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18 [店は臨時休業中だが順調なカザミ10]


「任せておけ。ゴブリンは一匹残らず殺してやる」


俺は彼女たちの縄を解きながら言葉を発した。

これは彼女達の殺意が俺へ移ったのか、それとも俺自身がそれを望んでいるのだろうか。なぜだか苛立ちが俺を掻き立てる。


子ゴブリンを産み落とした娘は体力がなくなったのか、俺の言葉を聞いて眠りについてしまった。


「その舌は奴らにやられたのか」


俺は他に捕らえられていた娘たちに傷の事を伺った。


「どれほど時間が経ったのかも虚ろなのですが、この場に最初に攫われてきた私は舌を噛み命を絶つ覚悟でした。ですが舌を噛み切った後、遠のく意識の中ゴブリンに熱を帯びた剣で噛み千切った舌を焼かれ命絶つ事もできなくなり、ここで奴らに・・・」


最後は言い淀んでしまった。無理もない。この惨状で思い出したくもないのだろう。


「他の娘たちもか」


あとの娘たちは首を横に振ると、先ほど応えてくれた娘が口を開いた。


「私のせいです。私が舌を噛み切った事でゴブリンたちは知恵をつけてしまったらしく、他のみんなは連れてこられて早々に舌を焼かれました」


娘は他の娘達が舌を切られ焼かれた事は自分のせいだと感じているようだ。他の娘達が舌を焼かれる様を見ていたのだろう。涙を流しながら「う゛ぅ」と唇を噛み締めながら地面に(うずくま)ってしまった。


「お前は悪くないだろう。死に(ぞこ)なった命だ。これからは自分や大切な人の為に生きていけばいい。

それにあの開拓村はこの辺りでは一番安全な場所になるかもしれないぞ」


少し長話が過ぎたか。奥からゴブリンたちが様子を見にきたようだ。みな棒切れを片手に空洞の中から現れた。


いったいこの奥はどうなっているのか。そんな事を考えながら空洞から出てくるゴブリンを入り口で迎え撃ち滅多斬りにしていった。


一体、二体と斬っていき、全てのゴブリンを斬り終わると、俺は返り血で真っ赤に染まっていた。

探知察知に映っていたこの先のゴブリンは、どうやら今のやつらで全てだったようだ。奥には何があったのか確かめておこうと、俺は先に進む事にした。


「俺は奥の様子を見てくる。お前たちは先に村に帰っていろ」


そう言い放ち、俺は村の井戸のあった場所にゲートに繋げた。突如現れたゲートを見て、娘たちは警戒するようにゲートを見つめている。


「この中に入れば村の井戸の前に出られる」


俺の言葉を聞いた娘達は首を横に振り、俺の提案を拒んだ。


「なぜだ」


「ゴブリンを宿したままでは村に帰れません」


腹の大きい娘がそう言うと、他の娘たちもそれに賛同するようにコクリと頷いて俺を見やった。


「俺にはよく事情がわからないが、腹のゴブリンを始末しない限りでは帰れないと言う事か」


「・・・はい」


どうしたものか。店の寝室は五部屋しかないので連れ帰る事はできないだろう、それにまだ同じような娘が他にも居るかもしれない。

人助けがこんなに面倒に思えてくるとは・・・フロアを一人で放っておけないと思ったのは確かだが、開拓村に恩を売っておくのも後々は利になるだろうと考えてたのが本心だった。村に連れ帰れば解決するだろうという浅はかな考えをした事が悔やまれる。


ここで娘たちを放り出しても開拓村との交渉は可能だろうが、フロアが怒るだろうな。


「どれぐらいで村に帰れるんだ」


「私とこの子は数日で産まれると思いますが、あとの二人は様子からして一月ほどでしょうか」


腹の大きくない娘は一月あれば産まれるまでになるのか。


「そんなに早く産まれるものなのか」


あまりこの話はよした方がよかったのだろうか、娘は暗い顔をしながら応えた。


「ゴブリンなら、一月あれば産まれてきます」


「そうか・・・一応聞くが、行く宛てはあるのか」


「・・・」


眠りについた娘はどうやら村に帰れるみたいだが、他はみな黙り込んでしまった。俺がどうにかするしかないようだ。助けてもらった手前、安全な場所に匿って欲しいとは言い出せないのだろう。

