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15 [店は臨時休業中だが順調なカザミ7]


「だれ」


くま耳の彼女は俺を警戒しているようで、ナイフの刃を外側に向けた逆手持ちに構えた。


「そんなナイフでは村人を助ける事はできない」


「あなたに関係ない」


「お前はフロアだろ」


「なんで私の名前を・・・」


「ある姉妹に村で戦っているフロアという友人を助けてほしいと頼まれた」


「二人は無事なの」


「心配ない、近くの木陰に隠れさせている。

村人を助けたいなら、これを使え」


俺は対を成す二本のダガーをフロアに手渡した。

フロアはダガーを受け取ると、眼を丸くしながらダガーを見つめている。

片方は黒の持ち手、もう片方は白の持ち手で、刃は俺の黒刀(クロユリ)と同じく黒い刃、握る柄尻にも黒刀(クロユリ)同様に百合の花が彫られている。


「・・・これは」


「ダガーだ。そんなナイフでは本当の戦いを生き残れない。

村人を助けたいと真に願うなら、それを使いこなしてみせろ」


まだ成人もしていない十二、三歳ほどの子供に酷な事を言っているのはわかっているが、先ほどの戦い、身のこなしを観て、フロアなら扱えるはずだと確信していた。


フロアは両手にダガーを逆手持ちに構えた。


「そのダガーは俺の傑作、黒刀(クロユリ)シリーズの中のひとつだ。

黒のダガーはスキル【シャドーステップ】、白のダガーにはスキル【ハイシャドー】が付与されている」


「それはなに」


「シャドーステップは回避に役立つスキルだ。

だが、身体能力が追いついていなければ足捌きどころか足が(もつ)れて回避どころではな・・・」


俺の説明を聞いているのか、フロアは俺が話終える前にシャドーステップを使ってみせた。俺の傍にいたはずのフロアは、見事に後方へと移動していた。


「やるじゃないか」


やはり俺の声は届いていないようだ。フロアは自身の立ち位置を確認と、一人で納得したように頷き、ハイシャドーまで使ってみせた。


幻影とはわかっているが、眼前に現れた五人のフロアを前に、俺でさえどのフロアが実態なのかわからない。


「うん。だいたいわかった」


「そっ・・・そうか。

思っていた以上に使いこなせているようだな」


「これ、もらっていいの」


フロアは俺にダガーを見せながら言い、俺は「あぁ。それはもうお前の(武器)だ」と応えると、「ありがとう」と言って踵を返して駆け出して行ってしまった。


人の話を聞かないヤツだとは思っていたが、ここまでとは・・・。


探知察知を見ると、物凄い速度で移動している青い光点がある。


「これはフロアだな」


フロアの向かう先に何があるのか確認すると、村人が集められていた場所だった。


「仕方ない。付き合ってやるか」


俺は地面を蹴り上げ村の中央に向かって駆け出した。


「ん、雨か」


頬に水滴が当たり、空を見上げると輝く星空は厚い雲に覆われていた。

次第に風が強さを増していく。


「これは本降りになりそうだな」


風を切りながら走った。村の規模は小規模で、開拓はあまり進んでいないようだ。

少し走るとすぐに中央付近についた。

探知察知を確認すると、ぞろぞろと赤い光点が集まっている。


死角となっていた家を過ぎると、視界にはフロアが囲まれている様子が見えた。


「何も考えずに飛びだのか」


突撃と同時に数体のゴブリンを斬ったのだろう。辺りにゴブリンの亡骸が転がっている。

相手はただのゴブリンだが、馬鹿なりに小知恵は回るようだ。

捕らえた村人に剣を構えているヤツが居る。そのせいでフロアは手を出せなくなってしまったのだろう。


ゴブリン達はフロアに意識が集まり、俺の事には気づいていない様子だ。


「背後から斬るか」


俺は死角となっていた家を迂回して村人に剣を向けてフロアを牽制しているゴブリンに近づいた。

どうやら村の中央には屋根も何も備えられていない雨ざらしの井戸が設営され、その井戸の前に村人達が集められているようだ。

村人達は全員手を後ろに廻し座らされている。手首を縛られているのだろう。


沈黙領域(サイレンス)


これを使ったのはロロアが奴隷紋で苦しんだ時だったな。半球内の結界の中に居る限り、中の音は外に漏れず、外の音もまた、中には聞こえない。

村人を人質に取るゴブリンから音を遮断し、背後から一気に駆け出した。

俺の姿に気づいた村人が、声を上げそうになった。


「沈黙領域」


捕らえられた村人たちにも沈黙領域を施し音を遮断した隙に、振り上げた刀をゴブリンの背後から斜めに振り下ろした。

剣を突きつけられていた村人の声も、ゴブリンの悲鳴も、この中では全く聞こえない。俺はゴブリンと村人達に張った沈黙領域を解くと、剣先を向けられていた村人の年老いたじいさんだった。


