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45―凄いんだけど残念な子達だったか


「ほう……あまり猶予は残されていないと言う事だな」

「そうなるわ」


 穀倉地帯を保有、管理していた村が、まるで蝋燭の灯を吹き消すかのようにあっさりと消えてしまった。

 マドレーは当時何が起きて村が消えたのか理由はさっぱりな事だろうが、俺は少なからず村の消え方と同じ現象を起こす事象を知っている。


「つまり、犬人族の居た辺りの地脈も上昇していて、地震が起こる前触れとして前駆現象が起きているのか」


 マドレーはグラスに口をつけたまま虚ろな目で俺を見ていた。

 前駆現象にはいくつか特徴的な変化が目に見える形で現れる。たとえば地表の一部が隆起したり沈降したりする。これが一番わかりやすいが、他には目に見えないところでサイレント地震、揺れのない長短期的にゆっくりと起こる地震だ。


 マドレーが言っていた震源地でしか気づかないほどの小さな揺れ、これが今回の前駆現象のサイレント地震に当てはまるだろう。犬人の居た辺りも気がつかなかっただけで井戸の枯れが地震の前触れだと顕著に現れている。

 そうなると、


「こいつらが森から逃げ出そうとしていたのは……」


 目を向けると小皿の中に仲良く顔を入れている二人の小人。彼らが集団で森を出ようと試みていたのは魔物や動物たちと同じく、(じき)に地震が起こる事を察知していたからか……?


 俄かには信じがたい。こいつら森の中でUFOキャッチャー景品よろしく並みに大鷲の爪にがっちり掴まれてたやつらだからな。勘がいいのか鈍いのか、よくわからん。


「明日かまだ先か、近いうち高い確立で液状化現象がまた起こる可能性があるな」


 小皿から顔を上げた小人はムスッとした顔で俺を見返してきた。


「その呆れたような顔、そんなんじゃ嫌われるわよ」


 リーサが俺の顔を見てそう言った。

 どうやら顔に出ていたのは俺の方だったようだ。小人の小さなお腹を指先でぽんっと押すと、体をふらふらさせて「こっぽ」と声を洩らしながら尻餅をついた。


「ねぇかじゃみ、こびとさんもお泊まり?」

「ん?」


 背中をトントンとたたかれ、脇から顔を覗きこませるロロア。

 尻餅をつかされ不貞腐れた格好でテーブルの上を右に左にとコロコロ転がっていたコロポックルがロロアに気づき「「ころぽっ」」と嬉しそうに声を上げてテーブルの端まで転がってきた。


「あぶないよー」


 ロロアがテーブルの端で受け止めようと両手を沿えたが、俺は遮断機を下ろすように片手の平で転がるコロポックルの先を塞いだ。


「そう言えばフロアは帰るんだったか?」

「んーんっ。フウちゃんとまっていいようにフォールがそんちょさんのとこいってくれた」

「村長さんな。まあそれなら一緒にこいつらも泊めてやってくれ」


 塞いでいた手をのけると、駄々をこねる子供みたいにうつぶせて手足をジタバタさせていた二人のコロポックルが、そのまま起き上がりロロアめがけテーブルから飛んでいく。

 が、


「あぶない。飛ばない。飛ばせない」


 フロアがどこからともなく手を伸ばして二人の首根っこをつかんで宙でぷらぷらとさせていた。フロアがロロアとトトに一人ずつコロポックルを渡すと、みんなでキャッキャッと騒ぎながら二階に上がっていく。


「小さいから踏まないようにな」

「「「はーい」」」

「「ころっぽッ」」


 子供たちに紛れて返事をしたコロポックル。お前たちは踏まれないように気をつけろ。


「それじゃあ私たちもおいとましましょうかね」


 リーサや村娘たちも食事が済んだようで、リーサの言葉にフォールが布を被せた皿を運んできた。


「はい。これ」


 礼を言って受け取るリーサ。それを物惜しげに見つめるマドレーはグラスに口をつけている。


「まだ余ってるのか?」

「海老はあるけどタルタルソースきらしちゃって」


 匙が添えてある木皿に一匹分程度のタルタルソースが余っている。


あの子(ルー)には言わなきゃ残り物って気づかないだろ」


 俺はテーブルに余っていたタルタルソースをフォールに渡した。フォールは海老フライの載っている皿の端に小皿を用意し余り物を注いで、皿に白い布をかけてもってきてくれた。


