9 [店は臨時休業中だが順調なカザミ1]
夜になり、俺はリーサの家へと向かっていた
ダンジョンの最深層、店のある階層は、夜も明るく照らされており、夜が訪れた事さえわかりづらい
ただ、キッチンの壁に掛けられた丸時計だけが、あのダンジョン内で夜が訪れた事を知らせてくれる
夜の街は、酒屋や宿屋、建物の窓から明かりが漏れ、街灯の硝子の中に立てられた蝋燭の小さな灯火が、薄明かりで街を照らしている
俺は、昼間にリーサと出会った路地にゲートを繋げ、そこからリーサの家へと歩き、向かっていた
夜でもチラホラと人影が目に映る
靴屋の路地を入り、勝手口を軽く叩くた
「どちらさん?」
扉の向こうから、リーサの声が聞こえてきた
「カザミだ」
カタンッと、閂を外す音がして、扉が開かれた
「やっときたのね、ちょっと遅いんじゃない」
「夜にくると言ったはずだ」
「あのね、貧乏人は陽が沈むと共に眠り、陽が昇ると共に起きるのよ」
「そうなのか」
「まあいいわ、上がってちょうだい」
「いや、下着を取りにきただけだ、ここで受け取って帰る」
リーサは深い溜め息を漏らしてから、口を開いた
「服を作るのに採寸しないで、どうやって作れっていうのよ」
「Lサイズで大丈夫だ」
「はあー?」
リーサの顔が般若のように険しくなっていく事に気づいた
「お邪魔する」
すでに採寸する準備がされており、テーブルの上には、長い紐と、紙にインク、それに使い古された羽が置かれていた
俺は両手を広げてダイニングに立たされている
リーサは紐を使って長さを測り、紐にインクを付けて親指と人差し指の幅で測り、テーブルに置かれた紙にサイズを書き記していく
「巻尺で測ればいいんじゃないのか」
「奴隷堕ち寸前だったのよ
必要最低限の物以外は質に入れたわよ」
「そうか」
リーサは俺の全身をテキパキと手馴れたように採寸していき、数分で測り終えた
「これでいいわ
できた分は七日後に取りにくるんだったわね」
「そうだな」
「先に仕立てて欲しい物とか、何か要望はあるの?」
服は必要だが、洋服店で買えば済む話だ
下着の様に俺に馴染みがあって、こっちには無い物、リーサにしか作れないような物は・・・
「踝靴下は作れるか」
「もちろん作れるわよ」
「なら、くるぶしを頼む」
そう言いながら、リーサの足元を見ると、靴の下にはハイソックスが履かれているのがわかった
「私はこれを履き慣れちゃってるから違和感ないけど、あんたには履き心地悪そうだものね」
「くるぶしみたいな靴下は置いていないからな
この際、リーサにしか作れない物を頼みたい」
「わかったわ、任せない
あとこれ、忘れないうちに渡しておくわ」
俺の渡した布で、わざわざ作ってくれたのだろう、布地の手提げ袋の中に、約束していた下着が入っていた
もちろん紐パンではない
「助かる、また七日後に頼む」
俺は布袋を受け取り、ゲートを開いた
「ちょっと待って、おじいちゃんがお礼を言っていたから・・・
後、お肉ありがとう」
少し気恥ずかしそうなリーサの姿を見ながら「礼を言うのは俺の方だ、お前と会えて良かったよ」と言って、俺はゲートに入り店へ戻った
◇◇◇
翌日、俺は倉庫の片付けを始めていた
ロロアとトトには、倉庫内の中央の床に広げた風呂敷の上に、俺が木箱から取り出した物を並べてもらっている
フォールには店の外で、倉庫内に設置する棚を作ってもらう事にした
金鎚を片手に切り出した板を組み立てる大賢者か・・・と店先で棚を作る賢者の姿を想像しながら、双子に木箱から取り出した物を手渡していく
意外にも、木箱の中身はそれほど入っていなかった
ポーション、上級ポーション、エリクサー、木箱一杯の薬草類の束、木箱の大きさギリギリに入っていた一塊の魔石、他は魔物の素材ばかりだ
この一塊の大きな魔石は、まだVRをプレイしていた時に討伐した竜からドロップした魔石だが、こちらの魔物は体内に魔石は無さそうだ
あるならライドが教えてくれただろうし、双子達がベアを解体した時には、魔石が出てきたような事は聞いてもいない
倉庫に一塊の魔石が眠っていただけでも、上々の収穫だ
魔石さえあれば、後は錬成で水石なども作りだせる
だが、肝心の商品類が見当たらない・・・そうだった、VRの時に売れ残りをまとめて王都に卸しに行ったんだった
なぜか店には買いにこないくせに、小売店など営んでいたプレイヤーや商人ギルドは、その売れ残りをまとめて買ってくれてたんだよな
やっぱ立地が悪かったのか、それとも宣伝しなかったから店すら知らなかったのだろうか
「これでおわりなの?」
「木箱もうないよ」
VRのアイテムや素材類を見ていると、当時の思い出が頭に浮かびながら作業をしていたため、全ての木箱を開け終えた事に気づかなかった
「あ、あぁ
これで全部のようだな」
「なんか、いっぱいあるね」
「この瓶とか店に置いてたやつだ」
二人は、広げた風呂敷の上に置いていった物を珍しそうに見ながら、会話を続けている
「これ、かじゃみにもらったのといっしょ
いたいのなくなるまほうの、のみもの」
「ロロア怪我したの?」
「もうだいじょうぶ、かじゃみがなおしてくれたから」
「そっか、ぼくも怪我をしたときはフォールが治してくれたんだ」
「いっしょだね」
「うん、一緒だよ」
なんだか微笑ましい二人の間に入りづらく、木箱を開けるために手にしていた釘抜きを床に置き、俺は二人の背中を眺めていた




