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46―小人が拡散しかけた。


森を出て廃村に向かって歩き続けると、大地に茂る草類が減ってきた。徐々に荒れた大地が顔を覗かせ、それもすぐに草一つ生えていない不毛の大地へと様変わりしていった。


「ころっぽッ」


 腰帯から顔を出す小人が指を差して叫んだ。仲間を見つけたのかとも思ったが、


「あれは回転草だ。確か正式名称はタンブルウィードだったか」


 目の前を横切る枯草の塊。風の赴くままに転がっていく回転草に興味を引かれたらしい。


「「ころっぽッ」」


 蕗の葉を振って興奮気味に声を上げる二人の小人。


「ああやって種子を拡散して分布域を広げるらしいな」


 俺の言葉など聞いていないようで、小人たちは腰帯から身を乗り出して降りようとしている。

 森の外に出た事がないからか、見る物全てが珍しいようだ。


「危ないから慌て――」


 腰帯から落ちそうだったので、腰を下ろして地面に近づけてやろうとしたところ……


「ころぽッ」


 コロコロと転がっている枯草の塊、俺は視線を下げた事で枯草の塊から顔を出す小人と目が合った。

 しかも片手を顔の横から出して挨拶染みた行動をとっているのだが、小人の意思に関係なくそのまま風に運ばれていく。


「……本気(まじ)か」


 腰帯に入っていた小人たちは周囲に転がる回転草を見ながら、


「「ころっぽッ」」


 また声を響かせた。すると同調した小人の声がどこからともなく届く。


「「「ころっぽッ」」」


 そして俺は気づいた。気づいてしまった。小人たちが拡散しかけていると。


「ここを動くなよ」

「「ころぽ」」


 良い返事だ。

 だが俺は信じない。三歩進んで振り返る。


「せめて二人一組で行動しろよ」


 二人は互いに背を向けて歩き始めていた。

 荒れた大地で今にもどこかへと飛ばされそうになる回転草(小人たち)と、言うことを聞かない二人の小人。


「俺にどうしろっていうんだ」


 まずは地面に降ろした小人を捕まえて腰帯に戻し、風に運ばれて俺の足元にやってきた別の回転草を急いで拾った。


「「こーろぽー」」


 頸を横に振って残念そうに声を出した小人。俺は手に持っている回転草を地面に叩きつけた。


「今のはわかったぞ。残念って言ったんだろ?」

「「ころっぽッ」」


 俺の話は聞かずに転がっている回転草に指を差して声を上げた。


「あれかッ」


 俺は腰帯から指が差された回転草を拾いに走り出した。


「おいおい」


 手を伸ばしたところで勢いの良い風が吹き、あと一歩の所で手が届かない。


「「ころぽころぽッ」」


 なんだか急げ急げと言われている気がする。

 腰帯の二人を片手で抑えて飛ばないように気を使い、身体強化を自身に施し一駆けして開いた距離を縮めた。

 ガシッと掴んだ回転草の中には何か入っている感触が。手から伝わる感触と同時に中から顔を出した小人。


「ころぽッ」


 俺は新たな小人を手に入れた。


「増えてないか?」


 時間と共に風に運ばれてくる回転草。辺りには数十にもなるだろう回転草が俺を小馬鹿にしたように増え始めている。小人が入っているだろう当たりは六つ。今捕まえた小人を引くと後五つが当たりの回転草だ。

