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23―地下三階層①


 最奥は思ったよりも距離があったが、荒野を町まで網羅したロロアは確実に成長していたようだ。

 ライドを置いて駆けたときは全力だったのだが、ある程度距離を稼ぐと、ロロアは焦らずに一定の速度で走り続けたのだ。

 俺もロロアの隣に付いて走っていたが、子連れマラソンに参加する親子はこんな気分で走っているのだろうか、といつの間にか成長してた子供にびっくりする父親の気分だった。


 ライドの事も忘れて二人でちょっとしたマラソンに興じていると、光球が行き止まりに到達したようで、聳える岩壁でこれ以上は進めないと訴えかけていた。


 俺とロロアは折り返し地点に着いたマラソン選手のように、進行方向を変えた。

 もちろん本当に折り返したのではなく、光球が止まったのを合図に右へと曲がっただけだ。そのまま更に突き進むと、ゴールはもうすぐだと俺たちはアイコンタクトで合図しあった。


「ついたー」


 両手を挙げてゴールだと言いたげに大きな空洞の前で立ち止まったロロアに、俺は一人止まらずにゆっくりとだが歩き続けた。

 振り返って、


「走ってすぐに止まらない方がいいぞ」


 この階層は長方形の箱型になっているらしく、右奥に着くと岩壁が折り重なったようにくっきりとした角となっていて、その傍に空洞が開いていた。


 ロロアは切らした息を整えながらも、二人で円を描くようにぐるぐると歩き続ける。

 完全に趣旨が変わったことを理解していたが「はあーっ」と大きく息を洩らし両膝に手を置いた俺たちは今、満足感に浸りながら水袋で喉を潤した。


 ここまでくる途中、いくつかの柱の傍には同じようにアンダーウルフの亡骸が数体ずつ積まれていた。騎士団がほとんどのアンダーウルフを一掃して進んだのはいうまでもないだろう。


 あとはライドを待つだけかと、空洞の傍、岩壁に背中を預けた。

 すると同じように隣に立ったロロアが、


「はしってるとちゅうに、ちっちゃなウルフがいたよ」


 ロロアは柱の陰に隠れていたアンダーウルフの子供に目がいっていたらしく、ほとんどのアンダーウルフが騎士団によって狩られていることに気づいていない様子だった。


「仔ウルフか。ライドが引き付けた群れはこの階層唯一の生き残りだったようだな」


 残っている成獣は五、六体だったか。


「ライドが残りのウルフを仕留めていたら、生きてはいけないだろう」

「そう……だよね」


 どうして生きていけないのか。そんな事は幼いロロアでも理解していた。

 食べ物がないと人間だろうが魔物だろうが、餓えて死ぬのは当然だ。まだ狩りも出来ない仔ウルフは当然ながら生物としての摂理に抗うことはできない。

 ライドがアンダーウルフの残党を討伐してしまえば、時期に餓えて死ぬのは明白だ。


 それでも納得できないと言った様子で、足元に転がる小石を蹴飛ばしたロロア。

 するとライドが戦っているだろう付近から一瞬、眩き閃光がピカリと光った。


「ライドは盾職だからな、守護者(ガーディアン)は攻撃には向かない」


 今の閃光を見ただろ。ウルフの群れを怯ませてこっちに向かってくるはずだと説明してやると、


「ライドだもんね」

「そうだ。ライドだからな」


 どういった意味でライドだもんね、と言っているのかよくわからなかったが、たぶん、ライド=弱い、そんなニュアンスで言ったのだと思う。

 ギルドで聞いたライドの話も、オーガとの戦いで助けられたり、地竜に遭遇して逃げただのという話だった。極め付きはたぶん昨晩の姫騎士の前で微動だにしなかったことだろう。

