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33―死闘


「神域魔法を容易く蹴散らす人間がいるなんてね。人にも試してみるもんだね」


 魔法使いは驚いてはいるようだが、その表情と口ぶりは至って冷静に見えた。


「俺で対人初の実戦導入か。それは光栄な事で……」


 魔法使いが現出させた裁きの拷問姫は、地に落ちると同時に光の粒子となって消えていた。

 消滅した裁きの拷問姫を確認した魔法使いは大きく両腕を開くと同時に、広場中央の地表が白く輝いたと思うと、それは丸い大きな円を描き、


「これは神域の鐘、世界の終わりに鳴り響くと言われている鐘の音だよ」


 崩落した瓦礫が積まれていた中央地帯の光の中は地面が裂かれ瓦礫が呑み込まれていく。すると先端の尖った円錐が現れ、徐々にその姿を現していった。

 黒い円錐屋根に白一色のレンガ造りの塔、鐘楼には巨大な黄金色の鐘が吊るされている。趣味の悪い拷問姫の後に見せられた鐘塔は、一層美しく見えた。


「天使のラッパ……の様なものか」


 鐘楼に吊るされている黄金の鐘ゆっくりと揺れ始めると、その大きさに見合う大きな鐘の音を響かせ始めた。


「これが世界の終わりを告げる鐘か。神々しさと比べて偉く物騒なモノだな」


 鐘がコーンッと鳴り響くと、空間内の空気が揺れた。鐘は残響の中でまたコーンッと響かせ続けると、まるで世界中の大気が(うごめ)いているかの様な錯覚に襲われた。

 美しい鐘塔に嫌悪感さえ抱き始めると、鐘が響かせるその音は徐々に衝撃波となって身体に影響を及ぼし始めた。


「内側から壊されていくようだ」


 エコーの響く密室の中に放り込まれた気分になり、鐘が鳴る都度、激しい頭痛に襲われ、体内から揺さ振られている感覚に陥った。片手を無意識に額に当てると、視界が廻り始め、立っているのも辛い。


 まさに世界の終焉を体現させられている気分だ。


 体内の魔力が体中を駆け巡り、肉を裂いて今にも溢れ出そうになる。身体の中に爆弾を押し込まれたような恐怖を俺の意識に僅かながらに芽生えさせられた。


 ついに俺は立っている事もできず、両膝から崩れ地に着いてしまった。激しい頭痛に加え、吐き気まで催してきた。


「くッ。これは、まずいな……」


 肉体が鐘の衝撃波に限界を迎えたのか、意識が遠のいていく。

 いま気を失っては、もう目を覚ます事はないだろう。それほどに魔法使いは俺を消す(殺す)事に執着している。


 遠のく意識を繋ぎとめようと、鐘の音に抗い上半身をどうにか起こす事ができた。だが視界は廻り続け、いつ意識が飛んでもおかしくない。

 できる事なんてこれぐらいしか思いつかなかった。俺は握る黒刀の切っ先を自身に向け大きく息を吐き出した直後に、刀を太ももに突き刺した。


「……ッ。まさか、自分を刺す日がくるなんてな」


 刀身の刺さっている傷に熱を感じると、すぐにも激しい痛みを感じた。だけども廻る視界が緩やかになり、視点が定まってくると、遠のいていた意識が戻ってきていると実感できた。

 痛みのおかげか、ぼやけていた視界も元に戻り、気がつけば先ほどまで鳴り響いていたはずの鐘の音は鳴り止んでいた。

 幻聴だったのかと疑いたくなるが、戻った意識が身体に刻まれていた僅かな恐怖を思い出し、それが現実だった事を認識させた。


 顔を引き攣らせ立ち上がると、哀れむ者を見る眼で言葉をかけてくる。


「そのまま意識を手放せば楽になれたのに」


 そう魔法使いが口にすると、中央に聳え立っていた鐘塔も拷問姫同様に、光の粒子となって消滅していった。鐘塔の消えていく様を見届ける魔法使いは「楽に死ねた最後の好機(チャンス)だったのに」と小さい呟いていた。


