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リーサや村娘たちは、出しっ放しだった創繋門(ゲート)の中から顔を覗かせたフォールに連れられるように店へと向かった。店側でもゲートは現出させたままだったので、誰も姿を現さずに開きっぱなしだった事に気になったフォールが覗いたようだ。村娘たちのなかではお風呂が何よりの癒しになっているらしく、まだ風呂を利用した事のないニーナに他の村娘たちが昨日風呂に入ったことを自慢していた。

俺たちもリーサの家の勝手口を使わせてもらい、東の商業地区の通りに出た。魔導具店はお向かいさんなので通りを横断するだけだ。ここではロロアの新しい洋服とエプロンを買う予定でいる。他にも今日はトトの着替えとフォールに本を、フロアにも何か欲しい物があれば買ってあげようか。どうせゴブ村で頂いた金だ、フロアとゴブリンの(コロニー)に出向かなければなかったものだし、多少残れば儲け(ラッキー)だと思って双子とフロアのために使わせてもらおう。残ってくれ丸机代金、そう心の中で小さく声にしながら店の扉を開いた。


「いらっしゃい」


イヌミミ少女のルーが、以前とかわらずカウンター越しで出迎えてくれた。先日立ち寄ったときは何を購入しなかったが、店を出る前に洋服屋の事を細かく教えてくれたいい奴なんだよな。

ルーはどうやら俺の顔を覚えていてくれたようで、はっ! と何かを思い出したかのような表情を浮かべたあと、淡々と言葉を口にした。


「店主のマドレーは外出しています。取り置きの商品ならすぐに用意できますが?」


頭を傾げて、その事だよね? と言いたげにイヌミミをピクリとさせて俺の返答を待っていた。


「店主は留守なのか。それなら今日は取り置きしてもらっていた洋服と大人用と子供用のエプロンを一つずつ頼みたいんだ」


エプロンという単語を口にしたとき、ルーの背後でふわりと動いた尻尾が見えた・・・すごくしっぽを振り続けている。店主のマドレーもそうだったが、なぜそんなにエプロンに執着しているのか俺には理解できそうにない。


「かしこまり」


エプロンで興奮しているのか、最後まで言葉を発さずに軽くお辞儀をするように頭を下げると、足早に店の奥へと消えていった。


「人いっぱい」


「まえのほうがいっぱいだったの」


村育ちのフロアは人の多さに興味をもったようで、店内に入店してからも窓から通りを行き交う人々をロロアと並んで眺めていた。確かにロロアが言う通り、以前の方が騒がしかった気がする。前はもっと冒険者の往来が多かったが、今はダンジョンに居るから少ないのだろう。それでも村育ちのフロアには見知らない人たちが居るだけで物珍しい気分になるのかもしれないな。

そんな二人の背後に設置されている商品棚に熱い視線を送るトトの姿が視界に入った。トトは魔導具に興味をもったのかと思ったが「やっぱり棚が似合うね」と言いながら商品棚にラックを陳列させていた。

まぁ雑貨屋でもよく棚の上から落ち着いた様子で店の扉を眺めているから商品を壊してしまうという事はないだろう。


「おまたせしました」


戻ってきたルーがカウンターに重ねられたエプロンと洋服を置いて「こちらが子供用エプロンになります」と言って先に小さなエプロンを広げてみせた。他意はないと思うのだが、洋服はカウンターの隅でちんまりさせられている。


「白は汚れが目立つから黒や茶色といった暗い色合いの物はないか?」


顔を隠す様に俯いたルーは、チッ! と舌打ちをして「白以外ありえません!」と再度強調するように口にした。白以外ありません。白以外扱っておりません。的な事ではなく、どう考えてもルーさんの私欲が混ざってある、白以外ありえません。だったので、あまり問答になるのは面倒くさいのでここは引き下がっておいた。


「あー・・・はい。これでお願いします」


棒読みのような口調になってしまった。ルー自身にもかなりエプロンに(こだわ)りがあるみたいだな。エプロンにご執念の間に洋服の方を鑑定しておく。


<ドレス 洋服=Aランク ワンピース仕立ての清楚なドレス>


マドレーが言っていた通りAランクなのは確かなようだ。以前見せてもらったとき、見た目は胸元に縦に付けられた三つのボタン以外はよく見るワンピースだった。クリーム色でロロアが着れば膝上ぐらいのスカートだろうか、これから本格的な夏が訪れるだろうが長袖でも地下の涼しいダンジョン内ならそれほど暑くないだろう。ただ強いて言えば胸元からスカートの端までストーンッと、ひとつのロールのような不細工な仕立て方になっているとこが気になる。これはリーサに頼んで腰の辺りに括れをしぼるなり少し手を加えてもらった方がいいかもしれない。俺から見ても可愛いとは思えないデザインだ。


「こちらの大人用エプロンは黒も用意できますがどうしますか?」


「え?」


鑑定結果に満足しながらワンピースのリメイクはどの様な仕上がりがいいだろうかと想像していると、不意にかけられた言葉に理解が追いつかなかった。白以外は論外だと言い切りそうな勢いだったのに・・・あるんだ。

俺は今、キョトンとしたまぬけな顔をしていたと思う。そんな俺の様子にルーが「え?」と同じような反応を示した。「あ、悪い。なんでもない」と声をかけながら咳払いをして一呼吸おいた。


