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ドラゴンの親戚だと思う地竜よりも脅威だとギルドマスターが判断した男が、籾殻を杵で叩き終わると竹筒を手に石を削って作られた臼の中を、ふー、ふーっと丁寧に息を吹きかけて籾から外した籾殻を臼の外へと散らしている。


「それが終わったらお米を瓶に入れてまた叩くのよ」


子供たちは見ているだけに飽きてしまったらしく、店先でおいかけっこを始め、マドレーさんやレレイたちは店の中で棚に並べられた商品を覗きに店内に入っていった。フォールさんは「麦よりも小さな粒だけど、まるで黄金の粒だね」と言いながら、終始カザミの作業を眺めていた。


「なんか俺の想っていた米と違うな」


そう口にしながら籾殻を散らした臼に手を入れて籾摺りを終えた玄米を掌に掬って見ていた。


「だから瓶に入れて木の棒で搗くのよ。そしたらあんたの知ってる白米になるから」


「まだ搗かせるのか?」


まるで胡乱な目で店の前の段差に座っている私の顔を見やっている。これ以上搗いて本当に意味があるのかと言いたげな目だったけれど「まだ精米しないといけないのよ。玄米を擦り合わせて摩擦で(ぬか)胚芽(はいが)を取り除けば、あんたの知ってる白米になるって言ってるでしょ!」と語尾を強めて口にすると「俺・・・玄米でいいわ」と汗を滴らせながらその場でうな垂れてしまった。


「疲れた。玄米で種麹作って、そのあと白米で米麹に変更しないか?」


確かに言われてみれば今急いで精米しなくても大丈夫だし、なにより種麹を作る段階だから玄米の方が麹菌も栄養素があるぶん活発になって白米よりも上手く出来上がりそうだわ。


「それもそうね。後は私がしてあげるから休んでていいわよ」


醤油が待ち遠しいのか、フォールさんはキッチンに向かった私の後をついてきて「次は何をするんだい?」と気になる様子で問いかけてきた。「あの玄米を四、五時間ほど水に浸しておくだけよ」と言うと、フォールさんはキッチンの戸棚に仕舞ってあったボールを取り出して「それならこれを」と口にしながら四角いテーブルの上に置いてくれた。「ありがとう。この大きさなら十分だわ」とフォールさんに応えると、臼や杵、玄米を鞄に仕舞ってキッチン戻ったカザミは「この中に玄米を入れればいいんだな」と口にしながら、手にしている鞄をボールの置かれたテーブルの上へ置いた。「ええ」と応えるとカザミは鞄を開いて、開け口をボールに向けると、中からサラサラと音を立てながらボールの中に玄米の粒が流れ込んでいく。


「よし、これで全部だ。麻袋一杯でも籾殻を取るとこんなものか」


「半分・・・とまでは言わないけど籾殻を除いた分、三割ほど減ったかしらね」


ボールを流し台に置いて水道の蛇口を捻ると、湧き出るかのように溢れる水が文明の利器を感じさせてくれた。軽く洗米したあと、玄米を水に浸してテーブルの上に戻し「このまま玄米に水を吸わして四、五時間置いとくだけよ。その間に木灰を用意しないと」と私がそう言うと「それじゃあ僕の出番だね。醤油のためならとっておきの魔法を披露しちゃうよ」と言って、カザミが扱う創繋門(ゲート)のような小さな暗闇の穴を現出させて、その中に手を入れた。まるでその時空の穴のような暗闇から手を抜くと、杖頭に透き通る透明な水晶が備え付けられた杖が、その手に握られていた。


「これが時間(トキ)を操る時空魔法だよ」


そう言ったフォールさんは杖の杖頭を玄米の入ったボールに翳すと「【傲慢なる支配(ロイ・クロノス)】」と言って魔法を使った。半透明な水色の球体がボールを包むと、その球体は凄い勢いで回転を始め、微かに霧を発生させた。