 確かに恐怖は刻まれた。が、その原因は俺の中にある魔力にだ。扱いきれないほどの魔力量は自身の身を内から蝕んでいくのだと十分体験させられた。


「世界の終わりは去ったようだな。いい体験をさせてもらった」


 体内で暴発しかかっている魔力を鎮めようと魔力操作を発動させた。体中を這い回る魔力を腹の底に在ると感じる器の中に流していく。


「妙な感覚だ」


 魔力を器に流していると、四方八方から滝壺の中へと吸い込まれていく川が思い浮かんだ。川が一つ二つと増え続け、枯れていたダムに水が溜まっていく、そんな風景を見ている気分だ。

 川だったはずの風景は一面湖と化し、いつのまにか中心部にぽっかりと大きな穴が一つだけ残っていた。

 器だった滝壺だけが湖の底で今も尚魔力を蓄え続けているのだろう。これが魔素を取り入れ魔力を回復しているという事か。


 滝壺からまた全身へと、腹の底から体中に魔力が循環していっている。あぁ、何か掴めた気がする。


 魔力操作は発動させたまま魔力を黒刀に流し込むと、やはり、いつも発動させている迅雷ではない感触が握る柄から伝わってくる。

 普段使用している迅雷ならば青白い雷を刀身に纏うだけなのだが、今は黒く薄い膜となった魔力が刀身に纏われ、それを纏う青白い雷が放電していた。


 今までは、鞘に収めていないと魔力を纏わせる事はできなかったが、今は魔力操作で魔力を纏わせながら、迅雷を発動させる事ができていた。


 この戦い、スキルをVR同様に扱っていたが、ここは異世界、魔力もスキルも実在する世界なんだ。VRではスキルゲージを消費してスキルを発動させていた、ここでも似たように魔力を消費してスキルを発動させていたが、魔力を駆使してスキルを扱う事も可能という事らしいな。


 魔力を消費し強制的にスキルを発動させていた、だけどもどうだ。スキルを発動させて使用する魔力量を調整する。これだけの事、ただ事象が反転しただけの事なのに、それだけでスキルの可能性が拡がった。

 固定されていたスキルの効力ではなく、魔力でスキルを操り、自在に使用する事ができるというわけだ。


 今思えば地下一階層で一角ラビットを助けたとき、魔力量を調整して火力を下げていた。雷竜の鉤爪を持続現出させていた時も、本来の仕様ではなかった。

 地に叩きつけられ肉体を繋ぎとめていたような魔力の感触が残っていた事も、今考えるとそれらはVRでは起こりえなかった、できなかった事象だ。


 そうか……俺は今、自分の意思で魔力を操っているのか。

 無意識でしていた今までとは違う。意識して扱う事で、魔力は、スキルは多様な姿で現出してくれるのか。

 握る黒刀を見ながら、この考えは間違っていないと自信を持てた。


「悪いな魔法使い、ここからは俺が攻める番だ」


 黒刀を構え、魔力を全身に巡らせ身体強化を施すと、今までの身体強化が子供の遊びであったかのように、まったく別物のようだ。

 必要量の魔力を消費した身体強化では、一定の強化しか施されていなかった。それが全身に巡らした魔力を使い、今も魔力を循環させているだけなのに、身体に力が漲り、体内から溢れ出た魔力を全身に纏っているみたいだ。


 竜の雄叫びのような怒号が広場一帯に響き渡った。それは意識を失っていた地竜が鐘の音で覚醒したようだ。

 あの鐘が目覚まし代わりとは、地竜もずいぶんと図太い神経を持ち合わせているようだな。

 横目に視線を向けてみれば、地を這いながらこちらに向かってくる地竜の姿が瞳に映った。地竜にすれば俺達は棲処を荒らす面倒な敵でしかないのだろう。


 地竜はその巨体には似つかわしくない跳躍をして俺を一呑みする気か、大きな口を開いて襲ってきた。宙に高く舞い上がった地竜の頭部まで、俺も跳躍して飛び上がり、


「ちょうどいい、試してみるか」


 全身を纏っている魔力はそのままに、体内を巡っている魔力だけを右足に集中させてみた。溢れ出ていた魔力は全身を纏ったまま、体内を巡っている魔力は身体強化に使い分けられているのがわかった。


 右足には高純度の魔力が過去に類を見ない程の最高の強化を施している。こんな一部だけを強化する使い方は本来であれば危険すぎて出来るはずがない。不意を突かれてしまえば無防備な箇所に一撃を見舞われてしまう。それでも纏っている魔力が鎧となって身を護ってくれているとなれば、この様な無茶なスキルの使い方も容易に出来てしまえた。


