第四百四十四話(カイル歴516年:23歳)新たな年を祝う宴、繋がる未来(前編)
改変された歴史の中、全く様相が異なった展開の一年が終わり新しい年が明けた。
未知の、そして大きな戦乱の年であったカイル歴515年は、俺にとっても大きく運命を左右するものであり、なんとかこの一年も無事に乗り切ることができたことは、とても感慨深い。
それだけではない。前年に行われた基本方針を決定した会議のあと、魔境公国では国を挙げて大規模な公共事業が各所で動き始め、未曾有の戦勝景気に加えて内需も爆増する結果になっていた。
それもあってか、毎年恒例となっている新年を祝い関係各位に感謝するための宴では、会場となったクサナギの大広間に集まった人々の数も尋常ではなかった。
まぁ……、好景気だけが理由じゃないんだけどさ。
今回は諸般の事情もあって、いつもより開催時期を十日ほど後ろ倒しにしていた。
更に昨年は身内の祝い事(結婚発表)もあって、基本的に新年の宴は身内での開催とし(例外はソリス侯爵家とゴーマン侯爵家とバウナー子爵家)ていたからね。
ただ今回はそうも言っていられないので、その辺りの自主規制は開放していた。
お陰で他家からの来賓参加は公式の来賓が四組、何故か突然押し掛けた来賓が二組、身内からの来客が四組ほどそう歴史の中、全く様相が異なった展開の一年が終わり新しい年が明けた。
未知の、そして大きな戦乱の年であったカイル歴515年は、俺にとっても大きく運命を左右するものであり、なんとかこの一年も無事に乗り切ることができたことは、とても感慨深い。
それだけではない。前年に行われた基本方針を決定した会議のあと、魔境公国では国を挙げて大規模な公共事業が各所で動き始め、未曾有の戦勝景気に加えて内需も爆増する結果になっていた。
それもあってか、毎年恒例となっている新年を祝い関係各位に感謝するための宴では、会場となったクサナギの大広間に集まった人々の数も尋常ではなかった。
まぁ……、好景気だけが理由じゃないんだけどさ。
今回は諸般の事情もあって、いつもより開催時期を十日ほど後ろ倒しにしていた。
更に昨年は身内の祝い事(結婚発表)もあって、基本的に新年の宴は身内での開催とし(例外はソリス侯爵家とゴーマン侯爵家とバウナー子爵家)ていたからね。
ただ今回はそうも言っていられないので、その辺りの自主規制は開放していた。
お陰で他家からの来賓参加は公式の来賓が四組、何故か突然押し掛けた来賓が二組、身内からの来客が五組ほど勢ぞろいしていたからだ。
「それでは新しい年に、そして魔境公国を支えてくれた皆さまに、遠路お越しいただいた来賓の方々に感謝し、乾杯!」
「「「「「乾杯っ!」」」」」
「公王陛下に感謝を!」
「魔境公国の未来に!」
「数々の勝利に!」
「新しき国の門出に!」
口々に祝いの言葉とともに新しい年を祝う盃が交わされた。
この宴、本来なら乾杯の挨拶は毎年恒例で団長が務めていたのだった。
だけど……。
今回は公式の来賓に失礼がないよう、俺自身が務めることになった。
「初めて宴に参加した者たちもいることと思う。予め言っておくがこの宴は我が母が考案したもので、この一年でお世話になった皆に我らが感謝する場でもある。
そのためこれより『無礼講』として、最低限の礼儀は守ってもらうが上下の関係はない。皆が主賓として遠慮なく会話に加わり、給仕に当たっている者たちも含めて交代で参加し、ぜひ料理と酒を楽しんでほしい」
改めて宴のルールを説明したあと、俺自身も壇上を降りて参加者の中に加わった。
そうすると早速……。
「先ずは私共が新しき年を無事に迎えられたこと、派遣した人足たちにも休暇を与えていただいたこと、共に公王陛下には深く感謝いたします」
そう言って真っ先に挨拶してきたのは、クラージュ王とアリシア殿下だ。
彼らは共に帝都に出かけた後も、機会があればこうして訪ねて来ているのだが……。
一国の王が気軽に隣国に挨拶に出掛けて、果たしてそれで良いのだろうか?
