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「調子はどうだい? わからないところはあるかな?」


リーサたちが浴場に入ったあと、俺は鍛冶工房から彫刻刀を手に店先に出ると、フォールが入れ違うように中に入っていった。俺が木を切っているところを一人、やる事もなく眺めていたから暇だったのだろう。


「だいじょうぶ」


「うん。僕も自分でやる」


双子はフォールが用意した問題用紙を解いているところだった。


_______


問。

・店の商品銀粒三つの値段がする物を、お客さんが買いに来ました。あなたは銅貨一枚をお客さんから受け取りました。おつりはいくら渡せばよいでしょうか。

_______


店の扉を開いたままなので、フォールが読み上げた問題内容が中から聞こえてきた。俺は扉の前に腰を下ろして七センチ四方の四角く加工した木材に判にするための数字を掘っている最中だ。<1~31>までの数字を掘った判子が完成すれば、わざわざ紙に手書きして日捲りカレンダーを作成する手間が省けると思ったからだ。だが掘り始めて思った、これ一日で終わらん。


「わかんない!」


「僕もわからないよ」


少しは自分たちで考えようとはしていたのだろうが、双子はすぐに根を上げてしまったようだ。


「ずるいよ、ぎんちゅっ・・・ぎんつぶなんてみたことないもん」


「そうだよ! 銅貨も知らないよ。さっきまで足し算してたのに、こんな問題初めて」


中ではフォールの出した問題にクレームが入ったようだが、ロロア噛んだな。


「二人とも硬貨を知らなかったのかい?」


「しってるけどしらないの」


「お金って事は知ってるけど」


「そっか。硬貨の価値がわかっていないんだね。これは僕の失敗だね、ごめんよ」


「だからおしえてほしいの」


「銀粒から教えてよ」


なんだが中も大変そうだな。


「カザミー! 硬貨持ってないかい?」


ついに呼ばれたか、まぁ店の硬貨入れは空だしな。俺は彫刻刀の刃先に革カバーを嵌めてから店内に移動した。


「ちょうどゴブ村で頂いてきたのがあるぞ」


俺は鞄から金、銀、銅、銀粒の入り乱れた布袋を取り出しテーブルの上に置いた。


「ちょっとカザミ? ゴブ村から頂いたって、こんなに村人が渡してくれたのかい」


「あぁ。納屋から薬を持ってきてくれた時に一緒に渡されたんだ。ゴブどもがキャラバンなんかを襲ったときに持ち帰ってきてたらしい」


「いいの? そのひとこまってるとおもうよ」


「返した方がいいと思うな」


双子も追い剥ぎという事を理解しているのだろう。自分たちも同じような経験があるからかもしれないな。


「返したいが、その人たちはすごく遠い場所に行ってしまったんだ」


そう言って双子の頭の上に掌を置くと「ままやぱぱがいっちゃったとこなんだね」と、ロロアが俺の言葉を理解したように口にした。俺はどう言葉を返してやればいいのか、言葉に困った。


