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26―地下四階層 情けは己を危険に晒す②


「空洞に入れッ!」


 荒げた俺の声にビクッと肩を震わせ驚いたロロアだが、魔物を前にコクリと頷くと踵を返し駆け出した。それを見ていたライドは魔物に背を向けたロロアを迎えるべく螺旋空洞の側から走り寄った。


 声を掛けたと同時に、俺は四つん這いの状態で背中からシューと煙を出しているパージーと呼ばれた魔物に駆け寄りながら抜刀する。

 状況的に天井に居た魔物の背にロロアの放った火球が直撃して落ちてきたようだ。相手は手負いの魔物、当然攻めるつもりは無かったと口にしたところで和解し合える事はないだろう。


 黒茶色をした毛で覆われているパージーがまるで人の様に首を一度二度と揺らして意識を覚醒させようとしていた。まだ脳が揺れているのか、ふらつく足で立ち上がると俯いていた首から上が露になり、その異様な風体にたじろぎそうになった。


 首から下は猿のようだが、その頭部は表皮を剥がされ拷問を受けた後のような姿だった。肉の塊のような猿の顔は赤白い筋繊維の中に、白い眼球がギョロギョロと動き廻っている。

 翳んでいただろう視点が定まったようだが、すでに俺はパージーの眼前に居た。


 見下ろした視線が交差するとパージーは俺に向かってギーッと声を荒げたが、その直後パージーの首を刎ねて黙らせた。

 胴体からは赤黒い血がトクトクと音を出して流れ、首がゴロンと俺の足元に転がった。バタンッと胴体も地面に崩れ落ちたところで、二人を退避させた螺旋空洞の状況を確認する。


 探知察知が赤一色に染まりきっており、ゾロゾロと何かが這い寄ってくる物音がそこら中から聞こえてくる。天壁から這い伝ってくるパージーの群れがすでに二人が逃げた螺旋空洞目指して移動を始めていたのだ。


 光球をひとつ追加して岩壁側を照らす光量を増やすと、螺旋空洞の入り口上部付近にほとんどのパージーは集まり終えていたようだ。

 岩壁にはみっしりと身を寄せて集まるパージー、数にして百体近くは居るだろう群れだ。

 笑えない数の異様な風体をした猿共が重力を無視して自由に岩壁を移動していたのだから、さすがに冷や汗が頬を伝った。


「なるほど。攻撃されると群れで襲い掛かる魔物か」


 螺旋空洞の中から半身を外に出して頭上を見上げたロロアが絶句しているのがわかった。ジリジリと螺旋空洞の入り口に這い寄って進んでいた先頭のパージーも、おもわずロロアを見て停止したようだった。


 だがそれは決して進行を止めたのではなく、そこに敵が居ると認識し、様子を窺ったに過ぎなかった。


「ロロア、中に居るんだ」


 俺の声に反応して振り向いたが、その表情は無だった。幼い子でも自分たちに危機が迫っていることぐらいは容易に察したようだ。

 螺旋空洞の中から伸ばされたライドの手がロロアの手を引き、中に連れ込んだのを確認した俺は戦闘を継続させる。


 切っ先を地面に向けて持っていた黒刀に迅雷を発動させて青白い雷を纏わせた。

 バチッと放電している黒刀の切っ先を右手側から左手地面に向けなおし、右足を一歩前に出して血溜まりに足を浸けながらも腰を軽く落として体制を整えると、そのまま切っ先を勢いよく斬り上げる。

 斬り上げた雷の一閃は青白い三日月の形でバチバチと放電しながらパージーの群れに向かって飛んでいく。視界に映る百近い数のパージーに問答無用でスキル【雷薙ぎ】を放ち浴びせた。


 雷薙ぎがパージーの群れに衝突すると、閃光が瞬いてバヂヂッと音を発てた雷が一気に岩壁を伝い周囲に拡散し消えていった。


 雷で感電した魔物たちは岩壁から螺旋空洞の入り口付近にバタバタと音を発てて剥がれ落ちていたが、瞬間的に身体を硬直(しびれ)させただけで大した傷を負っていない様にも見える。


 奴らの背後には螺旋空洞の入り口がある。迅雷をさらにバチバチと音を発たせながら俺に注意を引き付けるが、やはり雷は効かないと肯定するかのように、地面にバタバタと落下したパージーたちは立ち上がり始めた。