しかもこの時期は特に……。
「私たちは公王陛下によって命を救われ、国と民も救われた身です。
ミザリーさまから毎年新年には『感謝の気持ちを表す宴』を催されていると伺い、是非とも公王陛下に感謝の言葉を申し上げたくお邪魔させていただきましたの」
いや……、アリシア殿下、それは違う。
宴は俺が感謝する場であって、俺に感謝する場ではないのだけど……。
まぁいいか。
アリシア殿下とミザリーやヨルティアは、あの後も繋がっていて文の遣り取りもあるみたいだし。
「こちらこそ、何かと『準備』でお忙しい中にもかかわらず、遠路お越しいただいた二人には改めてお礼を。
こんなにも早く統治を安定させ、国を盤石なものにされるとは思ってもいませんでしたよ。
それに……、今度は俺たちがお二人を祝いに駆け付ける番ですね」
これは正直な俺の気持ちだ。
どちらかと言うとこの二人は優秀なのにも関わらず、いや、優秀だからこそかつては故国で疎まれていた。
そのため統一したからと言っても、旧体制派との争いでもう一波乱あると思っていたからね。
なのにそれをこの二人は、いや、ゴルパ将軍を含めた三人で見事に切り抜けていた。
そして……、年が明けて間もなくすると、この二人は晴れて正式な国王と王妃になる。
「そもそもですが私たちには強力な後ろ盾がありましたから。国民の誰もが、手を差し伸べていただいた解放軍、陛下を始め魔境公国の皆さまに多大な感謝をしており、国内の不平分子は数々の難敵を打ち破られた公王陛下の『威』に震え上がっておりますもの。ただ……、まだやり残したこともあって」
『威』にですか?
それってさ……、『魔王』の悪名じゃないよね?
俺の戦術で酷い目に遭わされたスーラ公国やターンコート王国では、真しやかに魔王の二つ名が広がっていると聞いたしさ……。
「アリシア殿の仰る通りです。公王陛下の武威により授かった新領土然り、帝国領での縦横無尽のご活躍や電光石火で三か国を解放された逸話は、既に我が国の子供でも知っている英雄譚です。
我らも最後の仕上げに掛かるべく動いております」
エイユウですか? それって俺じゃないですよ。
ってか……、誰がそんな話を広めたんだ?
そもそも三か国の王都を奪還する際も、俺はカイン王国しか手を下してないし。
リュートとヴィレの解放は彼ら自身の戦功だよ?
しかしさ、『やり残したこと』や『最後の仕上げ』って何だ?
「新しき年を迎えおめでとうございます。
お話の途中で申し訳ありません。この宴にクラージュ陛下がご隣席されていると聞き、私からも両陛下にご挨拶をさせていただけますか?」
そう言って話に加わって来たのは、これまでに無礼講を何度も経験してきたもう一人の来賓、フレイム侯爵だった。この無礼講の宴では、こういった声掛けも問題ないことを事前に教えていたからね。
そして彼もまた、事前に参加を希望していた『公式』の来賓である一人だ。
「春に執り行われる婚姻の儀に、公王陛下はもちろんですが、皆さまも国賓としてお招きしたいと我が主から言伝があり、招待状を預かっておりました。
それに加え、近く行われるお二方の婚礼の儀にも、フェアラート公国として公式な使者を立てるとともに、非公式ながら我が王も参加させていただくとの言伝も預かっております」
そしてここクサナギで次に回る招待者と出会え、非公式な話も含めて直接伝えることができたので、手間が省けたと言うことかな?