俺もはっきりと留まれる場所を用意してやるとは言っていないが、この状況では娘たちは俺に(すが)る事しかできないのは明白だった。


「人目につかないほうがいいか」


「救って頂き、高価な治癒薬までただの村娘の私たちにお使い下さってくれた事に感謝しております。治癒薬の代金も時間はかかってしまいますが、必ずお支払いいたします。

できる事なら・・・どうか私達を誰も居ない場所へ導いてください」


俺は神でもなければ導師でもないと言いたい所だが、立ち上がって懇願してきた娘を邪険にできるはずもなく、溜め息混じりに応えた。


「わかった。だがお前たちを受け入れてくれるかは聞いてみないとわからない。今から聞いてくるから、少し待っていてくれ」


娘たちは張り詰めた緊張の糸がほぐれる様に、強張っていた肩から力が抜けるのがわかった。


「一応ゴブリンがきても大丈夫なように結界を張っておく。この中から出ない限りは襲われても安全だ」


娘達を開けた空間の中央に集め魔法結界と物理結界を展開させ、俺はゲートを潜った。


◇◇◇


「きゃっ!」


「夜遅くに悪いな」


「悪いと思うならそんな格好で現れないでよ」


ゲートの出口をリーサの家のダイニングに繋げて勝手にお邪魔させてもらうと、俺の身形を前にリーサは鼻を摘まんでしまった。


「勝手口から尋ねてきてよ。これじゃあ居留守も使えないじゃない」


「すまないな。今ゴブリンどもを掃討している最中で急いでいたんだ」


俺の知り合いでゴブリンの慰み者になっていた娘の話など、リーサ以外にはできないと思った。リーサなら前世でこういうシチュエーションの話を知っているだろうと思ったからだ。


「はぁ・・・血まみれで尋ねてこられても困るのよ。元気そうだし斬られたわけでもないんでしょ」


「あぁ。これは全て返り血だ。それでだな」


俺が話を続けようとすると、リーサは割って入るように口を開いた。


「あんた住居不法侵入で警察呼ぶわよ」


サバサバした性格だとは理解しているつもりだったが、犯罪者扱いされてしまうとは。


「警察か、そんな組織があるならお前に頼みにこなくてもよかったんだけどな」


「頼み事はあとで聞くからまずはその服どうにかしなさいよ。家の中が血生臭くなっちゃうじゃない」


リーサはローソク一本の明かりだけで、俺の依頼した服を制作してくれているところだったようだ。


「すぐに戻る。それでリーサにしか頼めない事なんだが」


またも俺の話を聞かずにリーサは淡々と話だした。


「ゴブリンの掃討って事はゴブリンの巣を潰しているんでしょ。それで捕らえられていた女の子でもみつけてしまってどうしたらいいのかわからないってところね」


「よくわかったな」


「当たり前じゃない。ゴブリンに捕まっていたと言う事はお腹に宿しているんでしょ」


「そうなんだ」


「なら当分は村には帰れないでしょうね」


「そういう事だ」


「なんで村に帰れないと思う?」


「魔物を生んだとあっては村から追放されてしまうとかか?」


「あんたは・・・」


リーサは俺の返答に呆れた顔をしてしまった。俺は何かおかしな事でも言ったのだろうか。


「まぁいいわ。女の気持ちは女にしかわからないわね。それにあんたの言う事も間違ってはいないわ」


一応はあっていたのか。世知辛いとはまさにこの事だな。同じ村の同郷でありながらも追放とかあるんだな。せめて同じ村に住む者でも関わり絶つ村八分程度でとどめるという選択肢はないのだろうか。


「それでなんだが・・・今連れてきてもいいか?」


「はい? 今?」


リーサは深い溜め息を吐いて「何人ぐらいいるの? 部屋は空き部屋を用意してあげれるけど食事とかは正直まともな物を用意してあげれないわよ」と言葉にした。俺はその言葉を聞いて、「リーサを頼ってよかった。服はあの布で適当に見繕ってあげてくれないか。食料は俺の方でなんとかする」と言いながら胸を撫で下ろした。


「温かいお風呂も用意してあげたいけど、あいにく井戸で水浴びがこっちの主流だから文句はなしよ」


そういえば、フォールもそんな事を言っていたな。お礼に風呂は俺の店のを使ってもらうか。


「村娘たちを匿ってもらう礼に風呂は俺の店のを使ってくれ」


その言葉にリーサはテーブルの両の手の平で叩いて立ち上がると、「娘たちは任せない! お風呂は毎日使わせてもらうわ。契約成立ね」


俺は「あっ・・・あぁ」とリーサに気圧(けお)されながらも、村娘たちを呼びにゲートを潜った。

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