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47-謝罪と感謝


 最後の小人がジョバってしまい、俺は苦笑と申し訳なさの入り混じった表情を受けべ、創繋門(ゲート)をまた繋げた。


 リーサたちは先の小人たちを連れて風呂に入りに行ったと思うので、直接雑貨屋に繋いで小人たちに入ってもらう事にした。


「お前たちの仲間は中にいる」

「「「ころぽ」」」


 あれ、なんだか悪役っぽいな。ジョバった小人は腰が抜けたのか、地面を這いながら言われるがままに従います姿勢で従順になってしまっている。


 残り三人、爆笑していた小人はジョバった小人の両腕を片方ずつ掴み、ころころと笑いながらゲートの中に引きずっていく。


「興奮する奴がいると冷静になれると言うが…」


 燃えかけた小人は引きずられていく仲間の姿に冷静を取り戻したらしく、俺を見上げて「ころっぽ」と言って手を挙げると、三人のあとを追ってゲートの中に入った。


「なんだかドッと疲れたな」


 これで小人たちの回収は済んだ。地震が起きても大丈夫だろう。それに今朝の小人たちの様子では移住場所もダンジョンに決めたようだったし、色々と一度に解決できてよかったはずだ。


「次は犬人たちか」


 小人が探しが済んだ以上、わざわざ歩いて移動する事もないので、ゲートを開き犬人たちと出会った廃村

にお邪魔した。


「おーいッ」


 小人を探したときのように声を上げて犬人を呼んでみる。


「俺だ。カザミだ!」


 廃村には居ない様子だが、平たくほどほどに厚みのある石が、焚火を囲うようにして置かれたゴロゴロとした石の上に置かれている。

 見た感じだと簡易的に拵えた鉄板代わりだろう。昨晩は五人で鉄板焼きパーティーだったんだな。


 ずっと腹を空かしていた五人の犬人たちが空腹の夜を迎えなくてよかったと思うと、少しだけ、ほんの少しだが俺も嬉しい気持ちになった。


猛牛(レッド・バイソン)の鉄板焼きか。ステーキソースに付け合わせあれば完璧だな」


 ステーキ、焼き肉、バーベキュー。俺のレッド・バイソンは鞄の中か……。

 北東に伸びた轍だけが唯一の手掛かりだし、この後様子でも見にいってみるか。


 少し待っていると、昨日井戸の前に居た灰毛の片割れが姿を見せた。


「カザミ、声、した」

「やはりそう遠くない場所に居たんだな」


 ここから離れがたいのだろうとは思っていたが、食料を手にしても移住は考えていない様子だな。


「向こう、みんな、いる、会う」

「そうか。でもまあ灰毛だけでも大丈夫だ」

「なにか、あった」


 無くなった左腕を見ながら灰毛は言った。


「ああ、これか。これは空から落ちてな」

「そら、?」


 灰毛が空を見上げると、さっきまで晴れていた空が曇天模様と化していた。今にも降り出しそうな空、それを黙って見つめる灰毛。


 ふさふさの灰色の毛で覆われた表情を知ることはできない。


「気にするな。今日はお前たちに一言あってきたんだ」


 空を見上げていた灰毛は俺に視線を戻した。


「近いうちに――」


 地揺れがあると伝えようとしたとき、視界が揺れ、足元がおぼつかなくなった。

 咄嗟に地面に手を付き灰毛を見ると、灰毛は器用につま先で立ったまま尻尾を地面につけてバランスをとっていた。


「もうすぐ、収まる」


 灰毛は慣れた様子で口にしながら、しゃがみ込む俺にそう言った。


「そうか」


 思っていたより冷静な態度で俺の方が大袈裟に感じてしまう。数秒ほどで収まった揺れもたいして大きくなく、俺は黙って立ち上がった。


「次、その次、大きい?」

「本命の事か」

「そう」


 忠告なんていらなかったようだ。余震や本震のことをきちんと理解している。マドレーは地震について無知だったんだろう。灰毛を見ていると、この世界でも地震は起きて当たり前の様子だ。