 一部だけに魔力を集約したその右足で単純に地竜の頭部を蹴り抜いた。

 ズシリと地竜の頬に深く入り込むと、まるでサッカーボールを蹴った感覚が右足に伝わってくる。そのまま弾力で弾かれ強烈な衝撃と共に、地竜は頭部から岩壁に減り込み、胴体、尾と順に横に伸びながら減り込んでいく。


 その光景はさながら大蛇の壁画を立体的に造り上げたようだ。


「少し、強烈すぎるな」


 あまりの威力に俺自身戸惑ってしまった。


「さっきまで魔力を消費していたのに、突然魔力を操りだすなんて驚異的な進歩だよ」


 それでも自分には(かな)わないと言いたげに杖の両端を握り頭上に掲げると、新たな魔法を繰り出そうとしていた。


 やはり魔力を消費する事と操る事は別ものだったようだな。

 魔力を扱う本職の魔法使いから洩れた言葉が、俺を自信づかせた。 


◇◇◇


 地竜を足蹴にしている光景を前に、私もアルフォンスもただただ驚愕するばかりであった。

 隊を分けていたとはいえ、我ら騎士団が何もできなかった地竜を相手にあの二人は地竜が襲い掛かってくる度、いとも容易く無力化してしまう。


 私は今、夢でも見ている気分だ。

 遺跡ダンジョンでこの様な壁画を見たことはあるが、まさか地竜そのものが壁画の様になってしまうとは……


「人の域を逸脱している」


 この階層に降り立つと同時に地竜と邂逅し、戦うか撤退するかを悩んだ。だがすぐに戦うと決めた、討伐する自信があったからだ。


 それがいざ戦闘が開始されるとどうだ、我らは壊滅。それどころか地竜は我らに咆哮すら放たず遊ばれていたみたいではないか。


 隣でこの光景を眺めているアルフォンスも言葉を失い、ただ唖然としている。


 もし、あの二人のどちらかがこの国に戦争を仕掛けてくるような事があれば、我らに太刀打ちできる力があるのだろうか。

 各領地の兵を招集し戦力を総動員で迎え撃っても、今の私には二人に勝利する(ビジョン)が浮かばない。


 何を考えているのだ、私は王国騎士団、団長、レイミア・パメル・ディメール。この国の第二王女なんだ。


「全てを、見届けなければ」


◇◇◇


 杖を両手で高く翳した魔法使いよりも早くスキルを駆使した。


 俺の正面と魔法使いの背後に黒く丸いゲートを現出させて正面の転移門(ゲート)に飛び込み、魔法使いの背後に繋がっているゲートから姿を現しそのまま斬りかかったが、魔法使いはひらりと振り下ろした黒刀を避けて宙に舞い上がった。


 魔法使いはそのまま高い位置まで舞うと浮遊したまま停止した。


「おいおい、空を飛ぶなんて聞いてないな」


浮遊して俺を見下ろす魔法使いに言葉を投げかけ、そのまま翳した掌で視界を掻きゲートを四つ、魔法使いの四方に現出させるた。

 ……なにか。いつもの入り口と出口のセット(ニコイチ)だったゲートとは違った使い方をしたからだろうか。妙な絵図(ビジョン)が脳裏を掠めていった。


「時空を歪めるのも大概だと思うよ」


 魔法使いが俺に対して使用した四方からの雷魔法を真似たつもりだったのだが、現出させたゲートを意に介さずに魔法使いは睥睨したままそう言った。


 先ほど見えた絵図が脳裏に未だチラついている。ゲートを現出させてすぐ、ゲート内で四つに枝分かれした時空が混ざり合い、時間と空間が一つに収束されていく姿をパラパラ漫画で見せられているかのようだ。

 混ざり合った時空が俺の意思に関係なくゲート内で時間を進ませていく。ほんの一瞬見えた走馬灯に近い光景が、何かの概念へと辿り着いたかの様にブラックアウトしていった。


 暗い暗い闇の中。時間と空間が圧縮され一つの小さな光だけを残した。が、それもすぐに弾けて消えてしまった。


 いったいゲートの中で何が起きたのか。今までゲート内の様子など脳内に再生された事などなかった。

 さすがの俺もこの様な不足の事態が起こるとは想像もしていなかった。ゲートはどうなってしまったんだろうか。

 走馬灯にも近いパラパラ漫画を見終わった俺は、視線を魔法使いの四方を囲むゲートに向けると、開かれていた闇そのものが小さな円に収縮しすぐに元の大きさへと戻った。


 それはまるでゲートがアップデートを終えて再起動したかの光景に見えた。


 複数の出口を現出させるという事は、一つの入り口を四つに裂くのと等しい事だったようだ。裂かれた四つの時空は元の一つに戻ろうとしただけで、結果として収束した時空は混ざり合ってしまい本来の姿へと戻る事はできずに一つの時空の塊として圧縮されてしまった。