 小人入りの回転草を当たりと考えている自分に嫌気が差す。


 そしてまた足元に転がってきた回転草を拾おうと手を伸ばし、


「外れか?」


 掴みかけたところで小人に聞いてみた。

 すると、


「こ、こ、……ころぽッ」


 小人が回転草を見つめて一芸を披露した。

 それはみの〇んたがファイナルアンサーの時に使う<残念ッ>の間に似ている。そして小人は「ころぽッ」と時間差で叫んでいた。


 当たりか外れか、どっちだと思案していると足元の回転草はそのまま風に運ばれていった。


「こーろぽー、が残念だったから……当たりかっ」


 俺はまた駆けた。

 面白がっているのか、腰帯に一人増えた小人たちは無邪気に笑う。


「次はどれだ?」


 さらに小人が一人増え、俺は小人のスペースを確保するために腰帯を少し緩めた。

 あと四つ。小人入りの回転草がこの大量発生した回転草の中に紛れている。


 四人は飽きたのか腰帯からダラリと上半身を出して面倒そうに指を差した。それも四人共バラバラの方を指を差す。

 すでに腰帯は定員オーバーだ。だがこいつらを野に放つのはリスクが大き過ぎる。


「小人集めのコンティニューとか絶対イヤだぞ」


 地面に降ろせばどこかへ散って行くに違いない。それもそれぞれが別の方角へ。


「お、そうか」


 フォールの案を実行する時がきたようだ。


「お前たち帰っていいぞ」

「「「ころぽッ?」」」


 元気よく嬉しそうに頸を傾げた。本当に飽きて帰りたくなっていたようで、本当に帰っていいの? と頸を傾げた様子だった。

 創繋門(ゲート)をリーサの靴屋に繋げ、俺は一列に並ばした小人を順番に潜らせていく。


「はい次。はい次。お前は止まれ」


 四人目の小人は転がってきた回転草にまた戻ろうと走り出したので首根っこを掴んでゲートの前に置きなおす。

 不満そうに「ころっぽ」と地面を蹴って悪態を()きゲートの中に入っていった。そして次にいつも通りリーサの家と雑貨屋とをゲートで繋げておき、俺は目の前のゲート閉ざそうとした。


「よしっ」

「よしっ。じゃないわよッ」


 バシリと後頭部に痛みが走り、リーサの怒号が鳴り響いた。


「みんなでそろそろお風呂の時間ね。って話してたところに急に何? ゲートが開いたと思えば小人の行進って。(うち)は駆け込み寺じゃないのよッ」


 散々ネチネチと文句を言ったリーサは片手にスリッパを手にしたまま、風の様にゲートの中へと消えていった。 


「まあ、あと四人追加予定なんだがな」


 俺はゲートを閉ざし言葉を残した。


「リーサの家と雑貨屋を繋ぐ扉でも作ってみようか」


 毎日そろそろか? とゲートを開くのも面倒だしな。そうして俺は探知察知を発動させた。


「あれと、あれか」


 まず二人、探知察知に引っかかった近くの二人を回収しに行く。


「おい」

「ころっぽ」

「いい返事だ」


 回転草を解いて中から小人を出す。そして慣れた手付きで腰帯にイン。

 風に運ばれコロコロと転がっていく回転草の行く先に先回りして、右手でそれをキャッチする。


「あと二人だな」

「ころぽ?」

「こっちの話だ」


 中から顔を出した小人に返事をしながら腰帯に。


「あと二人、どれかわかるか?」

「「ころぽー?」」


 さっきの腰帯四人とは違い、本当にわからなさそうなので探知察知を発動させたままゲートを開き、空から荒野を見下ろした。


「結構散ってるな」


 まばらに散らばっている回転草だが、風向きが変わったようでほとんどが廃村に向かって転がっていく。

 だが俺はフェイクには騙されない。探知察知に移った青の光点と同じく、二つだけ妙に回遊魚のようにクルクルと一定の場所を回り続ける回転草があった。


「決まりだ」


 ゲートから顔を戻して俺は左右を見る。どうみても偶然回遊していますって感じに見えず、俺の傍に近づいてきては、視線を向けると離れていく。


「少しお仕置きが必要だな」


 俺は黒刀を抜き、右側で転がる回転草の近くに威力を最大限弱めた【雷薙ぎ】を放った。青白い三日月形をした雷閃光が地面に衝突し、点から周囲に地面を微弱な雷が走り抜ける。

 そして俺は同時に駆けた。少しばかりビリリとさせてやろうと、冗談半分でした事だったのだが。


「大丈夫かッ?」


 燃える回転草の中から小人を手掴みで救出する。枯草の塊はバチッと弾けた雷で発火してしまい、綿に火が付いたように盛大に燃え上がったのだ。

 ゲホゲホと煙に捲かれて咳をする小人。


「すまない。少し脅かそうと思っただけだったんだ」


 腰帯の二人は気にするな、と言うように「ころぽころぽ」と言って帯を軽く叩いた。手の中の小人は恐かったらしく目をうるうるとさせている。


「本当にすまなかった」


 優しく小人の頭を撫でていると、カタカタと音がしてふと視線を下ろした。するとそこには左側で回転草に入っていただろう小人が、慄然とした壮絶な形相を浮かべ、奥歯をガタガタと鳴らして俺を見上げていた。


「悪気はなか――」


 悪気はなかったんだと説明しながら手を伸ばそうとしたところ、伸ばされた手に恐怖が限界を超えたらしく、小人の腰から下、足元にかけてはすでに水溜りが出来上がっていた。

 まさかジョバってしまうとは……なんかすまん。ほんとすまん。


 腰帯の二人をジョバった小人の両隣に降ろしてやると、二人はガタガタと奥歯を鳴らして失禁する小人の肩を叩きながら、これでもかと言わんばかりに爆笑していた。


 何はともあれ小人が火傷一つしていなくて良かった。一人は立ち直るまでに時間がかかりそうだが、ある意味でこの出来事は小人内で拡散するんだろうな。


「すまないな」


 哀れみ交じりの謝罪を口に、俺は最後の一人を捕まえた。


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