 子供はそういうのに聡いというからな……


 少しして何者かがこちらに近づいてくる音が聞こえてきた。

 浮遊する光球(ライトボール)を音の方へと移動させると、ガシャガシャと鎧から音を発てるライドの姿が映しだされた。


「待ったか?」


 すまない。これでも急いだんだがと息を切らし、肩で大きく息をしていた。


「ねぇ、さっきのうるふはどうしちゃったの?」

閃光玉(せんこうぎょく)で怯ましてやったぜ!」

「しなせちゃったの?」

「いいや、俺は盾職だから殺傷能力はない!」


 ライドは自慢気に言い切ったが、冒険者としてそれはどうなのかと疑問を持つ発言だな。それでもロロアには朗報だったのだろう、安心したような様子だった。

 結局ライドの作戦とは、閃光で相手を怯ませて逃げる。だったようだ。


「やっぱりライドだね」


 ニコッとご満悦の様子に、


「ロロアちゃんもついに俺の凄さに気がついたようだな」


 まったく持って違う意味だろうが、ライドも満足そうなのでそう言う事にしといてやろう。

 殺さずに窮地を脱するのは何より難しい事だが、それをやってのけてみせたんだ。少しは認めてやるか。


 背中を岩壁から離し、開いた空洞に視線に向けながら、


「この先が地下三階層に続く空洞でいいんだな」

「間違いないぜ」


 そう言ってライドは腰に提げた荷袋から地図を取り出し、うん。この先にちょうどいい所がある。と口にした後、


「次の階層で食事にしようぜ。ここから螺旋空洞までは迷路みたいに入り組んではいるが、それなりに落ち着ける場所がいくつかあるんだよ」


 地下は閉ざされた暗闇が広がるだけで、時間の感覚が狂いそうになる。

 ダンジョン内で食事は時間の感覚を正し直せる方法なのかもな。


「そうだな、次の階層で休憩を挟もうか」


 ライドの意見に賛同し、先に繋がる空洞の中に入ると、分かれ道があったり、いくつか横穴が開いていた。

 今までの様なほとんど一本道だった造りとは異なり、まさに迷宮らしく数多在る空洞が俺たちを迷わせにきたみたいだった。

 だがライドの先導のおかげで難なく螺旋状になっている場所まで辿り着き、次の階層に降りることができた。


◇◇◇


 またしても行き止まりに差し掛かったか。これではマッピングばかりで先へ進む事が出来ないではないか……ぐぬぬっ。


「バレッド隊長、ここも行き止まりのようであります!」


 俺の補佐を務める騎士がそう口にした。

 見ればわかることを……みなまで言うな。


「全員反転! 道を開けろ」


 反転後、前後の入れ替えだけでも面倒な狭さの空洞内。先頭に移動しようと縦に伸びた隊列を割いて進むと「グォンッ」と魔物の鳴き声が一度だけ空洞内に響いた。

 すると、


「バレッド隊長! ベアです、アンダーベアが出ました!」


 大声で進む前方から声を張り上げたのは従士の一人だった。

 縦長に伸びた隊は前から俺を含めた騎士五名、その背後に盾兵五名、最後方に後衛職の魔法使い三名と従士の二名で隊は結成されている。

 騎士を連れて急いで後方に向かう。

 