「ルーも喜ぶわ。わざわざありがと」

「これからは先に言ってくれれば取り置きしておくからね」


 グラスを置いたマドレーがフォールから皿を受け取り、


「ついでに一本貰っていっていいかしら?」

「好きにしろ」


 一言呟くと嬉しそうに微笑んだマドレー。

 けれどフォールは「色々聞かせてもらってお世話になったんだから」と小さめの木箱にラガーの瓶が六本入ったビールケースを持ってきた。


「いいのかしら?」


 気を使うわ、と少し遠慮気味に俺を見るマドレー。

 大丈夫だ。俺もただ酒だ。


「いいんじゃないか?」


 ゲートを開いた帰り際。

 リーサたちは先に帰宅し、あとはマドレーだけとなった時「そうそう。そう言えば」と振り向いて口を開いたマドレー。


「地震のあと門が閉ざされたと言ったじゃない? 周辺の村々は餓えるかと思ったんだけど、なぜか助かったのよ」

「子供たちが居たから深く聞かなかったが、俺はそっちの話の方が気になっていた」

「たしかに子供の前でする話じゃないわよね。それに他の農村も少なからず打撃を受けたはずなのに、次の畑の収穫のとき、収穫量が例年の倍ほど増えていたそうよ」

「なぜだか理由は知らないのか?」

「それが村の人は誰も応えなかったようで、私もそれ以上は知らないわ」


 それだけ言うと、マドレーはゲートの中に消えていった。


「飢えず、収穫量が増えたか」


 前者はどこかから物資の支援があったからだろうが、後者は復興に力を入れただけでは劇的な収穫高は見込めない。

 変な置き土産に頭を悩ませた。地震とは関係なさそうな話だが、関係しているとしか思えない。チラリとフォールを見てみるが、いつも通りキッチンで後片付けをしている。

 瓶を手に残ったラガーに口をつけた。


「まかせていいか?」

「うん。カザミは自分の部屋をどうにかしないとね」


 そうだった……床が血溜まりでえらい事になっていたんだった。憂鬱な気分でモップを手に二階に上がった。


◇◇◇


 朝から下が騒がしいな。早起きした子供たちがキッチンで朝食の準備でもしてくれているのだろう。

 今日は鞄を探しに落ちたところを見に行って、帰りにでも犬人に地震の事を教えてやろう。森にいた残りのコロポックルは、もうどこかに移動しているかもな。


「居たら居たらで連れてくればいいか」


 地震がくるのがわかっていて知らないふりはな……あっ、地竜に肉をご馳走する約束をしてたな。今日は店開き前の最後の休日だというのに、する事が多いな。


「「「おはよー」」」

「あぁ」


 思ったとおり、キッチンでは子供たちが朝食の準備をしていた。ロロアがフライパンにベーコンを並べて、その上にたまごを割り入れて塩コショウを振りかけ蓋をする。

 フロアは黙々とレタスを一枚剥いては洗い、また一枚剥いてはと、地味に要領が悪い。村では桶に汲んだ水を使っていたからだろうか、蛇口の下に笊かボールでも置けばよいものを。