「そろそろかな」


翳していた杖を球体から離すと、その球体は回転を止め上部から消えていった。現れた玄米は水を吸い込んでいるのか、少しふっくらと膨らんでいる。


「今のは?」


フォールさんの言葉から時間を操ったのだと理解はしているが、そんな出鱈目な魔法を私自身が納得できるように聞いてみると「言った通りの時空魔法、今では古代魔法と呼ばれるひとつだよ」とサラッと口にしてみせた。


「まじか!」


その一部始終を見ていたのは私とカザミだったけれど、カザミは私とは違った反応をみせ「このキノコにもその時空魔法ってのをかけれるか? 干し茸の方が断然上手いからな」と口にしながら、鞄から茸をひとつ取り出した。


「さすがに茸の時間を進めても上手く乾燥しないと思うよ」


目の前で茸を手にするカザミと少し苦笑を浮かべて口にしたフォールさん。異世界生まれの転生者の私でも時間を操るなんて魔法、在りえてはならない魔法だと感じていると言うのに・・・茸の乾燥? 醤油のために? その使用目的に危機感すら感じないわ!

だけど一応確認はしとかないとと思い「その時空魔法は人や他の生き物にも適用されるの?」と聞いてみると「これは自我を持たないもの、つまり生物でも木々や花、カザミの持ってる茸とかになら影響を及ぼす事ができるね。他は建造物などの無機物なら使用可能と言うところかな」と応えたあと「あとは木灰だったよね? ここには暖炉がないから木を燃やすか、誰かに譲ってもらうしかないかな」と口にして、ニコリと意味深な笑みを浮かべて私に視線を向けた。はいはい。家の暖炉から木灰持ってきてほしいと言うことね。


「ほんとなら椿灰が良いのだけれど、まぁ木灰でも大丈夫と思うわ。ゲートを繋げてもらっていい?」


さっそくカザミが開いたゲートを潜ると、自宅のダイニングに出た。キッチンと併用のダイニングキッチンで、暖炉もここに設置されていてコンロの代わりを務めてくれている。私は暖炉のすぐ隣りに置いてある灰入れバケツにバールのような鉄の返しがついた棒を器用に使って積もった灰から掌で一握り程度の灰をバケツの中に集めた。ファイヤーバードと言った便利なものはないので、かわりにこのバールのようなものを使っているが慣れると遜色無い遣いようだわ。バケツを手に開きっぱなしのゲートを潜って灰の入ったバケツを持ってくると、ちょうど子供たちがキッチンに顔を出した。


「これを蒸したらみんなにも手伝ってもらうわよ」


子供たちは、まかせて! っと言ってボールの中を覗き込んだ。ザルを用意してシンクに置き「はいはい、水気を切るから顔を退()けてね」と声をかけてボールの中身をザルの中へ流し入れた。玄米の粒を割らないようにサッと軽く揺らして水気を切った。


「蒸し器はあるの?」と聞くと、カザミがキッチンの棚から蒸篭(せいろ)を取り出し「これでいいか?」と確認をしてきたので「大丈夫よ。あと清潔な布も必要だわ」と言うと、棚の引き出しから綺麗な布を取り出して「他になにか必要なものは?」と口にしながら蒸篭の上に置いた。


「ふるいがあったら出しておいて。木灰を均一に振り掛けたいから」


「ふるいと茶こしがひとつずつあるがどっちがいい?」


「どっちでもいいわよ」


鍋にたっぷりの水を入れコンロにセットし火にかける。湯が沸くのを待ってから蒸篭にカザミが用意してくれていた白い布を敷き、十分に水気を切った玄米を布を敷いた蒸篭の中に入れて布で包み込んでいく。


「あとは蒸すだけね」


湯気の発つ鍋の上に蒸篭をセットして蒸し始めた。


「どれぐらいで蒸しあがるんだ?」


「んー。玄米が一升瓶よりも少し多いぐらいだったから三十分ぐらい? たまに箸でついて様子を見ながら蒸し上がったか確認するのよ」


一通りする事も終え蒸し上がるのを待つ間、カザミは四角いテーブルに子供たちを集めると鞄から子供服と羽ペンとインクを取り出し「こっちがトトの着替えだが洗濯してからだな、とりあえず脱衣所に置いといてくれ。あとこれは文字の練習用にフロアにプレゼントだ」と言っているのが耳に届いた。