 あるべき姿に還る事ができずに時間と空間の塊は弾けてしまったと言う事か。


 これが四つの入り口を用意して個別にゲートを駆使していれば何も起こらなかったのだろうが、


「これはこれで面白い結果だ」


 俺の隣でも再起動が済んだゲートの中に、魔法使いを見上げたまま黒刀を一振りして炎雷拷撃を放り込んでみた。

 今までのゲートは、敷居を跨いで廊下()に出る。そんなありふれた扉を通る感覚だったのだが、


「悪くない」


 四方を取り囲むゲートから炎雷拷撃が放射された。

 けれどもその雷を纏った炎が魔法使いに直撃する事はなかった。だれも居なくなった四方の中心位置で衝突し合った炎雷拷撃は爆散し、互いに掻き消し合い消滅してしまったのだ。


「反則級ってのは、お前みたいなヤツの事を言うんだろうな」


 俺の視界に入るギリギリに位置、浮遊したまま魔法使いの姿が視界の端に入っていた。転移魔法とは本当に厄介だ。


「それはお互い様ではないのかい? あの黒い中、新たな空間が創造されたみたいだったよ」


 そう口にした魔法使いは自身を取り囲んでいたゲートに視線を向けていた。

 何もかもお見通しのようで、俺が先ほどまで見せられていた光景の終末を口にしているようだ。


「あれが亜空間だろうが異次元だろうが、死ねば只の些事当然だ」


 浮遊している魔法使いの上空、それも背後に出口を創り出し、開かれたままの入り口へと跳び入った。背後を見下ろす形でゲートから姿を現した俺はそのまま飛び出て背中を斬りつけに掛かったが、


「ははっ、まるでピエロみたいだね。すごいよ! 君は本当に凄い」


 ゲートの中で現出させたままだった入り口を再利用したのは新たに現出させた出口を悟られないためだった。だが繋ぐ直すという新しい手法も虚を衝く事はできずに、またもヒラリと宙を舞って躱されてしまった。


 地に足を付けた俺は魔法使いを見上げ直してみると、宙で両手を広げ踊るように廻りながら無邪気に楽しんでいた。

 俺がどこから現れようが、魔法使いには俺の位置を知る方法があるみたいだな。今の一手で致命傷の一つでも負わしてやりたかったが、まぁ戦法を変えなくてはジリ貧だという事だけはハッキリしたな。


「で、ふざけているのか?」


 黒刀の()で肩を二度ほど叩きながら口すると、


「そんな! 僕は今、新たな世界の創造を目撃したんだよ。これがどれほど凄い事なのか、君の方こそ理解できているのかい?」

「世界の終わりを告げかけたヤツがよく言うな……さしずめ、お前は狂魔術師(マッドマジティスト)だな」


 確かに魔法使いが言うように、圧縮された時空が弾けた後、虚無の空間が誕生した。何も無い暗闇だが、確かに存在している異次元がゲートの中に出現していた。

 先ほどゲートの入り口を繋ぎ直したのも、その異次元内で新たに現出させた入り口と魔法使いの背後に現した出口を繋ぎ、俺はその異次元内の入り口に先に現出させたままだった入り口を繋ぎ新たな出口との中継利用(橋渡し)をしたのだ。


 ふっ……俺でさえ自身のスキルなのに困惑してしまうほどだったのに、この魔法使いは瞬時に何が起きているのかを理解し、その顛末を見定めていたわけか。


「僕は魔法使いであり、魔術も行使できるが狂ってはいないよ。それにこの世界で魔術を扱えるのは僕ぐらいだからね」

「魔術と魔法に違いがあるのか?」

「魔術とは術式に魔力を流し発動させる。はっきり言って魔法は想像(イメージ)したモノを魔法文字で綴り魔方陣という一つの回路を経由し具現化させているだけに過ぎず、実際は魔力の集合体みたいなものさ」