「まぁっ! それは有難いことですわ」
「クリューゲル陛下のお心遣い、改めて感謝を!」
二人は大きく一礼したあと、アリシア殿下が悪戯っぽく微笑むと再び話始めた。
「ちなみにクリューゲル陛下は、訪問いただいた後は帝国の時と同様に『国賓』としてお迎えしてもよろしいかしら?」
ははは、早速政治活用する気だな。
新国王は周辺諸国からの後ろ盾があるということを、国内の不穏分子に見せつける気だろう。
「も、もちろんです。ご婚礼の場ではそういただいても……」
フレイム侯爵も少しだけ複雑な顔をしていたが、それも仕方ない話だよな。
訪問自体は『お忍び』だけど、公式の場では然るべき礼遇が必要になるし。
「我が王はこうも仰っていました。『新たな友の力になれるのであれば、それは我が喜びでもある』と」
ははは『新たな友』か……、そういう意味では陛下を始め一国の頂点に立つ者は皆、ある意味で孤独だもんな。
国王となってしまえば、対等の立場で話せる相手は居なくなる。そこに政治向きな点を意識しないで話せる存在ができたとなると……、それはそれで貴重だよな。
俺は『にわか』の王である自覚もあるし、ニシダとして庶民の記憶もあるから何となく彼らの境遇に馴染めないでいるけどさ。
「ならば皇帝陛下への招待状は僕が預かっておきますよ。これで更に手間が省けるというものですね。
ちなみに陛下は、お二人の婚儀にも帝国を代表する使者をお送りすると仰せです」
ここに更に新たに話の輪に加わった人物がいた。
それこそが予告もなしに現れた突然の参加者のひとり、今や帝国で侯爵となったジークハルトだ。
彼は毎年恒例の宴にはケンプルナ商会として代表を送って来ていたけど、まさか今回は自ら『代表』として参加してくるとは……。
「あ……、いや……」
「ほ、本当によろしいのですか?」
「あ、ありがとうございます!」
三者の反応は様々だった。
フレイム侯爵は返答に困っているようだが、それも道理だろう。
彼の役目は皇帝に面会し挨拶することも含まれているのだからね。
クラージュ王は恐縮して、アリシア殿下は目を輝かせていたけどね。
彼らの婚儀にも帝国から公式の使者が出されれば、二人は完全に帝国から認められたことになる。
「本来であれば三か国を回って主の言葉を直接お伝えしてご挨拶せねば礼を失することになります。
なので皇帝陛下には直接ご挨拶のうえお願いさせていただきたく思いますが……」
「もちろんフレイム侯爵のご来訪は歓迎いたしますし、それを省略することを勧めている訳ではありません。
ただ対面の場では帝国皇帝としての公式回答、『祝いの使者を遣わす』という形になると思います。
様々な目と耳があるなかで陛下も本心は言えないでしょうからね。なので書状だけは先に僕がお預かりして、内々に陛下にお渡しするというのが僕の申し出です」
「なるほど! それではお言葉に甘えてお願いいたします。ちなみに我らは内々に皇帝陛下をお迎えする準備も整えております。もちろんジークハルトさまを含めて」
「それでは帝都でお会いした皆さまとフェアリーで再会できるのですね!
そして……、私たちも初めての魔境に伺うことができるのですねっ」
ってか姫さま、嬉しそうに声をあげているけどさ、変な所があの『じゃじゃ馬』に似ちゃダメですからね。
それともずっとカイン王国の王家で孤立し、王宮に押し込められていたから、皆で何処かに出掛けること自体が嬉しくてたまらないのだろうか?
「あとジークハルトさま、私から宴の後で少し商売上のご相談でお時間をいただきたく……」
あれ、アリシア殿下の表情が少し変わったぞ?
何か……、企み事をしているような笑顔だが……。
「もちろんです。私はケンプルナ商会の代表でもありますので」
そう言ってジークハルトはアリシア殿下に恭しく一礼していた。
もしかして……、以前に発注していたカタパルトの件か?
まぁ、『商売上』の話なら俺が首を突っ込む必要もないよな……。
「ちょうど良い機会なので公王陛下にもお願いです。我が国から派遣する精鋭二百名はゴルパ将軍とも相談して選抜が完了し、今回の訪問に同行させております。このままアイギスでの訓練に参加させていただきたく……」
「あ! そうでした。僕も今回訪問した『大事な目的』の一つを忘れるところでした。
帝国から魔境での訓練に参加させる二百名を引率して来たので、このままお預けします。どうか存分にしごいてやってください」
ジークハルトの言葉、『大事な目的のひとつ』ってのが何か引っかかるな。まだ他にもあるのか?
