1 [戦争の真実]
最深層に降りる空洞を抜けると、この階層全てを見晴らせる程の高さの位置に足場があり、岩壁に沿うようにして、下へと続く道が続いていた
最深層を見渡すと、レイミアが言っていたように、森や川があり、豊かで広大な土地がある事を確認できる
高い天井は水晶の様な硬そうな半透明の何かで形成されており、ダンジョンの全階層分の高さがあるようで、この階層では光球も必要なく、森の中からは光の柱のような眩しいほどの明かりが放たれ、天井の水晶に反射して、階層全てを明るく照らし出している
そんな地下深くの階層の隅に、ぽつりと存在している一軒の店があった
青い三角屋根に八角形の二階建ての建物、二階は八角の各壁に大きな窓が備えられ、店の入り口、木製の扉の上には、三日月型を下向きに設置した<~はい。コレ~>と、日本語で書かれた、木でできている看板が掲げられていた
俺はこの雑貨屋をよく知っている
「ここがフォールの店なのか」
「僕の店と言うよりは、勝手に借りているだけだけどね」
「この店は、いつからここにあるんだ」
「大体三百年ぐらい前に、地上の森に現れたんだよ」
「ははっ、そんな前から・・・」
「どうかしたのかい?」
「この店のキッチンには、裏口の無い扉があるんじゃないのか」
「よく知っているね
もしかして、カザミの店なのかい?」
「どうやらそのようだ」
「凄い偶然だね、でも三百年も前からあるんだよ?」
「俺にも腑に落ちない点がいくつかあるが、紛れもない俺の店だ」
店に入ると、VRで営んでいた雑貨屋と同じ内装に、懐かしさが込み上げてきた
「間違いない、俺の店だ」
俺の使用していたキャラクターにアイテムバッグ、もしかすると・・・とは思っていたが
「商品がほとんど無くなっているが、もしかして売れたのか」
胸が高鳴り、商人として抑え込んでいた昂りが蘇ってくるかのようだ
「ほとんどの商品は・・・空高く舞い上がっていったよ」
「わからないな、ん?」
「だからね、竜巻に呑まれてどこか遠くに飛んでいっちゃったんだよ」
「まぁ商品は補充すれば済む話だしな
商品が売れた事はあるか?」
「はっきり言って・・・客がきた事もないね!」
一呼吸置いて、キッパリと言い切ってみせた
高揚感が静まり、どうやら変わらずの雑貨屋らしく閑古鳥が鳴き続けているようだ
いや、もうこれは呪われているんではとさえ思えてくるな
その日、フォール、ロロア、トト、ラックと話し合い、俺がこの店の店長となり、店長代理をフォールが務める事になり、ロロアとトトも店の手伝いをしてくれると言ってくれた
店長とは?とフォールから質問があったが、店主の事を俺の国では店長と呼ぶんだと簡単に説明すると、納得してくれた
ロロアは、俺がどこかに行ってしまうと思っていたらしく、この話をしたときには凄く喜んでいた
トトも、今まで通りだと理解すると、一安心したように胸を撫で下ろした
ラックには番犬を務めてもらおう
これまでも兵士を退けていたと言っていたしな
「ダンジョン最奥の雑貨店か、くるだけで命がけだな」
話が纏まったところで、同席していたライドがそう口にしたが、その時は気にも留めずにいた
ロロアとトトが、眠たそうにコクリ、コクリと頭を揺らしていたので、二階の寝室に連れて行き寝かしつけた
ライドも疲れが出たのか、休みたいと言ってきたので、ついでに寝室に案内してやった
俺は一階のキッチンに戻り、お茶を啜るフォールに話を伺った
「二人とも、ぐっすり眠った」
「あのライドって人も、疲れていたようだしね」
「いいのか? ここに居てもらっても」
「僕の方こそ、置いてもらえて助かるよ」
「そうか、ならいいんだが
聞いていいか?」
「なんだい?」
「なぜこんな雑貨屋に三百年も居たんだ?」
「この店にはね、魔石や伝説級のポーションに、魔力や身体能力を底上げする古代級のアクセサリー類など色々な物が置かれていた
