20 [店は臨時休業中だが順調なカザミ12]
残りはあと二つか。三つ並んだ空洞の一番左側に入った俺はゴブリンを始末をし、娘を五人安全な場所へと逃した。
「この先はどうなっているんだ」
ゴブリンが現れた奥へ続く通路を進んだが、そこには吊り床に使われる俺の居た世界でも見知れた網目状のハンモックがいくつも天井から吊るされた空間があった。
「寝床か」
あれほどゴブリンが群れていたため何か重要な場所かと思いきや、ただのゴブリンどもの寝床だった。
「隣も似たようなものかもな」
俺はきた道を戻り真ん中の空洞に向かった。
探知察知ではこの空洞も、その隣りの空間にも青い光点が表示されている。
「開拓村のわりには若い娘が多いんだな」
またも現れたのは捕らえられた娘たちだった。さきほどと違い、こちらは捕らえられたばかりのように見える。服は泥で汚れているが、先ほどの娘たちと違い、監禁されていたように見えない。数も二人と少なく、手足を縛られてはいるが何かされたような様子もなく、ただ壁側に立たされている。
「何をする気だ」
俺は言葉を口にしながらその空間に足を踏み入れた。ゴブリンは娘の頭から足先まで眼で舐め回している最中で、俺の声を聞き警戒するようにこちらに視線を向けてくる。
「娘が二人か」
「・・・」
娘の二人は俺に視線を向けているが、口を開く様子はなかった。俺がゴブリンどもの味方とでも思っているのか。
「ぐぎぎゃっ」
またわけのわからんゴブリン言葉を吠えられた。さすがにうんざりしてくる。
「まるで散歩中の犬のようだな」
こっちはゴブリンが二体しかおらず手には小さな刃物を握っているが、それは赤く熱を帯びていた。天井の低いその空間を見渡してみると、隅には石を積み上げて造られた炉が備えられており、その炉からは熱気が立ち込め紅く光を発している。
どうやら炉には火が入れられており剣作っているようで、炉の傍には剣を作るための銑鉄と鋳型が用意されていた。
近くに置かれていた木箱の中を覗くと、銑鉄から作り出したと思われる鋼の剣が敷き詰められている。ここは武器庫兼武器工房として使われているみたいだ。
「その刃物で何をする気だったんだ」
先ほど覗き込んだ娘の口の中が脳裏によぎった。俺は刀を鞘から抜きながらゴブリンの方に歩み寄り「ぐぎゃぎゃー!」っと叫びながら手に握る刃物で襲い掛かってきたゴブリンを斬った。単に振り下ろしゴブリンの肩から胸元まで斬ると、肩が垂れ下がり血を流しながら地面に転がった。
それを見ていたゴブリンは娘を人質にでも取ろうとでもしたらしく、熱された刃を娘に向けながら「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃっ」っと、まるで高笑いするかのように声をあげた。
「だからどうした」
俺はゲートを自身の右側に現し、出口をゴブリンの頭上に現出させてゲートの中に切っ先から刀を入れた。ゴブリンは頭上のゲートには気づいておらず、刀の切っ先は大きな口をあけて笑っていたゴブリンの後頭部を刺し、口の中から切っ先が姿を現した。自身の伸ばした腕が目の前に現れるのは、見ていて妙な感覚だ。
ゴブリンから刀を引き抜き、その場で血振りをして鞘に収めた。
「お前たちも舌を焼かれたのか」
「助けに来てくださった方なのですか」
「そうだ。どうやら舌は焼かれずに済んだようだな」
「あっ、ありがとうございます。助かりました」
俺が縄を解くと、二人の娘は頭を下げた。
「この中に入ってくれ。村の井戸の前に出られる」
そう言うと、二人の娘は「村の井戸・・・ですか?」と、まるでそこがどこなのかわからない様な口ぶりで言葉を発した。俺はその口ぶりに妙な違和感を覚え聞き返す事にした。
「開拓村の娘たちではないのか」
「私達は人目につかない集落に住んでいる者で、森で木の実を集めていたところをゴブリンに襲われここに」
隠れ里のようなものか。正直でよろしいと言ってやりたいところだが、そう易々と俺に教えてよかったのだろうか。
「その集落の者で攫われてきたのはお前たち二人だけなのか」
「はい。陽が落ち暗くなってきたので帰ろうとしたところ、ゴブリンの群れに遭遇してしまい連れてこられたのです」
どうやら集落自体は襲われてはいないようだが、ゲートを使いその集落に帰す事はできそうにない。一度立ち寄った場所でないと繋げられないのは不便だと実感してしまった。
「そういう事なのか。集落の場所を聞いてもいいか」
「その、集落の場所は教えてはならないと・・・」
そこは教えてくれないのか。
なら開拓村は知っているかと尋ねてみたが、どうやら村の事も知らないらしい。
「困ったな。集落までの帰り道はわからないのか?」
「いえ、方角さえわかれば大丈夫です」
「そうか、ならこのゲートを潜り左が北で右が南だ。なんとかなりそうか?」
「はい。北と言うと草原があると聞いた事があります。あっていますか?」
「あぁ」
「よかった。それならどうにかなりそうです」
「夜の森だが魔物とかは本当に平気なのか」
「ご心配ありがとうございます。南は魔物も多いですが、これがあるので平気です」
そう言って娘は乾燥した薬草が詰められた小瓶を見せてきた。
「それは?」
「魔物除けの香です」
そんな物があるのか。俺は開いたゲートをゴブリンの巣の入り口に繋げて二人を巣から出してやった。去り際に「お助け頂きありがとうございます」と、二人はペコリと頭を下げ、ゲートの中に入っていった。
「南に集落があると言っているようなもんなのに。機会があれば出向いてみるか」
残る空洞に向かうと、やはり中には娘の姿があった。
「当たりのようだな」
泥と血で汚れたゴブリンと娘たちの姿に、村を襲ったゴブリンだと察しがついた。