 するとその中からギーッ! と一鳴きした一体のパージー、それに呼応して他の固体も威勢よく飛び跳ねながらギーギーと喚き散らし始めた。


 眼前の光景に雷系の魔法耐性を有しているのだと、疑心は確信に変わった。

 俺とは相性の悪い厄介な相手だと思いながら、


「まるで盛った猿だな」


 侮辱されている事を感じ取ったのか、さらに激しくギーギーと喚き出した。

 収まりの効かなくなったパージーの群れだったが、一体のパージーが掌を頭上に掲げるとうるさかった猿共の鳴き声がやんだ。


 どうやら先ほどギー! と一鳴きした固体が群れのリーダーだったようだ。


 オーケストラの指揮者が指揮棒(タクト)を下ろしたような優雅な光景とは言えないが、それでもピタリと静まりかえったのは、それだけ統率の執れた群れなのだと見て取れる。


 静まり返り少しの時間が経っただろうか、パージーたちは雷薙ぎを放った俺に注視していたが、リーダーパージーが片手を横に伸ばし手をヒラヒラとさせると、背後の奴らがそれに招かれ一歩前に躍り出た。

 何をする気だと思案した矢先、今度は手を頭上に掲げ、


「ギギギーッ!」


 何かの指示でも飛ばしたのか、鳴き声と同時に今度はその手を「かかれッ!」とでも言いたげに俺を指して振り下ろした。

 纏めてくるなら願ってもないと思ったが、俺に向かって駆け出したきたのは一歩前に出てリーダーパージーの周囲に控えていたほんの一握りほど。

 他の残った群れの半数以上はその場で俺に背を向けた。

 そうしてリーダーパージーも俺を無視して背後に振り返ると「ギギギ」と声を出した。

それはまだだ(・・・)と、まだ動くなと指図しているようで、皮を剥がれた様な顔を半分だけ振り返り俺をギョロリとした眼で見ると、猿のくせにニンマリと笑みを浮かべたのがわかった。


 こいつらには知性がある。

 何をしようとしているのかは一目瞭然で俺が声を飛ばすと同時に「いけッ」と言った風にリーダーパージーが腕を振り下ろして合図した。


「ライドッ! 入り口を塞げっ」


 螺旋空洞側に反転したパージーの群れは、合図と共に一斉に飛び出して二人を襲いにかかった。空洞付近に浮遊させていた光球を急いで螺旋空洞内に移動させ、二人の視界を確保する。


「言われるまでもないさ!」


 光球はライドが入り口を塞ぐ直前、どうにか中に入れる事ができた。

 地下三階層でアンダーベア亜種が横穴に入り込んできたときには、その手法は悪手だと考えていたが、今はそんな事を気にしている余裕は俺たちにはなかった。


 眼前に迫ってきた二十体ほどのパージーが地面を蹴り上げ頭上から襲い掛かってくる。数は捨て駒に使うには多く、俺を倒すには少ない。それぐらいはヤツ(リーダー)もわかっているだろう。

 あの不敵な笑み……それをわかっていながらこの数を嗾けてきたのだ。


 あの猿は何かを企んでいる。


 俺がこいつらを始末(あいて)している間、ライドには何が何でも時間(とき)を稼いでもらうしかない。


◇◇◇


「ロロアちゃんは何があっても守るから」


 盾で入り口を塞ぎながら、俺はロロアちゃんを安心させようと声をかけた。

 外から入り口を塞いだ盾に体当たりをしているようで、ドンッという激しい音が空洞内に響く。

 ひたすらにその衝撃にジッと耐えていると、


「かじゃみがいるから、だいじょうぶ!」


 振り返ってみると、杖を両手で握り締め、曇り一つない真っ直ぐな眼差しでロロアちゃんは応えた。俺がロロアちゃんぐらい幼かったら、こんな状況恐ろしくて堪らなかっただろうさ。


「くッ、なんて突進しやがる」


 一体ずつの体当たりは耐えられない程の衝撃でもないはず。パージー自体はロロアちゃんと変わらないぐらいの大きさなんだから。それが突然盾から感じる衝撃の度合いが一変した。