「邪魔だよ。ちょっとどいて」

「おっと悪いな」


 冷蔵庫の前でボーとしていると冷蔵庫が使えないと、トトが俺の腰を押してどかそうとする。

 キッチンに居たら邪魔らしいので、とりあえず脱衣所で顔を洗う。近くに積まれたふわふわのタオルに手を伸ばし、顔に被せて水気を拭う。


「フォールたちはどうしたんだ?」


 ランドリーバスケットにタオルを放り入れてキッチンに向かう。


「コロとコロロつれてどっかいったよ」

「ラックは棚の上だよ」

「ん」


 フロアは何が言いたんだ。フロアを見てみるとオーロラソースをサラダに回しかけながら、窓の外を一度だけ見た。

 つられてキッチンの窓から外を見てみると、フォールの後ろ姿が見えた。


「コロ? コロロ?」 


 窓を開こうと鍵を外しながら聞いてみる。


「こびとさんのなまえだよ」

「へー、あいつらちゃんと名前あったのか」

「コロコロ転がっていたから、ロロアが名前をつけたんだ」

「そうなのか」


 トトが説明してくれて勝手に名づけたのだとわかった。


「なにをしているんだ?」


 開いた窓から顔を出して、外に居るフォールに聞いてみる。


「二人に森を見てもらってたんだよ」


 振り返ったフォールの手の平の上で、満足そうな顔を浮かべている小人たち。


「森の良し悪しでも判断してもらったって事か?」

「うん。すごく気に入ってくれたみたい」


 小人の顔を見ればなんとなくわかるが……


「あの森に住むのか?」


 視線の先に広がる森に目を向けた。


「ダメかな?」

「小人の勝手にすればいいだろうが、一応ここダンジョンだぞ?」

「地上よりは安全だよ。それに住人が増えればきっと楽しいよ」


 上は魔物が跳梁跋扈状態だしな。

 猛牛(レッドバイソン)が走り回っていたし、森では人攫いならぬ小人攫いの大鷲も空から好き放題だったか。


「好きにすればいいんじゃないか」


 俺の了承なんか得らずとも、小人が住みたいと言うなら勝手にさせればいいだろう。その程度の事なのに、窓を閉めようとする俺を見ていたフォールはとても嬉しそうに微笑んでいた。


「「ころっぽ」」

「何言ってるかわからん」


 片手を上げて挨拶でもしていたのか、相変わらず小人は何を言ってるのかわからなかった。


「ごはんできたよー」


 窓が閉まり際、ロロアが外に居るフォールたちを呼んだ。

 フォールが小人用の小さな木皿や匙などを魔法で加工して用意していたみたいだ。朝食の並ぶテーブルの上に小さなちゃぶ台が置かれていた。


 変な感じだ。小人が正座をしてちゃぶ台で飯を食っている。


「少し出かけてくる」


 朝食を終えた俺は皿をシンクに運び早々にゲートを潜った。

 ゲートの先は昨日空から落下した跡地だ。


「俺がしたのか……?」


 まるで漫画のワンシーンみたいな光景だ。爆心地が地面を抉るように、そこには草ひとつ生えていない半円に消し飛んだ地面があった。

 穴の中を覗きこんでみる。


「ない……か」


 思わず声がもれた。一晩ぐらい放っておいても拾われないだろうと思っていたのだが、そう思った時にこそ無くなっているものだ。

 上からじゃ見つけられないだけで下りたら岩陰に転がっているんではと、有りもしない偶然に期待を寄せスノーボードで滑るみたいに穴の中を下りていった。


 なにやら弾け飛んだような白く細かな――「俺の腕ッ」

 思っていた探し物と違う……風に靡く袖を見た後、足元に転がる腕だった肉片を見てしまう。


「まじかあ」


 人生の嫌な出来事ワースト3に入るぐらい見たくないし知りたくなかった。手首から上、指が残っているのが生々しい。


 鞄の中に上級ポーションが入っているから大丈夫だろう……そんな暢気な考えで居た昨日の俺を殴りつけたい気分だ。


「ん?」


 乾いた土の上に足跡が一つ残っていた。砂埃で消えかかっているが、確かに人の足跡だ。

 俺より先に誰かがここに居た?

 自分の足跡と見比べてみるが、やはり俺の足跡とは別物だった。ゲートを開き一度穴が開いている地上に戻る。


「馬車の轍だな。こっちは馬の蹄か」


 よく見ると地面には複数の大人の足跡もある。この穴を見つけて馬車を止めたのだろう。


「仕方ない。次は小人だな」


 轍はそのまま北東に伸びていた。俺は鞄に名残惜しむ様、地面に続く轍を見ながら森の入り口にゲートを開いた。


「居るかー?」


 森の外から大声で呼ぶが反応は無い。隠れているのかと探知察知で探ってみるが何もいない。森の静寂がどこか不気味に感じてくる。

 森の入り口付近にはいないので、仕方なく森の中に踏み入っていく。


 足裏で枯れ枝がポキリと音を立ててる。探知察知にはまだ反応がない。森の奥へと歩みを進めていく。


「本当にいないのかー?」


 探知察知には何も表示されていない。いないのは十中八九確定している。だがほんの少しだけ、俺の探知察知でも感知できないスキルや魔法を使っている可能性もあるので探し続ける。 

