はい。コレ ~フロアのクリスマス・番外編~
最近妙に違和感を感じるようになった。どういった違和感なのか? と聞かれれば、それはただ違和感を感じる。としか応えられそうにない。いつもはフォールが店に出ているのだが今日はその違和感を確かめるためフォールに代わってもらい雑貨屋のカウンターに腰を下ろしている。店内を見回している今このときも違和感を感じている。この違和感が何なのか、俺はそれを知るために店内を凝視し続けている。すると、店の扉がシャランと小気味よい鈴の音を響かせて開いた。
「きた」
ここ最近、毎日用もなく店に訪れているフロア。開拓村からは数日かかるため、店のあるこの階層に天幕を張って過ごしていると聞いている。それも今日までだと言っていたな。なぜ村に帰らずにいるのかは聞いていないが、フロアにも何か理由があるのだろうと詮索はしなかった。フロアが店に通うようになって七日。その七日間が俺に違和感を覚えさせている期間と重なっている。
「いらっしゃい」
俺から視線を逸らしたフロアは商品棚の前に移動し、なにやら商品を吟味しているようだ。そして「今日はこれにする」と言ったフロアは、店に陳列されている商品の中から高さ三センチほどの円筒状の淡いピンク色をしたカラーキャンドルを手に取ると、逆さまにして陳列し直したのだ。
組んだ両手を口元に置いていた俺は、その姿を見ながら「ふむ。なるほど」と小さく呟いた。
「これで黒いサンタがきてくれる」
満足そうな表情を浮かべたフロアは、そう言い残して店をあとにした。店の商品を一つひとつ丁寧に観察してみると、置物の飾り付けされた小さなツリーと雪だるまは逆さまに並べられ、置物のトナカイは角で器用に四点倒立させられ、サンタクロースの人形が背負っている白いプレゼント袋からはこれでもかと商品の靴下が溢れ出ていた。今日はキャンドルまでも逆さまにしていったフロアだが、この瞬間にも俺は違和感に襲われた。
「足りない」
数えてみると、地味に悪戯をされている商品は今日のキャンドルを含めて六つ、通っていたのは今日を含めて七日間。あとひとつ、どこかに悪戯されているはずだ。ん? あれ? 俺って嫌われてるのか?
双子「ただいまー!」
ラックが店の扉を開き、双子が二人で羽をばたつかせる小太りな七面鳥を抱えながら入ってきた。逃げようと抵抗する七面鳥を大変そうに二人で押さえつけながら「きょうのメインディッシュなのー」そう言ってみんなはキッチンへと向かっていった。
「今日はクリスマス・イブか」
クリスマスと口にしたと同時に、以前にサンタクロースの話をした事を思い出した。赤いサンタは良い子のところへ来年も良い子でいるんだよ。とその子の欲しいプレゼントをひとつ届けてくれる。黒いサンタは悪い子のところに来年は悪さをしないようにと子供が嫌がるプレゼント、動物の臓物に大量のじゃがいもや木炭を部屋中にばら撒いていく。そんなクリスマスのサンタにまつわる話を聞かせてあげたのだが、そう言うことか。
「どうかしたのかい?」
溜め息を漏らす俺の姿に、傍らに姿を現したフォールが尋ねてきた。
「サンタに期待しているんだ」
俯いた俺に「大人にサンタはこないよ」と、俺の肩に手をのせて優しく呟かれた。
「俺がじゃない。フロアだ」
なぜあのとき、ふとサンタの話を口にしたのか。それはフロアが晩御飯を食べていくと言うので鉄板焼きを振舞ったときの話だ。思った以上にホルモン焼きを気に入っていたフロアに「それは黒いサンタさんが動物の臓物を部屋中に撒き散らしていったんだ」と冗談のつもりで話したのだ。俺の話を聞きながら獣人のフロアは内蔵だろうがステーキだろうが肉食万歳と言わんばかりにペロリと平らげて「次、いつくる?」と、黒いサンタの事を聞いてきたので、ほろ酔いだった俺はクリスマスには赤いサンタと黒いサンタがいるんだと色々話を聞かせてあげたのだ。
「あの話か・・・」
頭を悩ませた俺に「子供に変な話を吹き込むからだよ」と言って、面白そうに俯く俺の顔を覗き込んできた。
「フロアの家っていえば開拓村の村長宅だったか。夜中に忍び込んで臓物を撒き散らすわけにもいかんだろ・・・じゃがいもと木炭は倉庫に大量にあるからいいが、ホルモンは時間との勝負か」
「今からなら夜には間に合うね」
「すぐ戻る」
立ち上がった俺は、ホルモンを入手するため団栗の豊富な森に出向く事にした。扉を開くとシャランと鈴の音が響き、ふと視線をぶら下げられているそれに目がいった。そして来客を知らせるベルが商品の鈴に変わっている事に今さら気がついた。
「七つ目これか!」