 この世界に居る魔法を使うヤツらは等しく魔法使いだったのか。魔術師も魔法使いも、俺からすれば大して変わりはないが。


「術式を扱えれば誰でも魔術を使える日がくるんだろ? そうなればお前は特別な存在(唯一の魔術師)ではなくなるわけだな」


 何がおもしろいのか、俺の言葉に魔法使いは「ふふっ」と笑い口を開いた。


「魔術を考案し実用化したのは僕なんだよ。その魔術を知る君はやはり何者なんだい?」

「俺はカザミ、今は只の冒険者だ」


 そう口にしながら高く跳躍し、魔法使いの浮遊している高位置、正面から堂々と業雷を放ってみる。ビシャーンッと甲高い落雷音が空間内を走り抜けるが、杖頭を俺に向けて構えた魔法使いは無色の障壁を創り出し業雷を簡単に防いでみせた。

 障壁に衝突した業雷は弾かれ天井に衝突すると、崩落を起こしながら轟音を轟かせた。


 瓦礫が頭上から降り注ぐ中、跳躍した一瞬の浮遊状態の中で黒刀を腰に構え直す。無防備極まりない姿だったが、魔法使いは「おやっ?」と小さく口にしたまま、俺の次なる一手を待った。


 一瞬の時間の中、この魔法使いなら障壁とは別に次の魔法を放つ事も容易だっただろう。だがそれをせず、ただ俺を見つめるその姿は遊ばれているようで癪に障った。一度跳躍したあと、空を自由に飛べない俺は地に戻るという絶対の枷が存在しる。

 魔法使いもそれを承知なのだろう。


「あまりなめない方がいいぞ」


 構え直した黒刀の切っ先は後方に向いている。宙で居合いの構えをしたまま工夫を加えた炎雷拷撃を放ちブースト代わりに使用して魔法使いとの距離を詰めに入った。


 地下四階層から落下していた時にも試してはみたが、それほどの放射力は無かった。放射と同時に波の様に広がって拡散される炎と雷では推進力を生む事はないのだ。

 だがこの炎を一点に集中させ放射する事で、俺はロケットエンジンの様に使ってみせた。


 魔法使いの眼前に迫り、魔力を纏わせた黒刀(クロユリ)を一気に振り下ろす。突然距離を詰めて斬りかかってくる俺の姿を見た魔法使いは、額から冷や汗を滴らせて杖の両端を握り前方に翳して黒刀を防いだ。


 黒刀と杖が交じり合う寸前、刀身が硬い何かにあたったのが握る柄へと伝わってきたのがわかった。

 刀身が杖とぶつかりあったと思ったが、見てみると構えている杖には届いておらず、半球状の結界が杖のすぐ前で張られていた。


 迅雷がバチバチと放電し刀身に纏う黒い魔力が結界と接触しているようだ。さすがの魔法使いも科学は知らなかったみたいで、まさか俺が宙で攻めてくるとは考えてもいなかった様子。

 現に鍔迫り合いをする格好となってしまったが、魔法使いは今まで見せた事のない余裕の無い緊張感を持った表情をしていた。


 魔力をさらに黒刀へと流し迅雷を増幅させると、魔法使いも斬り伏せられないよう結界を強固にした。衝突する結界と迅雷、現れては掻き消される迅雷は俺たちの周囲で何度も最後の放電をしては消えていく。


 押し負けた側の首が飛ぶ。互いに譲れない正念場、力んだ魔力が溢れ出て霧散していくのがわかる。この空間もまた、魔力の磁場の様なものが干渉し始めたのか、ゴゴゴッと地揺れを起こし揺れ始めた。


