はい。コレ ~双子のハロウィン・番外編~
「今日はハロウィンか」
「ハロウィン? なんだいそれは?」
「悪魔を祓うと同時に収穫祭でもあるんだ。ようは皆で秋の実りをお祝いしましょうって事だ」
フォールが淹れた朝のコーヒーを啜りながらポツリと呟くと、店先を掃き終えたロロアが戻ってきていた。
「ご苦労様」
キッチンに居たフォールがロロアに温かい紅茶を淹れてあげ、ロロアは「ありがと」と言ってカザミの前の椅子に腰を下ろした。
「なんのおはなししてたの?」
子供に説明するとなると難しいな。単純に家々を回ってトリック・オア・トリートと言うだけの祭りだと説明すればいいか。
「悪魔がやってくる季節だから、家々を回って悪魔に取り憑かれた家から悪魔を追い出してあげないとなー。って話をしてたんだ」
「あくま? こわいのくるの?」
「そうだな。だから悪魔よりもコワい格好をして悪魔を驚かしてやるんだ」
「ちょっとトトもよんでくるね」
一人で聞くのはコワかったのだろう。トトを連れて戻ってきたロロアは「うん。もうだいじょうぶ」と、自身で納得した様子をみせていた。
「どうかしたの?」
「さっきの話、トトに教えてやってくれ」
「うん。えーとね。コワいのくるからコワいのがおどろくぐらいコワいのになるの。そんでね、そのコワいのおどろかすの」
間違ってはいないが、今の説明でトトは理解できたのだろうか。
「ありがと」
フォールはトトにも温かい紅茶を用意してあげたようだ。
「あとあれだ、その家の人に【トリック・オア・トリート】と最初に言うんだ」
「どういう事?」
くびを傾げるトトに、改めて話を噛み砕いて「悪魔が家に来る季節だから、悪魔をコワがらせて追い出すんだ」と簡単に説明すると「トリック・オア・トリートってのは?」と聞き返してきたので「まず家の人が出てきたら【トリック・オア・トリート】と言う。意味は【お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ】って事だ。それを聞いた人はオソろしさのあまりお菓子差し出す。その姿を見て、自分よりもオソロシイ悪魔がこの家にきたんだと悪魔に見せつける。そしたらその悪魔もコワがって出て行くって事だ」と言うと、あまりに長話でよくわからなかったらしく、双子はぽかんとした表情を浮かべ、二人そろってくびを傾げてしまった。
「ようはね、イタズラされたくなかったらお菓子を出して。って言って回るみたいだね。お菓子をくれない家にはイタズラをしてコワい悪魔さんに、もうこの家には居たくないよ。と思わせるって事だよ」
フォールが分かりやすい説明を口にして、双子も理解したようで「それじゃあコワいすがたになるのー」「コワい服をリーサお姉ちゃんに用意してもらおう」と言って、双子はゲートを繋げるよう頼んできた。
二人は両手を上げて楽しそうにゲートの中に入っていった。
「おじゃまするの」
「お邪魔しまーす」
「あら、二人とも朝からどうしたの?」
「コワいふくほしいの」
「トリック・オア・トリートするんだよ」
「ハロウィンね。ちょうどいいのがあるわよ。そこで待ってて」
「何かな?」
「かなー」
「はい。コレ」
「ありがとなのー」
「ありがとだよー」
「トリック・オア・トリートは子供にしか許されていないからね。大人が言ってきたらこれでお尻を突き刺してあげなさい」
「わかったのー」
二人は店に戻ってきた。
双子「ただいまー」
「おかえり。もう借りてきたのかい?」
「うん。これ借してくれたよ」
「くれたの。あれ、かじゃみは?」
「さぁ・・・どこか出かけたのかな?」
「そっか。トトとおでかけしてくるの」
ロロアは先っぽが三角の形をした細長い尻尾をつけ、頭には悪魔耳のカチューシャをつけて、片手には大きなフォークの様な物を持っていた。フォークと言っても、先端は尖っておらず、なんだか不自然なフォークに見えた。どうやら悪魔の姿を催した黒い衣装に着替えたみたいだね。
トトの方は、白いワンピースの衣装をロロアに着させられたあと、頭に黄色く丸い輪がくっついたカチューシャを付けられ、手にハートの形をしたステッキを持たされていた。
手を引っ張れながらロロアに連れ出されたトトは「これ女の子の衣装だよ」と言っていると、それに応えるように「リーサおねえちゃんが、おとこのこっていってたからだいじょうぶなの」と応えながら店の扉から出て行く後ろ姿が見え、二人とも背中に天使の羽と悪魔の羽をつけていた。二人を追いかけるようにラックは駆け出したが、背中に黒いマントを羽織らされ、口には長い二本の牙が見えていた。
「あくまのロロア、てんしのトト、それに吸血鬼のラックかな。なんだか騒がしくなってきたね。ねぇカザミ」
「戻ってきていたのに気づいていたのか」
「もちろん。それにしても大慌てで飛び出して行くんだもん。笑っちゃったよ」
「仕方ないだろ。まさか仮装して出かけるとは思わなかったからな。急いでお菓子を配ってきた」
「ははっ。魔物たちもまさか仮装してあの子たちが来るとは思ってもいないだろうね」
◇◇◇
双子「トリック・オア・トリート」
地竜「・・・」