そういい残した俺は豚の生息している森にきていた。すぐさま一頭の豚を見つけて縄で縛り、ぶふぃーっと暴れる豚を抱えながら店先につくと、お亡くなりになられた七面鳥の羽を双子が二人がかりでがむしゃらに毟っているところだった。先ほど見た優美な姿はどこにもなく、むしられながら変わり果てられていく七面鳥に苦笑してしまった。
「とりさんのつぎはぶたさんだ」
「丸焼き追加だ」
逞しい子たちだ・・・お前たちならサバイバルでも十分生き抜けるだろう。木に吊るして血抜きを終えた豚の前で「おいしくいただきます」と、子供たちと一緒に合唱したあと、踏み台の上にのったトトが解体していってくれた。豚を一頭つぶすのにそれほど時間はかからなかった。手馴れたように解体された豚の部位をロロアが受け取り、テーブルの上で筋を取り除いたりしながら見事なブロック肉に姿をかえていく。俺は取り出された内蔵をバケツに入れ、水洗いしながら血生臭さと手から伝わる生暖かい温もりと潤滑液のようなヌルリとした感触を実感しながら吐き気と戦っている。
「そこはたべちゃだめだよ」
食していい箇所とダメな箇所の見分けがつかない俺。この食べてはいけない箇所は見た目てきに大腸か何かだろうか? 前に食べたホルモンの部位はどこかと聞くとロロアが「おにくにするのはロロアたちのほうがとくいなの」と言って、こちらの処理もしてくれた。俺にはまだまだ難しい。
◇◇◇
「かんぱーい!」
聖夜を向かえ、テーブルには豪華な料理が並べられた。見事な七面鳥の丸焼きに急遽追加された豚肉のステーキやバラ肉の串焼きなど食べきれない料理を前に、リーサやリーサの家に居候している村娘たちも呼んでクリスマスパーティーを開いた。リーサたちは気をきかせて子供たちにと新しい洋服をつくっていてくれたらしくプレゼントしてくれた。美味しい料理に嗜むワイン、これ以上ないほどの笑い声。楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
夜も深まり子供たちが眠りについたところで、俺とフォールにもプレゼントが渡された。まさかのサプライズに驚きながらも、白い布に包まれた中身を確かめると、黒いサンタの衣装が入っていた。もちろんフォールには赤いサンタの衣装だ。
「急がないと朝になっちゃうわよ」
こんなサプライズいらない・・・そう思いながら黒いサンタの衣装に着替えた俺は、じゃがいもと木炭、それに新鮮つぶしたての臓物詰め合わせを入れたプレゼント袋をかつぎ、ゲートを潜り開拓村に出向いた。
夜風が冷える。ふと見上げた空からは真っ白い粉のような雪が降り始めていた。ホワイトクリスマスに現れたブラックサンタクロース、なんともシュールな光景だ。
「ここか」
村長宅は蝋燭の灯りが消され真っ暗闇だった。スキル【沈黙領域】【暗視】を発動させて静かにフロアの眠る寝室に赴いた。ぐっすり眠っているのか、頭まですっぽりと布団にもぐり、中で丸まっているようだ。
「メリークリスマス」
小さく呟き、ベットの隣りにそっとプレゼント袋を置いて起こさないようにゲートを潜った。
「これ・・・来年もするのか!?」
クリスマスは十歳までだと教えようか・・・。店に戻ると「おつかれさま」とみんなが待っていてくれた。フォールはすでに用意していたプレゼントを双子の枕元に置いたようだ。トトのプレゼントはフォールが用意し、ロロアのは俺が用意しておいた。どちらも事前に二人に尋ねておいたものだから間違いはないだろう。
翌朝、街に用があり朝早くから店を留守にしていた俺は、空も暗くなり店に戻った。するとフロアがわざわざダンジョンを通り遊びにきていたみたいだ。双子と三人でプレゼントの話でもしているのだろうと、何食わぬ顔で近寄ろうとしたところ、
「もふもふのぼうしをおねがしたのにサンタさん、これもってきたんだよ」
なんだかお気に召さなかったような口調だが、もふもふの帽子といえばモンゴル帽でいいんじゃないのか? よくわからないが俺はモンゴル帽だとおもいプレゼントしたんだが・・・
モンゴル帽を裏返したロロアが「なかつるつるでつめたいんだよ」と言って、トトとフロアに不満をぶつけた。本当だ・・・内側は革になっていてリバーシブル仕様だったのか。すまんロロア、内側まで確認していなかった。
「ぼくのなんてもっとひどいよ! 新しい鞄が欲しいってお願いしたのにこれだよ」
そう言ってテーブルの下から取り出した物をみんなに見せる。
「かばん?」
「カゴ」
「でしょ! これどう見ても編みカゴだよね!」
うん。俺から見てもパンや果物を入れておくような編みカゴにしか見えない。フォールなにやってんだ・・・
「わたしは残念だった。頑張って悪戯続けたのに黒いサンタさんこなかった」
残念そうにそう口にするフロア。
確かに俺は昨日、村長宅にプレゼント袋を届けたはずなのだが?