 ドンッと感じていた衝撃は、ドスンッと重みの有る感触に変化する。体当たりと言う生温いものから、突進と呼べる脅威に変化したと言っても過言じゃないほどに。


 ギーギーとうるさい外だが、時折聞こえる「ギーッ!」の一声でリーダーパージーが指揮を執って俺の盾を集中的に崩しにかかっていることがわかる。


 ドンッと盾に当たる衝撃が重なって、外で何が起きているのか想像ができてきた。


 一体ずつ交互で繰り返されていた体当たりは、今は数体の同時体当たりとなっている。それが数を重ねるごとに重みが増していく。


 盾の面積からして二体で一撃を加えるのがやっとのはずだが、衝撃の度合いからして二体を盾に張り付かせたまま、その背後に三体、三体の背後に四体と重ねて寝かしたピラミッドの形を形成しているみたいだ。最後にピラミッド状となった群れの最後方から多数のパージーが突進をすることにより、一点に重い衝撃を加えることが可能となったらしい。


「まずい……あいつら以外と知恵が回るみたいだ」


 大きな衝撃と共にブシュッと果実が潰れたような感触がしたと思えば、盾と岩壁の間からパージーのものと思われる血が滲み込んできた。盾に身を重ねていた奴らが背後からの衝撃に耐えられなくなり潰れたみたいだ。

 このままじゃあ俺の方も長く持ちそうにない。


 カザミ……早くきてくれ。

 願ったところで状況が好転する事もなく、背後に居るロロアちゃんの一言に俺はただ漠然と視線を向ける事しかできない。


「おっきなくまが、こっちをみてるよ」


 空洞の奥、螺旋状の通路から下りてきたアンダーベアの姿が見えた。

 まだ全身を覗かせてはいないが、首から上をこちら側に覗き込ませ、奥に居る俺たちの数を確認しているようだった。


 盾で塞いだ向こう側には押し寄せてくるパージーの群れ、後ろを振り返ればアンダーベア。

 何をどう考えても今の俺はパージーの進行を止める事がやっとで、アンダーベアに対し何もできそうにない。


 対処できるとすれば、それはロロアちゃんしかいない。

 戦わせたなんてカザミに知られれば怒るだろうな。


 それでも今は生き残る事が先決だ。


「さっきの杖で時間を稼いでくれ。あとは俺がなんとかしてみせる」

「わかった」


 ロロアちゃんは震える手を必死に抑え、四足でのそのそとゆっくりと歩み寄ってくるアンダーベアに杖を構えた。


「大丈夫だロロアちゃん。震えているのは俺も同じだ」


 アンダーベアが近づいてくるにつれ、ロロアちゃんの膝がガクガクと震え始めたのが見て分かった。アンダーベアに恐怖しながらも、そこから動こうとはしない。

 立派に役に立とうと逃げずに踏み止まっているロロアちゃんとは対照的に、俺の手も震え始め、カザミが怒りを露に襲い掛かってくる姿が脳内で何度も再生されている。


 この窮地を脱した先に、真の窮地が待ち構えていると思うと、


「……逃げ切れるわけがしない」


 アンダーベアを両断してしまう化け物染みたカザミの戦い方。それを考えると俺では刃が立たないどころか、逃げるのも容易じゃない。

 抑える盾に額を寄せて、小さな声が洩れ出てしまった。


「ふぁいあぼーる」


 螺旋空洞の緩い曲がり(アール)を抜けてアンダーベアの全身が露になったとき、ロロアちゃんは先手必勝と言わんばかりに即座に火球を放っていた。


 握り締めた杖から放たれた火球はアンダーベアの頭部に直撃しボンッと音を発て爆発したが、小さな爆発では威力が足りず足止めにすらならなっていなかった。


 グオゥと嘲笑ったかのようなアンダーベアの声が聞こえ、ゆっくりとこちらに進行を開始した。


「ふぁいあぼーるっ」


 初の戦闘に恐怖で混乱しているのか、ロロアちゃんは闇雲にファイアボールを放っている。

 なんども火球をアンダーベアに向けて放っているが逸れて岩壁に衝突しているのが大半、偶然当たった火球も煙が上がる程度で刻々とその距離は縮められている。

 遮蔽物も無い一本道では、アンダーベアが一駆けすれば(たちま)ちその距離は縮められ、アンダーベアの鋭い爪がロロアちゃんを襲うのはもはや時間の問題かもしれない。


 飛んでくる火球にまったくと言っていいほどに脅威を感じていないアンダーベアは、獲物を追い詰めたような眼差しをロロアちゃんに向けた。


 ドスンッ、ドスンッと何度も盾が揺れる。今盾を放り出してアンダーベアに挑みかかっても、開いた入り口から流れ込んできたパージーに挟み撃ちにされて俺もロロアちゃんも無事では済まない。