なぜか俺は深い溜め息を吐いてしまった。なんだろうかこの気持ちは・・・どうせなら村娘が良かったと思ってしまった。

そんな溜め息をこぼしている間に、フロアは自身を囲んでいたゴブリンたちを始末し終えていた。


「助かった」


「これからは状況を把握してから行動した方がいいな」


身体能力が高いだけで、奇襲などの軍略は専門外だっただろうが、個人としての戦略は見事としか言いようが無い動きだった。


溜め息をこぼしながら視界の端に捉えていただけだが、腰のナイフを頭上に放り投げてゴブリンたちの意識をナイフに向けさせ、眼前に居たゴブリンにシャドーステップで急接近して斬り込むと同時に、ハイシャドーで自分の分身を一体だけ元の位置に創り出した幻を見せていた。


斬られたゴブリン以外は、囲んでいる幻影に注意が戻っていた。

後はフロアの独壇場だった。ゴブリンの頭上にシャドーステップで移動して首筋にダガーを突き刺し、次々とゴブリンを狩っていた。


シャドーステップは回避で使われるスキルだが、相手の懐に潜り込むために使うとは・・・それにハイシャドーの使い方だ。相手が回避しずらくなるように乱撃される幻影を創り出すのだが、一体を影に使うという発想はVRにはなかった。