盾兵(じゅんぺい)は前方を固め、魔物の進行を阻止せよ!」


 従士、魔法使いは後方に下がらせる。

 この空洞内では数の有利は関係ないのだ。縦に伸びた隊では魔物と出くわしたところで、応戦できるのは向かい合う三名ほど。

 他は入れ替わらない限り、後ろで指を咥えて観ているしかない。

 早々に広い空洞に移動したいところだったのだが、


「俺たちの出番だ、騎士の力を存分に揮ってやれ!」

「一番槍は私が!」


 補佐騎士が背後から臭いを追って現れたアンダーベアに特攻していく間に、魔法使いと従士は盾兵の後方に移動しろと付け足すと、すぐさま移動を開始した。

 魔法使いが居た後方が今では前線となってしまっているが、こんな至近距離で魔法を放てば味方にも損害を出しかねないため、魔法使いには援護も無用だと言っておく。


「良い判断ですね」


 補佐が振り下ろした剣筋に合わせ、アンダーベアは大きな前足で剣の腹を叩いて剣筋を強引に変えた。

 大柄なアンダーベアにとっては避けるに狭く戦いづらい状況のはずだが、この階層を棲家にしているだけあって、狭い場所での戦い方を熟知していた。


 グオ゛ーッと図太い声を鳴らしながら上半身を起き上がらせ大きな体躯を露にしたアンダーベア。

 三人並ぶのがやっとの空洞内では、どうしても縦に間隔を空けてしまう。

 補佐を横切り二人の騎士が続けて左右から剣撃を放つが、大きな前足と鋭い爪で薙いでみせると右側の騎士が左側の騎士に向かって勢いよく放り投げられた。


 岩壁に叩きつけられ「がはっ」と声が洩れる。


「盾兵前へ! アンダーベアを後方へ追い出せッ」


 三人の盾兵は手にしている盾を隙間なく横一列に並べ整列し、残りの二人は三人の間に入り込み天井を作り出し防衛の構えをみせた。

 出来上がった盾兵の密集隊形は、そのまま前進を続け倒れた騎士から自分たちに意識を向けさせた。


 すでに隊列の入れ替えは済んでおり、魔法使いと従士が行き止まりだった岩壁を背に待機していた。


 アンダーベアは近くに倒れている二人の騎士も、眼前に迫る盾兵にも興味は無いらしく、どう料理してやろうか……そんな考えをしているように鋭い眼差しを縦に伸びる隊列にジッと向けたあと、眼前の盾兵に視線を向けなおした。

 立ったまま動かないアンダーベアに対し、補佐騎士が盾兵の背後から飛び出して斬りかかった。


 これにはアンダーベアも驚いたようで、咄嗟に腕を振って払おうとしたが空を切った。

 補佐騎士の剣はアンダーベアを斬りつけはしたものの、分厚い皮膚に拒まれ致命傷には至らなかった。


 白い毛並みに赤い染みができていくと、雄叫びを上げて両足立ちの状態から四足で這う姿になった。

 グォオ゛ッと激昂したアンダーベアは補佐騎士をその大きな前足で薙いでみせると、盾兵の構える大きな盾に向かって突貫していった。


 地面に突き立てられた盾は重量感が感じられる合金製でできているが、アンダーベアはそれをもろともせずに体当たりをかまして盾兵の防御陣を崩壊させた。


 盾兵からは「うわぁあ゛ッ」と声が洩れ、そのまま岩壁や天井に叩きつけられ地面に転がった。


 残りは俺と横に居る騎士が一人、あとは背後の魔法使いと従士か。

 大きな体躯を利用したアンダーベアの体当たりは強烈であった。盾兵を吹き飛ばしたアンダーベアは右前足を軽く折りたたむと、一度だけ両前足で地面を叩いて再度突撃を開始した。


 避ければ肉弾戦の不得意な魔法使いに、まだ経験の浅い従士が襲われてしまう。


「足を狙えっ!」


 俺は右前足をやる、お前は左だ。部下の騎士に命令を下し、


「タイミングを合わせろ」


 前足が地面が離れる一瞬を狙う。


「……いまだ!」


 交差する寸前に一歩前に出てアンダーベアの右前足を斬り伏せる。

 体制を崩したアンダーベアは前倒しとなって転がっていく。


 アンダーベアの突撃の勢いは殺したが、転がった先は魔法使いたちの居る行き止まりだった。

 転げ回ったアンダーベアはすぐさま立ち上がると、怒りをぶつけるように逃げ場の無い魔法使いに向かって振り上げた鋭い爪を振り下ろした。


 ガシーンッと音を発てて何かがその爪を阻んだ。


「隊長ッ、今のうちに隊の立直しを!」


 魔法使いは一丸となり高密度の結界を張り巡らせ、振り上げられたアンダーベアの熊手からの一撃を凌いだのだ。

 従士も結界の中に身を置き、いつ結界が限界を迎えてもいいようにと、鞘から抜いた剣を構え迎え撃つ準備はできていた。


 本来ならば仕える主君のために戦闘を担うはずの従士だが、なにがあろうと大きなリュックサックに入れられている物資を守る事が最優先とされていた。


「動ける者は隊列を組み直せ!」


 声に応じたのは盾兵三名と補佐騎士一人。

 