「こっちこないで」


 ついにアンダーベアの顔がはっきりと認識できる距離まで迫ってきていた。


「だめ、そこまできた……とまってくれないよ」


 どうしたらいい? とロロアちゃんに声を投げかけられたが、俺も手いっぱいでどうにもできそうにない。


「おねがいとまってっ!」


 ロロアちゃんの大声に振り返ってみると火球は打ち止めとなったようで、魔力が足りずにボッ、ボッと小さな火が杖頭から出ては消えを繰り返し、球状に変化する事はなかった。

 そんな中、アンダーベアはのそりのそりと移動を続け、ついにはロロアちゃんの眼前にまで近寄っていた。

 魔力が底を尽き、杖頭を左右に振ってこれ以上近づくなと杖一本で抗ってみせるが、魔力の枯渇と初めて戦闘で疲弊しきっていた。


「下がるんだッ!」


 怒鳴る声で精一杯に声を飛ばしたが、疲れて動かないロロアちゃんに向かって振り上げられた爪が振り下ろされようとしていた。

 ロロアちゃんは杖を両手で抱いたまま、俺の方へ振り返って目を瞑ってしまった。


「ぁああ゛ッ!」


 アンダーベアの振り上げられた腕が鋭い爪を立てて振り下ろされたのが見えた。まるで時間がゆっくりと流れるように、鮮明に見える血飛沫が舞い上がり、俺はただ叫ぶことしかできなかった。


 眼を背け、唇を噛み締めた。


 守れなかった。ただ入り口を塞ぐ事しかできなかった無能な俺。

 アンダーベアの餌食になった冒険者は多い。CやBランクの中堅冒険者でも複数人で討伐する相手なのに、俺はそんな魔物を相手に幼い子供を一人で戦わせ、見殺しにした……


 罪悪感が体中を侵食していくのがわかった。

 ふっ……カザミに殺されても仕方ないか。


 後悔と諦め、初めて感じた憤り。心が壊れるのを防ごうと無意識に自己防衛をしたのか、俺の中で緊張の糸が切れた様に、感情が開き直った。


 とめどなく突進を繰り返すパージーが悪い。

 行動範囲を下層に伸ばしてきたアンダーベアが悪い。

 ロロアちゃんを傍に置いていなかったカザミが悪い。

 なにより、守れなかった俺が……見殺しにした俺が――


 開き直り、また自分を責める。

 血飛沫が舞って眼を逸らしてから少し時間が経っていた。

 俺の背後には倒れたロロアちゃんの骸が転がっていると思うと、押し殺そうとしていた感情が溢れ出した。勝手に目鼻から涙と鼻水が垂れ流れ俺は叫んだ。


「あぁああ゛ッ!」

「ぅわっ」


 素っ頓狂な声が聞こえて一番驚いたのが俺だった。


「ロロアちゃんっ!?」


 名を呼びながら生きているのか確かめようと振り返ると、黒衣が血に染まったロロアちゃんが立っていた。


 何が起きているのかわからない。何が起きていたのか確かめようとロロアちゃんの足元を見ると、そこには切り落とされた腕が転がり、体中を切り刻まれ倒れ込んだアンダーベアが居た。

 その屍に覆われた地面には紫色に発光する魔方陣が消えていく最中だった。


 確かめたところで何が起きたのか理解できなかった。

 カザミが付与したと言っていた魔法だろうか。ハッキリとした事はわからないが、確信の持てる事がひとつだけある。


 螺旋空洞内(ここ)は安全じゃない!


「カザミ! ロロアちゃんを受け止めろ」


 盾と岩壁の隙間から大声を外に居るカザミに向けて投げかけた。

 俺は地下三階層()の横穴でカザミがしたように、ドスンッドスンッと伝わる衝撃の合間を予測し、衝撃が止んだ瞬間に盾を蹴飛ばして入り口付近に溢れているだろうパージーごと弾け出そうとした。が、俺には無理だった。


 覚悟を決めて入り口を開こうとしたが、外で溢れかえったパージーの死体が邪魔をしていた。仕方なく塞いでいた入り口に隙間を作ろうと盾を外側に少しだけ寝かせ、上の方に煙窓のような小さな窓を作った。

 そこから煙が出る要領で、掌の上にちょこんと座らしたロロアちゃんを宙に放りなげた。


◇◇◇


 迅雷を纏わせた刀でパージーどもを斬り刻んでいた。どうやら雷は地面に垂れたパージーの尻尾から地面へと逃げていたようだ。

 垂れ下がった尻尾は避雷針の役目を果たしていて、迅雷の雷を即座に地面へと流し無効にしていた。それでも物理的に斬り込んだ刃はザクリと刺したり斬り刻んだりと、確かな手応えが感じられた。