 あまりにも膨大な魔力の衝突合いで、ダンジョンそのものが悲鳴を上げているようだ。


 攻める魔力()と、防ぐ魔力(魔法使い)。互いの魔力が拮抗していた。相手の魔力を上回れば勝ちだと、さらに刀と杖には練り上げられた魔力が流し込まれる。


 互いの魔力が完全に具現化したらしい。俺の魔力は雷となり、魔法使いの魔力は光そのものとなって混ざり合った。

 弾けては混ざり合い、弾けては混ざり合う二つの魔力は、青い閃光の稲妻と化し周囲全てに無作為に放たれ始めた。


 揺れ続けるダンジョンの中、迸る稲妻は天井を再度崩落させ、岩壁を走り抜け削り取っていく。

 大地は瓦礫を積み上げ、稲妻がそれを粉砕してを繰り返していた。



◇◇◇


「ここを抜けると地竜の根城だ。どうする、ここでカザミを待つか?」

「ううん、すすむよ。かじゃみなら、そうするはずだから」


 地下六階層から七階層の地竜の棲処に繋がる螺旋空洞まで辿り着いた。まだ心のどこかでカザミと合流できていればと思っている自分が居たことに情けなくなってしまった。

 この先には地竜が居る。ダンジョン内を徘徊する魔物とは違い、地竜だけはこの先の階層であの日のようにとぐろを巻いて佇んでいる事だろうさ。


「お前たちもここまで辿り着いたのか」


 その声に振り返ると、騎士バレッドが一人、姿を現していた。


「騎士団か、上層に引き返してたんじゃなかったのか?」

「団長を置いて引き返すなんて事はできん」


 俺とロロアちゃんは途中で騎士団が引き返していくのを目撃していたが、この騎士様は他の兵士たちを引き返す騎士団と合流させ自分だけ進んできたらしい。

 側近だからなんだろうが、そう口にした騎士様は俺の背後にある螺旋空洞の入り口を見据えていた。


 今までの流れから一人だからと言っても別に馴れ合う理由もない。一度だけロロアちゃんを見下ろすと、行くよ。と言いたげに螺旋空洞に視線に向けた。

 カザミの光球に誘われるように螺旋空洞に足を踏み入れると、地が揺れ激しい轟音が螺旋空洞の先から響いてきた。


「きっと、かじゃみがいるんだよ」


 この先は明らかに尋常じゃない様子だ、けどロロアちゃんはこの地揺れと何かが崩れ落ちる轟音でカザミが居るのだと確信したらしい。

 歩くのもやっとな揺れの中、両手を壁につけて少しずつだが確実に、壁伝いにロロアちゃんは螺旋空洞を降りていく。


 遅れないよう先を急ぐロロアちゃんを追うと、螺旋空洞内にまで眩い青光が光っては消え、また光ってはと、何度も閃光を繰り返している。

 螺旋が終わり一直線の緩い傾斜の先、出口が見えると向こう側はさらに激しい轟音と、稲光が閃光していた。


 地揺れはさらに激しさを増して立っている事もままならない程に揺れを強め、ロロアちゃんも俺も壁にしがみつくので精一杯になっていた。

 俺の後ろについてきている騎士様もたぶん同じだろう。何度か踏ん張る声が洩れ聞こえていた。


 強い揺れの中、閃光が放たれている出口へと向かいロロアちゃんがまた一歩と進み始め、ついに出口を潜り抜けたその瞬間、地に叩きつけられた男と地上に降り立った男が視界に映った。


 同時に閃光も止み轟音は消え、さっきまでの地揺れが嘘の様に収まった。

 土煙を上げる空間にロロアちゃんが叫ぶと、それに連なって知らない声も同調していた。


「かじゃみ!」

「フォール!」

「マスター!」


 薄れていく土煙の先、向こう側に開いている空洞からロロアちゃんと瓜二つの幼い子供の姿が見えると、二人は互いの名を呼び合った。


「トトー!」

「ロロア!」


 いったい何が起きていたのか俺には想像もつかない。

 ロロアちゃんと、弟だろう同じ顔をした子供との間で地に片膝をついている魔法使いの風体をした男と、その男の眼前に切っ先を向けて立つカザミ。

 けれどもカザミ自身も魔法使いが頭上に展開した魔方陣の中で、赤みがかった円柱の結界らしきものの中に居る。


 ロロアちゃんの声にカザミがこちら側に振り向くと、膝をついていた魔法使いも向こう側に姿を現した子供と小犬の方へ振り向いていた。


 たぶん彼が弟なのは間違いない。だとするとマスターと呼んだ小犬はあの時の使い魔で、マスターと呼ばれた彼とカザミに戦う理由なんてなかったはず。

 さっぱり理解できていない俺だけど、見た限り、感じた限りでは死闘と呼べるほどの戦いを二人は繰り広げていたんだろう。


 子供の声で()()を収める二人の姿に、どこか憧れめいたものを感じてしまった。


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