「盾兵は魔物を結界とで押し潰してやれ」


 いけるな? と魔法使いたちに視線を向けると、魔法使いたちはコクリと頷いた。


「「「ゥオ゛ー」」」


 雄たけびを上げた盾兵がアンダーベアを押し潰そうと盾を構えて突貫をしかけた。

 アンダーベアは魔法使いに執着しているようで、背後の雄たけびを気にも留めずに振り上げた腕を何度も何度も振り下ろし、鋭い爪で結界を壊そうとしていた。


 ガシンッガシンッと結界と爪の衝突する音が響く中、背後からドンッと鈍い音を響かせ盾兵は結界と盾でアンダーベアを挟み込んだ。


 ジタバタと両腕を頭の上で動かすアンダーベアに対し、すかさず俺は抜刀しながら駆けた。盾兵の背後から抜いた剣先をアンダーベアの首元に向けて、ブスリと突き立ててやる。


「まだ気を抜くな!」


 暴れ狂うアンダーベアを必死で抑える盾兵と、結界の維持に集中する魔法使いたち。その狭間で時間が経つと悶絶したアンダーベア。

 俺は赤く染まった首元から剣引き抜き、首を撥ねて止めを刺した。ドサリと横たわる巨体を意に介さず、仲間の治療を優先する。


◇◇◇


 地下三階層に降りた俺たちは、ライドの案内で休憩をとれそうな場所まで進んだ。

 入り組んだ空洞がいくつも交差して分かれ道が多数があり、小さな横穴から人一人が潜れるほどの横穴まであり、見ただけではどれが地下四階層に続く正しい道なのか検討もつかなった。


 そんな入り組んだ空洞の中でいくつか行き止まりとなっている空洞があり、俺たちは冬篭りの熊のようにその中で過ごしていた。


「この階層は地図がなければ迷ってしまいそうだな」

「俺を連れてきてよかったろ。この階層は見た通り地図がなければ同じ場所を回らされたり、進んだ先が行き止まり、なんてよくあるからな」


 別に地図だけ渡してくれてもよかったんだが、その辺には触れないのが俺とロロアのいつのまにかのお約束となっていた。

 クスリと笑うロロアを横目に、


「確かにそれではかなりの時間をロスしてしまいそうだな。ライドがいてくれて助かったよ」


 ライドはそうだろう、とご満悦の様子で俺が手渡した最後の(VR時に看板娘から)スタミナ弁当(手渡されたカレーパン)をバクバクと口の中に運んでいた。

 座るライドの傍に置かれた地図に視線を向けたロロアは、


「ちずはギルドでもらえないの?」

「これだけは俺たち冒険者の戦利品みたいなもんだからな」


 モグモグと口の中の物を飲み込んでから、


「魔物の情報は開示するが地図は命掛けで作製したものだ。おいそれと開示する気は毛頭無いよ」

「ライドがいてくれてよかったよー」


 ロロアはそう言うと、手に持っていたカレーパンにパクリと食らいついた。


 ライドが案内してくれた横穴の奥は丸みを帯びた丸底フラスコ形になっていて、狭くもなく広くなく、どこか居心地がよかった。

 警戒するにも魔物は前方からしか攻めてはこられないので、入り口を警戒しておけば相応に対処できる。

 仮に複数体のアンダーベアが現れたとしても、入り口は狭いので縦に一列にならないと入ってこられないため数で押し切られる心配がないのも安心できる。

 小休止にはもってこいな場所だ。


「次の階層まではどれぐらいだ?」


 俺の問いに、アンダーベアがこの階層を徘徊しているのが難点だが、と口にしたあと、残りのカレーパンを口に頬張った。

 持参した水袋を口につけたあと、


「遭遇しなければそれほど時間はかけずに次の階層に降りられるはずだ」

「そうか。地下二階層にはアンダーウルフ、三階層はアンダーベア。四階層にはどんな魔物がいるんだ?」


 すでにダンジョン内の勢力図は変わりつつあるのかも知れないが、一応は聞いておく。まったく情報がない魔物と遭遇した場合は仕方ないが、情報どおりの魔物が現れた場合は対処しやすいからな。


「スライムってわかるか?」


 それはあれだよな? ぼく悪いスライムじゃないよ。的な可愛らしいスライムだよな?