なんか……、不安だな。
「先ほどのお話だと他にも目的があるように……」
「失礼します! 何やら魔境の話と聞こえたのですが、私も関わりのあることですので是非お話の輪に加えていただけないでしょうか」
ちっ、ここぞとばかりに思いっきり被せて来たな。
そう、この確信犯とも思える乱入は、もちろん二組目の予定に無かった来訪者だ。
「いや、兄さ……、ハストブルグ辺境公にも関わりがあると?」
俺の言葉に兄は悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
ヤバいな……、これは兄が何かを企んでいる時の顔だ。
「公王陛下の仰る通り、我が国では花嫁として嫁ぐ予定の『高貴なお方』はリュート・ヴィレ=カイン国王夫妻の婚儀にも特使として参加すると言って譲らず、王都で一悶着あったのですよ」
うん、でもそれは無理な話だ。
隣国との婚姻を控えた未婚の王女が特使として、しかも全く関係のない国に赴くなどあり得ない。
そこで今回の特使は兄が任命された。
実はこれが、兄がクサナギで新年の宴に参加しているもう一つの理由だ。
「そこでその方は、特使の件は妥協する代わりに、公国への輿入れのついでに『皆様よりのお誘いを受けて魔境に行く』と言い出す始末、今度は一歩も引かなくなってしまったのですよ」
は? 誰も誘ってないぞ。むしろ言い出しっぺやないかい!
なんか……、俺が悪者になる流れじゃないか?
「これに頭を抱えられた国王陛下と外務卿から直々に依頼がありまして……」
国王:『ハストブルグ辺境公には特使として随行の任を与え、婚儀以外の場では王女の護衛を命ずる』
外務卿:『其方は王国最強の剣士のひとり、まして魔境に慣れ親しんだ者として随員(護衛)には最適だろう』
「お二方からはそのような命を受け、新たな任務を申し付かった次第です」
ってかさ、元より兄さんはフェアラート公国と国境を接する西の辺境公なんだから、クラリス殿下の輿入れに同行しても不自然ではなく、むしろ当然の話だ。
ならばもしかして……、敢えて『じゃじゃ馬』と結託して、もっともらしい理由を付けただけじゃないか?
いや……、俺の邪推かもしないけどさ。
どうも当事者たちに都合よすぎる展開になっているよな?
「そのためにお約束通り事前訓練に参加させるために兵を率いて参りました。
この部隊は通常訓練も兼ねて我が配下であるエロール子爵が率いており、一千騎ほどになりますが……」
一千騎! なんか八百騎ほど多い気がしますが?
これにかこつけて、旗下の兵に対して魔境での訓練を行う気満々じゃないか!
ちゃっかりフローラさまも同行させているし……。旅行かよ!
俺は小声で兄に話しかけずにはいられなかった。
「兄さん……、今回もまた仕込みましたね?」
その言葉に兄は悪戯っぽく笑った。
やはり確信犯か?
「今回率いてきたのは魔境に慣れた元辺境騎士団第六部隊と第七部隊が中心で、王都騎士団から参加させた者たちも、かつて魔境騎士団に派遣されていた二百名だ。
なので土地勘もあるし、訓練や滞在費はこちらで対処するから迷惑はかけないさ」
真面目な顔でそう言ったあと、次に兄は少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
「今回は父上や母上まで参加しているんだろう? クリシアまで居るのに俺だけのけ者ってズルくないか?
母上には孫の顔を見せてやりたかったし、生まれたばかりの弟の子供も見たかったしな」
そう、身内から五組の来客とは、両親であるソリス侯爵家夫妻、叔父であるコーネル伯爵家夫妻、新たに辺境伯に任じたファルムス辺境伯夫妻、そしてボールド子爵家夫妻だ。
それに加えてゴーマン侯爵だが、彼だけはユーカに会うためか、毎年何かと理由を付けて単身で参加していたが、今回は夫人を始めユーカの妹に弟、家族を引き連れて参加している。
宴の前に俺は侯爵に連れられた夫人と初めて対面したが、彼女は息子の身が立ったことを涙を流して感謝してくれていた。
それに……、いつの間にか兄さんも父親になっていたんだよな。
辺境公として任地に赴任してから半年後、フローラさまは元気な男の子を出産したと話は聞いていたし、俺も贈り物は送っていたけど会うのは初めてだ。
「それにしても……、フェアリーでは凄いことになりそうですね。あの楽しかった帝都の夜が再現されるのでしょうか?」
いや……、アリシア殿下、変なフラグは立てないでほしい。
凄いことどころか、兄まで加わっておもちゃ箱をひっくり返した様な騒ぎになるのは目に見えている。
今から頭が痛いぞ……。
だが……、驚くべき出来事、新たな未来に繋がる出来事はここからが本命だった。
最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
次回は02/13『新たな年を祝う宴、繋がる未来(後編)』を投稿予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