「僕もロロアもちゃんとわかってるから、だから大丈夫だよ。ねぇラック」


俺はその時、どんな表情をしていたのだろうか。トトが俺の顔を見やってそう言葉にし、いつの間にか双子の足元に居たラックを抱き上げた。


双子に視線を合わすよう俺は床に膝をつけると、自然と言葉が漏れ出していた。


「いつか両親の墓を建てに行こう。二人が住んでいた森に」


言葉を口にしながら二人の顔を交互に見ると、二人ともコクリと頷き


双子「ぜったいかえる」と、小さく言葉を口に、涙で顔を濡らした。


今まで双子も考えないようにしていたのだろうか。不意に溢れた感情は本人たちでもどうする事もできず、ただただ涙を流す事しかできずにいたんだと思う。

そんな双子の姿に、フォールは優しく二人を抱きかかえて二階へと姿を消した。


俺は二人に何をしてやれるのだろうか、店先でポツリと座り込んで風に当たっていた。


「どんな様子だ?」


歩み寄る気配に気づき、二人の事を伺った。


「二人とも泣き疲れたみたいで、ラックと三人で丸まって寝てるよ」


俺の座る隣に腰を下ろしたフォールは、店先に散らばる掌ほどの正方形の角材を手に説明してくれた。


「そうか。まさかこんな事になるとは・・・すまなかったな」


あえて触れないようにと両親の事には気を配っていたのだが、些細な事から二人の記憶を呼び覚ましてしまった。


「大丈夫だよ。あの子たちは強い子だから」


日捲りカレダー。作るような気分ではなくなったな。そんな俺の気分とは裏腹に、フォールは俺の掘っている途中の角材を見て魔法をかけた。角材にどんな魔法を施したのかはわからないが、見る見る内に数字の1が掘られた判子ができあがった。


「今のは魔法か」


「形状変化魔法だよ」


さらっと口にする姿に、今始めて魔法を極めた賢者っぽく見えた気がするな。


「魔法ってのは便利なもんだな」


俺は角材に手に、地面に<1~31>と書いた。


「それぐらい口でいいなよ」


「それより聞きたかった事があるんだ」


「なんだい?」


開拓村のフロアに言われてから、ずっと気になっていた事があった。これは俺自身の事だ、俺は魔法を使っているのか、能力(スキル)を使っているのか、正直自分でもよくわかっていない。地竜の棲処で戦ったフォールなら、俺の扱うこの現象に答えてくれるかもしれない。


「俺は魔法を使っているのか?」


「そのことか」


フォールはいつか尋ねられると思っていたのか、まるで問われる事をわかっていた口ぶりで話を続けた。


「カザミの繰り出した技は全てスキルだよ。スキルは後天系で修行や経験を積めば得られる可能性のある能力だね」


「そうか、スキルだったのか」


話を続けながら、フォールは角材を数字の掘られた判子に変えていった。


「でもね、スキルなんだけど魔力を使っているんだよ。これが矛盾しているよね」


「矛盾?」


「そう、矛盾だよ。スキルは魔力を持たない者が会得する能力で、それは体力や精神など目に見えない物に依存しているんだ。

でもカザミのは違う、スキルを魔力で発動させているんだよ」


「俺の知るスキルも魔力で発動する事はないな。スキルポイントというポイント、つまりスキル専用の源を消費していた」


判子を作る手を止めて考えだした。すでに判子の作成は終わりに差し掛かっているが。


「魔力がそのスキルポイントの代替になっているとは考えられないかな」


「なるほどな、それも有り得る話かもしれないな。ゴブ村に同行したフロアという少女の話をしただろ、魔力が枯渇したんだろうとフォールの言っていた・・・」


「今朝の話だね。うん、覚えてるよ」


「あいつにスキルが付与してある武器を譲ったんだ。武器を渡すまでは魔法なんかは使わずに闘っていたんだが、そんなやつが魔力の枯渇を起こしたぐらいだ。たぶん俺の渡した武器がフロアの魔力を消費してスキルを発動させていたのかもしれない」


俺の話にフォールは驚いた顔を浮かべて見せた。


「魔法付与は知っているけど、スキルを付与する事なんてできるのかい?」


「できるはずだが、正直自分の扱える魔法やスキルはうろ覚えなんだ。前の世界では習得したスキルや魔法をウィンドウで確認できていたんだが、こっちではそれができなくなっているんだ」


「ウィンドウ?」


「画面に・・・。簡単に言うと習得した内容を書き記したようなものだ」


フォールは最後のひとつの判子を作り終えると同じくして「それなら僕に考えがあるよ!」と、立ち上がったフォールの足元に今まで積み上げられた判子のタワーが立ち上がる勢いで一気に崩れ落ちた。


「いきなりどうしたんだ」


俺はおもわずフォールの顔見ながら返答を待った。


「カザミがよければ鑑定してあげるよ」


その手があったか!

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