「他の色もあるのか。なら大人用は黒で頼む」


「はい。あなたが白のエプロンを着用する姿があまりにも残念な仕上がりだったので許可しましょう」


そう口にしながら静かに店の奥へと姿を消すルー。小さな声だったのでよく聞こえなかった事にしておこう。

戻ったルーはカウンターの上に黒と白のエプロンと洋服を並べ、再度商品の確認をとった。ついルーの言葉に俺やフォールの白エプロンの姿を連想してしまったあと、カウンターに置かれた黒のエプロンを見て、大人用もついでにと思った事に後悔と、黒のエプロンを用意してくれたルーに感謝の気持ちが湧いてきて複雑な思いだった。


「合計で金貨三十枚と銀貨五枚に銅貨五枚になります」


洋服が金貨三十枚だったからエプロン一枚銀貨二枚と銅貨七枚と銀粒五つという値段なのだろうか。それにしてもエプロン一着に日本円で二万七千円ほどは高い。ぼったくられているのか? でもルーがというよりは、この店自体そんな事はしないだろう。


「エプロンってそんなに値が張るものか?」


魔法付与(エンチャント)された物は例外なく一般に普及している商品よりも高価になります。これは以前にも説明しましたが防汚の魔法が付与されていて、素材自体燃え難い火耐性の素材で作られています。ただのエプロンでよろしいのなら他の店で安価なものを買い揃えられると思いますがどうします? 汚れるたびに洗濯をする事になりますし、鍋をひっくり返したり暖炉の薪がバチリと火粉を飛ばすだけで穴が開いたりしますよ。このエプロンならそんな事を気にせず長くお使いできると思いますが?」


ルーの長たらしい説明よりも狂気染みた目が恐ろしく話しが全く頭に入ってこなかった。それでも魔法が付与されたものは高価になると以前にも教えてもらったことを思いだして得心した。これからは必要なものでもエンチャンされたものか、そうでないもので十分なのか考慮してから買うようにしよう。どんな説明をしていたのか思い出せないが、長く使えるというフレーズだけは頭に残っていた。今回はここのエプロンを購入しておこうか。


「あ、あぁ。そうだな。長く使えるのはいいな・・・」


支払いを済ますと、金銀銅の硬貨で膨れていた布袋がこじんまりとしたので、一応中身を覗いて確認しておいた。残りは金貨が二枚と銀貨が十数枚ほどに銅貨が三枚か。和服の代金に金貨三枚をリーサに支払って、ここで金貨三十枚の買い物。この布袋に金貨が三十五枚も入っていたと考えると結構な額を頂いたのだと改めて実感した。日本円で三百五十万円、額面上ではわかっていても金貨だとあまり大金を持っているという実感がもてなくて困るな。残金三十数万円ってところだが、これだけあれば十分他の買い物もできるだろう。

後ろの戸棚から一枚の布をカウンターに広げると、ルーはその上に畳んだエプロンと洋服をのせてさらに布で包んでくれた。


「布はサービスしておきます。次回からは編みカゴや鞄などご自分で持参するようにしてください」


エコバック持って来いと言う事でもなさそうだ。そういえば洋服屋でロロアの衣類を整えたときは気にもしなかったが、そのまま鞄に収納したような気がする。露店でパンや塩などを買ったときも、パンは鞄に直接収納したが塩は鞄から取り出した空き瓶に入れてもらったな。こっちの買い物事情を気にもしなかったが、事前に鞄などを用意しておく必要があるのか。ビニール袋などあるはずもないだろうが、靴屋のじいさんは紙袋を譲ってくれたと言うことか。知らないうちにリーサのじいさんに世話になっていたとはな。


「そうする事にするよ。忠告ありがとう」


魔道具店を出た俺は歩きながら周囲の目を気にしつつ巾着袋をいつものショルダーバックに戻した。その後洋服屋でトトの着替えを買い揃え、フロアに欲しい物はないかと尋ねてみると、意外にも文字を勉強したいと言ってきた。文房具屋なんて見かけなかったが、普段は羽ペンやインクをどこで手に入れているのか全く想像がつかない。


「とりあえず先に昼飯にするか」


飲食は酒場や宿でできる事はわかっているが、西側通りの酒場や宿に居るやつらはフロアのクマミミを見て難癖をつけてきそうだ。ギルドの酒場なら獣人も利用していたし、ここはギルドの二階にある酒場を利用するのが無難だろう。


「おひるだー! トマトのパスタがいいー」


「ぼくもお腹すいたー!」


双子は俺の周りを両手を上げてクルクルと足早にまわりながらそう口にした。ミートパスタがトマトのパスタと定着してしまっているが、ギルドの酒場にミートパスタなんてあるのだろうか。


「あるのかわからないが先ずはギルドの酒場に行ってみるか」


東側の商業通りからギルドのある南側通りに向かうには通りが交差する中央広場のすぐ側を通らなければならない。ロロアはトトと離ればなれになったあの場所を克服している様子だが、トトの方は大丈夫だろうか、なんて考えていたのは杞憂だった。中央広場の脇を通り南側通りに出たが、中央広場を見たトトは普段と変わらない様子だった。今日は広場で奴隷市をしていないようで、広場を行き交う人々の姿が目に映る。


「なんだかしずかだねー」


落ち着いた様子で言葉にしたロロアを見ると、道端で話しふける人たちの様子を言っているのではないのだと見てとれた。たぶん広場での奴隷市を指しているのだろう。


「そうだな」


気づかないうちに双子の二人は、俺の服の袖を摘まんでいた。俺はそっと二人の小さな手を握ってやると、二人ともニコリと笑って握り返してきた。

ロロアの隣りを歩くフロアも、俺たちの姿を見てロロアと手を握って歩きだした。ラックも気づかないうちにトトの隣りで小さな足を忙しそうに動かしながら横を歩いていた。広い通りだ、今ぐらいはこうして歩いてもいいだろう。


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