 思いのほか時間をかけてしまった。素早く飛び跳ねて動き回るパージーは迎え撃つのが手っ取り早く、わざと隙をみせて襲ってくるのを待っていたからだ。

 だがそれもここまでだ。


「雷はあまり効かないみたいだな。これならどうだ?」


 早く助けに廻らないとライドの盾が持たないだろう。襲い掛かってきた二十数匹は居ただろうパージーも残るは三体。


 さっさと灰にして群がるパージーを斬り殺しに行こうと、パージーの足元から火柱が昇る光景をイメージしながら、刀を握っていない左手を仰向ける。

 そのまま掌を一度握り人差し指を伸ばして、天に向いてチョンッとその指を立てた。


「消えろ。【火柱】」


 今回は白いモフモフうさぎ共のように傷つけないよう手加減することはない。消し炭にする勢いで魔力を消費した。


 残った三体のパージーの足元から炎が現れると同時に、悲鳴を上げた直後に炎の中で崩れ落ちた。

 一瞬でパージーは消し炭となったが、一度発動した【火柱】は渦を捲き始め、火柱へと形を変えて天を目指し昇っていくようだった。


 俺はその熱量を感じ取ると、額から汗が零れた。


 自分の出したスキルではあったが、火柱がここまでえげつないものかと釘付けとなってしまった。終始火柱の行方を見ていると、火柱は天井に衝突して周囲に波の様に広がっていくと、ようやく火力を弱めながら消滅していった。


 火柱が収まり地面を見てみると、焼かれた地面が岩を溶かし真っ赤に燃え滾っているみたいだ。その中にはパージーだっただろう灰が残っているが、その灰も撫でる風に掬われる様に散っていった。


 俺を足止めしていたパージーも狩り終わった。

 あとは螺旋空洞の入り口に向かおうとすると、


「カザミ! ロロアちゃんを受け止めろ」


 ライドの声が聞こえた。

 螺旋空洞の入り口前で溢れるパージーの頭上から俺の方へ何かが飛んできた。


「なんだ?」


 よく見てみると、三角座りをしたロロアが宙を舞っていた。

 俺の姿を確認したのか、目が合うとロロアは両手を広げて、ここだよー、とでも言いたげに叫んできた。


「わあー!」


 おもわず「任せろっ」と声を投げかけた。急いで身体強化を自身に施して跳躍する。


 放り投げられたロロアを追ってきた数体のパージーが跳躍した俺の姿にロロアから俺へと目標を変えた。

 俺が下りてくるだろう着地点に先周りして牙をむき出しにギーギーとわめいている。先に両手を広げて宙を舞っているロロアを(つか)まえ肩にぶら下げた。


「しっかり掴まってろ」

「うん」


 着地と同時にパージーの脳天を突き刺した。

 俺を取り囲む残りのパージーにも、慈悲を与えず首を一閃で跳ね飛ばす。


「よくやったライド! 【失われし城(ロストキャッスル)】でその場を凌いでくれ」


 あとは俺が片付け(始末す)ると声を飛ばし、ライドの返事が聞こえる前に、


「【炎雷拷撃】」


 火竜の息吹(ブレス)に雷を纏わせた炎が、袈裟切りの要領で剣を振るうと現出した。

 螺旋空洞の入り口で群れているパージー目掛けて、灼熱の炎と青い雷が入り混じりながら放射される。


 まさに一掃。

 宙で範囲を拡大させながら、波の様に広がった炎はパージーたちの命を一瞬で呑み干した。


 群れから溢れ聞こえるパージーの悲鳴が蝋燭の火を消すかの如く掻き消えていく。

 屍と化したパージーの群れは、長い拷問の末に命尽きたかのような無残な姿をしていた。肉は焼け爛れ、全身を巡った雷は蛇が這いずり廻ったかのような跡を残していた。


「怪我はないか?」

「だいじょうぶだよ」


 肩に抱きかかえたロロアを地面に下ろし傷はないか確かめる。黒衣は血で染まっているようだが怪我はしていないようだ。

 螺旋空洞内で何かあったのは間違いだろう。あのパージーのニヤリと零した笑みが頭の中によぎった。

 探知察知で周囲を確認してみると、ライドの居る盾の向こう側に紫色の光点が探知察知に現れていた。


 赤でも青でもない色。紫は確か……。

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