そんな古代の遺物が揃っていて、店の建物自体からも魔力を漂わせていたんだよ
野放しにはしておけないでしょ」
「悪意のある者に渡らないようにしていてくれたのか」
「そういう事だね、それに・・・」
少し暗い顔をしたフォールは、話を続けた
「この店がきっかけで、戦争が起きたぐらいだから・・・
店が現れた三百年ほど前の話なんだけど、突然現れた異様な魔力を放つこの店は、魔族に警戒心を与えてしまったんだ
それで魔族は、人族には管理できないだろうと、地上にある森や荒野一帯の領土を譲るよう当時の王に話を持ちかけたんだよ
でも、人族の王は、それを善くは思わずに断った
魔族ほど魔力の扱いに優れてはいない人族には、当時の森で何かが起きている事さえ理解しておらず、魔族側も、何も説明せずに領土を譲れと言い出しものだから、領土を巡り小競り合いが起きた
そしてそれは、終には国同士の戦争まで発展してしまった
当時の僕は、東の山岳地帯にある洞窟に隠れ住むように暮らしていたんだけど、この店がどちらの手に渡ってもいけないと思い洞窟を出て、店の管理をする事にしたんだよ
そして人族は魔族軍の侵攻を止める事はできず、南の大森林を抜けてきた魔族軍は、当時荒野だった南側の今は草原になっている場所まで進行してきたんだよね
もうどちらの国も話し合いに応じず、武力で相手を制する事しか考えていなかった
だから僕は・・・大規模な神聖魔法で万を超す魔族軍を滅ぼした
僕は彼らを跡形も残らず消滅させ、その魔法の爪跡が大草原だよ
三百年も経つのに、今だにあの大地には神聖魔法の余波が残っているみたいでね・・・
その後は、軍の後方で待機していて生き残った数千の魔族軍に対し、人族が攻勢に出て、残りの魔族軍を押し戻していった
人族はあろう事か、魔族の殲滅作戦を開始したんだよ
僕は彼らを・・・種族そのものを絶やす気はなかった
話を聞こうともしない当時の人族の王を永眠させ、王国軍を混乱させ魔族の撤退に尽力した
戦争中に王が息を引き取ったものだから、魔族の仕業だと言い出して殲滅作戦を強行しようとした人もいた、でも、すでに魔族は撤退を済まし、国境を築いていたから作戦は実行されなかった
後は誰もが知る通り、魔族軍を滅ぼした英雄の誕生さ・・・
僕は次の王に、魔族との不可侵条約を結ばせた
そして獣王に復興の人員を願い出た
元々、僕と個人的に仲の良かった獣王は、獣人を百人ほど送り出してくれたんだよ
・・・その獣人の末裔が、あの町の奴隷たちなんだよ
僕の過ちから、奴隷が生まれた事になるね・・・」
「それは違う、発端は俺の店なんだろ
フォールは何も悪くない」
「ありがとう・・・でもね、もっと上手くやれたと、今では思ってしまうんだよ」
「俺の負う責を負わしてしまい、すまなかった」
「いいんだよ、君にはただ・・・知っておいてもらいたかったんだ」
「あぁ、何があろうと覚えておく
フォール・・・俺は転移した異世界人なんだ」
「なんとなくだけどね、気づいていたよ」
「そうか」
お茶を啜り、向けられた笑顔からは、哀愁が漂っていた
「ロロアとトトには黙っておこうと思うんだ」
「そうだね、いつ居なくなってしまうかも、自分ではわからないんだよね」
「そういう事だ」
「二人に心配させたくないんだね、君の優しさは分り辛いよ」
話を終えた俺たちは、それぞれの寝室で眠りについた
翌朝、早くから箒を手に、店の前を掃いているロロアの姿に、窓を綺麗に拭いているトト
店の周辺を散歩がてらに、変わりないか確認をしに行くラック
その間に、朝食を用意しているフォール
ライドもフォールを手伝い、食器をテーブルに並べていた
店は商品も品薄で休業状態だが、フォールたちは今までしてきた当たり前の事なのだろう
俺も何かしようとは思ったが、何もする事がなく、カウンターの椅子に腰をかけていた