「文字の練習でインクなんて使ってどうするのよ。石板の方が消したり書いたりできて都合がいいでしょうに・・・」


「石板か。考えつかなかったな・・・そうだ、この服をロロア用に仕立て直してくれないか?」と言って、カザミは子供用の白いに近いクリーム色のワンピースドレスを広げてみせてきたけど、サイズもロロアちゃんにぴったりだと思う。


「仕立て直すってロロアちゃんにピッタリのサイズじゃないの? 一度着てもらってみれば?」


「サイズは問題ないと思うんだが、なんだか括れもなくてカワイイとは言えないデザインだろ?」


根本的に間違っているみたいね。この男にはベルトやリボンという発想がなかったのかしら。


「ベルトを捲いたりリボンを括ったりして着る物だからそれでいいのよ」


呆れたようにそう言うと、今頃理解したのか「そうだよな。これ単品で着る方がおかしいよな」と言いながら頷いてみせた。


「制服のついでにリボンも作っといてあげるわ」


「それは助かる。ならあとはフロアの石板か、どこで売っているか知っているか?」


「規模の大きな商店なら取り扱っているんじゃない? 文字を読み書きするのは貴族や商人ぐらいだから露店とかには置いてないわよ」


「となるとギルドの受付嬢が言っていた北側の貴族区に出向かないといけないのか」


「貴族区なら置いてるでしょうね」


「蒸し終わるまでに時間あるし、サッと行ってパッと帰ってくるか」


蒸篭の前で湧き上がる湯気を眺めていたフォールさんが、ふとこちらに振り返って口を開いた。片方の人差し指を立てながら「それならトトのお古を使うといいよ。文字の学習は済んでいるからね」と言って、トトくんに石板を持ってくるように促すと「ちょっと待ってて」と言ったトトくんが階段を上がっていった。


「ふーちゃん、これ使って。ぼくもこれで文字を覚えたんだよ」


「ん。ありがと」


フロアちゃんは素っ気ない返事だけど、小さな耳をぴくぴくと動かして感情が駄々漏れだわ。すごく嬉しいんだと見てとれて、ついくすりと笑ってしまった。


「これでフロアって読むんだよ」


「私の名前。これでフロア。むふー」


開いていた扉の先からマドレーさんが顔が出して「リンスが棚に置かれていないみたいなんだけど?」と言ってフォールさんに視線を向けた。それに気づいたフォールさんは「今商品棚にはキッチン用品類しか置かれていないんだよ」と言葉を口にすると「そうなの。入荷予定はいつ頃なのかしら?」と少し残念そうに言葉を返しながらキッチンの中に入ってくると、レレイたちも姿を現した。


「リンスは取り扱っていなかったんだが需要があるなら考えてみるか・・・まあ材料が入りしだいだから今は何とも言えないがな」


「予定は未定ってことなのかしら?」


「悪いがそうなるな。近いうちに試作してみるから今日はお試し用と言う事で浴場に置いてあるリンスを瓶に移して持って帰ってくれ」


そう言えば使ってもボトルの中身が減らないのよね。ふと二人の会話からそんな事を思っていると、カザミも「なぜか減らないからな・・・コンロと一緒で魔力で生成されているのか」と言葉を溢しながら少し険しい表情をしてみせた。水道があったり電気文化のないこの世界で電化製品が使えていたりと、謎の多い事だけどカザミにも詳しくはわかっていない様子だわ。


「そろそろいいんじゃないか?」


蒸篭を見ながらカザミがそう口にして、私が確かめに箸を手に取って玄米を少し掬ってみた。息を吹きかけ荒熱をとり、掌で粒をひねり蒸し具合を確かめる。


「うん。ちょうどいいわ」


コンロの火を止めて持てる程度に蒸篭を冷ましてから子供たちの座る四角いテーブルの上に運び「熱いから気をつけてね。あとは混ぜていくだけだから、子供たち(みんな)の出番よ」と子供たちに声をかけ、蒸篭から玄米を包んでいる布を取り出しテーブルの上に広げた。



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