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31―戦闘


 突如現れたそいつは、問答無用で巨大な氷柱を放ってきた。

 氷で形成された巨大な円柱。先端の面部分が俺に向かって飛んでくる。頭上に跳躍してから気づく、避けきれないと一目でわかる大きさ。


 今さら跳躍なんて生半可な回避行動に出た事に、宙で苦い顔色を浮かべながら言葉を洩らした。


「圧倒的だな」


 視界を覆う氷柱が目前に迫る中、鞘に収められた黒刀に迅雷を発動させて、鞘の中で魔力を纏わせた。

 間に合うか……【居合い抜き】を放ち、眼前の氷柱を両断しに掛かった。


 鞘から抜くと同時に放たれる魔力の刃で氷柱を真っ二つにできると高を括っていたが、氷柱の面に縦の薄い線が刻まれただけだった。


「なにッ」


 眼前に迫った氷柱に視界を埋め尽くされた。

 振り抜き上げていた刀を急ぎ氷柱に向かって構え直すが、氷柱に切っ先が触れると宙に跳躍していた俺ごと、勢いを維持したまま岩壁に向かって飛んでいく。


 避けようもない氷柱に押され、背には今日二度目の衝撃が襲い掛かった。ドシンッと大きな音を発たせながら、岩壁と氷柱の間で押し潰されそうになる。

 自然の摂理を無視する氷柱は落下せずにさらなる圧力がかけられた。黒刀がカタカタと音を鳴らし、刀身に掛かる負荷が大きくなっていく。

 刀身より先に岩壁が根を上げ、徐々に背中が岩壁に()り込み痛みが後を追ってやってくる。


「くッ……」


 歯を食いしばり耐える事しかできない。

 いったいこの氷柱はどうなっているんだ。気泡ひとつ浮いていない氷柱は高密度で圧縮されていた。

 俺の扱う【火柱】は魔力量で熱量が変化する。それと同様に、具現化させる際に注いだ魔力量で密度が変化するのだろう。


 魔力で具現化された事象の衝突では相性や性質を除けば、魔力の純度、濃度、そして注がれた魔力量が大きく関係してくる。それらを上回った魔法が押し勝つのは当然の理だろう。

 どうやら居合い抜きから放った魔力の刃は、完全に押し負けていたようだ。


 ならばと減り込んで出来た窪みを足場にして、氷柱を片足で押し返しに入る。氷柱がわずかに後退したところで、踏ん張っていた岩壁からメキリと音が鳴った。

 辛うじて作り出せた氷柱と岩壁の隙間で足掻く俺は、氷柱に触れていた切っ先を一気に振り下ろして雷を飛ばした。


「【業雷】」


 いつものビシャンッと甲高い音を鳴らして現出する雷は曇った音をビシンッと鳴らし、魔力の刃で刻まれてできた縦の線から氷柱の内部を駆け抜けた。


 直後、巨大な氷柱は内側から爆散した。

 一息つく間も無く、飛散する氷柱の背後から紅蓮の輝きが視界に映り込んだと思うと、散らばる氷柱の欠片を消し飛ばしながら巨大な火球が襲い掛かってきた。


「笑えないな……」


 氷柱に火球と、どれも規格外な大きさだ。

 あれだけ苦戦した氷柱をいとも簡単に溶かし消す火球が無情にも迫り来る。


 刀を振り下ろし【一閃】で簡単に両断する事ができた。手応えを感じない事に違和感を覚えたが、すでに罠に掛けられていた。

 俺の左右で半球になって分かれた火球は爆散し俺を呑み込んだ。業火に身を焼かれるとはこういう光景なのだろう。

 【魔法結界】を即座に発動して爆発から身を護ると、球体状の結界に炎が纏わり付いていた。

 結界を解いて刀を振るい、炎を斬り裂き消滅させる。


「相手の土俵ってやつか」


 距離のある戦いは魔法使いの最も適した戦法だと判断した俺は、すぐさま駆け出して魔法使いとの距離を詰めにいった。

 魔法使いも自身の優位性(アドバンテージ)を奪われないよう、駆ける俺の前方に地面から押し上げた岩壁を作り出し距離を詰めさせない。岩壁を避け横切ろうとしたところ、先手を打っていた魔法使いは岩壁の横側に大量の矢を降らせた。


