21
「寝床に武器庫、次は収監部屋か」
そこは地面から天井まで木枠が組まれ、太い角材を格子状にして出来た牢屋のようだった。
「村から帰還したゴブリンか」
牢屋の中に入れられた娘は三人しかいないが、これで村娘は全てだろうかと考えている最中に、ゴブリンは襲い掛かってきた。
「鬱陶しい」
腰布を捲き片手に剣を持ったゴブリンの姿に飽きあきしている。どれも「ぐぎゃぎゃ」としか言わず刀を振ると地面に転がるだけ。
もう時期、陽が昇る頃じゃないのか。そんな事を考えながらゴブリンどもを斬っていると、気がつけば立っているゴブリンはいなくなっていた。
「これで終わりか。あとはあいつの方だな」
娘達を牢から出そうと牢の扉に近づいてみると、南京錠でしっかりと扉は閉められていた。
「あの・・・」
「開拓村の娘たちだろ」
「はい」
一番年長だろう娘でも十五歳にも満たないぐらいで、明らかにロロアと同じぐらいの十歳ぐらいの少女までもが囚われていた。その年長の娘と言葉を交わしているが、三人とも俺を見て身を寄せ合い固まってしまった。まるで俺に恐怖しているように見える。
「今出してやる。すぐ村に帰してやるから心配するな」
その言葉に安心したのか、少女が泣き出し、それにつられて二人も声を殺しながら泣き出してしまった。
俺は周囲を確認して鍵がないか確かめたが、鍵らしき物はなさそうだ。
「少し下がってくれ。鍵が見当たらないから斬ってしまう」
少女が鼻を啜りながら「あのゴブリンがもってた」と指を差して教えてくれた。
俺は地面にうつ伏せて転がっているゴブリンを足で仰向かせると、腰布が膨らんでいるのに気づいた。どうやらゴブリンの腰布の内側にあるようだが触れたくない。
「下がってくれ。斬る」
俺は娘たちを牢の奥に下がらせて格子状の角材を四角く斬り、出口を作ってやった。
「ありがとうおじちゃん」
少女は牢から出てくると、両手首を縛られた状態で涙を何度も手でこすり拭きながら感謝の言葉を口にし、俺はおじちゃんと呼ばれ心の中で流れた涙を拭った。二人も「ありがとうございます」と礼を口にしながら牢から出てきたようだ。
「怪我はしていないか」
三人に尋ねると、「だいじょうぶ」と少女が口にし、二人もコクリと頷きながら「はい」と伝えてくる。
俺はゲートを開き、「村の井戸の傍に出るからこれを通っていけ」と言うと、不安そうな顔を浮かべ「これいたくない?」と少女が聞いてきた。
「心配ない」
そう言って俺は手をゲートの中に入れて見せると「おうちかえるね。まっかなおにいちゃんばいばい」と言って、中に消えていった。薄暗いせいでおじちゃんに見えていたのだろうか。牢から出て近くで顔を見た少女は、おにいちゃんと言い残し村に帰っていった。残った二人に他に攫われた者はいるかと尋ねると「私たちだけです」と応えたので「そうか。村に残っていたゴブリンは全て始末してあるから戻っても大丈夫だ」と言うと「村まで救って頂き感謝します」と言い残し、一礼してゲートの中に消えていった。
「村娘はこれで終わりか。となると、フロアの向かった方は他から攫われてきた者か」
集落娘の二人は自分達だけだと言っていたし、集落と開拓村以外にも、この近くに居住している者がいるのかも知れないな。
「フォールの地図は当てにならないな」
俺は踵を返してフロアと別れた場所まで戻った。
戻る最中、寝床、武器庫、牢、まるでゴブリンが考え出したものではないような気がしていた。ぐぎゃっとしか口にしない魔物が、こうも巣の中に各施設を設けているのはおかしいと思い、順を追って整理してみる。
出産で使えなくなった娘をどうするかはわからないが、娘を補充するにはこの三つの空間は理に適い過ぎている。武器庫では舌を焼こうとしていただろう事も想像がつく。牢から連れ出し武器庫で舌を焼き、寝床に補充し子を産ませる。そんな流れをゴブリンが考えつくのだうか。
「進めば分かる事だな」
行く先に何が居るのか、思考の片隅におおよその想像はついているが確かめるまではと、俺は一抹の不安を振り払い、フロアの進んだ空洞へと足を踏み入れ先を急いだ。
おかしい。俺の探知察知に表示されていた赤、青の光点が消えている。
「いったい何が・・・」
空洞を抜けると今までのようなこじんまりとした空間ではなく、明らかに時間をかけて作り上げたような大きな空間が存在していた。視線の先には大きな釜と、長細いテーブルに置かれたまだ温かい料理が並べられている。
「こいつはホブか」
大釜の裏手には、村でフロアが闘っていたの同種のホブの亡骸が転がっており、フロアがここに居た事は容易に想像がつく。
「フロアも他のやつらもどこに消えたんだ」
俺は辺りを見渡してみたが、これといった抜け道のようなものはない。まるで神隠しにでもあったかのように忽然と姿を消したようだった。
岩壁を調べ、入り口のような仕掛けがないか念入りに調査してみたが、何も変わった様子はない。
「どういう事なんだ」
言葉を口に行き詰りながら、進んできた入り口の方に視線が向くと、入り口の上部に大きなシンボルマークが描かれた布が見えた。その布を注視してみると、微かにだがふわりと揺れたのを俺は見逃さなかった。
「あそこか!」
身体強化を施し、垂れ下がった布に向かって跳躍し空中で布を斬り捨てると、ひらりと舞う布の背後から抜け穴が現れた。俺は跳躍したまま中に飛び入った。
暗く、松明ひとつない。光玉を使い中を照らすと、人が一人通れるかほどの抜け穴が、緩い傾斜と共に上へと続いていた。
地面は踏み固められており、土埃の微かな土臭さ漂っている。
「間違いない。少し前に通ったあとだ」
光玉を先行させて駆け出した。足音が抜け穴の中に響き渡り、微かに風が吹いている。
「どこまで続くんだ」
緩い傾斜は上へ上へと続いていき、ついに出口が見えた。
「もう陽が昇り始めているのか」
出口を飛び出した俺は、赤みがかった朝日が一身に受け、夜明けの訪れを実感した。
どうやら石が積み上げられた祠のような出口になっているらしく、その祠は村から少し離れた場所に造られていた。
「村・・・か」
村は角材で作られた柵に囲まれており、見える村への入り口の両脇にはトーテムポールが立っていた。あのトーテムポールの模様には見覚えがある。あれはゴブリンの巣の入り口付近で見たトーテムと同じ柄だ。間違いない。ここはゴブリンの村だ。