いや、違うな。幻を一体だけ発動させる事はVRの仕様上できなかったはずだ。

異世界ではそれが可能になっている。俺の魔力操作のような物だ。

それに俺ではハイシャドーを駆使しても、あんな使い方は思いつかなかっただろうな。


固定概念が無いという事は、その使い方は自分で決めると言う事か。

俺の話を聞いていなかったのは残念だったが、スキルも魔法も使い手次第と言う事なんだな。


「どなたか存じませんが、助けて頂き感謝しています」


フロアの戦いで忘れていた。俺は背後を振り返り、助けたじいさんに顔を向けた。


「あぁ。それよりも捕らえられていたのは老人や男どもばかりに見えるが、この村は女性は少ないのか」


フロアは縛られている村人を解放していった。


「いいえ。村にゴブリンの群れが押し寄せ村の者はこの場所に集められました。

その後、集めた者の中から村の娘たちだけを連れ去ってしまったのです」


「助けに行かないのか」


じいさんも、フロアが縄を解いた村人も全員、ただ黙り込んでしまった。


「私は助けに行く」


フロアの言葉に、じいさんが口を開いた。


「よしなさいフロア。気持ちはわかるが、相手は只のゴブリンだけではない」


「村長には迷惑かけない。ひとりで行く」


このじいさん、村長だったのか。


「人間の様なゴブリンの事か」


俺の言葉に、村長が返事をした。


「それはホブゴブリンです。遠い昔、人間とも共存していたと言われていますが、今ではゴブリンよりも(たち)が悪い魔物です」


「それで、ゴブリンだけではないとはどういう意味なんだ」


「話せば長くなる話です。どうか、老いぼれの話に耳を貸してやってください」


「続けてくれ」


俺の言葉の後に、フロアが村長の話の腰を折った。寧ろそれが正しい判断だったと思う。


「ヘルサーゴブリンが出た」


「なんだヘルサーゴブリンとは」


「私がご説明しましょう」


村長が説明をしてくれようとしたが、「村長の話は長い。村長黙る」と、フロアが告げると、村長はしぶしぶと言った様子で口を閉ざしてしまった。

確かに、話せば長くなると言っていたが、フロアに聞いた方が早く簡潔に教えてくれそうだ。


「それでそのゴブリンは」


「ヘルサーゴブリン、またの名を・・・なんだっけ」


「おいっ」


先ほどまでの爽快な口調はどこにいったんだ。


「そう。ゴブリンの頂点みたいなもの。

そして大きくて強い。あの家ぐらいある」


フロアが指を差した家を見たが地竜を知っているので、それほど大きいとも思わなかった。

大体の大きさは|トラックのキャブ《トラックの頭の運転席のある部分》ぐらいだろう。

差された家は掘っ立て小屋よりは大きいが、それでも三角屋根が高いだけで中はそれほど広そうにも見えない。


「言いたい事はわかった。それで連れていかれてからどれぐらい経っているんだ」


「一時間も経っていない」


「どこに連れて行かれたかわかるか」


「たぶんだけど思い当る場所がある」


「そうか、なら俺も行こう」


「うん。心強い。

それじゃあ私についてくる。

村長、みんな、行ってくる」


村の北が草原のある方角だとすると、フロアは西に向かって森の中に入っていった。


「村長、村のすぐ外の木の陰に姉妹が隠れている。誰か人を寄越してやってくれ」


俺は村長にそう言い残し、フロアを追って駆け出した。


「さすがは獣人と言うことか。探知察知がなければ見失っていただろうな」


すでにフロアは俺の視界には映っておらず、人の話を聞かないどころか、人を置いて行ってしまうほどだった。


「元の世界でいう自己中ってやつか・・・ここまでくれば大したモノだ。

悪意はないが無邪気すぎるんだろうな」


俺は独り言を呟きながら走る速度を上げた。

すぐに前を走るフロアの後姿が見えてきた。さらに速度を上げて横に並んだ。


「どれぐらい走るんだ」


「まだ三十分ぐらい走る」


「この先に何がある」


フロアの走る速度に驚いたが、熊ってそういえば結構速く走るよな。っと思い出していた。

獣人が俺の知る動物に当て嵌まるのかはわからないが、今はそれで納得しておこう。


走りながら会話を続けた。


「大きな崖に開いた穴」


「洞窟か」


「うん」


洞窟か・・・もうダンジョンで飽きているんだが、やはりゴブリンは洞窟に住み着く習性でもあるのだろうか。


「思ったよりも村に近い場所にゴブリンの巣があるんだな」


「仕方ない。家は動かせないし村には冒険者を雇うお金もない」


「今までどうしていたんだ」


「今までは家畜や畑を荒される程度だった。

最近になって村人が攫われるようになった。

みんな村の娘ばかり」


「それで助けにはいかなかったのか」


「森に木の実や野草を採りに行って戻ってこなかった。だからフロアとシャールとレレイの三人で探した」


「ゴブリンの巣をか」


「うん。やっと見つけた出したと思ったら村が襲われた」


俺の居た世界のゲームや漫画の設定では、ゴブリンがエルフや人間を攫って子供を生ませる子作り製造機のように扱われていたな。

こっちのゴブリンもそういう事なのだろう。攫った女性に子供を産ませて戦力を蓄えていたようだな。


「ふっ。満を持して襲撃ってわけか。

俺の背に乗れ」


「なんで」


「俺ならもっと速く走れる」


「わかった」


飛びついてきたフロアを背中に抱え、俺は魔力を全身に纏い身体強化をさらに向上させ速度を上げた。


「しっぽがビリビリする」


「我慢しろ。跳躍するぞ」


森林地帯は足元が悪く、踏み固められた道のようにはなっていない。

跳躍して距離を稼ぐほうがよほど効率がいい。


フロアは振り落とされないように力強く俺の首に腕を廻した。


「これならもうすぐつく」


「あぁ。もう崖は見えている」


崖と言っていたので、俺は上から見下ろすような崖を想像していたのだが、近づくにつれて聳え立つ崖だとすぐにわかった。

俺達は今、崖底にいるという事だ。


「ここか」


森の先に崖が聳え立ち、俺達はゴブリンの巣になっている洞窟の側にきていた。

木の陰に身を隠しながら洞窟の入り口を窺うと、ゴブリンが二体、入り口で見張り役をしている。


時間的には一時間程前に村を出たゴブリンたちが巣に戻っている事になる。俺達は時間にして十分ほどで到着した。

確かに歩いて進めば一時間ほどの距離だったと思う。それならゴブリンの群れは帰還してまだそれほど時間は経っていないはずだ。


「ここ。この中に捕らわれているはず」


「どうせ洞窟なら進入しても物音やゴブリンの声ですぐにバレてしまうだろう。

沈黙領域で無音の空間を創り出したとしても、どちらにしろ最後には人質を盾にされるはずだ。そうなったら俺に任せてもらう。

それまでお互い好きに暴れるとしよう」


「わかった。村の時みたいになったら任せる。

早く助ける」


入り口で早々にバレるのはまずいと思い、入り口にいたゴブリンには沈黙領域で静かに息の根を止めさせてもらった。


入り口は暗かったが、中の方は意外と明るく、岩壁には松明が立て掛けられていた。

ゴブリンは夜目が利くという設定は、やはりゲームや漫画のような話だけなんだろうと思いながら、俺達は明るい洞窟内を進んでいく。

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