「昔、揺れた」

「前の地震の話だな」


 マドレーが言っていた地震の事だろう。


「村長、言ってた」

「なにをだ?」

「井戸、枯れる、大地、沈む」

「そうか。知っていたか」


 井戸が枯れて世界の終わりだと言わんばかりに嘆いていたが、犬人たちは液状化現象の事も知っていたのか。それも大規模で起こるだろうと思われる事さえも。


「行くところはあるのか?」

「大丈夫」


 思案する様子もなく、灰毛は一言そう言った。だが俺は心配になる。行くところがない事ぐらい想像がつく。


「面倒をかけたくないと思っているなら、それは違うぞ?」

「行く、できた」


 行く場所ができたのだと灰毛はキッパリと言い切って、ずっと向こうの、俺が来た道を黙って見据えた。


「そうなのか」


 少しの間ができた。灰毛は黙ったまま視界の先、一点を見つめたままだ。


「なら皆によろしく言っててくれ。俺が言う事じゃないが移住も検討した方がいい。また顔を見に来るからな」


 俺は片手を挙げてさよならを告げながら、ゲートを開き中に入った。


「……―――」


 小さな声で灰毛が何かを呟いたのが聞こえた。ゲートが閉じる前、「謝罪と感謝」そう言っていた気がした。





「地竜に肉をご馳走する約束だったんだが、鞄を先に見つけないとな」


 ゲートを繋いだ場所は俺が空から落ちた場所だ。轍を確認をして後を追うように進み始めた。

 たぶんこの轍を引いたやつが鞄を持っていったはずだからだ。


「にしても降り出しそうだな」


 いつ降り出してもおかしくない空。陽の光を遮る厚い雲が空を覆っている。

 目で轍を追うが、ずっと遠くまで続いてそうだ。


「進む方角は変えていないようだな」


 また俺はゲートを何度も潜り距離を短縮する事にした。一度、二度、視界の端まで繋げたゲートを潜る。


 荒野は過ぎ、右手には徐々に森林が広がっていく。


「小人たちが居た森がここまで続いているのか」


 何度かゲートを潜ると、森の裂け目が現れた。轍はその中に向かって伸びている。


「ここを入ったのか」


 人が森に手を加えたようには見えないが、道幅の広い大きな道が出来上がっていた。

 木々が両際に立ち並ぶ並木道。


「これが桜だったら春に花見にでもくるんだがな」


 通常ならばそろそろ馬を休憩させてやる頃だろうと想像するが、辺りに休憩をとった様子もなく、轍を残した者たちは休憩をとらずにこの森の裂け目を通ったようだ。


 曇天模様で時間の把握が難しい。


「そろそろ昼か」


 腹が減ってきた。けれど雨でも降られれば轍が消えてしまう。


「昼抜きだな」


 昼食を諦め、俺は山岳へと続く一本道に足を踏み入れた。

 並木道を見ながら進んでいくが、魔物一匹いやしない。それにこの道は、どうやら山岳の山間部に続いているらしい。


「俺の目指していた港町も、あの山間からなら山越えしなくてよさそうだ」


 ゲートでちまちまと移動距離を稼ぎながら、心底馬欲しいと思う。こういう時に馬車があれば便利なんだがな。


 森の中は荒野よりも涼しく、初夏が過ぎたぐらいなのに木漏れ日が温かくさえ思えそうだが、嫌な曇天からついにポツリと雨が降り始めた。

 和服姿は少々暑苦しいと思うところもあったが、これしかないので仕方ないと思っていた。でもこういう肌寒い日には助かる。


 風が出てきた。和服を用意してくれたリーサに感謝しながら、俺は雨に打たれた。






 ようやく森の終着点に辿り着いた。一度足を止めて周囲を確認する。

 並木道が終わり、今度は山間部の入り口だ。風景がガラリと変わったが、両際の並木道が山の麓となっただけで、木々が生い茂っているのに変わりはない。

 これと言って気になる点はなかったが、残念なことに雨足が強まり轍に水が溜まっていく。


「泥水が轍を隠してしまったな」


 馬車がこの山間を通ったのは間違いない。雨でずぶ濡れの体に、見えない轍が気分を下げる。


「陽が落ち始めたか?」


 少し薄暗くなってきた。時間的には三時、四時頃だろうか。厚く黒い雲で時間の感覚がわかりずらい。


「俺も太陽の位置で時間を把握するようになったか」


 ふふっと笑いが込み上げた。思った以上に環境に適応し始めている自分に驚く。


「あー……。リーサの梅干し、鞄の中だな」


 ふと港町に向かっていた理由を思い出した。この山間の先は港町と繋がっているはずだが、やはり先に鞄を取り戻さなければ港町に行く意味がない。


 無理をすればまだ轍を追えそうだが、強まっていく雨足と両際に聳える山々に危険を感じた。

 ここを強行している最中に地震が起きれば、


「この雨だ。土砂崩れが起こる可能性もあるな」


 小人たちが山岳の麓の森から脱出した理由がわかった気がした。土砂崩れに呑まれれば小人たちは一貫の終わりだ。

 犬人や小人、自然の中で暮らす者たちは危険に敏感なのだと思い知らされた。


「帰るとするか」


 森の終わりと山間の始まりに立つ俺は、降り頻る雨の中、轍の跡を追うことをやめた。

 ゲートを開き店に戻ろうとすると、視界の端に空から一本の黒い雷が遠くに落ちたのがわかった。その瞬間、俺はえも痴れない恐怖を抱いた。


「――なんだッ」


 黒い雷が落ちただろう方角に意識を集中する。

 抱いた恐怖は【危険察知】で感じる感覚とは別の、いわばそこに何かが居るという、確信めいた第六感だった。


「この方角は――」


 森に遮られ見えない先に意識を集中している。靄が晴れたように、身体を打つ雨粒一滴さえ視界に捉える中、俺はスッと黒刀を抜いた。


「僕だよ」


 眼前に立った男の首筋に黒い刃の切っ先が触れる。


「フォールか」


 揺れる袖、無くなったはずの左腕が疼く。黒刀を下げると、フォールがヒラヒラと揺れる袖を見ながら口を開いた。


「どうやら、カザミの腕を貢物に呪法を扱った者がいるようだね」


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