双子の言葉に、地竜は黙ったままカザミに渡されたらクッキーを口で摘まみながら二人に渡した。
「おれいにあくまおいだしてあげるのー」
双子はクッキーを受け取ったお礼にと「わぁー!わーわーわー!」と叫びながら、地竜の棲処を駆けずりまわった。
「これで大丈夫だよ」
地竜がコクリを頷くと、双子は満足した様子で地竜の棲処を去っていった。
地竜「神獣とまで呼ばれた灰色狼が・・・ぶふっ」
どうやら地竜はラックの姿に笑いを堪えるので精一杯だったようだ。
◇◇◇
双子「トリック・オア・トリート」
ゴブリンは巣穴の入り口で何かを口にしている。
ゴブリン「むしゃむしゃ、ごっくん」
「ゴブがお菓子食べてる」
「トリック・オア・トリートなの!」
ゴブリンはお菓子を取られないように巣穴の中に入ってしまった。
「いたずらするの!」
「イタズラ開始だよ!」
二人はラックの羽織っていた黒いマントを捲ると、ロバが荷鞍を背負っているかのように、ラックの体の両側に小さな鞄が垂れ下がっていた。その鞄から二人は色とりどりのクレヨンを取り出してゴブリンにアタックを開始した。
「お菓子くれなきゃイタズラされるんだよ」
「これもゴブさんのいえのためなの」
ゴブ「やめてくれー」
顔中に落書きをされ、緑色のお腹には鷲鼻のゴブリンの顔が描かれていた。
双子「よしっ!」
二人はやり遂げたと言わんばかりの表情を浮かべ、ゴブリンの巣を去っていった。
◇◇◇
双子「トリック・オア・トリート」
べあ「いらっしゃい」
二人を迎えた大きな体躯のベアは、のそり、のそりと入り口の垂れ幕を捲って姿を現した。
体を覆い隠すほどの大きなマントを羽織りっている。
「トリック・オア・トリートなの」
べあ「べーあ、べあべあべあ。トリック・オア・トリート返しクマ!」
クマらしい笑いを口にしながらマントを広げ姿を現したベアの姿に、二人はゴクリと唾を飲み込んだ。
双子「おとなはダメだよ!」
ロロアは三又のフォークのような物を、べあのお尻に突き刺した。ぶるん、と揺れるお尻からフォークを離すと、お尻には悪魔が舌を出してからかっている姿をもよおしたスタンプが押された。トトも大きなベアのお腹をぺちぺちと手にしているステッキで叩くと、お腹にはハートの形をした枠の中に、こちらも悪魔同様の天使が舌を出してからかう姿のスタンプが押された。
「あははっ! お腹がピンク色の斑模様になってるー」
「こっちもしろくろのクマなのー。あははっ!」
べあ「しらなかったんだクマ。ゆるしてクマ」
子べあ「とうちゃんどうしたの」
ベアの巣穴の奥から現れたのは子供のベアだった。
「こべあクンだ! トリック・オア・トリートしてるの」
子べあ「ロロちゃんにトトくん。こんにちは」
双子「こんにちは」
子ベアは立ち上がり二人に挨拶をすると、二人も息を合わせるようにペコリと頭を下げながら挨拶をした。
べあ「助かったクマ」
ひとまず落ち着いた双子を前に胸を撫で下ろしたベアは、お尻を地面につけて「疲れたクマー」と言ってカザミに渡されたお菓子を一口で食べてしまった。
双子「あー! おかし!」
べあ「あっ・・・食べちゃったクマ。わざとじゃないんだクマ」
「こべあクンもトリック・オア・トリートするの」
「一緒に言うの」
双子、子べあ「トリック・オア・トリート」
べあ「しかたないクマ・・・これで勘弁してクマ」
べあは大きな巨体を立たせて天井に開いた穴の中に手を入れて壺を取り出しロロアに手渡した。
壺の蓋を開けたロロアは「あまいのー! トトもこべあクンもどうぞなの」トトとこべあは壺の中に手を入れて中身を指先で掬い上げ口にした。
こべあ「はちみつだー!」
「蜂蜜おいしいー!」
「おなかすいたの。こべあクンもいっしょにおひるごはんたべよ」
「家に帰ってホットケーキにしよー!」
こべあ「ぼくもいいの?」
「みんなでたべるとおいしいの」
◇◇◇
みんな「ただいまー」
「おかえり。悪魔は追い出せたかな」
「うん。だいせいこうなの」
「こべあクンとお昼はホットケーキにしようと帰ってきたんだ」
「これは見事な蜂蜜だね。よし。僕が美味しいホットケーキを作ってあげるよ」
「いしょうのおれいに、りーさおねえちゃんもよぶの。かじゃみかえってきててよかった。おかえり」
「あぁ。ただいま。悪魔の衣装か。似合っているじゃないか」
「うん! これ気にいったの」
「トトの方は・・・うん。まぁ似合っているな」
「トトはおとこのこだからってりーさおねえちゃんがいってたの」
「なるほどな・・・男の娘なんだな」
俺は微笑を浮かべながらゲートを開くと「僕は男の子だよー!」と、トトがワンピースのスカート部分をぱたぱたと仰ぐ姿を見ながら、ラックの方もどこかそわそわしている様子だった。
開いた店の扉から風が店内を吹きぬけ、ラックのマントがひらりと捲れ上がった。背負っていた鞄の中はクレヨンが散らばり、その中にはクッキーに飴玉、マシュマロに棒の付いたペロペロキャンディーなど、豪華なお菓子が透明の袋に入れられた詰め合わせが二つ、チラリと顔を覗かせていた。
フォール「あげそこなったんだね・・・」
カザミ 「あげそこなったのか・・・」
二人は見て見ぬふりをして口を噤んだ。