 意外と凄い魔法を使うのは俺の体で実証済みだしな。


「瀕死の俺をここまで瞬時に回復してくれたんだ」


 小人特有の隠れる魔法なんかもあるかもしれない。


「いないか? 本当にいないか?」


 見つけるのも一苦労だ。何度も声を上げているが出てくる気配もない。


「本当にいないな」


 ゲートを開き一度店に戻った。

 仲間が消えたというのに、俺よりも暢気にちゃぶ台で茶を啜っている小人が居た。


「みんなはどうした?」

「「ぽー」」


 茶を啜り息を吐く小人。

 言葉はわからんが一息ついているのだけは理解できる。聞いた俺が間違いだったな。


 店の方を覗いてみるがラックが棚の上から開いた扉の外を見ているだけで、店の方にも皆の姿はない。


「フォールたちはどうした?」

「ふんっ」


 靡く袖を見て鼻で笑いやがった。

 どことなく俺嫌われてるな感はあったが、それを隠そうともしなくなっている。


「外で勉強中」


 応えてくれるだけまだいい方か……


「そうか」


 外を見ると長い机で子供たちが並んで勉強していた。向かいに立つフォールが一人ひとりに文字や算数を教えているようだ。


「勉強を教えているのは知っていたが、結構本格的になってきたな」

「そこに木材が余っていたから皆で勉強できるように机と椅子を作ったんだよ」


 日捲りカレンダーの印を作ったときに余った木材を店の横に並べていたのだが、それは丸机を作ろうと思って取って置いた物だった。


 小人のちゃぶ台や木皿がついでに感じるな。


「そ、そうなのか」


 野ざらしでほったらかしていたからな。なかなか使わなかった俺も悪いか。


 フロアは文字の勉強をしているようで、フォールが用意したんだろう青黒い石版とチョークで書いては消して、何度も同じ文字を反復しているようだった。


 双子はいつも通り算数の勉強をしているようだ。


「もう用事は済んだのかい?」


 フォールの言葉で小人探し中だった事を思い出した。


「そうだった。残りの小人探しに茶を啜ってる小人を連れて行ってもいいか?」

「かまわないよ。二人も暇そうだったし、ちょうどいいんじゃないかな」


 俺はキッチンで茶を啜る暢気な二人を連れて行く事にした。


「すごく変な人になってるな」

「「ころぽ」」


 帯刀する黒刀、腰帯から顔を出す二人の小人。二人も慣れた感じで腰帯に入り蕗の葉を帯に立てている。

 元気良く返事をした小人。これは気にしたら負けと言うやつだ。


 ゲートを開きまた森の入り口に向かった。


「仲間はいそうか?」


 森の外から中を覗きながら頸を横に振る二人。

 どうやら思っていた通り、すでに移動したようだな。


「そうか、やはりいないのか」


 少しだけ森の中に進み、


「森の中にはいないか?」


 残念そうに「ころぽ」と言って頷いてみせた。


「昨日の大鷲は山岳の向こうに飛んで行ったのが見えた。たぶんどこかに避難しているんだろう」


 大鷲は確かに山の向こうに飛んで行った。そうなると小人たちは当初の目的通り自主的に避難していると考えるのが妥当だろう。


「お前たちはどこに行こうとしていたんだ?」

「「ころっぽ」」


 蕗の葉を森の外に向ける二人。


「向こうか?」

「「ころぽ」」


 俺は一度森の外へ。


「このまま外を進んでいけばいいのか?」

「「ころぽ?」」


 そこで頸を傾げるな。


「もしかして、森の外に行こう……しか決めてなかったのか?」

「「ころっぽッ」」


 元気いいなオイ。

 段取りも目的地すら決めておらず、とりあえず森を出ようで夜に移動を始めたのか。


「そりゃあ鳥の餌になりかけるわ」


 子供程度の思考能力というか、短絡的というか……これは骨が折れそうだ。

 後を追えるかと地面を見てみるが、体重の軽い小人の足跡は残っていない。


「少し考えさせてくれ」


 待たされている自覚はあるようで、暇そうに蕗の葉を揺らしている。


「俺は探してやっている側なんだがな……」


 自由すぎるだろ。そんな小人を見ながら迷子を探す気分で思考を続けた。

 一度赴いた事のある場所に向かう可能性が高いか。さすがに闇雲に歩き回る事はないだろう……ないよな?


 腰帯から上半身を出してだらりとしている。

 暇そうに蕗の葉を揺らす小人の姿に自信を無くしそうだ。


「森から出た事はあるのか?」


 返事をしながら頸を横に振る小人。

 はい。これ闇雲に歩き回ってるパターンだわ。


「残念な子達はここに戻ってくる事はないだろう。帰ろうにも絶賛迷子中だな」


 お前たちを見てたらものすごく自信を持って言えてしまう。

 言いたくはないが、平地をうろつく小人なんてサバンナに放たれた小鹿の様なものだろう。大鷲の一件で学べよ……


「廃村の方に歩くから周囲を見ておけよ。仲間がその辺うろちょろ歩き回っているだろうから」

「「ころぽッ」」


 これじゃあ小人の世話と言うより子供のお守だ。廃村に着くまでにいなかったら空にゲートを開いて探してみるか。

 まさかこんなところでフォールの案が役に立つとはな。


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