「罠を張るのがお好きなようだな」


 あと一歩前に飛び出していたら矢の餌食になっていただろう。矢の降り注ぐ範囲外に居るとはしても安心はできない。


「やはりか」


 刀を振るい、頭上から降りかかる矢を蹴散らしていく。まさかとは思ったが、頭上に展開されていた魔法陣が俺を標的に向き変えてきた。


 いつまで降らし続ける気か。

 限りが無い矢に嫌気がさし、魔法陣の有効範囲から出ようと背後に跳躍した。それでも魔法陣は標的を追跡するかの様に、否応なく俺に向けて矢を射出し続ける。


 射抜くまで続ける気なのか。チラリと魔法使いを見ると、俺の行動に合わせて杖頭を左右に振っていた。

 どうやら魔法陣とあの杖頭が同期しているようで、魔法使いが矢が避ける俺に杖頭を向け続ける限りは、際限なく猛威を揮い続けるのだろう。


「しつこい矢だ」


 避け続けるにも限界がある。俺の身に襲い掛かる矢だけを斬り防ごうと足を止めると、矢の降り注いでいた範囲が狭まり集中砲火を浴びせられてしまった。

 矢を斬り落とし、どうにか今は耐え凌いでいる状況だ。魔法使いの動きを窺う隙も無く、ただ無心で刀を振るい続けた。


 このままの状態では次の攻撃に反応できない。矢だけで身動きが取れなくなってしまった俺は、戦いが始まって早々に窮地に立たされてしまったようだ。


「君の存在は危険だ」


 魔法使いは空洞の入り口付近に居たはずだが、声で背後を取られていた事に気づく。


「【炎雷拷撃】」


 頭上に展開されている矢を降らす魔法陣に向けて、雷を纏った炎を放射した。降り注ぐ矢の何本かは炎を掻い潜り、ザクザクと俺の身に突き刺さった。


 致命傷ではないだろう。確認する余裕もなく、背後に意識を向けながらも魔法陣がどうなったのか視線を向けた。


 魔法陣に直撃した炎雷拷撃は硝子を割るかのように魔法陣を砕き、その残骸は虹色に輝く欠片となってヒラヒラと宙を舞いながら落ちてくる。


「危険だから排除するか、まるで俺を魔物のように言うんだな」


 肩、脇腹、それに左足の太ももに矢が突き刺さっていた。その矢を一本ずつ抜き、自然治癒スキルを発動させ止血を行った。

 痛みは残っているが、自然治癒で治癒できる程度の矢傷だ。脇腹の矢も肋骨に当たったらしく、肺までは届いていないようだ。


 刀を握り締めたまま振り返り、魔法使いの存在を近くで確認した。あれほど不意を衝いてくる奴だったが、俺の背後に現れてからは仕掛けてはこなかった。

 そうして対面した魔法使いは、


「僕の力は強大だ。今披露した魔法が全てではないよ。その気になれば君を殺す事だって可能だと実演して見せただけさ」


 確かにな……規格外の魔法の規模に、標的を狙い続ける矢。おまけに背後を取られていた事にも気づけなかった。


「お前に殺されてやるほど、俺はお人好(ひとよ)しではない」


 向かい合う相手にこれほど警戒しながら会話をする日が来るとはな。緊張が全身に伝わり、刀を握る掌には汗が滲んでいた。


 本能が状況を理解しているようで、言葉を交わしたところで死闘は免れないだろう。それでも互いに、この対話に、これからの戦いに意味を持たそうとしていた。


「これ以上先に進むのは()めてもらえないかな?」

約束(ちかい)を果たすまでは立ち止まる事はない」

「君が引き返してくれるなら、これ以上無駄な戦いは回避できるんだよ?」

生憎(あいにく)だが、俺の前に立ちはだかる者は容赦なく斬り捨てると決めたばかりなんだ」


 そうかい。と微笑を浮かべた魔法使いからは、全身の細胞が飛び起きたと錯覚させるほどの殺気が放たれていた。

 おもわず刀を空振りして「斬られたいならそう言いな」と、その殺気に呑まれないよう強気に出た。すると、轟く轟音が俺たちの意識を向けさせた。


 見てみると騎士団を蹴散らした地竜が、こちらに向かって咆哮を放ってきていた。すっかり忘れていた地竜と騎士団の戦いは地竜に軍配が上がっていたようだ。


 地竜は騎士団を放って俺と魔法使いを同時に消し去ろうと、開いた大口から光線を放っていた。見るみる内に俺たちに迫る光線、互いに離れるように距離をとり光線を避けた。


 ゴゴゴッと岩壁に衝突した光線は凄まじい威力で岩壁を抉った。崩落した天井はこれだったかと、天井に視線を向けていると、


「少し邪魔だよ」


 まただ。あの魔法使いは何をしたんだ。

 魔法使いの声が聞こえ天井から視線を落としてみると、崩落した瓦礫の側に一瞬で移動していた魔法使いが地竜に向けて声をかけていた。


 空間の隅には負傷した騎士団が横たわり、唯一見覚えのある姫騎士だけが立ち上がると、魔法使いを前に荒ぶる地竜に悔しそうな視線を向けていた。


 魔法使いは何かの魔法を使ったのだろうか。姫騎士から地竜に視線を逸らすと、地竜の巨体が宙に浮いていた。そのまま魔法使いが杖を振ると、浮遊していた地竜は岩壁に強く叩きつけられた。