「あれだろ? でろーんとして、ぶにょぶにょしてる……」

「ウルフ、ベア、スライム。あとゴブリンもいたな」

「魔物の大セールでもしているのか、このダンジョンは」

「他のダンジョンに現れるような魔物なら大概は出るだろうな」


 思ったよりも魔物の種類が多く、びっくりダンジョン博覧会でも開けそうだ。


「そんなに魔物が潜んでいるのか。ギルドでの説明からしてウルフとベアぐらいだと思っていた」

「悪いわるい。ダンジョンに現れる魔物はどこも似たようなものだから、つい端折(はしょ)ってしまったな」


 冒険者の当たり前を知らない俺が悪いのか、それとも他の魔物は大した脅威にはならないということなのか。

 雑談交じりの会話を続けていたが、


「なんかいるよ!」


 ロロアの言葉にすぐさま立ち上がったライドは盾を構えた。俺たちも急いで立ち上がり、入り口の方へと視線を向けた。

 ライドの背中に「きをつけてね」と口にしたロロアは残りのカレーパンをハムハムと急いで口に入れていた。

 おもわず俺は水袋を用意してロロアの隣に、いつでも手渡せるようスタンバル。


「話をすればだな」


 横穴の入り口から、のそのそと四足歩行のアンダーベアが一体入ってきたが、


「んんっ!」


 ロロアは声にならない声を上げたが、アンダーベアに驚いたと言う事ではないようだ。俺はやはりな、と思いながら、手に持っていた水袋を手渡した。


 ふいーっと一息ついたロロアを確かめ、俺も残りのカレーパンを頬張った。

 神妙な面持ちで口の中をもごもごしながら、


「食事の、匂いに、釣られて、きたようだ」


 ゴクリと飲み込み、ロロアから水袋を受け取る。

 ゴクゴクと水で流し込んでいると、


「おいおい、まじか……」


 お前の後ろでまだ食っていたのに気づいたのか!?


「どうした? お前の盾でよく見えない」

「こいつは亜種だ」


 そうか。まさかこんな状況でお前を前衛において食事を続けていたとは思わないよな。


「なんだそれは?」


 亜種、俺もなんとなくゲームなどで亜種という言葉は知っているし、個体名のあとに亜種が付くモンスター類は強いと相場が決まっている。

 けれども亜種なんて実在するのかと疑ってしまったが、


「進化や突然変異で生まれる通常の魔物よりも、強く厄介な固体のことだ」


 やはり強いのかと納得したところで、アンダーベアは四肢で大地を力強く握り締めたと錯覚させるほどに、


 グォアア゛ッ!


(やっこ)さん、やる気満々なんだが……」


 俺たちの会話を遮り猛るベアは、この階層全域に響くほどの怒哮(どごう)を轟かせた。

 猛ってばかりいるベアよりも魔物の進化の方が気になるんだが、ライドはそれどころではないらしく、バインドボイスを喰らい身体を硬直させて動けなくなっていた。


「おいっ! 大丈夫か?」 

「すまねえ。気圧されてたようだ……」


 相手の威圧に吞まれてしまっていたライドは俺の声に反応して、だらりと力の抜けた盾を構えなおした。

 先ほどのだらしない姿とは違い、今は宿敵同士が互いに、会いたかったぜ。と言わんばかりに対峙し合っているように見えたが、


「やばいかもな。ここじゃいざって時、逃げ場がない」


 さすがライド、ブレないな。

 ここに連れてきたのお前だけどな。俺も小休止にはもってこいだと思っていたが、こうなると話は別だ。

 袋の鼠ってこういう事なのかと実感する。


 目の前ではピリピリとした空気がライドとベアに漂う中、俺は隣で見慣れた苦しそうな顔をするロロアの表情を見逃さなかった。

 ごはんは残さず食べる。ロロアの良い所だ。


「うっぷ」

「ちょっと食べ過ぎたか?」

「うん。おなかパンパン……」

「なにお喋りなんてしてるんだよ」


 アンダーベアを刺激しないようライドは声を細めて、


「奥まで案内して、逃げ道を確保しよう」


 この丸底フラスコを寝かせたような形をしている横穴でなら、相手と位置を入れ替えるのはもっともな手段かもしれないが、奥にアンダーベアを引き入れるとなると、それだけ相手も自由に動ける分こちらの危険度が増す。

 お前の言葉に奥で逃げ回る自分の姿を想像したのかもしれない。今のロロアの青ざめた顔色をお前に見せてやりたいくらいだ。


「うぷっ……たべすぎてきもちわるくなってきた」


 悪いなライド、俺たち今走れそうに無いわ。


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