教会の大司教となられたクレバラスさまがお力を貸してくれるそうです。
この宴にいらしていたので、先ほどご相談させていただきましたが快諾いただきました」
このローザの発言で、いつの間にか満面の笑みを浮かべたクレバラス大司教とグレース枢機卿が立っていた。
彼らこそが、事前に報告を受けていた第四の来賓だった。
「かねてよりの約束に従い、公王陛下は我らの宿願であった教会領を与えていただきました。
ローザ殿の功績も非常に大きく、この程度のことであれば喜んでお力になります」
「私は公王陛下とはテイグーンの神父であった頃から一心同体の身です。優先すべきは公王陛下のご意志であり魔境公国の『利』です。中央の俗物共に否とは言わせません」
魔境公国の『利』を優先とか、中央教会を『俗物』呼ばわりか……。
ははは、グレース枢機卿も男前に言い切ったな。
この二人が宴に参加した目的は、俺が教会領を与えたことに対するお礼言上だったからね。
かつてのグレース神父も地方教会の枢機卿から中央教会の枢機卿に昇進し、いまは魔境公国の教会の全てを傘下に収める大出世を遂げていた。
「であれば何の憂いもないね。俺たちも喜んで祝福させてもらうよ。
クレアたちには報告したのかな?」
「はい、クレア姉さんには事前に色々と相談し、力になってもらいました!」
「……」
うん、やっぱりね。俺が一番最後だった訳か……。
大きく変わってしまった自身の立場を考えれば当然といえば当然なのだけどさ、なんか寂しい気もするぞ。
この日の宴の締めは、新たに誕生した三組のカップルを俺が全員に紹介し、皆で門出を祝福する形で幕を閉じた。
高嶺の花を射止めたマークとショーンは、ラファールを始めとしミゼルやハイマンから散々弄られ、最後は潰れるまで酒を飲まされていたけどね。
俺も元学友として参加したかったが、俺が酒を勧めに行けば完全なパワハラだ。
そういう意味ではクリューゲル陛下やクラージュ王がいう通り、頂点に立つ者は孤独なんだな。
俺は嬉しさと一抹の寂しさを感じながら新しい年を迎えた。
今回の投稿の中で、マークやショーンがクレアやヨルティアと交流があった逸話は、書籍版7巻の電子書籍特典SSに掲載されております。
そして……、七巻発売まであと二日!
詳細は本日の活動報告にも記載しております(随時更新中)
そちらも是非、ごらんください。
既に一部書店さまでは店頭に並んでいるようです。
どうか書籍版も応援、よろしくお願いします。
今日より小説七巻の発売を記念し、恒例の連続投稿となります。
明日からは特別篇、第一話の『人足たちの休日』を投稿予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