「なぜか村長の枕元に大きなプレゼントが置かれてた。村長の方が悪い子だったみたい」
なん・・・だと。俺は耳元で「メリークリスマス」なんて言いながらプレゼントを置いていったというのに、やつは村長だったのか! げほっ。う"ぅ・・・気持ち悪くなってきた。
「あ、かじゃみ。おかえり」
「大丈夫。来年はサンタさんにお祈りするんじゃなくて、お手紙にしてサンタさんに出してみよう。きっとサンタさんもみんなからのお祈りでよく聞こえなかったんだろう」
「わたしは村長を超える悪戯をしなければいけない。来年はもっと激しくしよう」
そこは訂正しておこう。十歳までだと言うのもナシだな。来年こそはちゃんとしたプレゼントを用意してあげよう。
「あのなフロア、悪い子のところに黒いサンタさんがくるとは言ったが、来年は欲しい物を手紙にしてお願いしてみないか? そっちの方が確実だと思うんだけどな」
「赤いサンタはケチだから一つしかもらえない。黒いサンタさんは三つもくれる。冬の木炭は村では貴重。村人みんなたすかる。じゃがいももみんなにお裾分けできて寒い夜に温かいスープを食べさせてあげられる。なによりホルモン食べたい」
「村人のためにって思ったから良い子だと思われたんじゃないか」
フロアがいい子過ぎてなんか村長に腹立ってきた。
「それなら来年も悪い事は村長にまかせる。つぎは良い子でいるからプレゼントほしい」
「なにか欲しい物でもあるのか?」
「欲しい物はない。カザミのお店に悪戯してたのフロア。ごめん」
知ってるが・・・これといった害はなかったし気にしていない。むしろ俺が変な話を聞かせたせいだしな。
「気にするな。それより欲しい物はないけどプレゼントが欲しいってどういう事なんだ?」
「赤いサンタも黒いサンタもフロアのところにきてくれなかった。フロアは良い子じゃなかった。来年は良い事いっぱいして良い子になる。二人みたいにプレゼントもらってフロアは良い子って確認したい」
こんな子供に自分は良い子じゃないと思わせてしまうとは、イヤな思いを味あわせてしまったようだ・・・。来年は挽回させてみせよう。
◇◇◇
翌年のクリスマス・イブ。
「おい村長。いいから悪い事しろ。なんでもいい。みんなが嫌がる事をしろ」
「ど、どうしたんですかの、いきなり」
言い寄るカザミ、戸惑う村長。
「悪さをすればプレゼントが届く。村の人も冬を越すのに去年のような木炭やじゃがいもはたすかるだろう。あれは悪さをする者のところにくる黒いサンタの仕業だ」
「なんと、悪さをして村のみんなが冬を越せるのなら、この村長頑張りますわい」
その日の夜、眠りについた家々をベルを片手に村長が安眠妨害をして回った。もちろん一番に起こしたのは同じ屋根の下に住んでいるフロアだった。俺は村長宅の扉の隙間からフロアの寝室を覗いているのだが、目を覚ましたフロアに眠る様子はなかった。
「村長どこか行った。土間を暖めておく」
凍えて帰ってくるだろう村長のためにと、フロアは少ない薪に火を熾して村長の帰りを待った。
「これじゃあプレゼントを置けないだろう!」
俺は玄関の前にプレゼント袋を置いて帰ることにした。その日の夜、またも双子たちのもとを訪れていたフロアは「サンタさんこなかった。薪が入った大きな袋が落ちてた。落とした人が取りにくるかもしれないから今日はもう帰る。また」と、サンタの報告を双子に済ますと、フロアは帰っていった。薪と食べたいと言っていた新鮮なホルモンをフロアのために入れておいたのだが手をつけていないようだ。寂しそうな背中に「来年は靴下を枕元に置いておくと必ずきてくれるぞ」と声をかけておいた。
翌々年のクリスマス・イブ。
「おい、村長。今年はベルを鳴らすな。サンタがビックリしてプレゼントを落としたそうだ」
言い寄るカザミ、戸惑う村長。
「そ、そうでしたか。それは悪い事をしてしまったようで・・・悪い事をするのですよね?」
「もう悪い事はなしだ。おとなしく寝ていろ。そしたら赤いサンタがきてくれる」
その日の夜、村長宅を訪れると、ぐっすり眠っているフロアの枕元には白い大きな靴下が置かれていた。
「三年越しのメリークリスマスだ」
俺はそっとプレゼントを置いてフロアの眠る寝室を出た。毎年新鮮なホルモンはかかさずにプレゼントしていたのに食べていないと言っていたな。今年こそは双子と笑ってプレゼントの話しができるだろう。
なにやら扉から灯りが洩れ出ている部屋があり、少し灯りの洩れ出る隙間から中を覗いてみた。すると、眠る村長の枕元に白い靴下と一枚の手紙が置かれていた。俺は村長からサンタへ宛てた手紙だとピンときたので、読ませてもらった。
<胃薬もセットでお願いですじゃ。from村長>
「お前か!」