 その近くで漠然とした様子で魔法使いと地竜を交互に見る姫騎士。俺も同じで、何が起きたのか理解できないでいた。


「ふっ、おそろしい魔法だな」


 岩壁を擦りながら地面に崩れ落ちた地竜。

 杖を振っただけであの巨体を岩壁に叩きつける光景を理解しろと言われても、誰も理解はできないだろう。


「大丈夫かい? 治癒魔法を施してあげたいんだけど、今はその魔力すら惜しい状況なんだ」


 俺に対しては問答無用で殺しに掛かってきた奴が、姫騎士には優しく声をかけていた。


「申し訳ないんだけど、自分たちで何とかしてもらえないかな」

「あっ、あぁ。」


 姫騎士も戸惑っている様子で、あぁ、と一言だけ発していた。

 二人のやりとりを意にも介さず、首を高く伸ばし起き上がった地竜は、地を這いながら激昂した様子で二人に襲い掛かった。


 地竜が這う度に小石が跳ね、横たわる騎士団の鎧をカツンッと鳴らしていた。


「そのまま寝てくれていれば良かったのに」


 向かってくる地竜を脅威だとは捉えていない魔法使いは、杖を高く掲げ溜め息交じりに魔法を発動させていた。


 地竜の頭上に巨大な魔法陣が現れ、その範疇に半透明の赤黒い円柱が現出した。中に閉じ込められた地竜は円柱に突進をするがビクともせず、次の瞬間には巨体が地面に減り込んでいった。


「結界……ではなさそうだな」


 その円柱の中だけは重力の負荷が何十倍にも跳ね上がっているようで、必死に耐える地竜の首が徐々に下がっていく。

 その重力の負荷に耐えられなくなった地面までも、ビシッ、ギシッ、と音を立て沈んでいくと、ついに地竜の頭部も地面にひれ伏した。


「まだ続けるのか」


 ひれ伏した地竜もまた、地面に減り込み始める。地面が完全に陥没したところで動かなくなった地竜を確認をすると、魔法使いは地竜を襲っていた魔法を解いた。


 現れた光景は沈んだ地中に横たわる地竜の巨体が、少しだけ地上に見えている。魔法使いは周囲に横たわる騎士たちを、地竜にしたように宙に浮かせて壁際の一箇所に集めた。


 その光景を黙って見る姫騎士。そうして姫騎士の方へ魔法使いが振り向くと、


「これから壮絶な戦いが始まるよ。巻き込まれたくなかったらこの場から引き返す事だね」


 姫騎士も冷静に状況を受け止めたようで、地竜を一度見たあと、今度はまともに言葉を交わしていた。


「私は任務を受けダンジョンの調査にきた。任務内容を伝える事はできないが、これから何が起こるのか、見届けなくてはならぬであろう」


 仕方がない、と小さく微笑を浮かべた魔法使いは、


「それなら自分たちの命は自分たちで守ってもらうよ」


 そう言葉を残した魔法使いは俺から少し距離をとった場所に突然姿を現した。


 なるほど、転移していたのか。

 俺の様な次元を繋ぎ合わせるゲートとは違い、自身をそのまま目標点に転移させるとは……入口と出口、その空間を繋げているのとは(わけ)が違う。


 転移は自身の居る座標そのものを書き換えているのだろう。その気になれば時間すら止められそうだな。


「地竜は人除けに、ちょうどよかったんだけどね」

「殺したという事か」

「違うよ。少し眠ってもらっただけだよ」


 悪びれる様子もなく言葉を続ける魔法使い。


「それでもあの様子じゃ、起き上がるのに時間がかかるだろうね」


 あんな魔物まで人除けに利用しているのか。ただの魔法使いではこんな芸当はできないだろう。

 それにこのダンジョンには、よほど人を寄せ付けたくないようだな。


「そうか。それでも俺には進む理由がある」


 こんな化け物染みた魔法使いが居る事に、尚更二人が心配になった。通り魔となんら変わりない魔法使いと邂逅したライドを想像したが、逃げ切る姿すら想像できそうにない。


 さっさと始末して上層に向かうしかないな。


「その()。容赦なく他者を殺す事のできる瞳だね」


 腹立たしい物言いをする魔法使い。こいつは俺の中で通り魔の烙印を押しておいた。


「やっぱり君は危険過ぎるよ。悪いけど迎え撃たせてもらうよ」


 その言葉が合図となって、再び戦いが開始された。

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